1-4-6. どうにも元気なお年頃
ぞろぞろと列を成す吹奏楽部員たち。
当然だけど、みんな目的地は地下鉄駅。
ここに楽器でも持たせたら一瞬でマーチングバンドになりそうだ。
この寒さでは、さすがに吹く気にはなれないけれど。
学年も、担当楽器も問わずに、何となく細かいグループに分かれているのが少し面白いところ。
現にボクのところもそうだ。
ボクと里帆先輩はオーボエ、神流と春紅先輩はクラリネット。
元々この先輩同士仲が良かったところに、それぞれ同じクラスで同じ楽器の後輩が入ってきた、という感じの取り合わせだったりする。
「でも、里帆先輩さすがッス」
「なにが?」
絵に描いたようなキョトン顔を春紅先輩へと向ける里帆先輩。
「センター、ばっちりだったらしいじゃないですか。さすがッス」
「……いざ当事者になると、ウチの部活の情報の早さが怖くなるね」
「むしろ、先輩たちみなさん成績良すぎて、2年生がもう戦々恐々としてるんですけど」
「それは大丈夫でしょー。何だかんだでなんとかなるってば」
「地頭のいい人はみんなそう言うんですよっ」
「……がんばー」
「うわ、見放されたっ!」
――そういう春紅先輩だって、成績上位者じゃないか。
こう見えても。
そう思いながら視線を動かすと、ちょうど神流も同じようなことを思いながら見ていたらしい。
ふと視線がぶつかって、苦笑いを交わす。
確信。
間違いなく、同じ事を思っていたようだ。
その話はボクでさえ耳にしている。
――というか、模試だろうと定期試験だろうと、なぜかその結果は比較的早くに概ね知れ渡ってしまうのがウチの部の標準状態。
それは本番でも変わらなかった。
そのせいで、生半可な点数は取れない、と自発的な学習が促されているという副作用もあったりなかったり。
不真面目なように見えてしっかりマジメな部員が多いのは、ある意味特徴かも知れない。
だからこそ、こういうときにしっかりと羽根を伸ばすわけだが。
「ってことは、もしかして2次試験も余裕?」
「余裕はないっ」
びしぃ! と効果音が付きそうなくらいの勢いで、神流を思い切り指差す。
「余裕ある人がいるなら、お目にかかりたいよ」
「学年に5,6人は居そうですけどね。そういうタイプの人」
「……うん。まぁ、居るよね」
恐らく、そんな5,6人の顔が思い浮かんだのだろう。
里帆先輩は曖昧な笑顔を浮かべた。
そういうボクも、しっかり何人かの顔が思い浮かんでいる。
やっぱりどの学年もそんなものなのか。ちょっと勉強になった。
「でもでもー、里帆せんぱーい」
何だかうざったい猫なで声を出してきたのは神流。
ちろっと上目遣いを足す辺り、何かのモノマネかとも思ってしまう。
――思い出すのは、ショップ店員のモノマネあたりだった。
「息抜きって、大事だと思うんですよー」
「あー、それウチの担任も言ってた」
「……え、あ、マジですか」
「いやいや、神流。なんでそこで意外そうな顔になるんだよ」
「やー。だって、まさか、何か適当なそれっぽいこと言えば来てくれるかなー、なんて思ってたら、先生が言ってるなんて思わないでしょ」
「それもそうだけどさ」
完全に羽根を伸ばすのは、間違いなく危険。
ゆとりを持たせすぎると身を持ち崩しかねない。
とはいえ、気を張り詰めさせすぎると、突然バチンと音を立てて切れてしまうこともある。
何事も『適当』が大事、とウチの母も言っている。
――母さんの場合、本当に『テキトー』な場合もあるので、鵜呑みには出来ないけれど、概ね間違っていないだろう。
「ん? カンナちゃんってば、私をどこに連れてってくれるの?」
「みんなで雪まつりに行こう、って話になってるんですよ」
「へえ……。珍しい」
「ほら、やっぱりそういう反応になるっしょ?」
「え? ふつう行くでしょ」
「あー……春紅先輩はそうでしたね、言われてみれば」
意外そうな顔を見せた里帆先輩に対して、とても納得がいくボクと、そんなボクに対して意外そうな顔をする春紅先輩。
そういえば、妹の紅音といっしょに『雪まつり行ってきたー』という話は中学の頃にしていた。
「せっかくなんで、息抜きがてら、いっしょに遊びませんかー? ……っていうお誘いなんですけど」
「もちろん、乗るよっ!」
「イイんですか!」
「カワイイ神流ちゃんの頼みですもの」
「ありがとーございますー! もー、先輩大好きっ!」
がばっ、と里帆先輩に抱きつく神流。
と、不意に寒気。
というか、むしろ殺気?
――ちょっと待ってください。
獲物を見つけた的な視線でこっちを見ないでください、春紅先輩。
わざとらしく身体を引く真似をすると、口元を抑えながらくつくつと笑った。
こういう反応まで予測済みだったらしい。
春紅先輩的にも至って一般的な、ひねりの無いリアクションだったようだ。
「ちなみに、カンナちゃんたちはいつ行く予定なの?」
「一応、来週の土曜日の予定にしてますけど」
「土曜日かー……」
里帆先輩の眉が綺麗に歪んだ。
「日曜日だったら空いてるんだよねー」
「じゃあ、ウチらだけ日曜日も、ってことにしよっか?」
「……ん? 痛っ」
手を叩かれる。
スナップが利いていて地味に痛い。
「反応鈍いっ!」
「悪い悪い。来週の日曜日なら……3時からはフリーだね」
「あ、瑞希くん偉い。きっちりスマホで管理してるんだ」
春紅先輩がスマホをのぞき込んできたので、おとなしく見せてあげることにする。
大したものではなく、標準搭載されているカレンダーアプリに部活の時間などをメモ代わりに入力しているだけだ。
「慣れるとラクですよ」
「……ほら。こういうのって、最初が肝心じゃない?」
「あー、なるほど」
わからなくもない。
最初からコレを使うんだ、とある程度強く思っておかないと、後からになればなるほど腰が重くなる。
「日曜の3時からなら、なーんにも問題無しっ!」
「じゃあ、その日で! やったー、やったー。2日連続ぅ」
「……むしろ、連続になったことに喜んでるような気がするんだけど?」
「だいたい合ってるけど?」
開き直った。
全然悪いことじゃないけど。
「……んん? ちょっと待ってよー?」
予定が決まって一安心と思いきや、春紅先輩が急に片眉を上げる。
2時間ドラマの女探偵のような雰囲気で、頬に指を添えた。
「それ、瑞希くんも行くの?」
「……ええ、まあ」
何だろう。
――猛烈に嫌な予感がしてきた。
「瑞希くん? あなた、中学校の頃、私たちが雪まつりに誘ったときは、頑なに拒んでたはずよねえ……?」
「…………あ」
そうだった。
とくにその理由を思い出せないのが、また危険なところ。
でも、間違いなく神村姉妹からの誘いは、頑として断っていたのは間違いなかった。
「神流ちゃんとか里帆先輩となら行くんだ?」
「いやいやいやいや、決してそういうことでは……」
「……ねー、神流ちゃん。それ、私も行っていい?」
「あったりまえじゃないですかー!」
「よしっ! 勝った!」
盛大にガッツポーズ。
「何にですか」
「……何かに」
雑だなぁ。
「……と言っても、って話なんだけどね。ぶっちゃけ、みんな基本的に行きたがらない子多かったよね、ウチの中学って。当時の瑞希くんも含めて」
「出不精とまでは言わないですけどね」
「なんだろうね。校風?」
「部活でへばって、外に出る体力無かっただけかもしれないですよ?」
「軟弱者め」
それは先輩が頑丈すぎるだけではないでしょうか。
どんな反撃が来るか想像できないので、口が裂けても言わないけど。
「じゃあ、グループ作ったんで、予定に関してはそこで決めましょー!」
「りょーかーい」「おっけー」「んー」
タイトなスケジュールが組まれることが決まってしまったものの、不思議と嫌な気はしなかった。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
受験生って、こんなに余裕あったかなぁ……。
ま、現実逃避って大事よね。たぶん。





