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油を売る男

十月になった。神無月である。

収穫もほぼ終わった神無き末森の地では、仏の御遣いである希美が黒い笑みを浮かべていた。

(この私が、戦国の美容界の神となる!)

「ふはーっはっはっはっ!」

高笑いする希美は、完全に自分が仏の名を騙っている事を忘れている。




森部から清洲に戻ったその日、希美は主君織田信長の許しを受け、とうとう現代知識の使用を解禁した。

目指すは『美味しい戦国in末森』である。


実は希美はいつか内政チートしてやろうと、転生もの小説から得た知識を元に地味に腐葉土作りや牛馬を使った開墾を始めていた。

食材や種・苗の仕入れは天王寺屋に頼むつもりだが、まずは先立つものが必要と着手したのが、椿油の量産だった。


椿自体は末森近郊でよく見る花だ。

柴田家でも椿は植えられており、昔から家人にや女達によって椿油が細々と作られていた。

希美が日頃から愛用している椿油は、それである。

今では信長の目に留まり、織田家の女達も使っている。

(これは、セレブ御用達でいけるな……売れるぞ!)


算盤を弾いた希美は、すぐに領地で椿の木を増やす事を推奨した。また椿の木を仕入れ、末森城内に椿の林を作った。

そして、末森領の椿を柴田家が城主特権でほぼ全て買い取り、椿油の増産を行ったのだ。

そうしてできた椿油は、瓶に柴マークがつけられ、天王寺屋を通じ織田家御用達の高級椿油として非常に高値で堺で売られた。

これが、鉄砲も刀も効かぬ『加護持ち柴田』にあやかりたい各地の武将に受けた。

バカ売れである。

まさに、ブランド様様である。



また、希美は馬油も商品化した。

そのために河原者を雇い、各地で死んだ馬を買い入れて馬油作りに携わらせたのだ。

希美は火加減の調節を教え、ほぼ匂いの気にならない良質の馬油作りに成功する。

馬油は、肌の保湿だけでなく、消炎効果や血行促進効果もある。つまり火傷、切り傷・擦り傷の様な薬としての使い方もできる上、美肌、美髪、果ては頭皮に刷り込みマッサージする事で皮脂汚れを落とし、血行促進による発毛効果もあるのだ。


希美は、柴マークで馬油のブランド化を図ると共に、馬油を使った高級エステサロンを清洲と堺に出店した。


馬油による頭皮のマッサージ、クレンジングを行って発毛を促し、開発した馬油シャンプーと馬油トリートメントで保湿を行う美髪コース。

馬油で顔をマッサージする事で、クレンジングと血行促進を行い、保湿、美白、美肌効果をもたらす美顔コース。


これに食い付いたのは、密かに薄毛に悩む武将・貴人や、鉛入り白粉による老化に悩む裕福な女性である。

特に薄毛は、男にとって月代だけじゃ解決できないデリケートゾーンのため、それが改善できるとあって喜んだ武将達は色々緩み、頭皮の皮脂汚れが落ちるが如くぽろぽろと口から情報をこぼした。

そのため、エステ従業員は滝川一益に送り込まれた配下の女間者で構成され、織田家のための諜報機関としての役割も担った。



こうして、椿油と馬油で莫大な利益を挙げた希美は、それを食材や領地に投資。

自分が美味しいものを食べるために、末森の農業改革は促進されていく事となる。




人々は、そんな柴田勝家をこう評した。

『油売り武将』と。

「油を売って財を成した武将といえば?」と街頭てインタビューすれば、十人に九人が『柴田勝家』と答えるだろう。



希美はそれを知った時、頭を抱えた。

「何で斎藤道三の称号がこっちにスライドしてんだ……」

希美はまた、おかしな歴史改変をしてしまったようだ。



誰も気づかぬ美濃攻め前哨戦。

希美は美濃斎藤家から、まずは称号を奪ったのだった。








《おまけ》

馬油の商品化開発に成功した希美は、その日清洲城の信長に献上に来ていた。


信長「権六っ、これが椿油以外の商品か」

希美「は。馬油で御座る」

信長「わしも火傷や傷に使うの」

希美「馬油は色々に使えまする。顔に塗れば若く白くなりまする。髪に塗れば艶が出、頭皮に塗り込めんでシャン……その後洗浄すると毛も生えやすくなりまする」

信長「それ以外にも使い道はあるのか?」

希美「血の巡りがよくなりますからな。肩凝りにも良いかと。後はやはり傷に良いですな。痔にも良いと聞きまする」

信長「その方、痔ろう持ちか?」

希美「某の尻に御興味が?」

信長「無いわ。切れるなら勝手に切れておれ!」

希美「なぜ、切れ痔限定……そういえば、殿は赤子の時に乳母の乳首を噛んだとか。授乳の乳首ケア……乳首の傷にもよく効くので御座る」

信長「ほう。そうなのか」

希美「左様に御座る。某が我が子に始めて乳を含ませた時など、やはり切れましてな。乳が痛むので毎度馬油を乳首に塗り込んでおりましたなあ」

信長「ちょっと待て。その方、子に乳を含ませておったのか?」

希美「は、某の乳首を懸命に吸うのが可愛くて……」

信長「……そんなに良いのか?」

希美「良う御座るな」

信長「ならば、わしも今度乳を含ませてみるか」

希美「……え?」



後日、赤子を持つ武士の間で「父だって乳を吸わせ隊」という愛好会が発足したというが、妻と乳母からは非常に不評であったとか。


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