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第二回柴武会談前編

第二回柴武武将会談当日の朝。

希美は片腕を上げて己れの脇の下を覗きこみ、何やら無心に手を動かしていた。

その手には、毛抜きが握られている。


希美は、絶賛ムダ毛の処理中であった。




前回の反省を踏まえて、湯殿内にて全裸で行う事になった第二回武将会談。

まさに濡れ場(事実)で行われるお話し合いである。

それを考えた時、希美はふと昔を思い出した。

薄着になる夏を迎えれば、多くの女子はムダ毛の根絶に一層力を入れる。

いざという時、異性の前でボウボウではいかんのである。

それは、おばさんであった希美も、その周囲の同年代女子?でも同じ思いであった。

当時の同級生ライングループで、友人が呟いた言葉。


「昨日、久々に脱毛行ってきたけど、この歳からする意味あるのかな」


それに対し、別の友人(既婚)が答えた。


「脱毛、意味ある!いつか、急にのために!!」


「おい、既婚ーー!!!(笑)」「いつか、急にがあるのか!?」「流石です♪」「(0゜・∀・)wktk」と、その後は突っ込みの嵐だったが、案外皆、いいお年になっても見られる事を意識して、痛みをこらえながら脱毛に勤しんでいるのである。


希美は元女として、その気持ちを少し思い出した。

「よく考えたら私、柴田勝家になってからしょっちゅう『急に全裸』になってるもん。ムダ毛は抜かりなく処理しておかねば。特に、前もってこれから全裸になるとわかっている時はな!」

そうして、会談のための準備として、希美は毛抜きを手に取ったのである。



「殿と仲直りできる(ぷちっ)……殿と仲直りできない(ぷちっ)……殿の両乳首が伸びる(ぷちっ)……殿と仲直りできる(ぷちっ)……殿と仲直りできない(ぷちっ)……殿の両乳首が伸びる(ぷちっ)……殿と仲」


「お師匠様、そろそろお時間です……って、何をしておられるので!?」

準備中の希美に声をかけにやって来た斎藤えろ兵衛(龍興)が、謎の呪文を唱える希美を見てギョッとした。

希美はハッと顔を上げて、少し恥ずかしそうに答えた。


「あー、ムダ毛占い……?なんとなくムダ毛処理の時、色々考えちゃうというか……。なんか殿の事を考えてたら、つい……」

「そうでしたか。もしや喧嘩なさった織田の殿様に、呪詛でもかけておられるのかと」

「どんな呪い方よ!」

「無駄毛占いも大概ですからね、お師匠様!大体、何故わきの毛を無駄扱いして抜くのか、意味がわからないですよ……」

「あー、私には無駄だが、人によっては無駄ではないかもなあ。えろの世界でも、たまに生えているのを好む男がいるらしいし」

「なるほど、お師匠様はわきの毛は無駄派なのですな……」


えろ兵衛(龍興)が考えこんでいる。

希美は、最後のムダ毛をぷちぷちぷちっと抜いて、肩脱ぎしていた小袖に腕を通した。

「占いの結果は、『殿の両乳首が伸びる』かあ……」

そう呟きながら身嗜みを整えると、出発のために、少し思案顔のえろ兵衛(龍興)を伴い歩き出す。

希美はこの何の気ない発言が、今後のえろ教徒のわきに多大な影響を与える事を知らなかった。




その後、柴田軍本陣を出発し、無事に両陣営のど真ん中に設営された仮設湯殿へとたどり着いた希美は、暖かそうな綿入りの胴服を羽織った信玄に迎えられた。

信玄の後ろには四角く幕の張られた場所があり、吹き抜けた上部から湯気が立っているのがわかる。

そこが、湯殿の空間だろう。その傍で湯を盛んに沸かしているのだろう。いくつもの焚き火の上に煮炊き用の大鍋が仕掛けられ、湯気と煙とを空に吐き出していた。


その周囲は、武田軍がぐるりと囲んでいる。

転じて、希美が連れてきたのは小勢だ。

希美と信玄が入れるほどの大きさの木製の浴槽を制作し運んできた、多羅尾率いる覆面忍者部隊である。

この人数差は、武田への害意無しという希美の心配りである。

よく晴れた青空の下、ド派手な刺繍を入れた忍者服の面々が、テキパキと浴槽を幕の内側に運び入れ、武田側の者達が桶の水と鍋の湯を運び入れている。焚き火の中に仕込まれていた焼き石も中に運び込まれている。

その内、中からいい感じに湯気が立ち上ぼり、「準備が整った」という知らせが猫耳をつけた山県昌景からもたらされた。




希美は衣を脱いで全裸になり、何ら武器を持たぬのを周囲に示した。

「では参ろうか、のぞみよ」

信玄も胴服を脱ぎ捨てた。


信玄の武器はどう見ても臨戦態勢に入っている。


「お前、絶対害意有りじゃねえかあっ!!」


信玄は、裸のお()()()()をする気満々のようだ。

希美は武田家家老の馬場信春に交渉し、攻め弾正と受け弾正を召喚。

そちらで存分にお突き合いをしてもらい、ようやく会談はスタートしたのである。



湯に浸かった賢者ナウの信玄が、重低音で唸りながら息を吐く。

冷たい冬の空気で冷めるのを見越して、湯は熱めにしてある。湯殿施設内には、火鉢に炭と共に入れられた焼け石が置いてあり、冷めたらそれを湯に入れて温度調整をする仕組みだ。

信玄は、顔を拭いた手拭いを畳んで頭に乗せたまま、湯気に自身の白い息を交ぜた。


「いやあ、裸で会談とは、なかなかに乙なものよの。わし好みだのう」

「そういや、お前、森部でやたら露出してたよな。サンドイッチ(マン)で両刀使いでハーレム野郎で、とどめに露出趣味とか、本当にお前はえろが過ぎるな」

「ふ……、えろの神には似合いの男だろう?どうだ?惚れたか?」

「おい、尻を触るな。えろが過ぎる男なら、もっと人外なのがうちにもいるわ。そんなんで好きになるなら、私はとっくに河村久五郎とラブラブだ」


希美は嫌そうな顔で、自身の尻肉を掴む信玄の手をどけた。

信玄はニヤリと口角を上げて隣りの希美を見た。


「で?のぞみはわしに兵を引いてほしくて、わしに尻を差し出すのではないのか?」

「あ?そんなわけないでしょ?」

「だが、お前はわしの思いを知っておろう。裸で二人きり。わしの軍配団扇がお前の尻を差すは必定というもの」


信玄は腰のモノを撫でている。

あれだけ激しく挟撃を受けておきながら、流石はハーレム武将だ。回復力が凄い。

しかし希美は、余裕の笑みを浮かべた。


「悪いが、それはもう私に通じないからな」

「どういう事だ?」

「これを見ろ」


希美は浴槽の縁を掴み、力を込めた。

バキバキッメキョッ!

木の縁が希美の手の形に千切り取られたのを見て、信玄は度肝を抜かれたように目を見開いた。


「こないだ気付いたんだ。私が力を込めれば、硬い木材とてこの有り様だ。では、尻に入った異物を締め上げたらどうなると思う?」


信玄の顔は青くなった。

彼の軍配団扇は項垂れたまま上げられる気配はない。

勝負はついたようである。

だが、信玄は希美に言い募った。


「それでもっ、わしはお前を……」

「欲している、か?なあ信玄、お前は私と神保が手を組んだのが面白くなくて兵を出したのだったよな?」

「あ、ああ、そうよ。わしが越中を手に入れんとしているのは、のぞみだって知っていたろう?それなのに、何故神保と手を組み、わしの邪魔をした!お前とわしは同盟を結んだはず!」

「うちと武田との同盟内容は、相互に不可侵。そうして経済的な流通協力だ。要は互いに金儲けのために商い面で協力し合うって話だった。神保氏がうちの傘下に入ったとて、同盟には何ら影響しないよ」

「なっ……そんなものは詭弁だろうが!」

「かもな。でも、私だってお前が神保氏を平らげて、越中を手に入れられたくなかったんだ」


信玄の声が低くなった。

「どういう事だ……」

「だって、お前」

希美は鋭い目を向ける。



「天下を掠め取るつもりだろ?」


信玄は目を見張った後、乱世を生きる武将に相応しい凄みのある笑みを浮かべた。








『わき毛騒動』 Wikipediaより


柴田勝家が『わきの毛は無駄毛也』と二番弟子の斎藤えろ兵衛龍興に語った事によって巻き起こった、えろ教徒によるわき毛不要運動と、それにまつわる騒動。

斎藤龍興がこれを神託として信者に広めたため、その後多くのえろ教徒からわきの毛が失われた。

しかし一番弟子の河村久五郎は、『わきの毛は必要えろである』として『わき毛不要派』と対立。

教義により、信者同士での争いにはならなかったものの、えろ教徒内で混乱が生じた。

結局この騒動は、河村久五郎が事の真偽を柴田勝家に確認した事で柴田勝家本人に発覚し、勝家が『わき毛の在り方捉え方は自由』と正式に宣言して収束を迎えた。

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