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第一回柴武会談

その日はやって来た。

武田信玄と希美の会談の日が。


会談は、柴田勢の陣営と武田軍が駐屯している城下町のほぼ中間にある平野のど真ん中で、野点形式で行われることになった。

野点形式といっても、茶は点てない。

毛氈もうせんというカーペットをレジャーシート代わりに地面に敷いて、その上に床机いすを設置し、そこでお話をするわけだ。

戸外での開放的な空間での会合。きっとささくれだった戦国武将の心も解放させ、腹を割った話し合いになるはずだ。

そう希美は期待していた。

とはいえ、戦乱の世だ。互いに毒を警戒しているから、食べ物飲み物は持参ということにしてある。



会談の日、天候にも恵まれ、冬の弱々しい太陽が冷たく澄んだ空に仄かな熱を投げかけていた。

風はそこまで強くはない。

高い空に浮かぶわた雲は、ごくゆっくりと会場の上を通りすぎようとしている。


その真下では、陣幕が張られ、真ん中に毛氈と、その上の床机に今まさに着席しようとする三人の武将の姿がある。

柴田勝家のぞみと上杉輝虎、そして武田信玄その人である。

神保長織は、ルート的に武田の陣営を通らざるを得ないため、城の中で待機となっている。

会談に参加している柴田と武田の兵達は陣幕の外に待機し、家臣の中でも腹心とされる者だけが、陣幕の中で控えていた。

柴田軍側は、『いつものえろ』河村久五郎と上杉家の猫耳重臣直江景綱、そして何故か太田牛一が紛れ込んでいる。

武田側は、『向かう所敵なし』のイケイケ家老山県昌景、戦上手で『攻め弾正』の呼び名も高い真田幸隆、信玄のBLハーレム古参の『受け弾正』高坂昌信が控える。


さあ、会談(ピクニック)の始まりだ。

希美は今回、ネゴシエーターとして、『戦国のト○ジェリ』上杉と武田の間を取り持つ役も担う。故に、陣幕内では具足の着用と武器の持ち込みは禁じていた。


(丸腰だし、陣幕で具足を脱がせた後、私がボディチェックもした。これで、平和的に話ができるだろ)


希美は首相会談を思い出しながら、まず、無駄に緊張感を孕むトムジェ○……輝虎と信玄に握手を促す事にした。


「じゃあ、とりあえずお前達、握手しろ」

「あくしゅ?なんだ、そりゃ?」

「悪手か?どういう事じゃ、ゴンさん」

「まずこういう会談の前にはな、笑顔で相手と手を握り合うもんなんだ。それがテンプレ、儀礼みたいなもんだ」

「「ほう、なるほど。手を握るのか……」」


輝虎と信玄が笑みを湛えて近付いた。

()()同士で、しっかと手を握り合う。これまで何度も命のやり取りをしてきた宿敵の手を掴んでいる。今一歩というところで、決して手が届かなかった相手。

輝虎と信玄の視線が交錯した。


「「死ね」」

ゴッッ!!


その瞬間、まったく同じタイミングで、強烈なクロスカウンターが決まった。

衝撃で飛ばされかけるが、互いに手を離さぬため、なんとか踏み留まる。

そして両者、握った手はそのままに、空いている利き手で相手をボコボコに殴りまくっている。

足技まで繰り出した!互いに殴り蹴り、果ては踏みつけながらも、決して手は離さない!


「な、何やってんのーー!」

「「「と、殿おおお!!?」」」


これには、一瞬何が起きたか理解できずに固まった希美達も、慌ててその乱闘に介入し、組んずほぐれつの二人を引き剥がそうと試みた。

しかし、なかなか手を離さない。

『今この時こそ相手を仕留めるチャンス』とばかりに、互いを絶対に離さない。

その吸引力たるや、ダ○ソンの掃除機を軽く凌駕している。

もういっそ、お前ら結婚しろ!


そのうち、上杉家と武田家の家臣同士にその熱が飛び火した。


「よくもうちの殿をおぉ!!」

「ああ!?そりゃこっちが言いたいわっ」

「お前んとこの殿、今は柴田の家来だろ、ザッコ!!」

「お前んとこの殿こそ、柴田の大殿に振られ続けてザッコ!!その点うちの殿は、大殿に寵愛されてるから!お前の負けな!」

「はあ!?うちの殿は突っ込みさえすれば、えろ神柴田権六とて喜んで、尻土下座する事になるからのう!」

「尻土下座ってなんじゃああ!?」

「お主こそ、なんじゃ、その猫耳はああ!」

武将紅(うる艶リップ)との組み合わせが、最高に可愛かろうがああ!!」

「悪くはないい!!」


もう、わけがわからぬ。

直江の猫耳を掴む山県昌景、その山県にテスターの武将紅を塗りつけようとする直江景綱。真田幸隆と高坂昌信は河村久五郎に一瞬で全裸にされ、何故だかいきり立った攻め弾正と受け弾正は、興奮状態のまま信玄に組み付いた。

久五郎は「全てはえろに向かうべし」とばかりに両腕を広げ、穏やかな笑みを浮かべている。

もちろん太田牛一は、乱闘の邪魔にならぬ場所で、ひたすらに筆を動かしている。この混沌の様子を綴った実録書は、いつか書籍化されるに違いない。


河村久五郎に、ついでとばかりに全裸鎖にされた希美は、攻めと受けに押さえ込まれた信玄から輝虎を引き剥がした。


「わ、わしも助けてくれ、のぞみーっ」

「ごめん、無理」


ガチBLに巻き込まれたらたまったものではない。

信玄は敵として攻めてきたわけでもあるし、希美はさっさと【むーんらいと】な現場から離れた。

R15を越えてはならないのだ。


「お前ら落ち着け!落……アッーーー!!」


元々宿敵との肉弾戦で興奮状態だった信玄は、BL二弾正の手腕によって、現在違う意味で興奮状態に陥りつつある。彼は、対戦相手を変えた次の肉弾戦にもつれ込んだ。

最早、会談は続行不可能だ。


希美は久五郎をぶん殴った後、己れの家臣にもみくちゃにされている信玄に、遠くから会談のやり直しを提案した。

信玄が攻めと受けの狭間からなんとか了承の声を発したのを確認し、希美は、直江の元に向かう。

直江景綱は、山県昌景に己れの猫耳を装着させ、武将紅の付け方をレクチャーしていた。希美は直江に声をかけて、脱がされた着物と輝虎を抱えて陣幕を出た。



陣幕の外では、中の騒ぎを聞き付けて、一触即発の空気となっていたが、陣幕から誰かが出てきたため、両軍の兵達は一斉にその人物に目を向けた。

しかしまず出てきたのは、全裸鎖の希美である。

一体何が起きたのか。

しかし希美が、傷をおってボロボロの輝虎を抱えているのを見て、上杉衆の怒りが溢れそうになる。

そんな暴発寸前の上杉衆を止めるように、希美は手を上げて制し、言った。


「落ち着け!信玄も同じくらいボロボロだからな!」


その言葉に上杉衆は少し溜飲を下げたようだが、武田軍はいきり立った。

しかし、希美はそんな武田軍も制した。


「これはお互い様だ!両者同時に攻撃した。私が平和に話し合おうと設置した場でな!上杉も武田も、どちらも無礼だろうが!!」


この非難で武田軍も、多少は出鼻を挫かれたようだ。

そこへ、武田家猫耳家老の山県昌景が陣幕内から現れた。


「お前達、柴田殿の言には一理ある。静まれ!」


そう外の兵達に声をかけた猫耳家老に、同じく武田家譜代家老の馬場信春が荒々しく尋ねた。


「山県、お主、その耳……。上杉からまいないを渡されて寝返ったか!」

「違う!そんなわけはあるまい!」


確かに猫耳を渡されて主君を裏切る家臣がどこにいるというのか。

猫耳にそれほどの価値を見出だす馬場信春の思考は、どうかしている。


「それより、殿は?ご無事か!?」


信玄側近の原昌胤が主を心配する声を発した。

その問いに対し、山県は気まずげに答える。


「まあ、上杉殿と同じような状態だが、元気だ。うむ。凄く元気なので、心配はいらぬ。気になるなら、幕の隙間から中を覗いてみよ」


その言葉に、馬場と原を含む何人かが中を覗きに行き、なんともいえぬ表情で戻ってきた。

それを確認して、希美は言った。


「まあ、そういうわけだから、会談は延期する。信玄の了解も得ている。じゃあ、私達は陣営に戻るから、そっちも頃合いを見て戻るんだな」


武田軍は、戸惑いながらも希美の言葉を受け入れ、柴田軍はさっさと自陣に戻っていく。

こうして第一回柴武会談は、大失敗に終わったのである。

※『三弾正』……武田信玄に仕え弾正忠を名乗った武将。

高坂昌信『逃げ弾正』

真田幸隆『攻め弾正』

保科正俊『槍弾正』


※尻土下座

謝る相手に尻を向けて土下座する。

この時、尻を高く上げるのがコツ。

上級者ともなると、少し尻を振ったり、もじもじしたり、時にはわざとこいて、さらに尻土下座を高くするオプションをつける。

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