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えろ式出陣式

加賀衆や忍者達を引き連れて、加賀じっかに戻った希美は、元一向衆坊官で、今や柴田家のえろ門徒家老である杉浦玄任に、「あ、上杉殿なら、昨日から越中で武田軍とバトルしてます」と報告され、膝から崩れ落ちた。


「な、なんで?なんでそんな事になってんの!?」


のぞみの問いに、玄任は申し訳なさそうに答えた。


「一応昨日、開戦を知らせる早馬をそちらに送ったんですが、入れ違いになったようですな。申し訳御座りませぬ。実は、昨日越中神保氏から使者が参りまして……」

「ふむ」

「能登を制圧し、上杉殿が能登に入られていたのですが、元々能登は畠山氏の所領で、そもそも発端は畠山左衛門佐殿と当主のご子息殿との御家騒動。故に左衛門佐殿を当主に復帰させ、仕置きを任せて、上杉殿は加賀に逗留されておったので御座る」

「そっか、ロリまぞ豚が能登の当主か。能登、やべえな!」


能登は変態の治める国となったようだ。だが、他人事のように言っているが、全ての発端は希美にあり、能登は希美の領地となった。

つまり、トップオブ変態は希美である。


「能登は、越前の森殿に頼んで兵を貸してもらったので、そちらはよいのです。森殿から派遣された馬うえいく殿が、左衛門佐殿の補佐をしておりますから」


希美は盛大に突っ込んだ。


「よりによって、あいつが来たのかよ!全然よくねーわっ。まぞ豚と馬ウェイクの化学反応が怖えよ。……はあ、まあいいや。ケンさんがそれで加賀に来てた所に越中から使者が来たんだな?」

「はい。越中神保氏の使者は『先日武田がまた嫌がらせしてきたので、「うちは柴田家が後ろ(バック)についてんだぜ、柴田様とは懇意(マブダチ)だし、言いつけてやっからな!」と脅したら、武田信玄が軍勢連れて攻めてきた』と申しまして……」

「神保氏の大馬鹿ーー!!?」

「すると、武田と聞いて上杉殿が『ならばわしが行くしかあるまい』と申されまして」

「NOOOOOO!!戦国一、交ぜるな危険ん!!」

「配下の上杉衆も皆様、嬉々として軍勢を整えられ、ウキウキで出陣されました」

「なんなの……。デート感覚?バトルし過ぎて、逆に惹かれ合ってんの?」


希美はげんなりして呟いた。

戦場で、集団BLデートする上杉軍と武田軍が脳裏に浮かぶ。

……グループ肛祭こうさいはいけない。ただでさえBL行為はリスクが高まるのに、性病の感染が広がってしまうではないか。


「殿、あなた、何か変なことを考えてない?」


察しのいい()()がジト目で希美を見ている。


(ヤバい。殿の伽を受け入れると決めてから、ずっとそっちのシミュレーションをしていたせいで、私の脳内がBL畑になっておるっ!落ち着け、私っ。私は元々女なのよ……。異性愛者は変わらない。そう、『体はおっさん、頭脳はおばさん、その名は、TS武将柴田勝家』!!)


希美はちょっとニヤニヤしている。

希美よ、お前は史実の柴田勝家さんに謝れ。


「殿、その祭の中心でえろを叫ぶ殿に挿入するお役目は、是非このわしに!」


えろに関しては人外の能力を発揮する河村久五郎が、何かほざいている。


「させるか、阿呆!大体、なんで私の考えが読めんだよ!怖えわっ」

「わしは、殿(えろ大明神)様の一番弟子。これくらいはできて当たり前に御座る」


久五郎のえろチートに、希美は呆れを込めた視線を向ける。


「もう、お前は(えろ大明神)を超えてるよ……。久五郎、お前がナンバーワンだ」

「ハッハッハッ、ご謙遜を!わしなど、まだまだ殿の尻元にも及びませぬぞ」

「なんで尻に及ぼうとしてんだよ……」


希美はもう尻の話題からいい加減離れたくて、話を元に戻した。


「仕方ない。とりあえず私も祭……じゃない、その戦に飛び入り参加させてもらおう。つまらん事で兵の命を失わせるわけにはいかないからな。そうだ、えろ兵衛は?」

「加賀の兵をまとめて、上杉殿と越中に。なんせ武田軍は強う御座る。上杉軍は能登攻めの後で疲弊もしておりまする故に、ご助勢を」

「そっか。助かるよ」


上杉輝虎は戦上手であるが、いつだって武田信玄とはギリギリの戦いをしてきた。

その実力は拮抗している。

特に歴史改変によって、史実からずいぶん離れてしまっている今、何が起こるかわからない。それこそ、信玄が輝虎を討つなんて事もあり得るのだ。

それを考えると、希美は早く輝虎を助けに行きたくてウズウズしてきた。


「よし、二刻だけ兵を休ませる。てる、兵に二刻後の出陣とそれまでの休息を伝えろ」

「はいな!」

「玄任は、雑炊の炊き出しを頼む。嵩増しで雑穀ぶちこんで、鶏と豚も絞めて入れてやれ。今は里芋の収穫の時期だろう。里芋も入れて、煮込め。腹持ちが良くなるだろうからな!」

「御意。出陣式は……」

「えろ式でいい」

「鞭、火打石、そして酒ですな?」

「そうだ」

「用意致しまする」



出陣式とは、戦国武将が戦に向かう前に勝ちを祈願して行う儀式である。

作法や内容は土地にもよるが、基本的に縁起を担いで、打ちあわびとかち栗と昆布を用意する。

簡単に説明すると、大将が打ちあわびを食べて、一献酒を飲む。次にかち栗を食べて、二献目の酒を飲む。そして昆布を食べて、三献目の酒を飲む。

最後に、酒を飲み干した後のかわらけを叩き割り、みんなでエイエイオーする。

これは、『敵に打ち(あわび)、勝ち(栗)、よろこ(ん)ぶ』というダジャレ的なアレである。


しかし、希美はシビアな現代っ子。こういう迷信は、わりとどうでもよかった。

(え?武将みんなこれやって出陣してんのに、負ける奴は負けてんじゃん!意味なくね?)

これであった。

しかも、食べ物を用意するとなると、食材が揃わない場合だってある。

(食材って消えものだから、毎度用意するのも勿体ない。コストもかかる。面倒くさい)


希美はある時、どうしても栗が用意できなかったので、その場にあった身近なもので代用する事にし、式自体も簡易に済ます事にした。

要は、縁起さえ良ければいいのだ。

これが、えろ式出陣式として、現代でWikipediaに載ろうとも……!



二刻後、兵の準備が整った。

伊勢に救援に来た騎馬隊ばかり、二千である。

戦うよりも交渉に向かうつもりの希美だが、ケツ裂した時は兵が必要になるはずだ。

その二千が、出陣式を待っている。


式の用意は整っている。

床几に座る金の具足(ゴールドクロス)姿の希美に、鞭が手渡された。

希美はおもむろに立ち上がると、眼前で四つん這いになっている河村久五郎めがけて振り下ろした。

パシィーーンッ

「アヒイーッ!!」


希美はかわらけの酒を飲み、気合いを入れて叫ぶ。

「敵に打ち!」


次は希美に、火打ち石が手渡される。

カチッカチッカチッ

「アッー!アッー!アッーー!」


希美は二献目の酒を飲み、また叫んだ。

「勝ち!」


最後に、希美は()()しを握り、久五郎の月代頭に拳骨を食らわせた。

ゴッ

「アインッ?!」


「よろこぶ!」

三献目の酒を呷った後にそう叫んでから、希美は拳についた久五郎汁を、差し出された手拭いで拭き取った。

そうして、かわらけを大きく振りかぶり、地面に叩きつけて割ってから、皆に向かって大音声で呼ばわった。


「エロージット!!」

「「「「「エロージットオオッ!!!」」」」」


兵達全員から、気合いの入ったレスポンスが返ってくる。

全員の眼に闘争の炎が宿る。

七里頼周率いる三角鞍の変態部隊は、なぜか羨望の炎を宿して河村久五郎を見ているが、それは置いておこう。



こうして希美は、信長の事を思い出して悩む暇もなく、越中に向かったのである。

私は、銀河英雄伝説では帝国派です。

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