信長と希美のケツ別
おっととっと夏ですね。私はもう半袖です。
ところで、私はまた風邪をひきました。喉が、喉があああ!!
夏風邪はバカがひくと言いますが、私はどんだけバカなんだと……。
とりあえず、今回は短めです。
「殿、待って!誤解、誤解だからっ」
希美は自室から飛び出し、大股で去り行く信長を追った。
「ねえ、待って!」
しかし、信長は返答も振り返りもしない。
そうして追い付くや、「ちょ、待てよっっ」とキム○クばりに信長の腕を掴んだ。
しかし、信長はその手を振り払……おうとしたが、肉体チートの希美がぎっちり掴んでいたので、無理だった。
信長は苛ついて声を荒げた。
「離せ、この馬鹿力め!そこの男とよろしくやっておればよかろう!」
「だから、違うから!芋虫観察してただけ!」
「芋虫じゃと?意味不明な言い訳をしおって」
「言い訳じゃないし!大体殿こそ、今まで何して……」
信長とやり取りを交わしているうちに、希美は気付いた。
信長が、くさい。
いつもは、衣に焚き染めた香の良い香りが信長の体臭と混ざりながら、ふわりと漂うのに、今日の匂いはなんとも酷い。
酒の匂いもあるが、それだけではない。
(これ、どこから匂うんだ?)
希美は、掴んだままの信長の腕を見て、匂いの出所をなんとなく感じ取り、その腕を引き寄せて、信長の手を匂った。
「くっせえ!匂いの元はここか!?」
希美の肉体チートが働き、嗅覚と分析力がフル回転する。
酒。
イカ?
うーんこの匂い……
三種の匂いのブレンドから、信長がナニをしていたか察した希美は、思わず信長の手をはね除けて、後退った。
「何をする、権六!……権六?」
信長は、希美の表情を見て、戸惑った。
(なんで、お前がそんな泣きそうな、裏切られたような顔をしておるのじゃ!?)
その顔は次第に怒りをも伴い、希美の口からは底冷えするような低い声がでた。
「何をする、ですって?自分は、某を待たせてナニをしてたってのに……?」
「何じゃ?小姓を抱いて遅れた事を根に持っておるのか?」
信長は、ハッと鼻で笑った。
(顕如と通じ、未だに顕如を『様』付けするお前が……、先ほどもわしと伽をするための寝所に他の男を招いたお前が、どの口でわしを詰るかよ)
しかし、そんな悪びれぬ信長の態度に、希美は怒りを爆発させた。
「何それ。私がどんな気持ちで殿との伽を了承したか……。凄く怖かったけど、殿のためにって……。不潔も殿のために我慢しようって……。何がなんでも守ってきた尻だけど、殿が望むから、それなのに!!」
怒気を孕む希美の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
信長は、いつも能天気な希美の涙に、少したじろいだ。
しかし、信長にだってわだかまりはある。
それがつい言葉に出た。
「なんじゃ、泣くほどわしに抱いてほしかったのか?今からでも抱いてやるぞ?わしの情けが欲しくば、そこに這いつくばって、懇願してみよ。もちろん、尻をこちらに向けてな!」
信長、『カモン☆』ポーズを要求!しかし希美は、尻assモードのため、突っ込まずに信長に冷めた眼を向けた。
「もう殿とは、無理で御座る」
信長は、いつもの希美とは違う反応に目を見開いて、言葉の真意を問うた。
「……それは、どういう意味じゃ」
「某は殿を受け入れませぬ。もし殿が某と枕を共にすれば、某は殿に危害を加えかねませぬ故」
信長女体化の歴史改変が不可避である。
しかし、信長は違う方向で希美の言葉を捉えたようである。
「怒りでわしを殺しかねぬ、と?それは、叛意か!」
パシッ!
「(う○このついた手で)触らないで!」
怒りを露に希美に掴みかかろうとした信長の手を、希美は思わず払った。
信長が打たれた手をそのままに、信じられぬという表情で希美を見る。
希美なら、理不尽な怒りも、無茶な要求も、信長の全てを受け入れてくれると信じていたのだ。
しかし、希美は拒絶した。
信長はそれを呑み込むのに少し時間を要したが、やがて激怒した。
「主のわしを拒むか、権六!!」
「は?汚い手で触って欲しくないだけだし!そもそも、私をないがしろにしたのは、殿でしょーがっ!」
「なっ、わしの手が汚いじゃと!?主を愚弄するか!」
「大腸菌ついてる手が汚くないはずがないでしょ!主だろうが、帝だろうが、我が子だろうが、う○こは汚いに決まってるわ!」
「おのれ、権六!!わしをう○こ呼ばわりしおって!お前の顔など見とうない。処刑も追放もできぬが、登城を禁ずる!年賀の挨拶もいらぬからなっ」
「私だって、殿の顔なんか見たくないし!領地に帰らせていただきますっ。内政チート三昧してやる!」
「ああ、帰れ帰れ!せいせいする!」
「「ふんっ!」」
二人の話し合いは、とうとうケツ裂した。
互いに傷つけ合い、血を流しながら、二人の関係は真っ二つに裂けてしまったのである。
次の日、部下を引き連れて、希美は伊勢を去った。
加賀に戻った傷心の希美は、そんな気分を吹き飛ばすほどの、あり得ない光景を目にする。
上杉謙信と、武田信玄が、越中で激突していたのである。




