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崩れるバランス

ここんとこバタバタしてて、なかなか携帯触れなかったけど、やっと更新できました!

待っていてくださった事に感謝です!


あと、誤字脱字報告、毎度ありがとうございます。

いやむしろ、毎度の誤字脱字、すみません!

願証寺は織田の手に落ちた。

そこからの信長の動きは速かった。

願証寺を速やかに掌握し、本陣をこちらに移した信長は、すぐに一揆勢の本陣として機能していた伊勢長島城に全軍を差し向け、物量で攻め落とした。

といっても、城はほぼもぬけの殻であった。


正直籠城でもされて、飢え殺しの長期戦となるかもしれないと危惧していた希美であった。しかし一向一揆勢は、川に囲まれた輪中地である長島に留まれば、逃げた仲間に置いていかれて織田軍に殺し尽くされると考えたのだろう。

長島水軍や、安芸門徒を乗せてきた毛利水軍の船に我先にと乗り込んで、長島を去っていったようだ。

彼らがこれからどこに行くのかは、わからない。

一向門徒である伊勢の国人のもとに留まるか、畠山氏を頼るのか、はたまた大坂に帰るのか。

安芸門徒は、恐らく安芸に帰るだろうが。


彼らは遠き安芸の地から、変態に蹴散らされるだけのためにやって来た哀しき門徒達である。

さらに四百年後には、共闘した門徒仲間の大坂と、仁義なき『お好み焼き』戦争を繰り広げる関係になろうとは……。

だが、希美の尽力により大坂風お好み焼きは『まぜ焼き』と名前を歴史改変されたはずなので、これ以上の悲劇は起こらないはずだ。

安芸の人達、いつか希美が美味しい『重ね焼き(広島風お好み焼き)』を伝えに行きますぞいっ。


閑話休題。


今回、謀られて命を落としかけた信長は、少し慎重になっていた。

故に落とした長島城の内部を家臣達に細部まで調べさせてから、長島城に本陣を移す事にしたのである。

信長はそのための兵を五千ほど長島城に置いて、諸将を率い願証寺に戻った。

もちろん、希美もいっしょだ。



願証寺の本堂に、今回の戦に従事した諸将が座している。

信長に近い順に、織田信広、佐久間信盛、池田恒興、滝川一益などが並び、希美は一益の隣に座した。

(なんだか、殿の位置が遠いな……)

希美は、少し戸惑っていた。

席次だけではない。

ここの所ちょっとだけ、希美に対し信長がよそよそしいのだ。

(私、殿に何かしたっけ?)

希美は、親友あくゆうの一益に小声で聞いてみた。


「ねえ、彦右衛門。私、殿に何か変な事したっけ??」


一益は、心底呆れたような眼差しを希美に向けた。


「お前、何言ってんだ?むしろ、変な事しかしていないだろうが」

「……ですよねー」


愚問だった。

心当たりしかなかった。

だが、納得いかない。それはそうだ。希美は、信長の命を助けたのだ。

こんな風に、よそよそしくされる謂れはない。


「これが反抗期ってやつなの?私、『糞ババア』って暴言吐かれちゃうのかな……」

「何、馬鹿な事言ってんだ。殿がお前にそんな事言うかよ」

「彦右衛門……。ありが」

「お前は男だから、『糞ジジイ』だろ。いや、『えろジジイ』か。そもそも、殿がお前に暴言吐くのは息をするほど当たり前の事じゃないか。何を今さら悩む必要があるんだ」

「……てめえも、全裸に鎖一丁の『えろジジイ』にしてやろうか?ああん?!」


「やかましい!!!」

「「すんませんっした、殿おお!!」」


信長の叱責に、希美と一益はバゴンッと床に額をめり込ませて土下座した。



そのうち、様々な報告が為され、現状の把握と共有は進んでいく。

論功報奨を行うにも、誰がどんな手柄を立てたかがわからないと褒美のやりようもないのである。

そして、希美は信長に報告すべき事があった。

それは、希美によって集められた援軍にまつわる話だ。

希美は、意を決して、信長に声をかけた。


「殿!ご報告があり申す!」

「……」


へんじがない。ただのどえすのようだ。


「殿!?なんで、某を無視するの!?」

「……お前が関わる話は大体異常だから、心の準備じゃ!さっさと話せ!」


どうにも釈然とせぬ希美であったが、報連相は武家社会人としての基本である。

希美は、報告を始めた。


「某が急遽用意した援軍についてで御座る」

「……うむ」

「実は某が加賀に戻った時、能登国は一向宗も絡んだ内乱が起きており申した。そして、越中では、大規模な一向一揆が起きており、同盟を組んだ神戸氏がなんとか食い止めておる状態をに御座ったので、こちらに兵を割くのは難しい状況に御座ったので御座る」


御座るが一言多いが、織田家中の皆さんはそれをスルーして驚愕の声を漏らした。


「な、なんと!」

「そんな大変な時に、こちらに!」


「……それで、何が言いたいのじゃ」

信長が鋭い眼を向けて、希美の次の言葉を促した。

希美はそれに応えた。


「故に某は、単身、殿を助けに来たわけで御座るが、加賀の者達には早く事態を落ち着かせてこちらに来るようにと促し申した。そして、私に仕える伊賀と甲賀の忍びに兵を用立てるように頼んだので御座る」

「それが、あの援軍じゃと?」

「左様。特に加賀衆があまりに早く来たのは驚き申したが、報告したいのはそこでは御座らぬ」

「……言え」


若干、信長の声が低くなる。

心の準備でもしているのだろう。

心配した希美は信長のショックを和らげようと、合流した配下の忍者と加賀衆から聞いた話を、簡潔に、たいした事ない感じで伝える事にした。


「あー、なんか勿体ぶって話し申したけど、まあ伊賀と能登が織田領になっちゃったってだけで、そんなにたいした事では御座らんで御座るよっ、てへっ」


肩をすくめて頭をコツンしながら舌をぺろりと出した希美に、皆の張り詰めた空気が緩んだ。


「なーんじゃ、伊賀と能登が織田領になっただけか!」

「柴田殿が神妙な面持ちで話し出すから、凄い事が起きたのかと思ったわい」

「うむ、たいしたことじゃないな!」



「「「……」」」



そうして、全員が一斉に突っ込んだ。


「「「「「伊賀と能登を手にいれたじゃとお!!?滅茶苦茶たいした事じゃあああ!!!」」」」」


信長も目を剥き、口を開けて止まっている。

しばらく呆然としていたが、フリーズを解いて希美に尋ねる。


「なんで忍びを雇ったら、伊賀がわしの領になるのじゃ!?そもそも能登は、内乱状態だったのではないのか?!」 

「え?藤林長門守が伊賀の上忍で、兵を用立てるのに伊賀忍者達の上層部をお金で説得して……買収しました!うちの家臣になって、貧乏脱出したいらしいです!あいつらを柴田家うちの正社員として雇ったので、あいつらの土地もみんな柴田家うちのもの、ひいては織田領になったってわけで御座るねっ」

「び、貧乏脱出……?」

信長は目を白黒させている。


「あ、甲賀の方は、私が多羅尾四郎右衛門に声かけさせたといはいえ、元々殿の直臣なので、殿がちゃんと報いてやって下さいね!」

「あ、ああ。そうか、伊賀を金で……。国って、金で買えるのか……」


実際は単純に金の問題というより、忍者派遣会社の事業主として実入りの割りに苦労の多い身分より、大手の会社(柴田家)に高給で雇われた方がずっと楽だという話である。

希美の周囲にも、事業主として休みも満足に休めず頑張っている人間がたくさんいたが、実に大変そうだった。

特に派遣忍者事業なんて、仕込みにやたら費用も時間もかかりそうだし、派遣忍者が失敗したら派遣先からのクレームが半端なさそうだ。

断然、雇われが楽なのは、現代も戦国も基本的に変わらない。


それはさておき、希美は能登の説明も続けた。


「ええと、能登の内乱ですが、加賀のうちの家臣達とえろ教徒の正当防衛軍が頑張ってくれたみたいで御座る。えろ兵衛(斎藤龍興)が、私が出立した後すぐに舟をかき集めて、越後のケンさんに出兵を頼んだみたいで御座る。そしてまず、杉浦玄任率いる六千の軍勢が越中へ進攻して一揆勢を制圧。同時にえろ兵衛率いる一万の軍勢が能登へ進攻し畠山義続まぞぶたと合流。翌日加賀の舟で能登へやって来た上杉軍と一気に攻め落とした後、後始末を上杉軍に任せ、加賀衆の騎馬武者のみでこちらに来たんだそうで……」


信長は、愕然とした表情で声を出した。

「つまり、能登は……」

「はいっ。うちの領になり申した!あ、でも柴田領多すぎなんで、能登は殿に献上ぷれぜんとしますね。一応、柴田家の三角鞍隊希望の畠山義続まぞぶたの意向とか、それと態々来てくれた越後衆の利益も出るようにしてやって下さい」

「……」


信長が怖い顔をしている。

そこへ、佐久間信盛が空気を読まずに能天気な声を挟んだ。


「いや、流石柴田殿よ。次々と領を増やしてくれるとは、織田の守り神じゃ!」


「まことまことよ。柴田殿がおれば、織田は安泰じゃ」

「一時はどうなるかと思うたが、あの援軍で一気に戦況が変わり申したしなあ。柴田殿がおらねば我等はこの世におらなんだわ。加えてさらに領を増やすとは、柴田殿の御力があれば織田の天下は間違いない!」

「然り、然り!ワッハッハッ」


信盛に、他の将達が次々と追従し、笑い声が起こる。

そんな浮かれた空気を、信長が突如激昂して斬り捨てた。


「黙れ!!お前等は権六無しでは領も増やせぬ、此度の戦にも生き残れぬと言うか!無能は織田に要らぬわ!即刻織田の地より去れぃ!!」


「も、申し訳御座りませぬ!」

「何卒、ご容赦を……!」

「どうか、お許しを!!」


信盛等が、床に頭を擦り付けて平身低頭している。

怒りの収まらぬ信長に、希美はなんとか取りなそうと声をかける。

「と、殿……、もうその辺で許してあげて。皆、頑張って戦ってたわけだし……」

「黙れ、権六っ!己れの無能をさらけ出し、他人のおこぼれで勝ちを拾うて、恥もなく『よかった』などと笑えるような者共など、わしの家臣には要らぬ!能登とて、わしは要らぬわ!」

「と、殿……」


信長は怒りのままに立ち上がり、諸将の間を抜けて外へと向かう。

「殿、どちらへ!?」

「殿!」

「殿、お許しくだされ!!」

家臣等の声を振り切り、信長は本堂の出口まで来ると、本堂前の境内を睨んだまま下知を下した。


「出羽介(佐久間信盛)と出羽介に賛同した者等は、これより兵を率いて門徒勢力の伊勢国人衆が城を攻め落としてこい!権六と柴田の兵は一切借りてはならんぞ。城を攻め落としたら、帰参を許す!」

「「「ははあっ!!」」」


そして、ちらと振り返り、一瞬異母兄の信広に目を合わせた後、希美を見ぬまま出ていった。

(なんなの……。なんであんなにイラついてんの?Aカップできてホルモンバランスでも崩れたの??)

希美は唖然として信長を見送っていたが、信広の声で目線を再び堂内へと戻した。


「殿が不在故に、今よりわしが一門衆として、殿の御代わりを務める。他に報告はないか―――」


信広が信長の代打を務めるようだ。

信広は織田家の庶子ではあるが、有能な人物だ。司会をうまく務め、報告会は滞りなく進んでいく。

希美は信長の様子が気になり、織田家の裏事情に詳しそうな一益にそっと聞いた。


「殿、なんかおかしくない?」


一益がこっそり返す。


「まあな……。だが、こういう事は本人の問題だからな。俺達が変に慰めるのは、殿には恥かもしれん。口を出すべきじゃねえよ」


(本人の問題……。恥ずかしい事……。やっぱりそうか)


「やっぱり、殿、にょっぱいが出来て、ホルモンバランス崩れてんのか……」

「ん?『にょっぱ』……?殿に何が出来たって?」

にょっぱい。殿の胸、今膨らんでて、女の子なんだ……」


「んぶふおぉっっ!!?」


「こら、彦右衛門!権六!話を聞かんなら、出ていけぃっ!!」


「すんませんっしたあっっ!!」

「ヒッヒッフー!」


踞って声にならぬ一益の隣で、またも土下座の希美である。

床に額をめり込ませながら、希美の視線は自然と、信長が去った本堂出口へと向かうのであった。


一応補足ですが、伊賀全土をゲットしたわけではありません。

伊賀守護の仁木さんとこの直轄領は、カウントしていません。でも、彼は守護の中でも最弱……!(たぶん)守護の中の面汚し(言い過ぎ)なのでオッケーオッケー♪

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