伊賀忍者と甲賀忍者
だんだんひどい話になってきたな……
深夜のテンションって、怖いですね。
さて、そんなこんなで、信長の雄っぱいがAカップになった以外、無事に願証寺を脱出し織田陣営にたどり着いた希美達であったが、これでめでたしめでたしとは終わらない。
何故なら、織田軍と一向一揆勢は今も、戦の真っ最中だからだ。
信長が、"常時無敵状態のバグったエーロースター"柴田勝家を連れて本陣に戻った事で、織田軍の士気はうなぎ登りであるが、相手は洗脳状態のヤバい宗教テロ集団だ。油断できない。
希美は、藤林長門守と多羅尾四郎右衛門を呼び出し尋ねた。
「それで、兵は存分に集まったのか?」
藤林長門守と多羅尾四郎右衛門は、にやりと笑った。
さて、希美が信長を助けに、加賀を出発した翌日にまで、時を巻き戻す。
【伊賀国喰代百地砦】
伊賀国の百地砦の広間には、質素な服装の国人衆等が十二人、怪訝な表情を浮かべて座している。
彼らの視線の先には、一人の男がいる。
十二人の内の統括役でもある百地正永が、声を発した。
「急に訪ねてきた挙げ句、急遽十二人衆まで集めて、一体何なんじゃ、」
「長門守よ」と問われ、その男、藤林長門守は百地を始めとした十二人を見回した。
彼らは、伊賀の統括役である上忍の百地正永と、中忍十二家から成る『十二人衆』と呼ばれる伊賀の評定衆だ。藤林長門守は、百地正永と並ぶ伊賀の上忍である。
伊賀国は、実質この上忍と『十二人衆』が共和制のように取り仕切っているのだ。
「ふむ。それがな……」と藤林長門守は、懐から何やら書き付けのようなものを取り出した。
その際、いっしょに懐から重そうな巾着袋が飛び出て、板張りの床に落ちた。
その拍子に、中から黄金に光る粒がこぼれ出る。
「そ、それは……、金か!?」
皆が目を見張り、ごくりと生唾を飲み込んだ。
「おっと、これは失礼。わしの主は気前が良うてな。昨日わしを使いに出すのに、『路銀じゃ』とポンと渡されたのよ。あの方は、金を生むのが上手いから、わし等家臣はあの方についておる限り、食うに困らぬわ」
ワッハッハッと笑う藤林長門守に、皆ざわついた。伊賀の国人衆等は貧しい。地侍等といっても、半農のようなものだ。
それに伊賀者は、機密保持のためあまり人を入れぬ。
えろ使徒も拒んでいるため、土地の開墾や農地改革、農具の技術革新が進んでいない。
だからこそ、皆、黄金の輝きに目を奪われている。
百地正永は、動揺を隠さずに無事長門守に詰め寄った。
「今、『家臣』と言うたのか?忍びとして短期で雇われたのではなく、仕官しておる、と!?」
「おお、言うておらんかったの!本領安堵で柴田家に仕官よ。あの方は度量が広い。役に立つなら、通いでも、『たんしんふにん』とやらでも、好きな形で仕えよと仰せでな。というわけで、伊賀のわしの領地は今は柴田領なのじゃが、柴田の法を守れば、後は任せると言ってくださる。わしは領地を倅に任せて、えろ大明神様三昧の毎日よ」
「ほ、本領安堵……。それに、よく見たらお主、衣が綿ではないか!!」
「なに!?綿じゃと?!」
「麻ではないのか?綿?」
「おい、綿なんて、資産が千貫からの特権だろ!千貫持たざる者が綿を身につけたら、神罰でナニが芋虫になるって話だろ? 」
「なんじゃとお!?わしのナニが最大でも芋虫並みなのは、あの一張羅が原因かあ!!」
「「「お前……そうだったんか……(哀れみ)」」」
誰か、ナニの個人情報を自爆したようだ。
そんな騒ぎに目もくれず、藤林長門守はニヤニヤして百地正永に裏地をめくって見せた。
「な、これは……!?」
薄紫の藤色であった。
忍び衣装は、基本リバーシブルだ。表は普通の衣装だが、裏は闇や人に紛れ易いよう目立たぬ色にするのだ。
忍びはスパイ活動をするのだから、目立ってはいけない。(真っ昼間に黒忍者などイカれた諸行)
さらに言えば、忍びとは一般的に裏家業の雇われ者である。
そういう意味でも、忍びは目立ってはならぬ存在であった。
だからこそ、忍び衣装の裏地を藤色のような雅オシャレな色にする藤長門守林は、百地の目に異様に映った。
しかし、藤林長門守は誇らしげに語った。
「我が殿はな、忍びを蔑まぬ。それどころか、堺では人前に全面に出し、技を披露させてな、忍びに『日の元へ出よ』と教えてくださった。おかげで、忍びは一躍憧れの的。忍びになりたいと志願する者が列をなしたほどじゃ」
「そんな、馬鹿な……」
「真の事よ。あの方の元でなら、忍びはさらに日の目を見るだろうよ。それにえろ教徒の者達は、えろ大明神様にお仕えしておるわし等を、『御使い様』と呼んで有り難がってくれる。他の家臣の方々も、えろを通じて仲間として受け入れてくださる。いや、幸せな事よ」
「なんと……」
「羨ましいのう」
そんな声が、十二人衆の中から漏れ聞こえてくる。
藤林長門守は、今がその時と思い定め、切り出した。
「ならば、お主等も家臣になるか?」
「……どういう事じゃ」
百地正永が警戒の声色を滲ませながら、藤林長門守の話を促す。
「実は、此度お主達を集めたのは他でもない。殿が伊勢攻めの兵を欲しておってな。すぐにありったけの兵を出せる国衆なら、家臣として取り立ててもよいと仰せなのじゃ。もちろん、仕官せぬなら、一時的に金で雇ってもよい。今ばかりは懐が潤うであろうよ」
場がざわめく。
その声は、迷っている。『仕官』か、『一時雇い』か。
彼らの中に、『兵を出さぬ』という選択肢は消えていた。
否。藤林長門守に意図的に消されたのだ。
百地正永だけは、それに気付いているのか、藤林長門守を怖い顔で睨んでいる。
(流石に百地だけは、操れぬか。といっても別段嘘は言っておらぬが、怪しんで妙な横槍を入れられたら面倒じゃ)
藤林長門守は舌打ちしたい気持ちを押し隠し、百地正永の表情に気付かぬふりで十二人衆に催促した。
「先ほども言うたが、時がない。とにかく多くの兵をできるだけ早く、との仰せじゃ。皆、如何する?」
その言葉に、一人の男が声を上げた。
「よし。兵を出そう。その代わり、わしを家臣に加えてほしい!わしは、柴田に賭ける!」
その声に後押しされたのか、「わしも兵を出す」「わしも家臣に!」とどんどん声が上がる。
「わしも兵をありったけ出す!そして、家臣にしてもらって、千貫の資産を持つんじゃあ!!」
恐らく先ほどの芋虫忍者だ。
仲間の皆様、(あ……察し)といった表情を浮かべている。
(千貫稼いでも、芋虫は変態せんと思うが……)
藤林長門守はそう思ったが、黙っておいた。
だが、柴田家に仕官する者は、高い確率で変態してしまうので、きっと芋虫忍者の彼も変態できるに違いなかった。
そこへ、百地正永がおもむろに口を開いた。
「しかし、仕官すればえろに改宗を迫られるのではないか?」
その疑問に、十二人衆の多くが不安な表情を浮かべる。
もっともな疑問だ。藤林長門守は、えろに馴染みのない伊賀者達に説明を始めた。
「殿は『えろ』も『非えろ』も共存できる世を望んでおられる。それに、えろは勧誘はしない。説明はするがな。改宗はお主達次第よ。えろじゃない家臣はいくらでもおる。仕官とえろは、実際関係ないのじゃ」
「では、えろにはならずともよいのじゃな?」
藤林長門守は深く頷いた。
「うむ。お主の心のままにせよ。お主は、昔から堅物じゃったからな。無理にえろにならずともよいわ」
安心したように息を吐いて、百地正永は呟いた。
「千貫、貯めねばな……」
(百地よ、お前もか……)
案外、百地正永は、変態してしまうかもしれません。
【甲賀国山中城】
多羅尾四郎右衛門は、甲賀忍者筆頭山中俊好の前で『郡中惣』を行おうとしている。
ケツをとる前に、多羅尾四郎右衛門が主張する。
「甲賀郡の者達よっ。今こそケツ断の時!わしの主、えろ大明神柴田権六様は、女を遠ざけ男を好まれる!そう、我々と同じじゃあっ!!」
うおおお!!
「わしはそんな柴田様に忠義を尽くすために甲賀の力を必要としている!お主達は、新たな主、織田様のお命を救い、滝川一派以外の甲賀者の力を示せる!つまり、わし等の利は合致しておるっ」
そうだそうだ!!
「織田の殿様をお救いするために、甲賀からもありったけの兵を出したいのじゃ。伊賀者は五千集めると言う。ならば、甲賀は!?」
六千!六千じゃ!伊賀者に負けるか!
郡中惣に参加している甲賀者の代表者達のボルテージが上がった所で、山中俊好が声を上げた。
「それでは、ケツを取る!!甲賀から、兵を出すか否か!お主達のケツ論を!!」
代表者達は、おもむろに帯をほどくと、袴を落とし、四つん這いで剥き出しの尻を山中俊好に向けた!
剥き出しの尻は『是』、剥き出さぬ尻は『非』。
えろ教徒である山中俊好が考案した、新たな郡中惣の形である。
「尻を無防備に向ける」事で、提案の受け入れとその覚悟を示しているのだ。
そして今、山中俊好と提案者である多羅尾四郎右衛門の前に、甲賀者達の剥き出しの尻がズラリと並んだ。
誰も彼もが剥き出しだ。
山中俊好は、その光景に満足したように頷き、そして己れもスパンと袴を落として尻を晒した。
「満尻一致じゃ!皆、急ぎ戦支度をせよ!」
「「「「「応!!」」」」」
甲賀者達は、尻で返事を返した。
こうして、藤林長門守と多羅尾四郎右衛門は、兵を集める事に成功したのである。
◆伊賀と甲賀の違いについて
伊賀忍者は、そのほとんどが武士というよりほぼ傭兵集団。
彼らは、金で仕事を請け負うスタイルです。
上忍が仕事を請け負い、下忍を派遣するシステム。上下関係がきっちりした組織です。
甲賀忍者は、ほぼ武士ですね。戦国時代は六角家に仕え、六角家が滅んだら織田家に仕えました。武家社会の中で生き、主のために仕事を請け負うスタイルです。
こちらは惣という合議制のスタイルで、物事を決めていました。
惣では皆同列で多数決を取ったようです。民主主義な組織です。
ちなみに、このように仕組みや請け負いスタイルが違うので、伊賀と甲賀は敵対してません。
※追記
作中に出てきた伊賀忍者、百地正永は、メジャー級忍者百地三太夫(丹波)のお父さんです。




