知将&なろう投稿作家始めて一周年記念SS『ハッピーバースデー♪』
もう過ぎちゃいましたが、昨日の4月2日で、『知将』と『なろう登録』が一周年を迎えました。
え?登録日と『知将』開始日が同日だって?
ホッホッホッ……。これぞ見切り発車というやつですな!
そんな我が作品ですが、皆様の温かいご支援のおかげで、ここまで続けることができたのだと思います。
本当にありがとうございます!!今後も頑張ります!
とある年の四月、春日山城にて、柴田勝家の養子である坊丸は悩んでいた。
「義父上に、何を差し上げたらよいだろうか」
四月二十四日は、義父柴田勝家の誕生日なのだ。
そもそも、この時代は皆新年に、一様に年をとる。よほどでない限り、普通の人が誕生日を祝う習慣などない。
しかし、勝家は違った。
あの日、一度死んで戻ってきたという勝家は、これまでとは別人のようだった。
坊丸を大きく包み込むような、そんな人となりは変わっていなかったが、これまで感じていた壁が無くなっていたのだ。
あの厳めしい面構えの男が、親しみ満開で坊丸の誕生日を聞き出し、それ以降、坊丸の誕生日には勝家から何かしら贈られるようになった。
聞くと、「誕生日プレゼントよ。生まれてきてくれてありがとう、というお祝いの贈り物なんだ」と言う。
勝家は忙しくなかなか会えないが、こうやって誕生日に『ぷれぜんと』なるものを贈られる事は、坊丸にとって、勝家が気にかけてくれていると嬉しい事でもあったし、『謀反人の子でも生きていてよいのだ』と実感できる得難いものでもあった。
だからこそ、自然と坊丸も勝家の誕生日に何か贈りたいと思うようになったのである。
「でも、これまで義父上は忙しくてあちこちに行っておられるから、こちらから贈り物をしようにもなかなかできなかったんだ……。今年の誕生日はこの越後で過ごされるようだし、今年は絶対『誕生日ぷれぜんと』をお贈りしたい。でも急にこんな事をして、義父上は怪訝に思うかな……」
誰かに操られたようにいかにも説明口調で尋ねてきた坊丸に、お付き侍女の伊予が微笑んで答えた。
「きっとお喜びになられますよ。あのお殿様が、坊丸様からの贈り物を喜ばないはずがありませぬ」
「そうかな?でも、何を差し上げたらよいか、迷っているのだ。どうせなら、使ってもらえるものがいいのだけど、義父上は何が欲しいんだろ?」
腕組みして悩む坊丸少年の愛らしさに、同じくお付き侍女の浜が相好を崩しながらも、思い出した事を告げた。
「そういえばこの間、殿がため息を吐きながら『えろにつける薬はないものか』と呟いていたわ!」
「『えろにつける薬』?何だろう……つけるというからには、軟膏であろうか?」
坊丸も思案顔だ。
そこへ、伊予が声を上げた。
「私、わかってしまいましたわ!『えろにつける薬』。きっとそれは、お尻につける薬に相違ありませぬ!」
「お、お尻に、か?」
目を白黒させる坊丸の隣で、浜も伊予の意見に同意した。
「確かに、殿のえろのお相手はお多う御座いますものねえ。それに、今は上杉様と吉田様のお二人を相手にしておられるはず。お尻につける薬がいくらでもいりますわね」
「えろを為すと、尻に薬がいるのか?」
「ほほ……。武家の男の嗜みに御座いますれば、そろそろ坊丸様もそちらのお勉強が必要かもしれませぬなあ」
「武家の男の嗜み?その勉強にも薬がいるのか?」
坊丸の純粋な疑問に、伊予と浜は顔を見合せた。
そして、頼もしげな顔で頷いた。
「実際にご経験なさる時には、この伊予と浜がご用意致しまする。坊丸様はそちら以外は、既に(朝柴物語で)予習済みに御座いますから、すぐにご理解いただけましょう」
「左様に御座いますな。それに坊丸様のご身分なら、薬を使われる方ではなく、使わせる方に御座いますから」
「???」
坊丸は、理解できていない。
そんな坊丸を置いてきぼりにして、侍女二人は話し合った。
「では、どのようなものを用意しましょうや」
「下手に軟膏にするより、椿油や馬油がよろしいのでは?使い道も多う御座いましょう」
「ならば、馬油がよいな」
坊丸の一声に、伊予と浜は目を丸くした。
「何故、馬油に?」
「どうせ贈るなら、私も作るのを手伝いたいんだ。全ては無理でも、私の気持ちを込めたものをお贈りしたいから。椿油の時期は、まだ先だし」
はにかむ坊丸に、伊予と浜はなるほどと納得したが、少し眉をひそめた。
「確かに馬油は傷にも効きますし、良いと思いまする。ですが、作るのを手伝うのは……」
「そうですね。何せ、馬の死骸を使いまする。河原者の仕事に御座いますれば、それに混じるにはご身分が……」
「伊予、浜!」
坊丸はぴしゃりと侍女の名を呼んだ。
その強い眼差しに、伊予と浜は言葉を呑んだ。
「馬油を作る河原者は、えろ大明神である義父上の御使いとして、働いておるのだ!義父上の元に、えろは皆同じ信者。尊重しこそすれ、見くびるなど許さぬぞ!」
「あいすみませぬ」
「私共が不心得に御座いました」
伊予と浜は指をついて謝った。
坊丸の声も、落ち着いてきたようだ。
「わかってくれればよいのだ。私も、声を荒げてしまった。お前達が私の事を思うて言ってくれたのにな。許せ」
「もったいなきお言葉」
「坊丸様の仰せの通り、河原者に共に作れるか頼んで参りまする」
こうして坊丸は、河原者に混じり、手作り馬油を手に入れたのである。
そして、四月二十四日がやってきた。
「義父上はまだ帰らないのかな?」
「なんでも、犬耳猫鳴き盗賊団がまた出たとか。無事捕物を終えられるとよいのですが……」
「おのれ、犬耳め。犬耳のくせにニャーニャーと!義父上に懲らしめられるがよいのだっ」
それから二刻ほど経った頃、ようやく勝家が帰ってきたと知らせを受けた坊丸は、午後の座学を終えて後、伊予と浜を連れて勝家の部屋に向かった。
勝家の部屋の前まで行くと、何やら部屋の中から物音と話し声がする。
どうも、先客がいるようだ。
部屋の前に詰めている近習の侍が、なんだかげんなりした顔をしている。
侍は、坊丸の姿を認めると、「ただ今、上杉殿が部屋におられます」と告げた。
中の物音は、坊丸達の耳に嫌でも入ってくる。
パンパンパンパンと何か手を打つような音がリズミカルに聞こえ、その合間に、「ハアッハアッ」と荒い息もしているようだ。
勝家と輝虎の会話も漏れ聞こえてくる。
「おい、休むなよ。もっと腰をしっかり振れよ……」
「もう、休ませてくれ……。帰ってからずっとじゃぞ……。限界なのじゃ」
「ケンさんからしようって誘ったんだろ?私はケンさんに付き合ってるだけだから」
「う、確かにそうじゃが、一人で動くよりは、ゴンさんといっしょに……」
「仕方ないな。じゃあ二人で……」
ガタガタッ、ギシギシッ……ギシッ……
何をやっているのかわからないが、なんだか忙しそうだ。
そう思った坊丸は、伊予と浜に声をかける。
「なんだか、取り込み中みたいだ。出直そ……!?」
ガシィッ!!
坊丸の肩を、伊予と浜が掴んでいる。凄い力だ。動けない。
その侍女達の顔を見れば、鼻血を吹き出し、目が据わっている。
「坊丸様、あなたはお子様で御座います。ここは一つ、無邪気に戸を開けましょう!」
「大丈夫。これは好機に御座いますよ。そちらのお勉強の好機。お義父上様が、実践しているのを見せていただきましょう?」
「え?い、いいのかな?」
「「いいんです!!(川平慈英風に)」」
視界の端で、浜が近習の侍に「我等を通さぬと城の女が全員敵になりますぞ」と脅している。
坊丸は意を決して、戸を開けた。
そこに広がっていたのは……
『スリラー』を踊る二人の戦国武将の姿であった。
「あれ?坊丸じゃない。どうしたの?」
希美が呑気に坊丸に声をかける。
坊丸は、もじもじしながらそれに答えた。
「ちょっと用がありまして……。それより、義父上は何をされていたのですか?」
「今度、安土城で大規模なパーティーがあるんだ。で、まーた殿が「舞競いがしたい」とかって、家中のみんなにムチャぶりしてさ。でも、殿っていつも馬鹿の一つ覚えみたいに『敦盛』するから、違うダンスにも興味持ってもらおうと思ってな。それで、私とケンさんは『スリラー』の双子ダンスを披露しようと練習中なんだ」
「ふ、双子だんす、ですか」
「そう。でも、ケンさん、クソド下手でワロタ。で、なんで後ろの侍女達、倒れかけてんの?」
伊予と浜は、叫んだ。
「「ま、紛らわしゅう御座いますっ!!」」
「ええ?!なんで私、怒られたの??」
希美は戸惑いつつ、坊丸達を中に迎え入れる。
全員が座し、小姓に指示して茶を用意させた希美は切り出した。
「それで、用事って?」
坊丸は、恥ずかしそうに懐から瓶を取り出して、希美に渡した。
「あ、あの、今日、誕生日ですよね?これ、私からの『誕生日ぷれぜんと』です」
「え?!誕生日プレゼント?私に?」
希美は瓶の蓋を開けた。中には見覚えのあるモノが。
「馬油か?」
「は、はい!私も作るのを手伝ったんです!その、手作りをお渡ししたくて……」
「ええ?!手作り!私のために……!」
希美は感激して、思わず坊丸に抱きついた。
坊丸は、急な抱擁に少し慌てていたが、おずおずと希美の背中に腕を回した。
坊丸が少しずつ大きくなっていく事で、最近は随分抱擁が減ってしまった。
だからだろうか、希美の腕の中はひどく安心して離れがたく、坊丸は巨乳の雄っぱいに顔をスリスリ擦り付けた。
希美も、久しぶりに坊丸に抱擁し、その成長にさらに感激していた。
「昔は本当に小さかったのに、大きくなってるなあ。坊丸、私、絶対、坊丸の事、幸せにするからね!そんで、立派な男に育ててやる!」
その言葉を聞き、伊予と浜は復活した。
「聞きまして?伊予さん、殿は坊丸様を幸せにする、と!」
「もちろん聞きましてよ!しかも、立派な男に育てる、とか!」
「「紫の君(上)計画……!」」
「まさか、坊丸様を自分好みに育てて、ゆくゆくは祝言をあげるおつもりとは……」
伊予と浜は盛大に勘違いしている。
そんな事は露知らず、希美は坊丸に礼を言った。
「ありがとうな!大事に使わせてもらうな!」
坊丸も笑顔で答えた。
「はい!是非、お尻にお使い下さい!!」
「……何故、尻限定??」
とある年の誕生日は、こうして幸せに過ぎていった。
さて、その後希美は、あの馬油を尻に使う事になったかどうか。
それは、誰も知らない。




