全員全裸の目隠し鬼
短めですが、キリがよいところで更新しちゃいます。
闇はいい……。
冷たく俺を包んでくれる。
いつだって俺は、この場所から光を見ているんだ。
よお……。俺は、明智『影』秀。
もう一人の明智光秀だ。
俺はなあ、明智一族ごと城を燃やした、死の炎の中で産声を上げたのさ。
斎藤義龍なんて、出自の怪しい自称一色氏がよう、俺達の世界を焼いたのさ。
……俺は好きだぜ?凍えるような闇を照らす地獄の炎の熱さもな。
だって、闇と炎の前では、人なんざ、皆等しく無力なんだ。
生まれなんざ、関係なく、な。
闇は、いいもんだ。炎もな。
お前等も、堕ちてこいよ。
闇は、いいぜえ……。
「うん、今まさに、闇の中だわ。『闇堕ち』まっただ中!……つーか、この状況で、そのボケよく出せるよね。余裕だな、明智ん!」
あけちん……ちん……ちん………
希美の声が反響する。
何故なら、ここは、『石牢』の中なのだ。
三好長慶が柴田勝家に会いたくて震えている。
それを知った希美は、後の事を家臣等に丸投げし、早速尾山御坊を発った。
そんな希美に着いてきたのは、三好長慶と面識のある上杉輝虎、松永久秀の使徒任命と弟子入り試験のためにと同行を希望した河村久五郎、三好長慶からの書簡を仲介した明智光秀である。
河村久五郎のいう弟子入り試験とは何か。
嫌な予感がするので、希美はあえて突っ込なかった。
ともかく旅は順調に進み、芥川山城に入ったのが、午時より前である。
三好の侍に案内を受け、城内を進んでいると、急に武装した三好兵に囲まれた。
希美一人なら暴れて無双も出来ただろうが、輝虎達がいるのだ。
河村久五郎は多少射られたり斬られたりした方が良いかもしれないが、流石に彼ら全員を無傷では逃がせない。
希美は、抵抗せずに捕まった。
そうして、武器から何から取り上げられた。
最初は希美だけどこかに連れていかれそうになったが、希美が輝虎と光秀の腕にしがみつき、
「一緒じゃなきゃ嫌!私達、一心同体だから!がっぷり四つで、ずっと繋がってたいの!」
と頑張ると、三好兵達に何やら生暖かい目で見られた後、全員全裸にされるや石牢に放り込まれたのである。
時が過ぎ去り、明かりの無い石牢の中が闇に包まれた。
同時に光秀も影秀にモードチェンジ。
『俺のホームだぜ♪』と言わんばかりに自分語りを始めた影秀に相方として突っ込みを入れてやり、希美は辺りをぐるりと見回した。
本来なら闇に隠れて見えぬ牢内の様子が、希美には見える。
肉体チートとは素晴らしい。
まわりは石に囲まれ、入り口は一つ。
何の変哲もない石牢だ。
「さて、我等をどうするつもりか……」
希美が一人ごちた時である。
遠くから複数の足音が聞こえた。
久五郎が希美に話しかける。
「誰か来るようですな、お師匠様。恐ろしいので体に触れていてよいですかな?」
輝虎が言った。
「おい、河村久五郎。それはわしの尻じゃ」
「……ちっ」
久五郎の舌打ちが響く。
闇が深くてよかった。
希美は闇に感謝した。
そのうち、足音が入り口の前までやって来た。
鍵が開けられ、何人か入ってくる。
希美は見た。
女だ。裸の女達だ。
もう色々、放り出している。
彼女達は手探りでこちらに近寄ってくる。
(そういう事か!)
希美は敵の意図を理解するや、鋭く声を発した。
「女だ!複数!私を襲う気だ!」
「なんだと!?ゴンさん、逃げろ!」
「なるほど、女と交われば死ぬってやつか!ひっひっ、こりゃ、面白くなってきやがった!」
「お、女ですとお!?わしの出番ですな!」
久五郎は女に闇雲に突っ込んでいった。だが、惜しい!そこは壁だ!
「か、固い乳房だのう……」
「そりゃそうだ!そいつは、壁石の出っ張りだ、阿呆!」
久五郎が壁をもみしだいている間に、輝虎の悲鳴が聞こえる。
「い、いやあああ!!そんな所、触らないでええ!!」
「可愛い声で鳴く男ねえ。もっと聞きたいわあ」
「キャアアアア!!!」
(ケンさんが乙女!『よいではないか』男女逆転バージョンとか、タゲ層がディープすぎる!)
希美は、女から距離を取りつつ、少しだけ『あーれえー!』な輝虎を楽しんだ後、輝虎に覆い被さる女を蹴り離して助けた。
「のう、ゴンさん。わしを助けるまで何やら時間をかけなかったか?」
「気のせいだ、ケンさん。暗くてよく見えなかったんだよ」
希美は悪いやつだった。
希美は影秀を探した。
女はまだ三人いる。影秀が襲われているに違いない。
はたして影秀は、いた。
女をゲットしようとウロウロ探しているが、ニアミスの連続で、女を捕まえられない!
「おい、影秀!そっちだ!いや、もう少し右!ああーっ、惜しい!女が移動した!今度は左方向十時の方角に乳のでかい女!」
もはや、スイカ割りの様相を呈してきた。
その間も、希美は輝虎の手を引いて、女の間をするすると移動する。
目隠し鬼状態だ。
「のう、ゴンさん。絶対見えておるよな?わしの痴態を楽しんでおったよな?」
「ケンさん、私は見えてなんかないさ。あれだよ。こうやって声を出す事で音波を対象物に反射させて、跳ね返った音波を元に、なんか適当に動いてるんだよ」
「よくわからんが、それは人間には無理な所業ではないのか?」
「蝙蝠に出来るんだ。私にだって出来るんじゃないか?」
「知らんわ」
河村久五郎は、今度は反対側の壁石に顔を埋めている。
突如、牢内のカオスな様子が薄ぼんやりと浮かび上がった。
同時に声がする。
「柴田殿は、ここか!?」
「お師匠様っ!おりましたら、返事をなさって下されえ!!」
誰か違う人間が、明かりを持ってこちらに向かっているようだ。
一人の声には聞き覚えがある。
松永久秀だ。
恐らく、希美達を助けに来たのだろう。
女達は戸惑い、どうしたらよいか立ち尽くしている。
希美は久秀に声をかけた。
「おい、私はまだお主の師匠になった覚えは無いぞ!」
「おお!確かにお師匠様の声じゃ!お待ち下されえ、今あなたの弟子が参りますぞおー」
久秀の弟子アピールが凄い。
希美はため息を吐いた。
「ご無事か!?」
「やや!これは、女?!」
入り口から明かりを持ったおじさんが二人、顔を覗かせた。
一人は松永久秀。
もう一人は……。
「おお、生きておられたか!このような仕儀に至り、真に申し訳御座らぬ。わしは、三好修理大夫と申す。とにかく、外に参りましょうぞ!」
日本の副王にして、死にやすい三好一族の優しきメンヘラ。
三好長慶その人であった。




