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プレゼントはリサーチの後で

近江での論功褒賞も終わり、希美が今回の戦の御褒美達を引き連れて加賀は尾山御坊に戻ったのは、六月も終わりに近付いた頃であった。



近江攻めでは、変態としての攻めっぷりも群を抜いていた希美だったが、箕作城攻めで危ない草を使い敵味方の死傷者を減らした策や、上も下も危ない姿で特攻し六角義定を生け捕りにした事、希美の危険送棒で三好の重臣を撃ち取り三好軍を後退せしめた事など、数々の功を立てている。

変態と差し引いても、信長から御褒美(ボーナス)が出るのは、当然の事である。


とはいえ、希美は領地を持ち過ぎている。

これ以上領地を増やせば、実務的にも、政治的にも弊害が出ると信長は見ていた。

周囲から色々痛くもない腹を探られるのは、希美とて面倒臭い。

よって、「近江の地はやれんぞ」と信長に言われ、希美も「あ、いらないで御座る」と返答したのである。

希美はついでとばかりに、「正直、謎の毛皮とか殿のお下がりとかも本当にいらないで御座る」と付け加えたので、信長からバラ鞭でしばかれたのは言うまでもない。


「じゃあ、何が欲しいんじゃ!!」と己れの頭部を足蹴にする信長のその足に、希美はすがりついてねだった。

「物はいらない!人!人材欲しい!与力下さい、与力!仕事多すぎて大変なのっ。内政できる与力プリーズっ!」

「大うつけ者!お前が、急に色々やり過ぎるからじゃあ!」

信長は叫んだ。

「なんじゃ、学校って!なんじゃ、孤児院って!健康保険?辻馬車?『えろバーサルランド』計画って、なんじゃあああ!!?」

信長は、現在希美が進めている加賀と越後の意味不明な事業計画を思い返したようだ。


(お?『えろバーサルランド』、殿も気になってるようですな!)

希美が説明を始めた。

「『えろバーサルランド』はもうちょっと平和になってから実行しようと思ってるんですがね。尾山御坊の城下町に、期間限定で『えろ&ピース』を主題とした遊び場を作り、客を集めてお金を落としてもらおうと思っているので御座る」

「あ、遊び場??」

「左様!えろ使徒に扮するキャスト、黒くて丸い耳のついた着衣人形のマスコットキャラクター、着衣人形をピンに見立てたボウリングなどの様々なゲーム、えろ時衆が踊りまくる中、様々なえろの修行を模した山車が練り歩くパレード。そして、それを見守るように建つ尾山御坊には、阿弥陀仏のプロジェクトマッピングが!」

「何を言っておるのかわからんが、何やら楽しそうな……」

信長はちょっと興味を持っている。

希美はそんな信長の反応に気を良くして、さらに計画を明かした。


「ちなみに、子ども向けの出し物として、『上洛し隊☆武将ンジャー』のショーをしてみようかと」

「『上洛し隊☆武将ンジャー』!?」

「天下を狙う五人の武将が手を取り合って、オワコン組織『アシカガバクーフ』を倒すので御座る。リーダーの魔王レッドは、もちろん殿!他にも甲斐の虎イエローや、越後の龍ホワイト、相模の獅子ブラック、三河の狸グリーンが京を目指して……」

「おい!『アシカガバクーフ』を倒す出し物を堂々とできるか!!」

「ええー!女の子向けに、女体化した武将達が『アシカガバクーフ』を倒す『下克上♪プリキュン』も考えていたのに……」

「だから、『アシカガバクーフ』を倒す出し物は……ちょっと待て。わしも女体化するのか?」

「女体化武将といえば、殿でしょう?」

「お主の頭の中は、どうなっておるのじゃ……」

信長は呆れて希美を見ている。

いや、論功褒賞の場に居合わせたほとんどの将が、なんともいえぬ顔で希美を見ていた。


信長は希美に命じた。

「『アシカガバクーフ』を倒す出し物以外なら、やるがよい。……その時は、必ずわしを呼ぶように」



その後、『えろバーサルランド』が実際に開催された時、信長を始め多くの武将がこぞって訪れたと、この時代の文献に残っている。




閑話休題。


とにかくも、信長は希美の要求を呑み、加賀詰めの与力をその場で選定した。

その中には、加賀攻め以降加賀に居座り、押しかけ与力として既成事実を積み上げ続けていた河村久五郎や斎藤龍興の他に、希美が以前から希望していた明智光秀の名もある。

まあ明智光秀は現在、京で『アシカガバクーフ』や『チョーテー』と接待バトルを繰り広げているので、ここにはいないのだが。


という事で、希美は、光秀以外の御褒美を連れて加賀は尾山御坊へと戻ってきたのだった。



そこで待っていたのは、もう一つの御褒美である。

「おかえりなさいませ、親分!ご無事で何よりで御座いました」

「ただいま、坊丸君!!」


そう。柴田勝家の元主君、織田信行の遺児。

織田坊丸だ。


だが、今日からは、『柴田坊丸』となる。

坊丸君は、柴田家の養嗣子ようししとなったのだ。


「あの、親分……、『父上』とお呼びしても?」

「言いにくいなら、親分でいいよ」

坊丸はふるふると首を横に振った。

「いえ、親分は『父上』です。私は、もうずっと、親分を『父上』と呼びたかったのです。この度、叔父上(信長)がその願いを叶えて下さいました」

希美は、ちょっと泣きそうになった。

「そうか……。嬉しいよ、坊丸君」

涙を堪えるように、希美はぎゅっと坊丸を抱き締めた。


坊丸は希美のカッチカチの雄っぱいに顔を押し付けながら、おずおずと希美に話しかけた。

「父上……。父上はよろしいのですか?私が養嗣子になるという事は、その……」

希美は坊丸の言いたい事を理解した。

そうして、坊丸を雄っぱいから引き剥がし、坊丸の瞳を覗いた。

その瞳は、申し訳無さと不安で揺れている。

希美は、安心させるように坊丸に笑いかけた。

「ちゃんとわかっていて、私は坊丸君を家族にしたんだ。坊丸君は、自分が養嗣子として柴田家を継ぐ事で、柴田家の築いたものを織田家が乗っ取る形になると、不安なんだろう?」

坊丸は頷いた。

「叔父上は、恐らく父上が()()()()()いるから、私を父上の養嗣子にしたのです。私は父上の子どもになれて嬉しいけど、こんなやり方は卑怯です……」


希美は坊丸の頭を優しく撫でた。

「なに、どうせ柴田家に跡継ぎはいなかったんだ。誰が継いでも私は構わない。それに、あまり殿を悪く言わないでくれ。殿は確かに柴田が持ち過ぎている事を危惧しているけど、これは無用な争いに私が巻き込まれるのを阻止するためでもあるんだ。いつか織田のものになる財産なら、たくさん持ってても謀叛は疑われないだろう?」

「はい」

「それとな、これは殿には絶対言わないで欲しいんだが」と希美が坊丸の耳元に口を寄せた。


「殿はずっと、私を身内にしたがっていてな。でも私が織田の姫を娶れないから、こういう形で私と繋がりたかったんだろうよ。……殿は寂しがり屋で不器用なんだ。ぷぷっ」

坊丸は目を丸くした。

「殿と尻で繋がる未来、回避だぜ!」とルンルン気分の希美を見ていると、なんとなく叔父である信長と父となった柴田勝家の絆を感じる。

坊丸の心のつかえは、溶けるように消えてなくなっていた。


「それにしても、坊丸は賢いな!八歳にして、あんな大人の事情を理解できるなんてなあ」

希美の賛辞に、坊丸は恥ずかしそうに言った。

「賢くなどないです。教育係の山田六兵衛も、侍女の浜や伊予も、色々と教えてくれますから」

「そうか。六兵衛、浜、伊予。私がなかなか坊丸君についてやれない中、ようやってくれて助かるぞ!」

希美の感謝の言葉に、六兵衛も浜も伊予も誇らしそうだ。


「それより、父上。聞きたい事が」

そう言われ、希美は「何かな?」とにこにこ顔で坊丸を見た。

坊丸は尋ねた。


「父上の本命の男は、一体どなたなのですか?」


一瞬、希美の時が止まった。

口元をひきつらせながら、坊丸に聞く。

「ほ、本命の男って、何?」

「これを読んだのです」

坊丸は懐から『朝柴物語』を取り出した。

そして、つらつらと語り始めた。

「これによると、父上は朝倉殿と衣を交換する仲だとか。ですが、尾山御坊で女中に聞くと、上杉殿と父上は『ケンさん』『ゴンさん』と親しく呼び合い、『家族』を豪語する仲だと聞きました。でも、昔から父上に尽くしてきた『相棒』の次兵衛殿は、ずっと越後にいるとか。父上、いくら新しい男を侍らせたいからと言って、糟糠のつまをないがしろにしてはいけませぬぞ!」

「い、いやいやいや!ちょっと待て!別に私、ハーレムとか作ってないから!そもそも、次兵衛がつまって、誰がそんな事を教えたの!?」

「侍女の浜と伊予が色々と教えてくれますから」

とんでもない英才教育を施していた。

「てめえ、浜あっ!伊予っ!!どこだ!!」

先ほどまでいた場所に、浜と伊予の姿はない。

どうやら逃げたようだ。


「おのれ!足の速い……。あの、坊丸さん?坊丸さん、勘違いしてらっしゃいますよ?」

坊丸は訝しげに希美を見やった。

「勘違い?父上は男が好きなのでは?女の方がよろしいのですか?」

「いや、女はダメだ。男の方が好きだ」

「やはり」

「ああっ!!私の馬鹿!!」

希美は頭を抱えた。


「なるほど、柴田殿は男の方が好き、と(さらさら~)」

廊下から部屋を覗きながら、太田牛一記者が、希美の爆弾発言をメモしている。

「太田牛一!?なんでここに?」

「殿から命を受けてこちらに。柴田様は何を始めるかわからないから、動きを報告するように、と仰られましてな。皆様の後を追って、先ほど着き申した」

「そっか、お疲れー……じゃない!!とりあえずさっきの消して!」

「嫌で御座る。消しても心に刻み込んでおり申す」

「今すぐ忘れろっ!『信長公記』に明記されたら、柴田勝家に男好き伝説が生まれてしまう!」

大丈夫だ。『朝柴物語』が世に出た時点で、その伝説は生まれている。



こうして希美に、新たな仲間と、新たな家族と、新たなパバラッチが増えた。


坊丸君の行く末が心配である。

養嗣子

家督を継ぐ養子のこと

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