メイゾウと
登場キャラ紹介
・メイゾウ
鼠人族の男性、迫害されていた獣人国から救出し領民に、一番の新参だったりする。エイマと良い仲に
・ナルバント
洞人族の男性、すっかりメーアバダルの屋台骨に。工房で日々道具の開発や量産に励んでいる。
アルナーの方針で行くことが決まって、話し合いに参加しなかった代表者にもそれが共有されて、細かい部分まで詰めての話し合いが行われて……数日後、いつもの日常が戻ってきていた。
当たり前の話ではあるのだけど、アルナー案で行くならエルダン達が動き出さなければこちらも動けない訳で、準備は進めてはいるけどもそれも程々で留めている。
エルダン達にこちらの狙いがバレてしまうのも面倒だからこっそりと……可能な限り隠蔽しての準備となっている。
隠蔽のために鬼人族の誰かが常に準備に付き添ったりしていて、そちらに相応に人手が取られてはいるが、だからといって日々の暮らしも疎かに出来ず何もかもがいつも通りだ。
関所も開けたままで、通行も許可していて……そこを変に封鎖したなら勘ぐられるだろうからなぁ、とにかくいつも通りを心がけている。
獣人国には交渉のためにエリー達が向かっているが、それも外交官としてではなく商人としてという形になっていて……うん、今のところは特に問題なく隠蔽出来ているだろう。
そんな風にいつもの光景となっているイルク村を広場からぐるりと見渡していると、肩にピョンッと飛び乗ってくる気配と感触があって、またエイマかな? なんてことを思っているとエイマとは違う力強い声が聞こえてくる。
「……言ってくだされば拙が王都とやらに偵察に参ります、隣領の鼠人族もそうしていたのでしょう?
遠慮などしないでくださいませ、この命を救って頂き、運命の人と引き合わせてくださったことへの感謝と覚悟を示すためであればその程度、何の苦でもありません」
声の主は鼠人族のメイゾウだった。
メイゾウは……基本的には信頼の置ける良い人物なのだと思う。
エイマのことを安心して任せられるし、いざ戦場に向かうとなったら偵察などで活躍してもらうことになるだろう。
しかし欠点があって、それがこの……すぐに自暴自棄になる所だった。
今の王都は危険地帯だ、命どうこうではなく聖地の力でおかしくされてしまう可能性がある場所だ。
王都に潜入していたエイマの同族達、大耳跳び鼠人族の密偵達も無事かどうかも分からないような、そんな場所だ。
そこに偵察に行くなど無謀でしかない訳だが、メイゾウはどういう訳だかそうしたいと考えているようだ。
「そんなことをする必要は全くないからな?
危なすぎるし、今から行っても間に合わない可能性もあるし、何よりエイマの大事な人にそんな無茶をさせる訳にはいかない。
それよりも今は体を鍛えて心を休めて、その時のために備えて欲しい。
それこそ戦場での偵察や、エイマに代わっての相談役、私の側での耳役など頼る場面は数え切れない程だ、
その時にこそ役に立って欲しい」
「……それは、確かにその方が良いのかもしれませんが、その、この村で結婚するためには男気というものが必要なのでしょう?」
「あー……」
そう言われて思わずそんな声を上げてしまう。
それは正しくないというか、しかし間違ってもないというか、あくまで鬼人族の文化なのだけども、定着してしまっている部分もある。
それに男気が大切というのは、どこの村でも国でも変わらないことのはずで……必要無いとは言えない。
「今の時点で十分だと思うがな」
そんな私の言葉の通り、メイゾウの働きは十分過ぎるものだった。
まずはエイマの手伝いやその世話。
同じ体格のメイゾウにしか出来ない仕事が多く、最近特に忙しいエイマの世話などではかなり頑張ってもらっている。
次に洞人族の手伝い。
メイゾウはエイマのような体格でエイマよりも力が強い、更には器用でもあり洞人族のゴツゴツとした指ではやりきれない細かい細工などを手伝ってくれているのだ。
その小さな手で普通ならありえないような小さな細工まで完成させていて、更にはメイゾウにしか潜り込めないような狭い所での作業もこなしてくれる。
これにより洞人族達は手の平程の大きさの歯車細工の開発に成功しつつあるとかで、今のところそれはメイゾウの力がなければ絶対に作れない代物であるらしい。
メイゾウにしか出来ない仕事、メイゾウだからこそ出来る仕事。
洞人族が言うにはメイゾウがいれば今までにない細工も作り上げられるかもしれないとかで、その報酬は洞人族からの嘆願もあってかなりの高額となっている。
相応しい仕事には相応しい報酬を、そういう意味ではメイゾウは十分な男気があることになるのだが……この感じは武功を求めているんだろうなぁ。
獣人国ではその強さを理由に見下されていたから、尚更そう思う部分があるのかもしれない。
しかし……ここは獣人国ではないからなぁ、その辺りの意識は改めて貰う必要があるだろう。
そんな思いを込めてのわたしの言葉はメイゾウに通じているのかいないのか……ただ黙ってこちらをじっと見ている。
そして何かを読み取ったらしく、安堵の表情を浮かべて口を開く。
「どうやら拙の考えすぎだったようです。
勇み足と言うべきしょうか……ここではこれで良いと、そういう訳ですね。
……しかしいざその時が来たならどうか拙のことをお使いください」
「ああ、その時は頼るよ。
と、言うか頼らざるを得ないかな、エイマにも何度も何度も戦場で世話になっているし、エイマ自身が戦ってくれたこともある。
鼠人族が頼りになる仲間であるということは分かっているから、その時は頼む」
「……その話、それとなく耳にしたことがありましたが、その表情からするに本当だったのですね。
……まさか彼女が……。
確か針で目にもの見せたとか、では拙にも同じような針をお願い出来ますか?」
「ああ、仕事のついでに洞人族達に頼むと良い。
針の扱いに関しては私よりエイマやアルナーに聞いた方が良いだろうなぁ、エイマは実戦経験があり、アルナーは短剣などの小さな武器での護身術を心得ている、きっと参考になるはずだ」
と、そんな話をしているとドタドタとすっかり聞き慣れた足音が響いてくる。
洞人族だ、それもナルバントだ、この慌てよう、また何かやらかしたか何か作り上げたかしたらしい。
「出来上がったぞぉぉぉう!!」
そんな声を上げて駆け込んできたナルバントの手には……なんとも不思議な物が抱えられていた。
黄金とはまた違う金色に輝く骨組みが複雑に絡み合って、二つの振り子が揺れていてその間でねじりバネとか言うのが動いていて、そして骨組みの正面にはいくつかの歯車が噛み合って回っていて……その表面には大きな針が二つあって、文字を示しているのか不思議な角度を指し示している。
「……これは? 例の手の平程の歯車細工か? それにしては随分大きくなったな?」
私が首を傾げながらそう返し、私の方の上のメイゾウも同じく首を傾げる。
……メイゾウは細工の手伝いをしていたはずだが、その全容までは知らなかったのか、不思議な仕上がりに首を傾げずにはいられないらしい。
「海で使うためにどうしても大きくしなきゃならんかった!
これならば潮風にも強く揺れにも強く、船の上でも問題なく使うことが出来るはずじゃのう!!」
「……で、これはえっと、何なんだ?」
「時計じゃ! 時計!! 時を計り示す歯車細工よ!
これで船の上でも遠方でも時を確かめられる! 時を確かめられたなら正確な作戦連携も可能な上に、航海で迷う心配もなくなる!!」
「……うん? ゴブリン族がいれば迷う心配なんかないと思うが、それよりも気になるのは時間が分かると迷わなくなるものなのか?」
「おう、北と南は星を見て測量器具を使えばすぐに分かる、しかし東と西はそう簡単にはいかん。
特に海の上ではな、太陽の位置と自分の位置が同時に動いたでは計算も何もなくなるからのう。
しかし時計があればその心配もいらなくなる、つまり太陽の位置と正確な時間が分かればその角度から……まぁいい、その辺りの難しい話はヒューバート坊にでも聞け。
とにかくこれがあれば今後の作戦がうんと楽になると思っておけば良い、メイゾウのお手柄じゃのう」
と、そう言ってナルバントはもう一度時計を掲げて見せて……私はよく分からず首を傾げたままだったが、メイゾウにはしっかり分かったようですぐさま私の方から飛び降り、そしてその時計とやらに登り……自分の仕事の成果だと誇らしげに時計の頂点に立って胸を張り、誇らしげな姿を見せてくるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回は時計やら何やらです




