ようやくやってきた……変人
登場キャラざっくり紹介
・ゴブリン族
亜人の中の魚人の中の鮫人族達が、古い鮫にならって名乗っている部族名、基本水中で暮らしてはいるが、陸上でも生活可能で、いざという時の避難所として陸上をずっと求めていた。
今はイルク村の南の荒野の南の大入江を避難所というかゴブリン族の村のような形にしている
・センジー氏族
亜人の中の獣人の中に犬人族の小型種の一氏族、毛が短く細身、耳が大きく目がやや鋭い、犬人族の中では生真面目な方
・オリアナ・ダレル夫人
人間族、女性、元王都暮らしの貴族、今はディアス達の教育係として活躍中
「そろそろ到着されるはずです」
よく晴れ、少し日差しが厳しい昼過ぎに、荒野の水源近くの船着き場でゴブリン族の若者がそう声を上げる。
トカゲ川の水源となっているこの辺りには、水源を守るための囲いや川が南に流れるようにと作られた石と木材で作った護岸などがあり、更には神殿予定地やら何やらが作られていることから、以前の様子からは考えられない程の賑やかな風景が出来上がっていた。
ニャーヂェン族が休憩するためのユルトや、洞人族達のための小屋、作業をするための工房に小さな魔石炉もあって……既に村のようになりつつある。
南へと向かう護岸は段々と幅が広がっていっていて、そのさきには簡単な作りの船着き場もあって……船着き場の周囲の護岸は船を守るためなのか、より強固に作られていて、川の深さもかなりのものとなっているらしい。
更に船着き場の周囲にはゴブリン達のための休憩所や、ゴブリン達が持ってきた品と洞人族が作った道具を交換するための取引所もあり……取引所には先日こちらにやってきた、血無し達の姿がある。
しっかりと読み書き計算を覚えてきたけども、まだまだ商人としての経験が浅く、いきなり行商をするには不安がある者達が血無しの中に何人かいるとかで、そういった者達の練習の場となっているのがあの取引所だ。
ゴブリン族は誠実というか生真面目で、こちらを騙そうとするようなことが一切なく、初歩の練習相手としてはとても良いらしい。
その分、交渉とかの練習は出来ないのだけども、まぁ、そこら辺に関してはエリーやセキ達が上手く教えてくれるのだろう。
取引所の周囲には犬人族達のためのユルトもあって、犬人族達は荒野での石拾い……葉肥石などを拾い集めたり、岩塩を持ってきたり、ゴブリン達が持ってきた魚の品質チェックをしたりと、ここでも元気に働いてくれている。
特にセンジー氏族は毛が短く、暑さに強い体をしているからか、荒野での活躍が目立っていて……センジー氏族長のセドリオは、自分達が活躍出来る荒野の開発が進んでいることを誰よりも喜んでいた。
そんな船着き場には私やアルナー、エイマとセナイとアイハンとダレル夫人、そして何人かのゴブリンの姿があって……そうやって待っているのはダレル夫人の旦那さんが乗った船の到着だ。
ゴブリン達が知らせてくれた所によると、そろそろ船が到着するんだそうで……わざわざ王都から来てもらったのだから、出迎えなければということでやってきていた。
本当は昨日に到着する予定だったのだけども、ゴブリン達が言うには……、
『あの方は何にでも興味津々で、船旅の途中や大入江周辺の調査をしたいとのことで、到着が遅れています』
とのことだった。
何ならそのまま何ヶ月でも調査を続けそうな勢いだったそうだが、流石にダレル夫人が怒って『さっさと来い』とそんな風に要約出来なくもない手紙を送ったことにより、調査は一旦諦めてこちらに向かってくれているらしい。
一旦というのがポイントで、また暇が出来たら大入江の調査をしたがるに違いないとかで、もしかしたら旦那さんはしばらくの間、この辺りで暮らすことになるのかもしれない。
私としては薬草小屋で活躍して欲しいのだけども……。
なんてことを考えていると、川を登ってくる船の姿が視界に入り込む。
あの船は確か、ピゲル爺さんの船だったか……作りが良いものだから、これからはお客さん用に使うと決めたんだったな。
そんな船の船首に人の姿があり……何故か上半身裸で堂々とした立ち姿を披露している。
それを見た瞬間ダレル夫人は、両手で顔を覆って大きなため息を吐き出し……アルナーやエイマは半目となってなんとも言えない表情をする。
セナイとアイハンは半裸なことよりも、その人が何故か濡れていることが気になるようで、そちらに興味津々といった態度を見せている。
……いや、本当になんでだろう?
大きな眼鏡をし、髪は短く髭は豊か……そして全身がびしょ濡れで、ここが荒野でなければ体を冷やしてしまっていたかもしれないな。
そんな船の甲板には何人かのゴブリン達の姿もあって……そのうちの1人が、こちらのことを指さしながら上着を差し出し、男に服を羽織るように促している。
恐らくはこちらに女性がいるのを見ての行動なのだろう、ゴブリン達はその生活上、服を必要とはしていないが、陸上で暮らす私達との交流のために服を用意し、着てくれていて……その辺りの気遣いはしっかり出来ている。
逆に言うとその男性はゴブリンに出来る気遣いが出来ていなくて……あれで王都の貴族なのかと、ちょっと驚いてしまう。
いや、そもそもなんであんな風に濡れているのだろう? 大入江辺りで水に入っての調査をしていたとしても、この辺りに来る頃には乾いていそうなものだが……。
それが今でもあんな風に濡れているということは、もしかして……?
なんてことを考えているうちに船着き場に船が到着し、船を曳いていたゴブリン達が上陸してロープを引っ張り、船着き場に船を固定し始め……なんとも手慣れた手つきでその作業が完了となる。
そして桟橋から渡し板が渡されて、眼鏡の男性がゆっくりと桟橋に移動し……それからこちらに向かってゆっくりと歩いてくる。
「いやぁ、申し訳ありません、ついつい水中の調査をしたくなってしまいまして。
ゴブリンさん達がいると溺れる心配がありませんから、どこでも潜ってしまいたくなりますね」
そして開口一番そう言って、ダレル夫人が大きなため息を吐き出す。
……確かにゴブリン達が側で守ってくれるのなら、安全性は高いのだろうけども、それでも絶対安全という訳ではないはずだ。
水を飲んでしまってとか、息が続かなくなってとか、色々と危険があるはずなのだけども、彼はその辺りのことを分かっているのだろうか?
「特に海! 海の調査は感動の一言で!
初めて見る光景に世界! しかもそこにあるものが何なのか、どんな物なのかを知っている友人が側にいるという僥倖!
ゴブリンさんのように水中でハッキリ目が見えたなら、水中で会話が出来たならどんなに良かったことか……!
神々は何故ワタシを魚人として生み出してくれなかったのか、ちょっとだけ恨んだ程ですな!
海中には全く知られていない物質や生物が多数存在していて、あれらを集めて実験したなら、なんらかの新物質や新薬が作れるかもしれません!
メーアバダル公……メーアバダル公ですよね? あなた? 外見がオリアナの手紙にあった通りですから、きっとあなたがメーアバダル公に違いないので、そのつもりで話を続けますが、ぜひともワタシに海洋調査をご命じください!
その暁にはメーアバダルを新たな学問発祥の地として知られるようにしてみせましょう!!」
そう言って男性は両手を高く振り上げ、空を見上げ……何かに感動しているらしく、ホロホロと涙を流し始める。
そのあまりの様子に私が何も言えなくなっているとダレル夫人が無言で足を進めて、男性の前に立って……そして、
「まずは名乗りと礼!」
と、そう言いながらの初めて目にする腰のひねりと勢いと鋭さでもって、男性の頬を平手で打ち据えて、なんとも良い音を周囲に響かせるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
次回はモント視点に戻っての変人じゃない方の来訪者のあれこれです




