元気に働く、働き者達
少し長めの内容となります。
短くなったり長くなったりして、毎話のバランスが悪いのはもう少し調整したいと思います……。
それと新しくレビューを頂きました。
とても格好いいレビューとなっていますので、気になる方は小説情報からチェックしてみてください。
犬人族達がイルク村にやって来てから10日が経った。
その10日の間にすっかりとイルク村に馴染んだ犬人族達は、今日も朝の日差しの下、元気に働いてくれている。
「よーし、そろそろだー!」
「おーい、水が上がるぞー!」
「桶を傾けるぞー、受け止めろー!」
「桶を構えろー、水を無駄にこぼすなよー!」
と、そんな声が聞こえて来て……声の主達が居る井戸の方へと視線をやれば、2人のセンジー達が滑車にかかったロープを引いて水の入った桶を引き上げて、別の2人のセンジー達が抱える桶へと水を流し込んでいる。
そうやって抱える桶になみなみと水を入れたセンジー達は、その水を各ユルトにある水瓶へと運んでいって……と、そうやってセンジー達は毎朝欠かさずに水汲みをやってくれている。
「今日はご飯の後に何をするんですか?」
「毛刈りします? 刺繍します?」
「それともお茶にします?」
「お歌もわたしは好きですね!」
なんて声が聞こえてくる広場の方へと視線をやれば、そこには朝食の準備をするマヤ婆さんとそれを手伝う各氏族の女性達の姿があり……女性達はそうやって一日中、マヤ婆さん達に付き添ってマヤ婆さん達を手伝ってくれている。
いくら元気だといっても、マヤ婆さん達はかなりの高齢であり……日常のちょっとした動作が負担になったりしていたんだそうだ。
腰を下ろす時、腰を上げる時、物を持つ時、運ぶ時。
そういったちょっとした動作の際に手を添えて……あるいはその小さな身体全体を使って支えてと、そうやって女性達は献身的なまでにマヤ婆さん達のことを手伝ってくれている。
私はそうしたマヤ婆さん達の苦労に、全く……微塵も気付けていなかったので、そうだと知った時はただただ恥じ入ることしか出来なかった。
……いやはや、なんとも情けない話だな。
その時のことを思い出してしまって決まりの悪さから頭を掻いていると、モォォォウとの白ギーの声が草原の方から聞こえて来る。
「今日も元気だねー!」
「ご飯いっぱい食べたねー!」
「でも、あんな草よく平気で食べられるね? ぼくも食べてみたけど苦いだけだったよ?」
と、そんな会話が聞こえてくる方へと視線を向けると白ギーの手綱を引きながら、白ギーの周囲を囲ってこちらの方へと誘導しながら歩いてくるシェップ達の姿が見える。
どうやら白ギー達の草原での食事が終わったようだ。
それに続いて馬達を連れてくるシェップ達の姿があり……馬達の満足そうな表情を見るに、こちらも無事に食事を終えたようだな。
シェップ達はそうした家畜達の食事以外にも厩舎の掃除や、家畜達のブラッシングなどもしてくれている。
その手際はとても見事なもので……そうやって世話をしてくれるシェップ達のことを馬達も白ギー達もすっかりと信頼して、私よりもシェップ達の言うことに従うくらいには仲良くなっている。
「食事が終わったから次はブラッシングだぞ!」
「今日は俺達がブラシ当番だ!」
「えー、いいなー、おれもやりたい!」
ブルッフヒヒン。
と、そんなシェップと馬達の会話の声が厩舎の方へと遠ざかっていく中、続いて聞こえてくるのは……朝から草原に遊びに行っていたらしいエイマを連れたセナイとアイハンと、各氏族の子供達の元気な笑い声だ。
「ご飯までかくれんぼしよう!」
「かくれんぼー!」
子供達と共にそんな元気な声を上げているセナイとアイハンは、小型種の犬人族達とはもうすっかりと仲良くなっていて、特に子供達とは遊び友達として……まるで姉弟か家族かのように仲良くなっている。
暇さえあれば子供達と一緒に、元気に、その体力が尽き果てるまで遊び回っている程だ。
セナイ達はそうやって子供達と遊ぶだけではなく、大人達に付き添われながら護衛されながら、村を離れてのちょっとした遠出をすることもある。
犬人族達と草原の外に出かける目的は草原での石拾いなんだそうで……毎回毎回たくさんの石を拾って帰ってくるセナイ達はその石達を使い、犬人族達の手を借りながら広場の側に畑を作ったりもしている。
なんでもその石達は葉肥石と似た力を持つ石であるらしい。
アイハン曰く、白色の実肥石と茶色の根肥石。
葉肥石は葉を育てる力があるので薬草などを育てることは出来るが、しかし根肥石の力が無いとしっかりと根付かない。
そこから実をたくさん取ろうと思ったら実肥石の力が必要で、葉肥と根肥と実肥が合わさって初めて木が育つ……とかなんとか。
犬人族達の鼻を頼りにしながら、草原の何処かしらを掘ると見つかるらしいそうした石達の力と使い方については、セナイとアイハンの両親が良く知っていたとかで……セナイとアイハンはそのことを思い出しながら自分達なりの畑作りをやっているんだそうだ。
その畑には、くるみと、セナイ達が大切に持っていた何かの木の実と……それとエルダンが用意してくれた荷物の中にあったドライフルーツの種などが植えられている。
くるみはまだしも、流石にドライフルーツの中から取り出した種では植えたところで芽が出ないのでは……? とも思うのだが……まぁ、セナイ達の好きにやらせてやろうと思う。
セナイ達が作った畑の周囲には私とクラウスとで、草原の外れで見つけた何かの建物の残骸を使って作った柵があり『セナイとアイハンの畑』と書かれた看板も作ってある。
……犬人族達は時たま、柔らかそうな地面を無闇矢鱈に掘り返してしまう癖があるため、畑の周囲でそうさせないための措置だ。
と、まぁ、そんな感じで犬人達はすっかりとイルク村に馴染んでいる。
他にもアルナーの食事の準備を手伝ったり、掃除や洗濯を手伝ったり、溜池作りや畑の世話を手伝ってくれたりと、犬人族達の活躍は多岐に渡る。
畑作りを始めて、家畜達がやってきて……どんどんとやることが増えていく中で、人手が欲しいと思うことが増えていたので、犬人族達のそうした活躍は本当にありがたく、頼もしい。
あまり働かせてばかりでは悪いので、適度に休み、好きなことをして遊ぶようにと声をかけている……のだが、犬人族達は中々休もうとしてくれない。
そうするよりも働いていたいんだそうで……犬人族達は余程に働くことが好きなようだ。
せめてもの報酬として犬人族達には、以前ペイジンにドラゴンの素材を売った時に手に入れた銀貨や金貨を渡してやっている。
行商人が村に来た折にはそれで好きな物を好きなだけ買って欲しいと思う。
それらの金貨を犬人族達は自分達のユルトの中に飾って、何やら崇めたりしているらしいが……まぁ、うん、使うその時までは好きに扱ってくれたら良いと思う。
ちなみにそうした働きぶりの中で、ゲラントやカニスが言っていた犬人族達の不器用さだとかは特に問題になっていない。
確かに指は短く、肉球の広がる手ではあるのだが、かといって全く物を掴めない訳でも無いのだ。
井戸のロープも結び目などの掴みやすい引っかかりを作ってやれば、その手でも持つことが出来る。
桶も側面を削るなり、犬人族用に歪んだというか、凹んだ形に作ってやればそこを上手く持って運ぶことが出来る。
食事の際のスプーンなども、指と指の間に挟み持つことが出来るように、持ち手を細く削ってやれば問題無く扱うし、馬や白ギーのブラッシング用のブラシだって、長めの柄を付けてやって、その柄の持ち手部分を持ちやすいように削ってやればこちらも問題無く使いこなす。
まだそれらの道具が犬人族の全員に行き渡っている訳では無いが、それならそれで、犬人族達は両手で挟み持ってスプーンを上手く使おうと工夫をするし……うん、不器用どころか、とても器用だと思う。
小型種の犬人族達が不器用で無いのなら一体何故、小型種の犬人族達は不器用と言われて……隣領で仕事に就けなかったのか。
これに関しては……今の所よく分かってはいない。
小型種達に聞いてもその回答は要領を得ないし、カニスに聞いても答えをはぐらかすばかりなので……勝手に想像することしか出来ないのが現状だ。
まぁ……確かに傍目には小型種の犬人族達は小柄で弱々しく見えなくも無いから、周囲の者達が小型種達には危ないことはさせられないと過保護になってしまっていたのかもしれないな。
カニスは私に対して、小型種の皆を兵士にするなんて無茶だ!なんて声を上げる程の心配性のようだからそれもあり得る話だ。
……犬人族達がやって来たあの日、私に向かってそんなことを言うカニスに対して、自分の考えを、さてどう説明したものか、どんな言葉をかけたものかと悩んだ私は……悩んだ末に、何も説明しないことにした。
あれこれ口で説明するよりも、実際にその目で見て貰った方が良いだろうと考えたからだ
小型種の犬人族達と一緒にイルク村に滞在して貰って……イルク村での犬人族達の様子をカニスのその目で見て貰って……それでも納得できないようであれば、その時に改めて私に直訴してもらう。
そうした私のその提案にはカニスもなるほど、と得心したようで……そうしてカニスはこの10日の間、ずっと領兵を志すマスティ達に付き添っている。
恐らく今もカニスは……ああ、うん、村の外れで訓練に励むクラウスとマスティ達の側で、領兵としての訓練の様子を見学をしているようだ。
「よしっ、一組目!
全員で一斉にかかって来ーーい!」
私も訓練の様子を見させて貰おうかと思い、村の外れへと近づくと、そんな風に随分と気合の入ったクラウスの声が聞こえてくる。
どうやらクラウス対5人一組のマスティ達の実戦訓練が始まった所のようだ。
クラウスはあの戦争で生き残っただけあって中々の腕の持ち主だ。
何人かの敵将を討ち取り『10人首手柄のクラウス』なんて呼ばれたこともある。
そのクラウスが訓練用の木槍を激しく……かなり本気で突き出しているが、しかしその槍の穂先は激しく動き回るマスティ達に全くかすりもしない。
カニスが体が小さく力が弱いと評したマスティ達は、戦闘の時や走る時にのみ見せる四足の体勢で低く構えて……その小柄さを活かしてクラウスの攻撃を見事に避けている。
何度も何度もクラウスの攻撃を避けて……そうして生まれたクラウスの一瞬の隙を突いた一人のマスティが素早く木槍の間合いの内側へと入り込んでいって……ぐわりとその口を開き、クラウスの足へと噛み付く。
相手に怪我をさせないようにとその牙に被せている黒ギー革の牙鞘ごとクラウスの足へと噛み付いたマスティは、そのままクラウスの足を引っ張り……それでバランスを崩してしまったクラウスに、残りの4人のマスティ達が殺到する。
殺到し、腕などに噛みつきながら力づくでクラウスを押し倒し、1人のマスティが倒れたクラウスの喉に……はむりとマスティが甘噛みをしたことで決着となる。
「……やられた!
日に日に反応が良くなっているなぁ」
そんな声と共にクラウスが起き上がり……マスティ達を存分に撫で回し、良くやった、良い連携だったと褒め始める。
うぅむ、たった10日の訓練でクラウスに勝つようになるとは……やはり小型種の犬人族達は兵士としても優秀なようだ。
鼻が良く、耳が良く、目も悪くない。
勘が鋭いというか本能的に攻撃を避けることが出来て、勇敢で攻撃の機会があれば見逃さず、瞬発力や脚力にも優れている。
確かにその手で武器を持って振るうことは出来ないかもしれないが……そんなことは全く問題にならないくらいに優秀だ。
あの戦争の時、敵国が使っていた軍用犬には随分と苦しめられた。
犬でさえあれだけ厄介だったのだ、犬に近い能力を持ちながら言葉での意思疎通が可能な犬人族となれば、きっと軍用犬とは比べ物にならない活躍をしてくれるだろうと、そう私は考えていた訳だが……この様子ならば、私の期待していた以上の活躍をしてくれそうだ。
鬼人族の職人達に頼んで犬人族用の武具の作成も進めてもらっているし……それらが出来上がればもっと凄いことになるのだろうなぁ。
カニスはそんなクラウスとマスティ達の訓練の様子を見て……唖然とした様子になりながらも特に動きは無く……うん、どうやら今日も私への直訴は無いようだ。
そうしてしばらく唖然としていたカニスは私が近くに来たことに気付いてか、こちらの方をちらりと見て……あの日の言葉と態度のことを気にしているのか居心地悪そうにし始める。
まぁ……その、なんだ。
カニスはもう少し何事も気楽に、そう心配ばかりしていないで前向きに構えた方が良いと思うぞ。
あの時は確かに有事の際は……なんてことを言いはしたが、こうして装備を整えたり訓練をしたりしているのは、盗賊だとかそういう小物連中がやって来た時に備えてのことであって……犬人族達が怪我をするような、大変な思いをするような、そんな大事に備えてのことでは無い。
そもそも、こんな何もない草原に攻めてくるような連中など居るはずも無いし、戦争だとかそういう大げさな話では無いのだ。
こんな所にやってくるような場末の盗賊達であれば、これだけ優秀な犬人族達が苦戦する訳も無いのだし……。
だからまぁ、そんなに心配ばかりしていないで……もう少し気楽に構えてみたらどうだ……?
お読み頂きありがとうございました。
次回からはしばらくディアスから、イルク村から離れての視点が続く予定です。
誰かさんが立てた盛大なフラグを回収する感じの内容になる予定です
そして現在アース・スターノベルさんの特集ページ ( https://www.es-novel.jp/booktitle/70zerostart_r.php )にて、1巻刊行記念のSSが公開されています。
書き下ろしのSSとなっていますので、気になる方はチェックしてみてください。
またその特集ページで、誤表記というトラブルがありまして、今ではもうそのトラブルは修正されているのですが……その告知とお詫びを兼ねたSSを外伝集( https://book1.adouzi.eu.org/n2259es/ )にて公開していますので、そちらもチェックして頂ければ幸いです。
そして今回の活動報告は、その特集ページに書かれている特典SSの内容についてのお話になります。
こちらも気になる方はチェックしてください。




