第33話 決意へ至る道
活動報告などに書かせて頂きましたが、誤字脱字などについては返信させて頂きますが、執筆時間の確保のため感想全てにお返事することは今後できなくなると思います。申し訳ありません。全てきちんと読ませて頂きますのでご容赦頂きたく思います。
美濃国 稲葉山城
父はいつか下剋上をする。太守の土岐頼芸様を追放する。
でも国内が安定せず敵が多く、信長との同盟で少し良くなるが最後は息子の義龍に討たれる。
この時に信長に預けたのが国譲り状と呼ばれる。
自分が知っているのはこれだけだ。いつ、どこで、どうやってそれをするかはわからない。
戦国ゲームは細かい事まで教えてくれないからだ。
謹慎で屋敷を出られない分、これまで棚上げにしていた問題や自分のこれまでを振り返ってみた。
まずは今生の目標。長生きする。これが一番大事。
でも、ただ自分だけが長生きすれば良いとはもう思っていない。
蝶姫こと濃姫。母の深芳野など。家族の幸せや幸・豊・新七の幸せ。
最近は任されている領地のことだって簡単に捨てられるものではなくなっている。
長生きするにも家督を誰かに譲って楽隠居はもうできない。
栄養状態の安定もそうだし、薬草園は生命線だ。これを管理したければ斎藤の家中にいることを求められるだろう。
石鹸含め商売に使っている材料もあるので父が手放してくれるとは思えない。
斎藤の家にいるならば、できる限り戦争は少ない方がいい。戦で死ぬ確率が減る。
今回の戦は父の下剋上を目指す視点だと二位殿が邪魔だった。
ただ、太守の頼芸様はなんとか生かす方法を考えていた。世の中そうそう全てが上手くはいかない。ただ太守様の道はアリかナシかでいえばアリだったはずだ。
命を奪うなら相応の覚悟と理由が必要だ。父は自分のために他人の命を奪う覚悟ができている。
自分はできているか。
正直自信はない。ただし、自分を守ることまでできないほど前世に引っ張られている気はしない。
前世は37年。今はまだ5年だ。前世の価値観はどうしたって残っている。救急の時は周りが見えなくなるのも、そろそろ直さないと自分を危うくするのはあの戦でも身に沁みた。とはいえすぐに修正するのは難しい。意識していてこれなのだ。
でもそのままでは生き残れないだろうことも理解している。今後努力が必要だ。
少なくとも、父は自分を最大限利用するだろう。そして美濃を奪うため血を流す。多分それが最短ルートだからだ。
ここが一番父とは相容れない。血を流さずにすむ道があれば長く険しくともそれを選ぶ自分と、血を流しても最短ルートを目指す父。
価値観の違いだ。平和な時代に産まれ育ち死んで乱世に生まれ変わった自分と、乱世に産まれ乱世に育ち乱世を生きる父。考え方は同じになりえない。
だからこそ、自分のできる範囲でその道を修正したい。最短ルートより血が流れない、それでいて父を納得させられる道を探さないといけない。
♢
信長への国譲りも考えていたら平井宮内卿信正が来てくれた。屋敷から出られない自分のためにわざわざ定期的に訪ねてくれる。
「宮内卿、少し聞いても良いでしょうか?」
「何でしょうか。」
「平和な世を築くには如何すれば良いと思いますか?」
平和な国では人々の生活は安定し、病気の感染拡大などが抑えられる。
自分が長生きするために美濃、そして日本の安定は欠かせない。感染症は美濃だけ守っていればなんとかなるものではない。スペイン風邪は世界中を席巻したのだ。領主を続けるなら広い視野も考えておくべきだ。
「平和な世を、ですか。難しいですな。」
「やはりそうですよね。」
「今は乱世。公方様も帝も日ノ本をまとめるのは力不足に御座います。村々も商人も武士も寺社も武装しております。」
織田信長と豊臣秀吉と徳川家康。俗に三英傑と呼ばれた人々は彼らの武器を少しずつ取り上げて天下泰平の世を築いた。
自治都市に代官を置き、刀狩りをし、寺社の荘園を削ぎ、武家諸法度を出し、三英傑ですら3人がかりで成し遂げた。
「まずは武士を1つにまとめることです。そして商人を、民を、寺社を従えることです。」
「天下布武ですか。」
「流石、良く御存知ですな。それを為さねば世はまとまりませぬでしょう。」
「その先に、天下泰平はある、か。」
「ただし、天下はただ1人が手に入れるもので御座います。もし目指されるなら孤独にならぬことですな。」
「孤独、か。」
戦国人は皆戦って戦って、武士が1つにまとまるしか平和になる方法はないと考えていた。叔父の隼人佐道利も同じだった。
信長の目指したものはある意味平和への近道だったのかもしれない。最終的に信長に任せるとして、なら自分にできることは何か。
♢
平井宮内卿が帰った後もそんなことを考えていると、父が早めに帰ってきた。謹慎が始まってから話したいことがあると言われていたので、ちょうど帰ってきたならと思い、部屋を訪ねてみた。
「父上、新九郎に御座います。」
「む、帰ったか。新九郎。」
「今日はお早いですね、父上。中に入っても宜しいですか?」
「あ、うむ。」
どうせ問題ないだろうと中に入ると、父が半分腰を上げて目をキョロキョロさせていた。なんだ?エロ本隠した直後の思春期みたいな動揺の仕方だ。
「あー、誰か、茶を持って来れぬか?」
「近くに誰もいないようでしたが?」
「そうだった……。わしがやることがあるから少し遠ざけたのだ……失敗した。」
やけに焦っているが、まぁ大きな問題はないだろう。中に入り、いつもの距離まで近づく。父はわずかに後ろずさった。何だ?そこだと脇息(肘置きみたいなやつだ)も使えないだろうに。
「じ、実は浅井亮政の娘と其方の縁談を進めている。」
「浅井とは敵対していますよね?」
聞いた話によれば、京極高清が亡くなり戦が始まったらしい。土岐は現状六角と協力していく方針ということだった。つまり浅井は敵となる。
「土岐の家臣としては敵対しているな。」
その一言に、やっぱりと思ってしまった。この人は本当の意味で土岐の家臣ではないのだ。間違いなく下剋上を狙っている。そのために浅井を味方につけようとこんな縁談を進めようとしているのだ。
「やはり太守様を追い出し、自ら国主になる気ですか。」
その一言に、どこか落ち着きのなかった父の雰囲気が一瞬で変わった。鋭い眼光でこちらを見ると、脇に置いていた刀を取り、こちらが反応できないうちに抜いた刀をこちらの首元まで振り抜いた。僅かに首元に熱さを感じる。軽く切れたか、とやけに冷静に思った。
「赤いな、人の血だ。物の怪でも妖でもないのか。ならば其方は何者よ、新九郎。」
私も子供の頃からの癖や考え方がなかなか直せず困ることがあります。
人間とは難しいですね。




