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第307話 九州征伐 その2 彦島攻略

最後3人称になります。

 長門国 下関


 砲弾の雨を降らせる。

 轟音が鳴り響く。

 彦島にどんどん穴が開いていく。

 俺は十兵衛とそれを望遠鏡で眺めていた。


「何か反撃してくる気配は?」

「いえ、何も」

「ふむ。時間稼ぎ?」

「しても意味はない筈ですが」

「既に久我様にも和睦の条件については伝えてあるからな」


 大友と繋がりのある公家といえば現当主大友宗麟(今年初め寺社の支援目的で出家したと情報が入った)の母の実家である坊城家なのだが、ここは25年前に跡継ぎ不在でお家断絶している。再興しようかという話はあるが、大友支援など当然できる状況ではない。また、荘園の関係で久我家も大友との関係は深いが、久我は既に新政府に加わっている。そのため事前に大友との停戦条件は伝えてあり、こちらは一歩も譲るつもりは無いので、久我家は大友の降伏窓口でしかない。大友が国替えかつ5万石まで削られるのを受けいれるか否かは不明だが。


「伝手のある公家に、大友から文が届いているのは確かだな?」

「ええ。久我家・一条家・西園寺家から文が届いたとの知らせが。後、織田家からも近衛にも文が届いたと連絡がありました」

「近衛もか。形振り構わず、だな」

「豊後筑後安堵と申しているそうで」

「我等は其の筑後が一番欲しいのだが、大友には分かる訳もないか」


 筑豊・三池の両炭田は絶対条件なのだ。近代化する上で重要資源である石炭を政府で管理できなくては近代化が進まない。だからどんな状況になろうと条件が良くなることはない。


「あと2日砲撃を続けるのだったか」

「はっ。三日間音と衝撃を撃ち込み続け、敵兵の疲弊を狙います。続け過ぎれば慣れるので、三日後に総攻撃を致しまする」

「集中力・睡眠せずにすむ日数を考えれば、妥当か」

「地下部分が余程深くない限り、敵兵は音に悩まされている筈。此方は殿の用意した耳栓で砲兵も耳を傷めずすんでおります故、問題ないかと」


 毎日壊れる大砲を修繕しては修理したものと交換していく。間断なくひたすら砲撃が行われ、恐怖心より先に五感へのダメージを与える。忠誠心が高いとか、そういう精神論では耐えられない戦い方。


「毛利兵は?」

「上陸部隊の支度は整ったそうで。彦島を落とし次第、小倉に向かうと」

「彦島からの支援砲撃で門司・小倉の迎撃能力を奪えればいいのだが」


 敵の方が高所になるので、敵の砲の射程が長い場合苦労する可能性はある。だが、その場合でもこちらは気球で敵情視察・着弾観測をしているので、精度でカバーできるはずだ。


「時間を短くするには砲撃密度を高める事。とにかく投射する火力を高めます」

「頼む」


 まぁ、戦闘の細かい指揮は十兵衛や蜂須賀小六がやった方がいい。俺は後方で今後のことを進める担当だ。


 ♢


 大隅へ兵士を送りこんだ帰りのガレオン船に乗って伊予に渡り、そして下関までやってきたのはルイス=フロイスという男だ。聞いたことがある。前世で『日本史』というヨーロッパに日本を伝える本を書いた人だ。宣教師だが、島津領内からこちらに来れずにいたらしい。バルタザール・ガーゴと行動して通訳をしていた人間を急遽下関に呼び、こちらに迎え入れた。


「わざわざ此処まで呼びつける様にしてすまぬな」

「いえいえ。サイトーテンヤック公爵様に御会い出来て光栄です」


 ヨーロッパでの俺の呼び方はそういうかんじなのか。


「早速ですが、こちら、聖下から預かりました二通の手紙です」

「頂こう」


 ローマ教皇から直々に書状が来るのは想定外だった。独特の封蝋がされ、一通は『日本のカエサル』宛て。もう一通は『サイトーテンヤク公爵』宛てだった。天皇をカエサル、皇帝とローマ教皇が認めた。俺は心の中でガッツポーズしながら、自分宛ての手紙を開けた。


「ジパングに『教区』を設定し、初代教区長に今回派遣するフロイスを任命するので、ジパング各地への教会建設許可を願う、か」

「聖下は、ジパングにおけるイエス様の教えは私たちイエズス会のみが布教を行える状況を用意頂けるならば、カエサルに敬意を表するのが当然と仰せです」

「ありがたい。我が国はあらゆる宗教を受け容れる。だが、教会用地の優遇等はカトリックのみとしよう。ルター等は自力で日ノ本に来て、自力で全てをなさねばならない」

「異端の徒は神聖帝国の外での活動を許されておりませぬ。本来は神聖帝国でも許されるべきではありませんが。其れより、ギリシアとロシアはいないのですね」

「正教会は来ていない。日ノ本にいるのはイエズス会のみだ」


 まぁ、彼らがプロテスタントを日本に渡らせないようにするのは自由だ。しかし、途中からギリシア正教をかなり警戒していた。ロシアのシベリアへの拡張はもっと後のはずだが。


「では、大坂の教会でお待ちしております」

「あぁ、完成したら見に行こう」


 まぁ、京には当分教会を建てられないようにしているが。こちらが教会用地を用意するということは、こちらの都合の良い場所を用意するということだし。寺社と不必要にもめてもらっても困る。


 ♢♢


 マルタ島 聖エルモ砦


 オスマン帝国将軍ララ・ムスタファ・パシャは多くの犠牲を出しながらマルタ島を攻略した。この島はマルタ騎士団の根拠地であり、オスマン帝国にとって地中海に打ちこまれた楔だった。そのマルタ島が、陥落した。マルタ島に籠っていた4000の兵は全滅し、一方のオスマン軍も兵36000の中6000を失った。しかし、この勝利は一族内の反乱で混乱するオスマン帝国のスレイマン1世にとって、国内の統制を取り戻す一手となった。

 海軍を統括する提督ピアリ・パシャとララ・ムスタファ・パシャは、陥落したエルモ砦の頂上部から自軍を眺めつつ会話をしていた。


「ムスタファ、何故ローマ(イタリア)はマルタに兵を送らなかった?」

「シチリアの兵も来なかった。何を考えている?」


 当初はマルタ島に援軍を送る予定だったスペイン王フェリペ2世は、リヴォニア戦争への介入によりスペイン・イタリアの兵をロシア方面に投入していた。そのため、マルタ島が攻めこまれた状況で満足な援軍を送れなかった。これがマルタ島を奪われた決定的な要因となった。


「最近、連中は北の異教徒ロシアと戦ってばかりいるらしいな」

「同じ教えで争うことが多いな、連中は」


 自分たちもシーア派・スンナ派という争いがあることは棚上げしつつ、彼らはキリスト教を批判する。


「これなら、キプロスも落とせそうだな」

「そうすれば東地中海は我等のもの。ヴェネツィアも怖くない」


 ロシアのユーラシア大陸東部への拡大を恐れるカトリック各国の動きは、オスマン帝国の拡大という影響を及ぼしつつあった。そして、それが日本と明を過剰に刺激しないための布教政策という形で日本への利益となった。

 また、オスマン帝国の拡大により東地中海の危機を迎えた結果、ポルトガルはスペインの要請で東地中海での戦いに注力せざるをえなくなり、史実より東南アジアへの展開が遅れる事態となった。

義龍は単純に力押しです。


キリスト教は東地中海世界での勢力を失いつつあります。これはロシアと義龍の繋がりを疑ったカトリック系国家がリヴォニア戦争に戦力を投下しポーランドを支援した結果、ロシア側が東へ勢力を拡大できなくなるという結果が生じました。

また、ロシア戦線へ兵を割いた結果、マルタ島が手薄となってオスマン帝国によって落とされました。史実マルタの防衛戦にはイタリア・スペインから派遣された2000ほどの兵と、シチリアからの援軍がいました。これが8割ほど失われた結果です。そのため、ポルトガルも悠長に東南アジアに進出している余裕がなくなりつつあります。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 筑後なら、三池炭鉱ですね。 筑豊炭田だと、位置がずれます。 [一言] 胡蝶の羽ばたきが、世界の潮流を変えていってますね。 今後の展開も楽しみにしております。
[一言] 力押しが一番怖い 搦め手なら対抗出来ても、真っ向勝負となると力に対抗する手段が必要になるんだけど、圧倒的な力を誇る相手となると……ひたすら殴られっぱなしにしかならない 義龍らが欧州にまで影…
[気になる点] 筑豊炭田は筑後じゃなくて、筑前と豊前ではないでしょうか
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