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第296話 浅筒討伐戦 その6 時代に残された者と時代を創る者

後半3人称です。

 伯耆国 米子城


 尾高城落城とともに、次の目標は米子城となった。飯山と呼ばれる一帯は西側が海であり北西には米子の湊がある。南には加茂川があるため、北と東しか攻める方向がない。

 と、普通は思う。しかし大砲を積んだ船で砲撃できるのが、今の俺たちである。うちの保有する船の大半が東北に向かっているので、織田から借りた船にも大砲を積みこんだ。そして川向こうから米子城へ撃ち込まれる砲弾。


 何度も奪って奪い返されてをくり返した城だけに、内部の構造は既に把握している。ここに残っているのはごく一部の兵のみだ。尾高城の落城は情報としては入らずとも俺の本隊が来たことで察しているだろう。一部の部隊は尾高城の東・淀江城に向かわせている。浅井の兵が東に退いたのは、羽衣石うえし城の救援に向かったのだろう。淀江城は既に美保湾から砲撃を加えたので、建造物はもうない。だから野戦になる事も考慮して日根野兄弟を淀江城に向かわせている。尼子兵と1万で攻める米子城は、城主の浅井福寿庵が決死の覚悟を見せている。浅井一族の中で当主を除き、唯一生き残っただけのことはある。それに、決して許されないとも思っているのだろう。


「決死の兵は相手しないに限る」

「大筒、火縄銃だけでひたすら面制圧して参りましょう」

「何の条件であっても従わぬと突っぱねていた故、仕方ありませぬ」

「死兵と戦う心算はない。無理する意味はない」


 大砲で壊せる部分はもうないのだが、木造建築物でなく瓦礫の隙間で息を潜めている兵を炙りだす意味もある。


「明日には尼子兵が先陣で城に突撃するそうで御座います」

「まぁ出雲守(尼子義久)殿も活躍せねば伯耆を取り戻せぬという事か」


 尼子兵も自力で城を取り戻したい部分があるのだろう。頑張ってもらいたい。今後の尼子をまとめるためにも必要なんだろうな。

 大砲の支援を全力で受けた分、兵は出して貢献するというのは宇喜多と一緒だ。


 秋までに全てが終わるかはわからない。しかし、その頃まで相手は保たないだろう。今でさえ食糧難なのは尾高城の状況でもわかる。わかりやすく籠城しなければならない、耐えなければならなかった城でさえ、落城した時点で籠城兵には20日間分くらいしか食料が残されていなかった。

 浅井本隊はどの程度食料を持っているか。正直、今月一杯さえ危ういのではないかと思っている。後方では逃走兵が野盗化・山賊化しているのが確認されている。これを押さえるのにも兵が必要なため、美作には4000もの兵が各地に滞在せざるをえない状況だ。半分は宇喜多が派遣しているが、宇喜多兵だけだと足りなくなりかねない難しさ。


「治安維持も考えねばならぬが、朝敵が如何程の罪か明確にする必要もあるし、な」

「降伏する兵は許しておりますが、浅井の下から逃げ出した後に野盗化した者は容赦しない方向で進めております」

「尼子と宇喜多の為にも、土地を荒らす者を許す道理は無いからな」


 筒井も浅井も兵が逃げだしているのが現状だ。実際にどの程度の兵が今も従っているのかは不明である。恐らく浅井と筒井の兵を合わせても、3000ほどしか動かせないだろう。雑兵ほど逃げだしており、最近は数人単位でうちの陣まで降伏しにくる雑兵が増えているそうだ。中には自分の上司である国人一族や浅井の家臣の首級を持って降伏してくる者もいるとか。恐ろしい話だ。

 村単位でこちらに使者を派遣してきているところもある。浅井の兵が通過した情報がもたらされ、それを気球で確認したから米子城攻めを優先している状況だし。


 ♢♢


 伯耆国 羽衣石城


 朝から騒がしい南条兵。それは最早朝の日課のようになっている。


「小鴨元伴殿が城から逃げました!」

「親族も全て逃げました!」


 人質をとっている家でさえ、逃げ始めた。生存のみを考える国人や一部の家臣も逃げだしていた。食料が足りず、食料番が食料を一部盗んで逃げたこともあった。4日前に帰還した浅井兵も、一戦も戦っていないのに3割の兵が既に逃亡していた。

 南条宗勝・元続親子は何もできない現状に、最早絶望していた。羽衣石城に拘ったこと、尼子に逆らったこと、毛利の誘いに乗って浅井と手を組んだこと、全てが失敗だったように感じていた。


「下総(しん下総守)、人質を殺すな」

「え?ですが若様、其れでは他の者も逃げてしまいます」

「斎藤様に使者を送れ。城を明け渡す」

「宜しいので?」

「良くない。だが、其れは父(宗勝)と我が一族の願いでしかない。此の地を守れぬなら死ぬ。だが、此の地の民を此れ以上苦しめたくない」

「殿」

「祖父が此処を治めていた頃は、今敵がいる場所の田畑に稲穂が実っていたと聞く。民は苦しいながらも手を取り合い、笑って過ごしていたと」


 尼子に反発して羽衣石を追われ、それからはこの地に戻るために何でもしてきた南条元続。山名に従い、山名が頼りなくなって織田を頼ろうとしたが織田は尼子と友好路線をとる。そこで反発して毛利に奔り、毛利の浅井支援という名の謀略で伯耆に派遣された。そして尼子晴久の死で旧領奪回の最大の機会を得た。そう、思ってしまった。宗勝も2人の前にやってくる。


「我等は何処で、間違えたのか。我等は何を目指して此処に戻ろうとしていたのか。もう、忘れてしまった気がする」

「殿、殿は」

「下総、其方は生きよ。元々我等一族が此処に戻るまでは、羽衣石の民と共に生きていたのだから」

「しかし!」

「日ノ本は一つとなるか。だが、其処に我等の生きる場所はない。此処に戻れぬのは、他ならぬ我等の行いの為」


 4日後、浅井隊が淀江城救援に出発すると、南条宗勝・元続親子は自身の首級を義龍に差出し、城兵らの助命を願って開城・降伏した。

 その結果、南条一族は女性と元服前の子は許されたが、多くの一族が朝敵として処断されることとなった。


 そして同日、淀江城・米子城が落城。浅井・筒井ともに、主力はついに大部分の拠点を失うこととなった。

毎日投稿2日目。

南条氏は史実でも領地である羽衣石に固執し、尼子方と毛利方どちらにもついた経歴を持ちます。本能寺後にも旧領に固執して争い、毛利氏を悩ませた反体制も辞さない国人の代表例です。結局関ヶ原で改易後も大坂の陣で旧領奪還を目指して大坂城入りするなど、その行動原理はある意味わかりやすいものです。だから、主人公たちの目指す時代には適合できずこういった結果となりました。


発売まであと6日。宜しくお願いいたします。(毎日画像貼ると逆に見づらいので今日は貼りません)

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― 新着の感想 ―
[一言] それだけ土地に拘る者が多かったんですね いっそ、そこまで領地に拘るなら統治権を明け渡して、一介の庄屋辺りとして、この地で生きていく事を選べば良かったものを、それも選ぶ事が出来なかったんでしょ…
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