第294話 浅筒討伐戦 その4 美作制圧と雷神撤退
後半3人称です。
美作国 医王山城
美作全土の占領が終わったのが梅雨の明けた6月終わり。雨が降らなくなったのはいいが、気温は最高気温でさえ25度を超えない日がある。
「冷夏だな。間違いない。十兵衛の身内の所領の作付けは平気か?」
「明智も妻木も問題ないと聞いております。しかし、昨年から北信濃に我等の米が作付け出来ていなければ、危ういところで御座いました」
各地の稲作が冷害で被害を受けており、信濃もそれは一緒だった。俺は北信濃を管轄する稲葉良通・妻木兼忠に資金を渡し、新田の開発と同時に検地を進めさせている。北信濃も冷害で稲作地帯が被害を受けており、うちの冷害に強い品種の種籾提供との抱き合わせである。山を越えた美濃で使われている平年作柄を保っている品種の情報は、信濃にも届いていたのでそれは受け入れられた。明智一族の所領は越前の明智光忠含め、各地の要所に配置されている。こちらも品種替えで対応できている状況だ。
「真田は真っ先に応じたな」
「むしろ、此方が言い出さねば願い出てくる心算だった様で」
十兵衛の元に願文を持って来たらしい。俺の計画をちょうど十兵衛が具体化させていたタイミングだったので、そのまま真田が検地を受けいれた形だ。
俺の記憶では宇喜多と同じくらい信用ならないイメージなのだが、これまでは誠実な行動しかしていない。
「北条は復興に時間をかけているから今年は米不足かもしれんな」
「荒れた田を使える様にするにも時がかかりますので」
「上野は国人がいなくなった分、領主の配置換えで苦労していると聞くしな」
「奥羽には兵を出してもらいましたが、当分大規模な遠征は出来ますまい」
北条は小田原の中央集権的な体制をつくるべく上野を国人領主一掃で手に入れたが、ゲームではないので各地の統治機構はすぐに戻らない。結果的に、旧来領主が1人もいないので混乱からの立ち直りには時間がかかりそうだ。それでも直接統治できる国が1つ手に入るのは大きい。降伏した佐竹氏を上野に移封し、常陸南部を小田が、北部を駿河担当だった玉縄北条家が管理することになった。北条為昌殿は在京だが、血縁から養子をとってこの地を治める予定らしいと噂で聞いている。本人は亡くなった正室の後は体調面もあって新しい室をむかえなかったし、結果として玉縄衆の結束は鉄より固い。これで良かったのだろう。
「伯耆は固いか」
「南条と行松は本領安堵以外に目的が御座いません。他領を提示しても怒るだけで御座いました」
「土地に固執し一族と其の地を血で染める気か。時代は変わったのに」
「叔父上は、大槌周辺への移封を信頼の証と喜んでおられました」
「あそこは飛び地だからな。信じられる者しか置けぬ」
明智領を継いでいた十兵衛の叔父・光安殿は一昨年隠居し、後を兵庫頭光春が継いでいる。そして、大槌周辺に彼らは移った。明智領は名目上十兵衛管轄になった。
「南条が靡かぬなら後は力業か。北上し大砲で伯耆中央をとり、東西に動く浅井本隊の行き場を無くしてやろう」
「では、赤松・宇喜多にも伝えて参ります」
「頼む」
軍議の前に方針を共有し、軍議では互いの狙いをわかった上で話す方がスムーズだ。実務者レベルで話を通す。前世でも新しい医療器具が欲しい時は大体この根回しが必要だった。
さて、浅井はどう出るか。
♢♢
伊予国 宇和島
織田・三好・長宗我部合わせて4万の軍勢が、宇和島周辺に集結していた。
既に大友軍は伊予にいない。戸次鑑連の見事な運用で、彼らは損害を最小限にして伊予の損切りに成功していた。兵の数・船の数から考えれば、実質的に負けたのは織田や三好と言っていい状況だ。
「やられたな。雷神の名に偽りなしか」
評定の冒頭、信長はそう言った。十河一存が頷く。
「九州は荒らくれ者揃いと聞きましたが、成程確かに強かった」
「勢いで攻め込める程、伊予の状況も良くない。見事なものだ」
宇和島を含め、伊予西部は食料不足の為、各地に兵を配置しないと治安が悪化しかねない状況だった。この辺りの民は大友軍や在地領主だった西園寺氏、法華津氏の徴発で食料を失っていた。一応大友兵は金を払っていたものの、地域一帯に食料がないのでは金の使い道もなく、彼らは困窮していた。
「一番恨みを買っているのは西園寺。此の辺りもうまくやられた。お陰で食料を我等で出さねば民は飢えてしまう」
本来の人口を遥かに上回る人間が1年も滞在すれば、食料が足らなくなるのは必然だ。西園寺氏は援軍を養うために各農村から大規模に食料を徴発し、最後は彼らの反発で兵が集まらずに降伏した。逃散した村の数も1つや2つではない。
現地で慰撫を担当している三好長逸は疲れた顔で報告する。
「先ずは村々に食料を渡し、逃散した者等が帰って来なければ九州に向かう事は出来ませぬ」
「流民が増えれば賊も増えるからな。仕方あるまい」
「冬まで我等が食わせて、やっと落ち着くでしょう。今年は此処までになってしまいますな」
「いや、全く見事だ。ガレオンを浦戸に留めて良かった」
「切り札は最後まで、ですな」
「義兄上に聞いたか。そうよ」
「しかし、西園寺本家も此処までとは思わなかった様で」
「戦続きで荘園から本家へ送れなかった金を横領していた様だが、最後は形振り構わずであったそうだ」
降伏した西園寺家臣で一条氏家老土居宗珊の一族・土居清良は、三好家臣として荒廃した伊予の立て直しに関わることとなった。西園寺一族の身柄は西園寺本家預かりとなる。
「九州がどうなるかは島津の動き次第となるな。日向全土を島津にとられると戦後が面倒だ」
「雷神の手腕に期待ですな」
九州にこれ以上大きな勢力を置きたくない織田と三好にとって、今回苦汁を飲まされた戸次鑑連が島津と戦ってくれないかというのは当然の流れであった。
本作の書籍版、イラストレーター様と表紙が公開されました。6/16発売です。詳細はぜひ活動報告をご覧下さい。火曜以降は書籍の情報も後書きに載せると思います。
また、火曜日からしばらくの間毎日投稿となります。よろしくお願いいたします。




