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第264話 陸・海・空

パソコンの物理メモリが足りなくなってきて編集に時間がかかってしまいました。今回も含めて申し訳ないかぎりですが、来週は木曜更新せずメモリの増設作業をしたいと思います。日曜更新はとりあえずできる環境にできたはず、です。

 美濃国 稲葉山郊外


 ふわふわと浮かぶ布製の2つの気球。2つの気球は布に高温で溶かしたグッタペルカを染み込ませたおかげで気密性を高めたのだが、その分単価が高い。


 グッタペルカと言えば、新しく日本にやってきた宣教師のバルタザール・ガーゴだが、途中の大隅が戦乱真っ盛りとのことで薩摩に留まっているらしい。大隅戦乱の原因は、島津義久の正室花舜夫人に待望の嫡男が生まれたことで義久がやる気十分に大隅を攻めているからで、薩摩と日向と大隅の交わる飯野城を奪ってかなり大隅全体に圧力をかけているそうだ。

 そんなガーゴが手紙だけこちらに送ってきたのだが、どうやらグッタペルカに加えて新大陸(アメリカ大陸)で見つけたグッタペルカに似た物を持ってきているそうだ。現地の子供たちが丸く固めたそれで遊んでいたそうで、イエズス会がグッタペルカを欲しがる俺に見せてみようと決めたらしい。ゴムノキは原産地がアメリカ大陸という記憶がある。いよいよゴムが本格的に手に入る時が来たのかもしれない。


 そんな事を考えつつ、事故に巻きこまれて前世の歴史と同じ享年になりたくないので、いつもより後ろから実験を見守る。一度手のひらサイズの小型気球で水素を爆発させて以来、気球開発担当者たちは俺以上に作業に慎重だ。


 下についた荷台となる籠が僅かに宙に浮いた。熱気球の燃料は複数の蝋燭と、油を染み込ませた縄だ。水素気球は水素をすでに入れてある関係で重石を少し抜いたため浮かび始めている。どちらも地上と縄で結ばれているのですぐには飛びたつ事がない。


「漸くある程度高度も安定したな」

「水素の気球は水素を抜くのが難しいので、何処迄も飛びそうですが」

「気圧計を使った高度計では人1人で1000m迄は飛ばしたな」


 標高0mで1気圧(1013hPa)なら標高1000mで気圧は900hPaになる。繋いだ綱の長さも利用しつつ水銀の気圧計を籠に固定して観測した結果、そのあたりまで到達した。なのでアバウトにそのくらいだと思っている。熱気球の方は高さがそこまでいかないかわりに、高度の調整が割と自在にできる。火のついた蝋燭の本数を変えればいいのだ。


「弓矢で狙える高さが現状300m前後だから、熱気球でも無事とは思うがな」


 重力加速度を9.8m/S^2とすると、うちの弓の名手が垂直に矢を撃ちあげたら約15秒(感覚)で落ちてきたから、その半分の時間として約8秒で上昇できる高さは、風のない日だったので約300mの高さまで撃ちあがった計算になる。しかし熱気球は500~700mまで上昇するので、一応安全マージンはとれているといえるのだが。


「水素気球は現状念の為に綱で引っ張れる形だからな。1人乗せるにも怖い要素が多い」

「後は空の兵が敵の動きを如何地上に知らせるか、ですな」


 水素を抜くのに失敗すると墜落の危険がある水素気球は、降りる時に地上と繋いでいる綱を引っ張りつつ徐々に水素を抜く形にしている。今回から熱気球は綱なしを試しているが、水素気球は当分そうはならないだろう。

 そして、その地上に戻す際の連絡から情報のやりとりが難しいことを改めて思い知らされた。モールス信号でも知っていれば良かったのだが、残念ながらSOSくらいしか知らない。そもそもモールス信号を送れる音なり光なりを発する道具がない。電球はもうちょっとかかりそうだからな。ガラスの球体は完成できる技術レベルなのだが、電気系統がまだまだだ。


「ひとまず点字か。望遠鏡で読めば良いから、上空に行く操縦士と別に暗号士を乗せられるように出来れば」

「点字、に御座いますか?」

「目の見えぬ者にも読める字、かな。今年中に準備するとしよう」


 点字は国語の教科書に付録で載っていたから覚えている。望遠鏡で見ればいいので多少小さくても問題あるまい。墨と紙で再現できるし。

 十兵衛が近くに来て気球の使い方について計画の報告をしてくる。俺だけだと純軍事的な視点が浅いので、「此れは何に使えると思う?」と聞くのはいつものことだ。大砲の運用だって支城を大量に造る場所の選定だって彼らの意見あってこそ出来ることだから。


「殿。今年は佐渡に持って行きたいですな。佐渡より春日山の様子を見られるかと」

「綱が足りるなら水素気球の方が燃料の問題が無いが」

「佐渡と春日山や琵琶島は十六里(約60km)程と本間殿が申しておりました」

「その長さの綱は流石に無いぞ。高度もあるから其れ以上欲しい。となると熱気球か」


 近くまで船で運んでから火を入れれば燃料の積載量も少なく済むか。


「今回次回の試験飛行が成功したら、な」

「2人乗りが安定して出来ねば戦場では使えませぬ故、今は此れだけですな」


 十兵衛とともに気球の利用法を考えていた若手は戦場での利用を提案してきているが、もう少し飛行が安定してからだ。

 空に浮かぶ二種類の気球。今回の試験飛行が予定通りに進行しているのを遠目で見つつ、来年位には戦場に投入できると良いと思っていた。制空権という概念を早期に確立するためにも。


 ♢


 今年の除目は後奈良院が御隠れになる前に発表されていたため、使者として参議正三位持明院基孝様がやってきた。今年は正二位左近衛大将である今出川晴季様が正使としていらした。


「斎藤典薬頭正六位上藤原朝臣(龍和)、新しく美濃守従五位下に任ずる」


 長男の龍和は無事典薬頭から美濃守という俺と同じ官位を順調に上っていく。正室となる三条の姫との公家向けの婚儀も院の御隠れがあって延期しているが、帝から直々に「気にせず執り行う様に」とのお言葉を頂いている。年内には挙行する予定だ。


「明智と申したか。其方には宮内大輔より正六位下加賀介の願いがあった故、此れを授ける」

「殿、斯様な話は伺っておりませぬが」


 そりゃしてないし。十兵衛はそういうのあまり拘らないからな。


「新しく良岑よしみねの姓も頂いた。行く行くは美濃介も兼ねて貰うぞ。我が筆頭家臣として、な」

「左様で御座いますか」

「頼むぞ」

「元より、遥か元服前より殿にこの命捧げた心算で御座います」


 下げた頭を上げてこちらを見た時、十兵衛の頬が少しだけ緩んでいた。わかりにくい奴め。

息子の話などは色々と裏で進めていますが、本編を書く時間が足りずに典薬頭就任あたりは書けていません。ですが順調です。このあたりも義龍から龍和へという継承を意識した行動になります。十兵衛も官位を与えることで、さり気なく龍和との上下関係を明確化させています。

良岑は美濃介、加賀介などを歴任した姓です。今の十兵衛にはぴったりかな、と思いました。惟任姓はこの世界では与えられないと思います。


気球関係は今年は上空からの偵察という形で実現させることになっています。戦場での本格利用はもう少し後です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ドイツの飛行艇は牛の腸使用 これが最も水素が逃げなかったとか おかげで牛の腸の腸詰めが品薄に
[一言] 第二次大戦中の旧日本軍が、太平洋を横断する風船爆弾をいっぱい飛ばしてたんだけど、 その材料は、美濃紙とコンニャクでした。 丈夫な美濃紙で風船を作り、コンニャクを塗ることで気密性を確保。 米軍…
[一言] へリオグラフみたいなものを用意したら、すぐにでも気球との通信が始められるんじゃないかなと。 鏡の反射光で合図するのは古典的な方法ですし。 効率は落ちるかもしれませんが、モールス信号に拘らずと…
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