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第243話 会議室ではわからないこと

総合38000Pに1900万アクセスと多くの方に読んで頂けている状況に感謝しております。

投稿頻度が落ちても変わらず評価していただけていることに感謝しつつ、今後も頑張りたいと思います。

今後も宜しくお願い致します。

 美濃国 稲葉山城


 越前まで来ていた武田兵はかなりゆっくりと甲斐まで戻ったらしい。尾張から海路では山国の兵は酔いかねないと三河・遠江・駿河まで陸路で行き、甲斐に帰って行った。そのため兵の不足を理由に武田は信濃の海野氏の牽制しかしなかった。日和見を始めているのだろうとは信長の言葉だが、明確に敵対していない分面倒な相手である。敵対したらしたでかなり厄介なので今は放置せざるをえないのだが。


 北条は下野で宇都宮氏を破った。佐野氏が北条に寝返ったおかげだが、代わりに上野では手痛い敗北を喫したそうだ。上杉方で最も活躍した太田資正は元々武蔵の領主の息子で、父を北条に討たれたため祖国奪還を目指しているという難敵だ。

 これらの動きに連動する形で里見水軍も動いたようだが、損害を出しつつもなんとか撤退させたそうだ。経済的にも相模までの交易路はかなり大事なものなので、北条も必死だ。

 結論としては、北条が下野の南部を奪還し、上野攻めに失敗。江戸湾の制海権は維持という形だ。

 報告と於春の出産祝いに来た北条の後継者である新九郎氏親殿も、ここ数年は戦続きで大変そうだった。


「里見だけを潰せれば楽なのですがね」

「里見を狙えば佐竹や宇都宮や長尾(上杉)が黙っていない、か」


 ゲームだと敵勢力を1つ1つ集中狙いで潰していくことも可能だが、現実にはそうもいかない。攻められている味方を放置すれば傘下の国人領主の不信を招くし、助けが来ないなら寝返るようなコウモリだっているのだ。北条が強く、自分たちを助けてくれると思っているから味方になっている者たちに多くは要求できない。


「蘆名が白河と共に那須の再興を支援してくれております故、下野は少しずつ落ち着くかと」

「しかし、此れを口実に蘆名は下野に来ませぬか?」

「宮内大輔様の御懸念御尤もに御座います。父も其処を気にして今迄頼らぬ様に努めておりました」

「では何故?」

「伊達と蘆名が不穏になっておりまして、蘆名が下野に兵を出す余裕は無い状況な為に御座います」

「成程」


 聞けば蘆名盛氏の嫡男と伊達晴宗の娘の縁談が破談となったらしい。表向きは年齢の問題とされているが、実際は互いの関係性が原因らしい。伊達晴宗は蘆名を半ば従属的な同盟関係の相手と見ていた。ところが蘆名盛氏は天文の乱以来完全に独立したと考えており、今回の縁談も対等と見ていたために使者のやりとりで揉めてしまったらしい。

 官位で見ると蘆名盛氏は従四位下、かつて修理大夫だった人物であり、伊達晴宗は未だ父が名乗った左京大夫を継げていない。幕府という官位申請の窓口を失って、天文の乱が長引いた影響で今は京の公家にコネクションをつくろうと必死らしい。そのため蘆名では官位では我々の方が上だと対等以上を求める声も強い。それが格下に見られていたので混乱が生じたわけだ。


「奥羽では特に官位は大事な物。幕府の役職無き今、官位が上となった蘆名殿が伊達相手に退ける訳も無く」

「伊達も何とか奥羽の主導的な立場は維持したい、か。面倒だな」

「御蔭様で我等は良い具合に蘆名殿を頼れていますがね」


 そして伊達が現在頼っている相手の1つが石清水八幡宮だ。石清水八幡宮との結びつきは南北朝末期の頃の当主・伊達政宗(初代、となるかはこの世界次第だが)の正室が石清水八幡宮の律宗寺院別当である善法寺(菊大路家)の女性だったことからのようだ。ちなみに、この女性の姉妹が室町幕府3代将軍足利義満の生母らしいので、石清水八幡宮と将軍家の結びつきの強さを感じさせる。そして石清水八幡宮といえば大山崎の油座だ。ようするに伊達の朝廷工作は俺に筒抜けということになる。


「伊達は奥羽に一大勢力を築く為、奥州の領主たちとの縁を強くする事ばかりに手を尽くした。故に今畿内とは疎遠になり過ぎている」

「米沢の八幡宮の神職を態々其の為に派遣して来たと伺いましたが」

「石清水と渡りをつける為に、な。片倉と名乗っていた」


 伊達で片倉と聞くと重臣のイメージだが、今回来たのは領内の神職だ。恐らく重臣の片倉の傍流あたりだろう。


「幸と豊が其処の娘を大層気に入っていた。未だ10を過ぎた頃だが、作法も良く覚え器量良し。軍学などを好むそうだが、医術の戦場での必要性も理解したらしく熱心だそうだ」

「女医博士様と女棋官様の。其れは其れは」


 豊が喜多という娘をかなり気に入っていて、色々と教え込んでいるようだ。巷で女棋官(棋官と言うげんが設置した囲碁の官職があるそうだ)と呼ばれている幸も碁の筋が良いと褒めていた。戦略思考もかなりのもののようだ。


「では宮内大輔様が石清水と仲立ち致すので?」

「さて、如何だろうな。伊達の望みは陸奥守だそうだからな」


 今の陸奥守は大館晴光殿だ。幕臣出身で近江での和議の時会った今は亡き大館尚氏殿の息子である。彼は今は信長の下で働いている。主に各地の大名や国人の饗応役をしており、官位が大事になる立場だ。

 伊達晴宗が陸奥守を望むのは『奥州探題』に代わる奥羽の覇者らしい官職だからだろう。幕府が存在した頃、伊達晴宗の父・稙宗は陸奥守護に任じられて実質的に奥州探題を世襲していた大崎氏から奪っている。奥州探題の継承者として欲しいのは左京大夫もだろう。しかし、奥州探題という職が幕府の滅亡と共になくなっていることを考えて直接の支配権を求めているようだ。


「陸奥守と言えば毛利も働きかけているそうで」

「恐らく我等の府に親族を送った理由の1つだろうな」


 陸奥守は毛利元就が祖先と称する大江氏の有名人・大江広元の官職でもある。そのため毛利もかなり拘っているらしい。中央に人を早くに送っており、様々な伝手で陸奥守を狙っている。ちなみに毛利も頼っているうちの1つが大江姓北小路家であり、豊が養女となった先である。その状況はほぼ自動的にうちにも情報として入ってくるので、どちらが有利かが間違いなく分かる立ち位置だ。


「武田の金が枯渇しつつあるらしき様子だけ気を付けねばなりますまい。我等の伊豆の金はあれど、幾許か足りぬと思われます故」

「予想ではもう少しあると思っていたのだがな、武田の金山は」

「人夫が足らぬのでしょう。戦が無いと新しい人夫が来ぬのです」


 人道的な面で言えば武田のやり方は褒められたものではないのだが、鉱山労働者はこの時代短命だ。奴隷にやらせて利益を最大化しようという武田の考えは合理的ではある。褒められたものではないが。


「紙幣兌換用の金集めも苦労する。思う様にはいかないものだ」

「我等も助力致す故、少しずつ進める他無いでしょうな」


 失敗や試行錯誤が多い状況を冷静に見ると、俺は物語の主人公にはなれないだろうなと感じる。もっとスマートに解決できるものだが、俺の場合はあちらを立てればこちらが立たずなんてことも多い。柵の多い戦乱の世だから、信長くらいの器でないとまとまらないのだろう。早いところ平和な時代にしたいものだ。


 ♢


 秋も終わりが近づく頃。弟の斎藤玄蕃龍定が戻ってきた。

 能登での戦は概ね勝利に終わったそうだ。温井の本拠地は落とせなかったそうだが、七尾城はほぼ孤立させたと報告が入っている。


「久し振りだな、玄蕃」

「姫は息災ですか?」


 開口一番が嫁の心配か。色ボケしすぎなのか色ボケしないように抑えてきたからなのか。


「先ずは報告だ。最後まで確りせよ」

「そうですね、兄上の申される通りだ」


 頬をかきながら気まずそうにする玄蕃。今回は玄蕃を補佐してくれた安藤守就に感謝だ。温井兵の挑発に対しても冷静に対処してくれたと聞いている。


「日根野兄弟は流石でした。長尾(上杉)兵への備え故余り戦には出られぬのに、最後まで警戒を怠らず」

「長尾兵は付かず離れずで隙を窺う動きだったと聞いたが」

「此度は椎名兵が度々此方を襲う素振りを見せて来ました。二度程小競り合いもありましたが、全て日根野が見事な采配で追い返しました」


 日根野兄弟には上杉の牽制を命じてあった。状況次第での開戦も許可はしていたが、敵を徒に増やしても仕方ないのでそういう形をとった。結果的には相手も本気ではなかったのだろう。村上義清の兵が上野方面にも向かっていたおかげで兵力不足だったのかもしれない。


「彼等には褒美を与えねばな」

「是非。とは言え、やはり七尾は堅牢。しかも長尾が大人しく城攻めをさせてくれる訳も御座いませぬ」

「本気で攻めるには兵が必要、か」


 わかっていたことだが、温井が籠る七尾城は攻め難い。しかも上杉兵はその時を狙っているのだろうから、本来必要な人手や物資の倍は必要になりかねない。そして、それこそが上杉側の狙いだろう。人と物をここに釘付けにし、その間に関東側を少しでも優位に進める。織田が本格的に参戦するのはまだ先と見ての動きだ。


「紀伊の畠山兵は出せぬので?」

「畿内は今人が動かしにくい情勢でな」


 本願寺の移動に関わる摂津から山城への出入りなどが盛んになっており、どの勢力も刺激しないよう簡単に人が動かせない状況だ。しかも高野山が僧兵を手放すのに積極的でないため、周辺の寺社勢力も僧兵の解散に難色を示している。解散するとは約束しているが、その履行時期を明言しないのだ。


「年初には高野山との話し合いとなろう。其方が片付けば紀伊と河内からも兵が呼べるだろう」

「来年は輪島を制するのが手一杯でしょうな、其れでは」

「其処迄は其方に頼むぞ」

「未亡人にさせる訳にも行きませぬしな。着実に進めておきましょう」


 本願寺の円満解決まであと少しだが、能登も高野山相手も気は抜けないな。年末年始をゆっくり出来るのはいつになることやら。

油座と石清水八幡宮からの伊達との繋がりとか北小路家と大江姓で毛利との繋がりとか最初期からの伏線的な何かを少し回収する回でした。各地の大名の朝廷工作は主人公にバレバレです。元就ならそれも織り込み済みで動いていそうですが。


能登情勢は優位なれどやはり七尾城がネックです。椎名兵の存在があるせいで本来より準備が不十分なのに攻め難さは同じくらいになっています。


玄蕃と現場をかけて、様子は直接聞かないとわからない的な話のタイトルです。

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[一言] 片倉喜多って小十郎のねーちゃんじゃん笑
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