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第242話 繋がる命

最初だけ3人称です。

 摂津国 越水城


 斎藤宮内大輔義龍の美濃帰国後、弾正忠信長と修理大夫長慶は2人で会談を行っていた。


「しかし、本願寺が山科に戻ればまた法華(日蓮宗)と揉めるであろう」

「修理大夫殿、其れで良いのだ」

「ほう」

「本圀寺など本願寺の直ぐ傍。互いに武力は持たずとは言え、揉め事は必ず起こる」

「其れを宮内大輔に仲裁させる、か」

「左様。武を用いれば我等が潰す。法華には良く言い聞かせてある。必ずや仲裁を求めよう」

「例え寺であっても、我等の府に訴えて物事を治める。其れを常態とする一歩か。強かよな、其方は」

「義兄上は人々の信望が篤い。多くの人を救ってきた義兄上の裁きなら文句も出まい。何より、法をつくりたいと常々申しているのは義兄上だ。其処は任せたい」

「法により治められる国、か。しかも我等の様な国を治める者も法に従わねばならない、か。果たして出来る物か」

「義兄上は出来ぬ事を申す人では無い故、出来るのだろう。目指さねばならぬのだろう」

「険しいな。険しい。其れ迄此の身が保つか。息子に多くを任せねばならぬやもしれぬな」

「俺は見たいぞ。義兄上と共に、義兄上の理想の国というやつを、な」


 信長の眼に宿る輝きを見て、長慶は彼の若さを改めて感じるのだった。


 ♢♢


 美濃国 稲葉山城


 俺は小躍りしたい気分をぐっと抑えながらある男を謁見の間で待っていた。


「殿、小西が日比屋の主人を連れて参りました」

「良し、通せ」

「はっ」


 小西隆佐が美濃まで来た。理由の1つは本願寺との和睦の祝いだ。本人はそこまで熱心ではなかったので俺との付き合いから高田派に乗り換えているが、先祖は代々本願寺派だった小西にとって、今回の和睦はありがたいのだろう。

 そこで、小西はあまりコネのない明・琉球方面で俺が探していたある物を昨年からずっと探してくれていた。それが見つかったので、良いタイミングだったのもあってわざわざ来てくれたのだ。


「此方、御探しの明の黒黴に御座います」

「おお、此れが明の酒に使う黒黴か」

「近辺で手に入る黴と何が違うか我々には分かりませぬが、宮内大輔様の為、一族を琉球より明に送って手に入れまして御座います」

「此方なら確実なのだ」


 そう。黒黴ならば大丈夫なのだが、黒黴以外は混ざっていない方がいい。明の酒製造には黒黴が必須らしい。らしいなのは前世で診た酒好きの入院患者宮永さん(75)の薀蓄だからだ。ちなみに彼から聞いた知識で役に立ちそうなものはもうない。残念だ、もう少し色々と聞いておけば良かった。しかもこれがアスペルギルス・ニガーという黒黴。アスペルギルス・ニガーは前世から100年ほど昔にクエン酸の実験で使われた黴である。


「御探しの物だった様で何よりに御座います」

「助かったぞ、日比屋」


 日比屋の福田了珪という堺の商人も協力してくれた。彼はキリスト教に興味があるらしく、今回協力する見返りに尾張にいるザビエルとの面会許可を願ってきていた。


「約定通り、信長には俺から話しておこう」

「宮内大輔様の御口添え、何よりも心強う御座います」


 福田了珪はちなみに畿内の一部で言われているキリスト教のメシア=俺という誤解のない人物だ。この誤解の影響からか、キリスト教は単純に比叡山の亜流と見られてあまり信仰が広まっていないのが幸いか。俺との結びつきは比叡山や日蓮宗、そして高田派の方が強いと思われているらしい。さらに言えば彼らが好む清貧の思想は、美濃や越前・尾張・近江などの発展している地域ではあまり実情と噛み合わない。生活が苦しい人は宗教に頼りがちになるものだが、これらの地域では経済の発展が目覚ましく、生活に困っている人間はほとんどいない。高田派の堯慧ぎょうえ殿も、最近の在家信者はあまり読誦どくじゅ(お経を読むこと)に熱心ではない、と愚痴を零していた。読誦より働いて2着目3着目の服を買おうとするそうだ。


「で、此れは何に使われるので?」

「此れで血が保存できる様になる。長くは難しいが、な」


 クエン酸3ナトリウム。血液の凝固を防ぐことのできる添加物だ。食品にも元々入っているが、人工的に造れると非常に助かるものといえる。製造方法はクエン酸と重曹こと炭酸水素ナトリウムを1:3で混ぜる。ある意味これだけだ。発生する二酸化炭素(ようは炭酸水になる)は時間をおいて抜き、蒸発などを用いて粉末を取り出す。これを血液に添加すれば、血液凝固に必須なカルシウムイオンをキレートという結合作用で阻害して保存が可能になる訳だ。戦場では今まで救護兵をO型の兵士に任せ、彼らからの輸血で対処していた。それが予め輸血用の血液を用意できるようになるわけだ。

 クエン酸の製造は古くは柑橘系の果汁から絞っていたわけだが、このアスペルギルス・ニガーを使えば工業的な生産が可能になるわけだ。培地を酸性に保つなど、やらねばならない作業はある。しかし戦場へ持ち込む保存食の開発にも使えるクエン酸3ナトリウムは大量に造れて困ることはない。


「他にも幾つか使い途が有るしな。クエン酸だけでも」

「宮内大輔様の知には御仏も敵わぬやも知れませぬな」


 小西は唸りながらそんなことを言う。


「違う。人の力は、人の叡智は、此処迄辿り着ける物なのだから」

「はぁ」


 チート(ずる)とは言いえて妙だ。俺の知識は先人たちが数百年積み重ねてきたものを借りているだけだ。小心者の俺はそれを自分のことと誇るのはとても出来ない。

 だが、たとえ自分のことと思わなくても使えるものは使う。それが誰かを救うのならば、それが天下の統一を早めるのならば。


 ♢


 秋。今年は暖かかった分収穫は昨年を上回った。大和が干害で米不足になった分、尾張・近江の米が 畿内で多く流通しているようだ。

 於春に2人目の男の子が産まれた。錦小路家を継ぐ長男と違い、この子は北条との交渉役などで活躍することになるだろう。傅役は堀越貞忠ら旧今川家臣が多い。

 お満も女の子を産んだ。お満自身はもう満年齢でも30になるので、そろそろと言っている。だが俺が必死に彼女の栄養面・健康面・化粧などに使う物も注意してきたので、周囲からは若い若いと言われる容姿を保っている。俺だってまだまだ彼女と一緒に愛を育みたいので、体力的に問題がない限り説得を続けたい。目指せ8人目である。



 九州・門司の戦が一段落したらしく、情報が入って来た。

 博多南部で行われた戦は大友が大勝。戸次鑑連なる大将が少弐・原田・秋月・筑紫らの連合軍に圧勝したらしい。出陣を拒否した高橋鑑種なる大友の将の処遇でもう一騒動ありそうらしいが、秋月氏は一門に多数の死者が出てかなり追い込まれたらしい。豊前で行われた大友本隊と尼子援軍・杉・宗像らの戦は大友側が優勢で一旦双方兵を退いたそうだ。九州は総じて大友有利と言えそうだ。

 門司の攻防戦は初戦で勝利した毛利を、尼子の大軍が追い払う形で終わったらしい。ただしその間に長門内藤の当主が討たれたそうで、このままいくと分裂した内藤氏は毛利に吸収されかねず尼子も兵が一部釘付けになってしまったらしい。石見方面や備中方面でも基本的には尼子有利らしいが、毛利側も宮光音ら尼子方国人を備後から追い出すのに成功しており、畿内での見立て以上に毛利も善戦しているらしい。とはいえ秋以降は尼子が6か所ほどの城で攻勢に出るべく準備をしているらしく、兵数の少ない毛利に圧力をかける準備を進めているようだ。

 このままいけば九州は大友が掌握する可能性が高いが、毛利が崩れるだろうというのが大勢の読みだ。だが俺は毛利元就という男がそんなにあっさり負けるとは思えない。尼子晴久も英傑と言える人物だと思うが、毛利元就は前世の戦国史にも燦然とその名を轟かす一代の謀神なのだから。

クエン酸。現在では様々な場面で使われていますが、工業生産は黴が担っているというのが面白いですね。お酒関係は手を出せば色々なチートが出来るものですが、本作主人公はこれ以上手が出せません。


九州・中国情勢は複雑。とはいえ道雪さんに秋月らが勝てるわけもなく、西部は彼がいる限り大友優位は変わりません。

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