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第237話 餌付け

最後だけ3人称です。

 山城国 京


 年明けを京で迎えた。1558(弘治4)年だ。京の街中にも小さな雪の集積所がつくられる程の厳寒に、美濃や尾張といった近年経済的に発展している地域で木綿や麻の値上がりが発生しているらしい。いよいよ飛び杼と機織り機の導入を進めねばならないか。


 昨年の堺滞在で久しぶりに三好の兄弟姉妹揃って話ができたとご機嫌だったお満が妊娠した。人間、心の元気も大事だとよく分かる。

 京では信長・義兄の長慶・俺が一堂に会したので、それに合わせて色々な商人や大名がここに集った。

 その1人が最上氏の当主親子である最上義守と白寿丸だ。最上は立場上親上杉の大宝寺氏と対立しており、うちの協力を必要としている。前々から上洛して白寿丸の元服を行いたいと言っていたが、越中への上杉(長尾)の侵入や能登の内乱開始で少しずれ込んでいた。


「では、俺の一字を与える。今後は源五郎信光(のぶあき)と名乗るが良い」

「有難き幸せ。此の源五郎、存分に出羽の事仔細に御知らせし弾正忠様始め皆々様の御役に立って見せましょう」


 最上の次期当主。俺の某ゲームの記憶では義光だったはずだが、偏諱を受けた相手が変われば名前も変わるわけだ。本来は将軍家から偏諱を受けていたのかな。最上当主は代々羽州探題という室町幕府の役職を名乗ることで東北で権威を確立してきた。俺たちではその称号は渡せないので、ひとまずの解決策として『屋形』という敬称を贈ることにした。これ自体は室町幕府で多用されていたらしいが、古くは後醍醐天皇が使うようになったものなので問題ないだろうという判断らしい。


 他にも博多商人が挨拶に来たり、四国の親三好的な動きを見せる国人がやって来たりと慌ただしい日々だった。根来の元僧兵たちも本格的に畿内で活動を開始し、同時に根来寺の出張所のような小寺が2,3造られた。成程、これも狙いか。僧兵を手放す代わりに、彼ら個人の信仰を支援する名目で各地に根来系の寺院を建立するとは。


 播磨では別所が一度だけ奇襲で赤松軍を破ったらしいが、そもそも本城が三好の本隊によって包囲されているのではどうしようもないだろう。三好の兵も動揺は見られず、どっしり構えて横綱相撲を盤石に進めている印象だ。このままいけば田植えの頃には別所も降伏せざるをえないだろう。

 むしろ心配なのは備前で復帰運動を始めたという浦上の一族だ。宇喜多も所詮ぽっと出の領主なので、備前内部はかなり動揺しているらしい。これが先の裁判で落ち着いた(ように見えるだけかもしれないが)播磨情勢にも影響を与えなければいいのだが。


 ♢


 越前国 安居城


 2月に入り、一度越前まで戻った。700人の兵で来た武田の家臣団だが、雪で閉ざされた屋敷で退屈だろうと娯楽を提供している。

 最初は碁と将棋を薦めたがあまり馴染まず、仕方ないので俺が再現したボードゲームを提供した。前世ではロンドン警察の愛称をゲーム名にした作品だが、俺は適当に『戦国捕物』と名付けている。原作ではタクシー・バス・地下鉄なのだが、徒歩・馬・街道馬で代用している。ミスターXならぬ朝倉某を捕まえるため、1対5で謀反人を追い詰めるゲームだ。

 紙を結構盛大に使うが、文字が全て読めずとも出来るので子供でも遊べる。前世のゲームでは帽子がセットでついていて雰囲気が出ていたが、本作でも烏帽子を被った謀反人を捕まえるゲームである。


「むむ、左兵衛、其方何処へ逃げた?」

「甚兵衛、某此方に居るやもしれぬ故馬で探しに向かうぞ」

「待て、三郎次郎、此方に来るでない!儂の次に行く道を塞ぐぞ!」


 このゲーム、5人側が連動していないと必ず包囲に隙が出来るので、本気でやればやるほど勝手な行動が許されなくなる。武田兵はかなり自由気ままに動いているが、うちの足軽大将クラスはそのあたりをわかってこのゲームをやるようになったので1人側が勝てなくなっている。ある程度遊ぶとそういう意味では難易度がハードになって楽しめなくなるので、10セット用意していたのだがうちの兵たちの間ではあまり遊ばれなくなっていた。そういう意味ではちょうどいい。


 そして、最近沿岸部の湊から整備の進んだ街道で運ばれて来る寒ブリ。これを醤油を使って照り焼きにして彼らに食べさせる。

 最初の頃は米が食べたいと散々言っていた武田の兵たちだが、徐々におかずがたくさんある方が米が美味しいと気づきつつあるようだ。ブリ照りにブリ大根、御飯が進むだろう。

 十兵衛は最初兵の多さに「冬の間当家で飯を食わせて金を浮かせようという魂胆で御座いましょう」と露骨に嫌悪感を声音で示していたが、最近は「甲斐に戻った時、甲斐の飯で彼の者達、満足出来ますかね」と無表情のまま愉しんでいる。舌が肥えると人間戻れないからな。武田はあまり我らに協力的でもない(上杉と対峙しているので仕方ないとも言えるが)ので、こういうところから俺たちとの繋がりを無視できなくしていこうというわけだ。ふっふっふ、醤油が手に入るのはうちとの交易だけだぞ。


 さらに清酒も飲ませる。酒の肴は我が美濃領内名物蓮根で作るからし蓮根だ。どれもうちでしか手に入らないぞ、これを味わってうちとの交易を増やすが良い。

 まとめ役として来ている馬場信房殿は初日にこれらを味わった後、庶民の食事も見たいと言って、安居ではまだほとんどない料理屋や宿屋であえて食事だけを摂っているようだ。本人の希望なので仕方ないが、十兵衛は「恐らく舌が肥えすぎぬ様にしているのでしょう」と言っていた。とはいえ料理屋でもそれなりの食事は出すぞ、うちの領内では。


 ちなみに、うちの兵たちは冬季になると用意した屋敷で学問か鍛錬をしている。鍛錬は石のダンベルやバーベル(持ち手は鉄製)などを使った筋肉トレーニングと、縄跳びやら柔軟体操やらだ。美濃の朝の風物詩・ラジオ体操は越前でも健在である。これには馬場信房殿も参加している。鍛錬の道具はかなり熱心に見ていた。まぁ鍛錬だけしても効果はそこまでじゃないのだが。やっぱり食事ですよ食事。うちの連中は鍛錬直後に牛乳飲んでいるからね。テストステロンが効率的に筋肉をつくってくれるよね。

 そして学問の方ではアラビア数字のトレーニング。桁をそろえて書く練習で各自の収入を各自が計算できる体制を目指している。そして遊ぶボードゲームはイタリアで創られた名作数字当てゲーム。やればやるほど確率の概念が身につく。数字当ての推理ゲームとしては世界最高の一作だと俺は思っている。そうやって数学的思考力を育てるのだ。このあたりは冬も万全に給料を支給しているからこそ出来る事だろう。婚活にも参加しておけよ、高給取りだから人気あるのだし。


 ♢♢


 馬場信房と共に料理屋で食事をする部下はついに4人だけになった。


「一度食したら終わりだ。あれには抗えぬと何度も言い聞かせたのにな」

「甲斐に戻れば彼の者達、何も食えなくなりかねませぬ」

「仕方あるまい。己を律せなんだ事が全てよ」


 はたして、このうち何人が斎藤の食事に舌を目覚めさせずに甲斐に戻れるか。既に5人だけとなった集団は、斎藤側の見事すぎる策略に文字通り舌を巻くのだった。

冬の寒ブリは最高だから北陸行ったら一度は味わうべきです。

今回登場しているボードゲームは比較的コンポーネントも用意しやすいものだけにしています。コンポーネントが多いと作るのが大変なので。

私は秋葉原ボードゲーム研究会というボードゲーム大好き集団でたまに活動しているので(メンバーの1人が創っているゲームの試遊とかもしています)、ボードゲームは主題にはしませんが出る事があると思います。

こういう物がつくれる余裕がでてきたのも、主人公が美濃を豊かにしたからこそです。

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― 新着の感想 ―
武田領の名物… ほうとう…蕎麦… 辛いっす(´;ω;`)
[一言] 元ネタのボードゲームはスコットランド・ヤードかな? そこそこ長い期間楽しんだゲームだから知ってる方ご居るのが分かるとちょっと嬉しくなる
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