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第225話 子子孫孫

体調がここ最近すぐれない為投稿間隔があいて申し訳ありません。日曜日もなんとか投稿できるように頑張りますが、活動報告で報告しますのでそちらもご確認くださいませ。

最後の♢♢以降だけ三人称となります。

 美濃国 稲葉山城


 産まれた子供に5ヶ月も会えない単身赴任が終わり、加賀から戻った十兵衛光秀とも久しぶりに会ったその日。

 久しぶりの完全休暇を勝ち取った俺は、娘とひたすら遊んでいた。蝶姫と遊んでいた頃を思い出すが、あの頃より自分が随分大きくなった。高い高いをして娘の頭が天井に当たりそうになったのは内緒だ。


「ちちーうえー」

「おじじ、こわいー」


 何人かには泣かれたが、俺が抱いても泣かない子の方が多い。父は「やはり儂の子ではないな」とか冗談交じりで言って叔父にどつかれていた。


 そしてその対極といえる、子供たちに人気があるのが母の深芳野だ。「おばば」とか「おばば様」とか呼ばれ、普段生活している俺設計の庵には連日孫にあたる俺の子供たちが通っている。

 しかし、最近は少し足腰が衰えたためか庵にこもることが多い。食も細くなったようで、定期的に診ている医師たちも心配している。考えれば俺も数えだと30。母は49だ。以前信長が舞って見せてくれた敦盛でも「人間五十年」な時代。いつ死んでもおかしくないのかもしれない。ちなみに父の道三は50なんてとっくに過ぎている。世が世なら定年退職だが、俺に仕事を押し付けて早々と第2の人生を楽しんでいる。早期退職で残りの人生を楽しむ人生エンジョイ型か。


 冬になったのでいつものごとく温泉に向かおうかという話をしていたところで、十兵衛の正室である牧の方の3人目となる子供が産気づいた。慌てて豊が出産準備に動く。十兵衛も3人目ともなれば落ち着いている。


「豊様がついている殿が側にいる必ず元気な姿が見られる」


 前言撤回。無表情なのにぶつぶつうるさい。


「落ち着け。其方の正室は出産にも慣れている」

「そうだ慣れている殿がいるし豊様が万事上手く進めて下さる」

「全然落ち着いていないな」


 わかりにくいが良く良く見ると目線が右に左に忙しなく動いていた。愛妻家だからな。何度目の出産でも心配は変わらないか。


 少し間があって、見事なという感想が出る産声が響いた。顔がわずかにほころんで部屋を飛び出した。俺は少し遅れて部屋に入ると、達成感に満ちた顔の豊が俺と十兵衛を待っていた。


 産めよ増やせよ地に満ちよ。子は未来への希望だ。


 ♢


 美濃国 大桑城


 温泉に向かう前に、息子の次郎龍頼が見事な絵を描きあげたので他の家族と共に父のいる大桑城に寄って見せることにした。

 太守頼芸様の絵を彷彿とさせる枝に止まった鷹の構図だが、俺が遠近法を中学美術レベルで取り入れて教えているため、消失点がきれいに浮き出るように背景が描かれている。父道三も、絵を見た瞬間「ううむ」と唸るほどだった。


「見事に受け継いだな、良い鷹だ」

「真ですか?」

「うむ。正に二人を継ぐ者だな」

「ですが、此の身は土岐を継ぐ者ではありませぬ」

「左様か」


 父は少し嬉しそうだった。恐らく俺の思う方向性ではないのだろうが。土岐を継ぐ気がないという言質をとれたことと、その時の表情が本気だったのが理由だろう。


「兄上には未だに碁で勝てませぬが」

「ほう。碁は龍和が上手か」


 ちなみに、子供で一番碁が強いのは幸の長女弥音(あまね)だ。現在数えで13歳。成安市右衛門幸次と婚約したのだが、俺が数え16まで正式な結婚を認めていない。体の成長を考えてのことなので、まだまだ稲葉山城で生活している。で、弥音は嫁入りの準備も知らん顔で囲碁ばかりしていた。おかげで幸も既に勝てない。先日俺と対局した仙也殿も逸材だと認めてくれている。


「よし、では一局打つとしよう。最近幸に鍛えて貰っておる故な」

「あ、はい。是非」


 どうやら隠居暮らしで楽している間に余暇を全力で趣味に使っていたようだ。羨ましい。俺もそうしたいのに。


「では、良き見晴らしの場で打つとしよう。温泉に行くならば、長良川まで出た方が良いだろうし」


 とか言いながら場所を長良川まで移すことになった。武儀川を下り、長良川との合流地点にある東川寺で一局を打つ事となった。ちなみに、父は叔父道利に俺があまり縁を結んでいない宗派の寺院の再建を積極的にさせており、この寺もその1つだ。



 長良川で2時間ほどの対局。互先で両者とも星と三々で固めつつ、中央をどちらが奪うかというシンプルな勝負になった。早い段階で中央以外はほぼ五分の地を取り合ったので、そこから中央で両者は激戦を繰り広げた。堅実に石同士を固めて着実に中央に勢力を築こうとする龍頼と、ブラフとなるような位置や脈絡のありそうでない位置で撹乱を織り交ぜつつ地を大きく奪おうとする父道三。勝負は徐々に混戦となり、互いに譲らず狭い範囲での細かな読み合いとなった。

 そして中央だけで30手近くを打ち合ったところで、父の陽動に惑わされなかった龍頼が辛うじて勝利を収めた。


「遂に孫に敗れたか」


 感慨深そうな父。ある意味これも下克上か。長良川で下克上。しかも良く考えれば史実の父が死んだのは今年である。

 ある意味、史実が不思議な形で再現されたといえるのではなかろうか。


「もう一局、良いか?」


 往生際が悪いな、大人しく負けを認めろ。


 ♢♢


 甲斐国 躑躅が崎館


 1人の少年といっていい年齢の男の子が呻き声をあげながら貴重な畳の上で眠っていた。

 少年は額に汗をかき、時折響くような咳をしていた。


「如何だ?」

「御聖導様が治るかは運に御座いますな」


 彼を遠巻きに心配しているのは武田大膳大夫晴信。そして病気の少年は彼の次男である。


「宮内大輔様なれば或いは、とも思いまするが」

「今から医聖とはいえ大名を呼び出すなど、しかも雪深いこの地に。無理であろう」

「しかし、某は宮内大輔様の教えを聞きかじっただけで、師は別に御座います」


 暗に「自分では手に余る」と医師は言っていた。それがわかるものの、それでも今この場で晴信が縋れる相手は目の前の医師だけだった。


「宮内大輔殿の秘薬は手に入れておらぬのか?」

「其の薬は御側近の医師のみに口伝されているとかで。申し訳ありませぬ」

「くっ!」


 少年の病気・ジフテリアは、人々が秘薬と呼ぶペニシリンならば十分に治る病である。しかし、医師を通じて自身の身辺の情報が漏れることを好まない晴信は義龍からの医師派遣を拒否しており、それが現在の状況を生んでいた。


「あと二日、耐えられれば御体の力で何とかなるやもしれませぬが」

「兎に角祈祷だ。祈祷をさせよ。金に糸目はつけぬ」


 側にいた小姓に晴信が告げると、小姓の1人が部屋の外に出る。ぞろぞろと周辺寺院の僧たちが部屋に入り、各々のやり方で祈祷の準備を始めた。


「頼む。何とか、何とか死なぬ様に」



 彼の願いは、少年の視力と引き換えに叶うことになる。晴信は死なずに済んだだけ良しと考え、寺と医師に謝礼を払うのだった。


 そして病の回復が見られたその日、喜ぶ晴信の元を数名の男が訪ねてきたことで、彼の運命は大きな転換点を迎えることになる。


「何者だ」

「細川の縁者と、朝倉の御一門とか」

「朝倉の?」

「はっ」


 薄々その正体に気づきつつも、彼は会うだけなら問題ないとその人物たちと面会することにするのだった。

ほのぼの長良川の戦い。道三を破ったのが一色の血を受け継いでいるというのも少し史実とかぶせていたり。

史実では討死する年に孫と囲碁が討てる幸せを道三は理解できるはずもなく。理解できたらおかしいのでこれでいいのです。


武田信玄の次男の失明はジフテリアということにしております。主人公の医療を受け容れていない地域での医療はこんな要素もあったよね、というのも少しだけ見せております。

治った直後に現れる数人の男たち。タイミング的には福の神に見えるが、はてさて。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 敦盛の「人間50年」は寿命の話ではないのです 仏教での天上世界の一つである下天では一昼夜が人間世界の50年に相当する長さになり、人の世の出来事などうたた寝の夢に過ぎないのだという話が元…
[一言] 初めまして。 最近、御作を知り、面白く読ませて頂きました。 漸く、最新話まで追いつきました。 寒さが厳しき折、御自愛いただき、これからも面白い小説をお書き下さい。
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