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第216話 年の差婚……ってのはそういうものではない

投稿前に寝落ちしてしまいこんな時間の投稿になってしまいました。申し訳ありません。

 近江国 観音寺城


 信長の部隊に山岡領への侵攻を任せ、俺と籠城していた後藤氏の面々と共に観音寺へ向かった。観音寺には六角嫡男である亀松丸がおり、包囲された観音寺城を物悲しそうに眺めていた。


「後藤但馬守、如何して此処迄城内が割れたのだ?」

「某は亡き殿の遺命とも言える『筒井とだけは手を組む事能わず』と言う御言葉を守る事としたのみ」

「進藤と山岡は何故其の遺命を守らなかったのだ?」

「進藤が領有せし栗太や野洲は京に近う御座います。山岡の勢田も言わずもがな。しかも山岡は代々公方様にも仕える家。元々六角と筒井を結んだのは此の山岡に御座います」

「では尚更山岡と筒井が組むのは理解出来ぬぞ」


 公方様に仕えているならば公方様殺しの筒井は許せないのが普通ではないのか。


「山岡は元々管領との関係が深い。栗太は山岡の領地だけでなく青地の領地もありますが、細川澄元が以前逃げ込んだのが此の青地領に御座いまして」

「あぁ、其の頃からの管領一族との仲か」

「今の青地は蒲生の養子が入り、細川との縁は薄くなっておりますが、其の分山岡との縁は繋がっておりました。幕臣とは言え公方様は反細川の三好に協力しておられた故、山岡は公方様より細川や筒井との縁を重視したのでしょう」


 山岡にとって公方様はお飾りでしかなかったということか。幕臣というより細川と六角との両属に近かったわけだ。


 そんな話をしつつ観音寺城の外郭部に近い陣幕に到着する。亀松丸は隣の陣幕に連れられて行ったようだ。

 陣幕の中には近江介信秀殿がいた。信長からの書状が一足先に着いていたからか、その表情には呆れと疲れが見て取れた。


「来たか宮内大輔殿」

「無事、永原城は救う事が出来ましたよ」

「感謝致す。大砲を盛大に撃ち込んだと聞きましたぞ」

「試作品の試射に砲兵の発射訓練、捗りました」


 村井殿は信長に青い顔で報告していた。信長は笑っていたが、若干ひきつってもいた気がする。

 さて、問題は観音寺城をどう落とすかである。


「で、此れから如何致すので?」

「宮内大輔殿には申し訳ないが、此れ以上活躍されては我等が支配に支障が出る」

「まぁ、そうでしょうね」


 俺が強さを見せつけ過ぎては近江の民が俺を支持してしまう。それは織田にとっても斎藤おれにとっても良い事ではない。


「大砲は斎藤の御家の要。買えぬは道理なれば此処は無理攻めも至難故、地道に囲うが上策になろう」

「兵糧の運搬はもう桑名から出来るので?」

「街道沿いの領主は一部滅ぼした。半数は領地替えを受け容れた。今は街道も安全よ」


 反抗的だった領主は滅ぼし、積極的に反織田を主張していた国人を所領半減か国替えによって桑名から近江に入る街道の8割方を織田が直接支配できる状況になっていた。関氏の降伏もあってそちら側の街道も順次利用できるようになるだろう。


「北近江の復興が遅れている故、無理は禁物に御座いますね」

「うむ。浅井の傷は松平らが癒しているが、な」


 北近江は一時の強烈な飢餓から立ち直りきっていない。三河武士が大量に移住しても大きな問題がなかった理由が、戦乱を避ける人々が美濃など近隣に移り住んだからだ。人が移り住めるだけの人口不足だった。最近ようやく自分たちの食糧が自給できるようになっているが、遠征の兵を賄う食糧は結局のところ美濃と尾張頼りなのだ。


「此方に後藤殿が来たのには理由が?」


 信秀殿が俺と一緒に来た後藤但馬守賢豊に声をかける。


「実は、我等が永原城に籠らねばならなかったもう一つの事情を御説明せねば、と」

「事情?」


 実は俺も聞いていない。輿やら色々と仰々しい一行を後藤殿は連れて来たので、何がしかの貴人なのは間違いないのだが。恐らくはその件だろう。藤原一門か、皇族はやめてほしいが。


「槙島殿に頼まれておりまして」

「槙島か」


 露骨に嫌そうに呟く信秀殿。


「御呼びしても宜しいでしょうか?」

「宜しく無い、と言っても変わらぬであろう」

「では、失礼致しまして」


 そう言うと後藤但馬守はその場を少し離れた。信秀殿の視線が『何か知らない?』的な探る様子だったが、ジェスチャー付きで否定しておいた。


 数分で戻ってきた後藤但馬守が連れて来たのは、まだ10歳少しの着飾った少女とまだ言葉を話すのがやっとだろう幼女だった。


「詩姫様と文姫様。公方様と血の繋がった、未婚の最後の姫に御座いまする」


 だから俺は知らなかったってば信秀殿。



 ♢


 後藤但馬守曰く、彼女たちは婚姻していない足利将軍家嫡流の最後の生き残りらしい。若狭武田氏の亡き武田義統の正室である彼女たちの姉は、今は尼となって織田の庇護下で若狭武田の若君を育てている。


「公方様には御子が無く、先代の御子で公方様の妹であられた御二人を槙島殿が京より事前に逃がし、永原に預けていたのです」

「成程。其れが山岡が攻めると決めた最後の理由か」

「恐らくは」


 つまり、将軍を殺しちゃったのでその妹を確保して形だけでも将軍を整えようとした、といったところか。そのあたりを事前に理解していた公方足利義輝様は前もって南近江まで彼女たちを逃がしていた、と。


「何故永原に逃がしたのでしょう?」


 俺の疑問に、後藤殿が答える。


「本来は甲賀に逃がす予定だったとか。和田殿同様数人が公方様によって幕臣に召し抱えられていたので」

「甲賀迄辿り着けず、か。しかし公方様、其処まで予見していたとは」

「惜しい御方を亡くしました」


 甲賀の親公方系の領主の下に姫を逃がす。槙島が状況を見て織田に2人の姫を預けられれば完璧だ。槙島の仲介で甲賀の忍びも織田に降り、信長の脅威が減る。予定通りだったら六角は西以外の各方角から追い込まれていただろう。

 だが、実際は彼女たちが逃げている最中に六角左京大夫義賢が討死し、南近江が混乱状態になった。直接甲賀に行くのが危険となったために一時身を潜めたのが永原だったというわけだ。信長の行動が早すぎて少し裏目に出たパターンだな、これは。


「公方様の思いを継ぐであろう姫君を公方様を殺した者になぞ渡せぬ、となりましてな」

「成程。で、此の姫達を但馬守は如何したいのだ?」


 信長に嫁がせるなら歳の差どころの騒ぎじゃなくなるのでやめて欲しいところだが。


「確か若殿様に御嫡男が産まれておりましたな。槙島殿曰く年も離れてはおらぬとか」

「其れは其方の一存か?」

「いえ、槙島殿から伺った公方様の御遺志にて」


 公方様からの遺志。これほど厄介なものはない。死人の願いとか無視できるほど人々はタフじゃない。

 なにより、今後織田が天下に号令するのならば足利の血が入る事は決して悪くない。だから問題はややこしい。


「姉の詩姫様は少々歳の差が大きい故、妹の文姫を若殿の御嫡男に」

「で、姉は如何する?」


 この言葉に、後藤但馬守はちらりとこちらを見た。こっち来るなこっち来るなこっち来るな!


「出来れば織田の方から、と」

「亀松丸では無いのか?」


 信秀殿が少しいじわるな質問をするが、後藤但馬守はどこ吹く風だ。


「今の我等は滅んだも同然。何故其の様な大それた事を願えましょうか」


 後藤但馬守は今回の仲介で亀松丸の下六角が一定の勢力を保つことを狙う方向に切り替えたのだろう。だからここまで織田に好意的かつ協力的なわけだ。


「但馬守、此方としては堺と大津に割れる様な事はもう起きて欲しく無いのだ」


 一時期、足利将軍家も2つに割れたことがある。織田に2人も嫁げば必ず双方の家督争いに繋がることになる。受ければ簡単な埋伏の毒の完成だ。しかも表面上は善意なだけに厄介この上ない。


「但馬守、京に入り次第院の皆様にも挨拶したいのだ。詩姫には其れ迄御待ち頂きたい」

「仰せの通りに」


 信秀殿は院近臣か摂関家と詩姫の婚姻を進めたいという意思表示だ。まぁそこが妥当だ。今更武家に嫁がれると対立軸が増えかねない。公家に嫁ぐなら大きな問題はないだろう。

 後藤但馬守が深々と頭を下げた。俺が面倒ごとを持ち込んだようだが、信長が俺に後藤但馬守を押し付けたのが最初なので俺は悪くないぞ。

 後藤但馬守が姫たちとともに下がると、信秀殿が俺の方を向いて話しかけてきた。気づけば周りにいる人間は互いの護衛数人のみだ。


「宮内大輔殿、忝い」

「何の事でしょう?」

「先程、其方が姫を求めたら我等は否やを言える状況では無かった。度々援けを受けながら返している物が十全とは言えぬ。求められれば受けねばならなかった」


 まぁ今回も約束してあるのは大砲の火薬代と食料相手持ちくらいだ。こちらとしては各城で備蓄していた米の一部を少しずつ売り払うのにちょうどいい売り先ができたようなものだったのでありがたいくらいだったのだが。側から見れば不足なのも事実か。


「うちの嫡男は既に三条家から正室を迎えておりますし、此れ以上家格の高い家の女性を迎えては此方の胃が保ちません」

「以前話していたすとれす?とやらか」

「ええ、重責や差し迫った戦場に長く身を置く事で体が普段より疲れ易くなり、心も疲弊致します。俺は長生きしたいので、其れは困るのです」

「今でも十分其のすとれす?に晒されておる様だがな」


 これでも最低限にストレス環境にいる状況を減らしているんだけれどね。


「ま、何にせよ助かった。援軍の見返りは十分に用意させて頂こう」

「期待しております」


 周りの支城落としはもう十分だそうなので、後は一部知り合いの国人と織田の仲介と包囲のための人員提供だけだ。観音寺は大きな城だが、四方を完全に囲まれた今、多少長続きはしても落ちないことはないだろう。

姫の名前は某信長さんが野望を抱きそうなゲームと一緒にしていますが、別にこの名前だったという記録もないようなので適当です。


槙島も亡き足利義輝も色々と画策していたことが分かると良いかな、と思います。

後藤但馬守が決定的に対立した理由も見えて来たかな、と。


本当はGWで投稿回数を増やしたいのですが、GW後半にならないと休みがとれないのでちょっと今回は厳しいかもしれません。余裕があれば活動報告で予告させていただきます。

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