第214話 揃う役者
遅くなりました。
近江国 佐和山城
織田軍は北近江から南近江へ進入する近江介信秀殿率いる12000と、伊勢から南近江を攻める信長率いる19000で2方向からの同時攻めに入った。
俺は北近江から6000を率いて近江介信秀殿に合流し、観音寺城攻めに加わることになっていた。ちなみに大和で反乱を主導している十市遠勝には服部党含む500と火縄銃を支援に送った。織田からも青山越を通じて伊勢から物資の支援が入り、さらに佐々孫介の弟の佐々成政が1500を率いて援軍に入る予定だ。
水面下では箸尾為綱や松倉政秀らと信長が接触を開始している。松倉氏は筒井の重臣だが、彼は春日大社との調整役を担っていた人物であり、筒井順昭が興福寺と共に春日大社にも火をつけた結果、正室の実家(秦楽寺の一門で春日大社と関係が深い)と板挟みになってしまったそうだ。近江の状況次第でここが裏切れば、畿内の敵は孤立している河内の畠山高政と細川晴元だけになるだろう。
佐和山城で待っていたのは松平氏の重臣で本多忠真。浅井との戦で死んだ本多忠高の弟だ。現在は小谷城そばの丁野山城を任されている。丁野山は織田氏血縁だった飯尾定宗殿が朝倉宗滴に討たれた城。重要な城だけに忠臣を配置しているようだ。
松平広忠殿は浅井との戦で片足の腱が完全に切れて癒着しており、歩くのも困難があるためか小谷城の留守居に残っており、数人の重臣を送り込んでいるそうだ。
「六角の様子は?」
最前線で戦う信秀殿の手を煩わせないよう、前線基地となった佐和山で本多から手に入るだけの情報を集めることにする。
「観音寺城の周囲の支城は半端に兵が残っておりますな。一部は観音寺を守るべく集まっている様ですが、やはり当主が死んだ影響は大きいかと」
「次の当主は決まっていないのだったな」
「嫡男の母親は既に亡く、次男の母親の継室は今も存命。継室は自身の子こそ一致団結に必要と訴えており、家臣も二分状態とか」
「成程」
「とは言え目の前に我等織田の軍勢が居る為か表立っては争って居ない様子に御座いますが」
「とは言え周囲に目を配る余裕は無し、か」
大砲の運搬中に攻撃でもされたら厄介だからどうしようかと思っていたが、これなら警戒態勢さえなんとかしていれば大砲馬車で十分運べそうだ。
「観音寺さえ突破出来れば、と考えると調略も手か?」
「其れは恐らく甲賀を通じて行っているかと」
甲賀の忍びたちも主君と共倒れは避けるか。伊賀も伝手になるだろうし、降伏した関氏の当主の正室は蒲生氏から嫁いだと聞いている。切り崩しは可能か。
「何より、我等に完膚なきまで敗れたのが相当響いた様で」
「畿内最強の謳い文句があればこそ纏まっていた近江国人が動揺している、か」
もし観音寺が落ちれば事実上六角は滅びることになる。観音寺を攻めるか、周辺を落として観音寺内部を揺さぶるか。現状の俺たち連合軍は選択肢が複数ある。しかも選べる立場。三好も冬の段階で河内の畠山討伐を終了させるべく動くと連絡があったので、京に攻め込む勢力は現状いないはずだ。
「よし、出立は明日だ。慌ただしくなるが、宜しく頼む」
「御武運を」
いざ、観音寺へ。
♢
近江国 観音寺城
織田軍は周辺の諸城制圧を優先した。六角相手に1つ1つ詰碁のように手を進めて相手を降伏に追い込もうという訳だ。当然のように降伏を促す使者も送られているが、近江介信秀殿はあえて嫡男側にのみ接触しているらしい。内部対立を煽って内側から崩壊させようという手だ。恐ろしい限り。
今回も連れて来た蜂須賀らと共に周辺警戒と共に一部の山城に大砲を撃ちこむ仕事を請け負う。織田軍は海外の硝石で消費する火薬を全額負担してくれているのでここぞとばかりに耐久実験やら増設した砲兵部隊の訓練代わりに盛大に撃ちまくった。消費量の確認をしていた村井貞勝が4日目頃から青い顔をしていたので、相当な費用になるのだろう。報酬代わりだし結果で見れば支城が圧倒的早さで落ちたのだ。文句は受け付けないぞ。
そんなかんじで勢いに任せて4つほどの支城を破壊した頃、耳役から緊急の情報が入った。
「三井寺の僧兵と筒井の兵が大津から瀬田を越えたとの事」
「数は?」
「凡そ一万九千。過半以上は三井寺の兵かと。山岡の兵も確認致しました」
「京を捨てた?いや、京に居てもジリ貧と気づいたか」
「如何致しますか?」
「織田の兵と合流し決戦だな。其れ以外あるまい」
「御意」
現在蒲生氏の日野を攻めている信長がどれだけ兵を送ってこれるかにもよるが、観音寺の包囲を継続しつつ戦えるかは微妙なところだ。うちだけでは兵数が足りないし、共に行動している柴田権六の兵と協力しても10000しかいない。
「最悪の場合少し後退も考えるか」
城攻め中でなかっただけましと見るべきか。しかし六角と筒井は協調しているのか?それがわからない。
♢
4日後。驚きの情報が入った。
「後藤の城を山岡の兵が囲んでいる?」
「御意」
「何故だ?」
「恐らく、筒井を呼び込んだのが継室の子を支持する進藤の意向だったのではないかと」
「進藤の独断か?」
「状況から判断する限りで御座いますが」
つまり、六角領でも西部に領地を持つ山岡・進藤が継室の子を支持している。後藤は亡き正室の子を支持しているのか。
「正室側は鯰江・後藤・蒲生・布施・建部・三雲。継室側は目賀田・進藤・山岡・平井。此処までは動きから大凡正しいかと」
「一族の中で対立したりもあるとはいえ、見事に真っ二つだな」
「後藤は交渉の進展を聞き、筒井と手を組めば和睦の目が無くなると猛反対したそうで」
「何で其の様な情報を?」
「直に伺いましたので」
耳役が連れて来たのは後藤壱岐守。後藤賢豊の息子だった。
「御初に御目にかかる」
「後藤殿に御会い出来るとは」
「戦には負けましたが、我が一族には討死した者もほぼ無く。其れに、戦場の勝敗は武家ならば受け容れねば」
割りきり方が尋常じゃない。この時代で会った極まった武士の考え方は大体こんなかんじだ。
「其れより、筒井と手を組む方が問題。公方様を討った相手と組むなど、許されぬ。目賀田は己の仇を取りたいが故に間違えようとしておる」
目賀田は理性的だった当主の死で感情的になった遺族が織田を倒すべしと強硬的になっているらしい。厄介なことだが、それで派閥争いが激化して内部崩壊しているならこちらとしては付け入る隙になる。
「我等は六角の生き残りが第一。方向性が違えど進藤も同じなのですが」
「進藤の考えは読めんが、信長にとっては天恵か」
なんとか決戦には持ち込めるか。とはいえ後藤を助けないのも何とも言えない。
「信長が来る前に助けに行くか否か。如何するか」
竹中重元が近寄ってくる。
「恐らく信長殿なら我等の考えを超えてくれるかと」
「あぁ、うん。何かそういう事はあるかもしれないが」
「今は何時でも動ける支度だけしておくべきかと」
「そうしよう」
2日後、日野にいたはずの信長が馬廻りと近習だけで現れた。
「後藤に加勢するぞ、義兄上」
本当フットワーク軽いな、お前。
【訂正】
史実と違い、薬で六角義賢正室の寿命が延び、継室が救われた世界線です。そのため2人の母親が別でかつ次男は生母が生きている分家督をどちらが継ぐかで内部に対立を抱えています。
三井寺はこのまま六角が攻められるのを座視していると潰されるのが分かっているので積極的です。




