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第206話 歴史がもたらす難敵 その5 織田信長の奇襲

木曜日は体調不良で投稿できず申し訳ありませんでした。

 伊勢国 羽津城


 日本でなぜ馬車が普及しなかったか。恐らく色々な理由はあるだろう。江戸時代をモデルにした時代劇で良く見るのは駕籠と呼ばれる2人で1人の人間を運ぶスタイル。今にして思えば非効率の極みだ。日本で馬車が利用されるようになったのは明治時代からだ。公家の間では牛車が現役ではあるが、戦乱の時代である現状牛車を維持できている人はほとんどいない。


 そんなわけで馬車だ。荷車部分は軽トラックの荷台部分に近い、あまり側面の衝立を高くしない形にした。風の抵抗で慣れていない馬が疲労しやすいからだ。衝立はあくまで大砲がぱっと見でわからない程度の高さになっている。

 そしてタイヤ。細いタイヤはゴム製の物をなんとか再現できた。とはいえゴムが硬いので弾力性で路面から守るというレベルにはちょっとなれていない。あくまで木のディスクとホイールにゴムが巻きついているだけだ。中に空気が入っている構造はちょっと再現できないかもしれない。グッタペルカ自体がそのタイプのタイヤを作れるかもわからない。だが四輪のタイヤでネジを使って組み立て、かつスプリングを組み込んだ(実はこのスプリングの位置が一番難しかった)馬車は現在の世界でも画期的と自信をもっていえる。


 馬車1台につき大砲1門と御者と大砲を動かす人間が乗り、それなりに軽快な速度で動く。少なくとも足軽の小走りに遅れることはない。ただし馬は2頭立て。街道整備の進んでいない他国で動く事も考えてあまり大きいサイズには作れなかった。5台のみの試験運用だ。それでも従来は地上では1日に徒歩2刻と同じ距離しか動けなかったのだから画期的の極みである。

 とはいえ移動式大砲の完成である。ついでに御者のみの兵糧・武具運搬用馬車も12台なんとか用意。100人の部隊が馬車17台に必要な物だけを載せて走って、走って、走ったことで蜂須賀小六・斎藤利三からの報告当日に大砲を現地に送りこめた。そのまま蜂須賀隊が包囲する羽津城を明朝に攻撃開始。驚いた敵に何も対策させないうちに大手門を破壊し、突入せんというところで城主の赤堀宗昌の正室が降伏を申し出てきた。この頃には竹中隊も現地に到着しており、4000に包囲されかけていた中実に素早い判断だった。

 竹中隊が俺の本隊を待つ間に蜂須賀小六・斎藤利三はそのまま南下し周辺の小城を無視して浜田城を馬車と強襲。この頃に織田と六角開戦の報が服部党から届き、俺は開戦に間に合わなかったと地団駄を踏んだ。

 とはいえ俺が羽津城に辿り着き、そのまま周辺の城に圧力をかけていると、全く俺の襲来を予想していなかった浜田城は大砲で本丸に大穴が空いただけで降伏した。こちらは準備ができていなさすぎて我先にと兵が逃げ出した結果、女子供と一部の将と側近しか残らなかったためだ。主力が織田との戦に参加し、兵力が名ばかりの寄せ集めで盗賊や野盗からは守れる程度でしかなかった城ではどうしようもなかったというわけだ。玉砕すらできない進軍の速さに諦めたらしい。若き当主の幼子と正室が人質となることを条件にあっさりと降伏した。最低限の武具を身に着け1日分の移動範囲を高速で動くという意味ではかなり良い成果と言えるだろう。これ以上の距離となると食料その他が不足してしまうので馬車の数と馬の数が足りないが。


 そして、両城が落ちたところで六角と織田の決戦の情報が届く。織田が負けて退いた。不味い。それは想定外だ。孤立しかねないかと不安がよぎる。

 一部が残っているとはいえ、桑名の北西には国人連合軍が残っているのだ。最悪挟撃されたら勝てない。


 急遽諸将を集めて話し合う。と言っても決断を急がなければ相手が攻めてきたら規模次第では危険だ。状況は理解している様で使者を送ると最前線に残る役目の斎藤利三以外がすぐに集まって来た。


「如何思う?」

「織田が如何程負けたかが知りたいですな」


 開口一番、そう俺に言ってきたのは竹中重元だ。情報を重視する姿勢といえる。それに続けて、佐藤忠能が口を開く。


「余り時間をかけていれば動きが取れなくなる。殿だけでも動ける様にして頂いては?」

「だが、俺だけ逃げても意味はないぞ。桑名の北西にいる国人の事もある」

「しかし、織田殿が負けた上、攻め手に回っている殿が破れれば一気に六角方に情勢が傾きかねませぬ」


 佐藤は俺の安全を第一に考えるので必然こういう考えになる。そういう立場の人間は必要だ。

 少し身を乗り出している小六だが、発言は一通り他の家臣が行ってからでないと序列的に出来ないので少しうずうずしている。

 竹中重元が再び口を開く。佐藤忠能との会話になる。


「相手に冷や水を浴びせた所で退く、というのも悪くは御座いませぬ」

「であろう」

「ですが、其れをするなら浜田の正室も連れて行く他ありますまい」

「……残せば、斬られような」

「左様。武家の女が敵に嫡子を差し出して逃げ出したとなれば本来許されざる事」

「殿の風聞に関わる。最悪殿が娶ってでも守らねばなりますまい」


 おいちょっと待て。それは嫌だぞ。しかも伊勢に俺の影響力が残る。それは織田にもよろしくない。


「其処を覚悟で退けるか、で御座いますな。六角相手に退かぬ姿勢で赤堀三家を呑み込む覚悟なら、御正室を当主代理にし六角の下にいる当主を討てば、後を織田に任せる事が出来まする」

「退けば後で殿が浜田を取り戻す必要がありましょうな」


 嫌だな、それは。


「此処で敵を迎え撃つ方向だな」

「となれば、此処で守りを固めねばなりますまい」

「火縄は馬車で運んである。硝石含め弾も十分だ」


 柵で守れば何とかなるかな、と思っていたところで服部党の1人がやって来た。戦を望遠鏡で見ていた観測員である。

 彼がもたらした情報には『六角側が竹の束で火縄の被害を減らしていた事』『死者は恐らく六角の方が多いが、織田側が先に退いた』『行軍続きで六角兵は疲労が溜まっている可能性が高い』というものだった。


「難しいな」

「直ぐには攻めて来なさそうでありますが、逆に此処に留まれば桑名を狙われるやも」

「小六、如何思う?」


 ここで蜂須賀小六に話を振ってみる。実際、彼が織田と六角の戦場に一番近い場所まで行っている。そういう空気感も大事な要素だ。


「遠目に火薬の臭いはしませんでしたが煙は良く見え申した。其れでも負けるとなると敵の火縄対策は万全かと」

「ふむ」


 竹の束は持ち物が増えるから動きが遅くなるのを尼子との戦で見てきた。大砲がある現状、大砲による攻撃なら竹の束でも効くだろうが大砲の数が少なすぎる。

 万一戦って負けると被害が大きくなりすぎるか。

 そんな色々なことを考えていると、竹中重元が声をかけてきた。


「殿、敵の立場で考える事も肝要かと」

「相手の立場、か」


 相手からすれば織田を撃退したは良いものの直後に赤堀三家の城が落とされたという報が入った。士気が上がるところで上がらない。疲労もかなり蓄積している。ここで動くか?

 動くなら文字通り絶対に負けられない戦いが続くことになる。動かないなら一息つくことにはなるが赤堀三家の兵が動揺する。一長一短だが大多数の将兵は休みたがるか。


「守りを固める。六角の将兵が無理を強いて聞くとは思えん」

「国人の力が強い弊害に御座いますな。一応桑名までの退路は調べておきまする」

「任せる」


 佐藤忠能は俺が決めれば従う程度には忠誠をもってくれている。小姓上がりの頼れる存在だ。


「大砲は馬車の支度はしつつ城に取り付ける。若し敵が接近してきたら先ずは其の妨害からだ」

「「はっ!!」」


 さて、この判断、吉と出るか凶と出るか。


 ♢


 3日がたった。六角軍に動きはない。桑名の国人側も動くに動けないようだ。3000弱とはいえ桑名にも兵がいる状況では国人連合で意思統一は無理だろう。

 こちらは城の周囲に防備を固めているが、定期的に妨害目的の騎馬が派遣されてくる。次の狙いはこちらで間違いないだろう。状況が不利にならないようにちょくちょくちょっかいをかけてくる。当然だが作業は中断の繰り返しだ。地味に効くのが厄介この上ない。


 連日服部党が情報を集めてくれているが、相手も藤林長門守が忍びを派遣しているらしい。たまに周辺で小競り合いになる。耳役もいる分こちらが負けたり逃したりは確認している限りないが、多少の情報漏れは覚悟してくれと言われた。お互い地元近くなので紛れ込むとわかりにくいらしい。相手にやられたこちら側の忍びも少なくないそうだ。


 物資は桑名経由で潤沢にくる。制海権も握っているので沿岸にいる限り問題はない。とはいえ何本も川がある関係でお互い大軍を動かしにくいので、動き出すタイミングが難しいところだろう。距離以上に渡河にいかに早く気づくかの勝負になりそうだ。


 ♢


 翌朝。雨がしとしとと降る中、未明といっていい時間帯に大慌ての小姓に起こされた。


「弾正忠様、夜半に六角軍を寡兵にて奇襲!六角左京大夫討ち取りまして御座います!」

「はぁ?」


 何やってるのあいつ。桶狭間かよ。

六角の動き、忍びの動き、色々な要素が絡み合って展開していきます。

そして盤面を全てひっくり返す信長の動き。次回、詳細が信長から語られます。

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― 新着の感想 ―
やはり信長、運も実力もある。果断の人ですね
[一言] オヤ?晴元に唆された義賢が先に退場⁉️
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