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第204話 歴史がもたらす難敵 その3 帝国主義的商圏争い

 伊勢国 桑名


 桑名の商人たちから大歓迎を受ける。軍勢は8000。織田軍も合わせれば12500程だ。六角氏が動員を開始した今、兵がいないのはそれはそれで心細かったのだろう。俺なら乱暴狼藉などしないという安心感もあるそうだ。


 伊勢北部は国人が細かく点在しているが、そのほとんどは六角についている。というのも反六角の国人は、数年前に時間をかけて家督相続前の左京大夫義賢殿が潰してしまったからだ。関氏や梅戸氏のように六角や家臣と血縁のある国人も多い。

 こちらについたのは神戸氏と伊勢中部の長野氏くらいだ。なので北伊勢の国人は協力して梅戸氏の居城・田光城と交通の要衝・梅戸城に集結し、六角氏の援軍まで耐えるという方針のようだ。

 その六角氏は南伊勢を攻めていた信長の軍勢を先に倒すべく南に兵を出すようだ。まぁ伊勢攻めの主力が信長なのは間違いないので、ここを倒さないと無理という判断なのだろう。信長が攻略を開始した親北畠でもある楠氏の救出を最優先とするらしい。

 北畠氏は援軍など出せる状況でもないし、筒井はこちらと連動して三好氏が河内へ大規模派兵をしたので余裕はない。ここまで来ると1つ大きく動かすのに色々な勢力が連動する必要があって何とも面倒な話である。


 今回は同行できない十兵衛光秀に代わり、代打として竹中重元と蜂須賀小六、そして佐藤忠能に斎藤利三(としみつ)という面々を迎えた。斎藤利三は堺で三好家臣の陪臣をしていた守護代斎藤氏(要するに本家斎藤である)の一族だ。しかし諸々の土岐一族の紛争もあって今更守護代を名乗るのも、ということで普通に故郷の美濃で働きたいと松永弾正久秀が先日来た時に連れて来た。美濃は今度芳賀兄弟に与えていた領地が空くので、そこを与える約束をしている。更に、父道三と十兵衛の密命を受けたある人物が大和入りして俺たちをサポートすることになっている。


「さて、桑名は押さえたが田光城と梅戸城を如何するか」

「近江への街道の要が梅戸の城。此処を我等が押さえれば優位に戦えるかと」


 発言したのは蜂須賀小六だ。息子に付けているとはいえ、初陣がまだなので年齢的に待ちわびていたそうだ。少し血気に逸っている気はする。


「織田の助け戦故、無理せず北勢の者共を引き付けるだけで良いのでは?」

「我等の土地は増えませぬから、の」


 消極的なのは佐藤忠能と竹中重元だ。佐藤忠能は戦場では何があるか分からないから殿は後方にいて下さい、と常日頃俺を後方に下げたがる男だ。今回も出来る限り俺を後方に居させたいのだろう。


「大砲も火縄も十分御座います。武威を織田に見せ、我等が対等であると改めて示すのも是かと」


 最後に最も新参の斎藤利三が発言する。仕え始めたばかりなので自分の活躍の場も欲しいが、あまり場の意見を新参の自分が左右したくないといった発言の仕方だ。


「実際、調べた限り北勢の衆は戦意が高くない」


 服部党は伊賀にいたので伝手がまだ残っている。そこから調べた限り、彼らはいわゆる『同調圧力』で集結した部分が大きい。関氏や梅戸氏・楠氏のような反織田色の強い国人の意見に引っ張られた形だ。そして何より彼らの考えているのは『最初に裏切って北勢国人の間で不義理扱いされたくない』というものだ。北勢では北方一揆とか北勢四十八家とか呼ばれる小領主が乱立している。巨大勢力である六角氏と協力するにせよ、伊勢中部から北部へ勢力を拡大しようとした長野氏と戦うにせよ、個々が別々に対応しようとしてもダメなのだ。だからこの地域では協調性が重んじられ、だからこそ簡単に寝返る事は許されない代わりに降伏するとなれば皆一斉に、ということになるわけだ。


「だが余程の事が無いと崩せない場所でもある。信長からも無理せずにと文が来ている」

「赤堀三家は町屋川の向こうで此方を窺いつつ、機を見て楠城を助ける心算の様子」


 町屋川は前世でいう員弁いなべ川だ。桑名の市街地や居住地を分断するように揖斐川と合流しているかららしい。この川を渡った先に城があるのが反織田・強硬派の赤堀三家と呼ばれる有力国人で、赤堀三家の城のすぐ南にあるのが楠城ということになる。つまり、南北から挟撃する形の俺と信長は結構近い距離にいるわけだ。そのため挟撃が成功すると戦線が崩壊するのを危惧した赤堀三家は織田が攻めている楠に援軍が出せないというわけ。結局楠氏の城は織田に完全包囲され、関氏も牽制に派遣された長野氏の軍勢に邪魔され身動きをとれない状況だ。六角氏の援軍が来ないと話にならないだろう。


「何時でも攻勢に出れる様支度しておけ。桑名の道を塞いでいるだけで、現状は六角の動員を遅らせるに十分だ」

「御意」


 最も整備された街道を結果的に塞ぐことができているのだ。ここは無理をすべきところではない。


 ♢


 六角を支援しようと大湊の町衆の一部が不穏な動きを見せたらしく、九鬼水軍が大湊の海上封鎖をしたらしい。封鎖と言っても往来する船舶に横付けして一部商人の荷物を通さないといった形式らしいが、これがかなり痛打となったらしい。不穏な動きに関与したとして蔵田紀伊守なる人物が大湊から追放された。彼は上杉(と呼ぶと北条は困るので長尾呼びを普段はしている)領の青苧の流通に関わっており、最近三河木綿が大規模に流通し始めた結果商売が芳しくなかったそうだ。同族が春日山周辺で商売をしているらしく、蔵田紀伊守は追放された一族と共にそちらに向かったそうだ。

 伊勢神宮の神人でもあった蔵田一族だが、今回の北畠・織田の戦争に巻き込まれたくない伊勢神宮は大湊追放と同時に蔵田紀伊守を神人から外した。今後青苧は手に入りにくくなるだろうが、その分織田が儲けることになるだけなので大きな問題はないだろう。


 織田の楠城攻めは予定より時間がかかったものの、六角軍の伊勢到着にはなんとか間に合った。楠木正成の末裔を名乗るだけあって城外で果敢に織田軍を妨害し、城攻めに集中できない状況を見事につくっていたらしい。しかし滝川一益が城門をこじ開けた結果、総崩れとなった楠氏は城外でゲリラ活動に徹していた嫡男を除き全滅したそうだ。

 織田軍は赤堀三家に圧力をかけつつ六角との決戦準備を進めている。こちらとしてもそろそろ動きたいところだ。


「六角軍は?」

「関にいた長野氏の軍勢が撤退するのに合わせるように北伊勢に入ったとの事」

「総勢は?」

「一万八千。京を新管領の細川藤賢に任せかなり大規模に動員した様子」


 関一族を先頭に蒲生・進藤・目賀田・山岡・平井・建部らを動員し、甲賀から山中・三雲、伊賀から藤林が合流しているらしい。万一の備えは両藤の片割れ後藤氏に任せているようだ。


「良し、此処で赤堀三家を攻める動きだけ見せよう。赤堀の合流を防ぐ」

「では、其の役目某に!」


 蜂須賀小六が不敵な笑い方で主張する。まぁ多少なりと戦を経験させて息子のサポートさせたいから良いのだけれどね。正直成功しても失敗しても人命さえ失わなければ問題ない。赤堀三家が決戦に参加できなければ良し。失敗しても新九郎にこの経験を生かして仕えてくれれば良し。


「内蔵助(利三)、小六の目付を頼む」

「御任せを」

「小六、如何動くかは任せるが、何かあれば内蔵助に従え」

「御期待に沿う様、全力を尽くす所存!」


 目付とはしているが斎藤利三を補佐にして基本的には蜂須賀に任せ、員弁川を越える動きに見えるようさせる。これで今回の俺の出来る事は終わりになるだろう。

 火縄銃も大砲もいつでも動かせる。織田が勝ち次第、一気に押し込むのだ。


色々な事情から織田から疎まれていた蔵田一族を追放し、大湊は織田との友好関係樹立を目指すことに。織田・斎藤・北条・三好経済圏に呑み込まれました。そして上杉との対立ポイント+1です。


地図を描く余裕が最近ないので申し訳ないのですが、尾張伊勢国境が揖斐川、そこに流れ込むのが町屋川こと員弁川です。これらで造られた川州地帯に斎藤軍はいます。守りにくいですが攻め手にも回りにくい地形です。まぁ本気で渡ろうとすれば対尼子のように色々手は打てるのですが、今回ここまでは無理をしない方針ですので。

地形関係は一応江戸時代以前の話で、現在は員弁川と揖斐川は分離しています。

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