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第183話 大内上洛阻止戦 その4 謀略渡河

木曜投稿は今週から復帰予定です。

途中三人称含みます。

 但馬国 豊岡


 豊岡で1ヶ月、睨み合いが続いた。


 正直に言うと動きたいが動けない状態が続いた。一色は但馬と丹後の国境で止まった。尼子が隠岐水軍を使って丹後を急襲する可能性も考えてだ。

 そして織田の軍勢のうち、平手政秀率いる隊は城崎防衛に残った。佐々兄弟も川沿いの支城を守るべく分かれている。


 豊岡には19000が、城崎には7000が在陣。城崎は塹壕もどきを掘らせて火縄銃で徹底的に補給路確保を重視した。

 信長は城崎防衛と豊岡の維持だけでなく八木や太田垣に対してこちらに寝返るよう交渉を始めた。相手は乗らない姿勢を見せているそうだが、そもそも交渉ができている時点で脈はあるだろう。使者が彼らの屋敷に出入りできているわけで、本気で尼子と心中する覚悟なら使者は斬られるか追い返されているはずだ。


「まぁ、奴等も交渉に応じねば領地が荒らされる訳だが」

「一度も目立った動きを見せない2000の遊兵が絶えず近辺を歩き回っているのは恐怖だな。」

「俺は何もしていないのだがな。何故怖がられるのか」


 言いながら信長の左ほほにはえくぼがくっきり。敵からすれば面倒この上ない。しかも動きが早く、八木と太田垣が大規模に兵を動かせばこちらの本隊が動くため相手は滅多なことはできない状況だ。交渉している時は本隊に戻るので、相手からすれば交渉に応じていた方が荒れずにすむというわけだ。


「で、次は如何する?」

「義兄上は?」

「質問に質問で返すな。だがまぁ、先ずは渡河準備だな」


 尼子と決戦になるなら渡河の手段は必須だ。砲火で相手を退かせても追撃できないのでは決定的な勝利はえられない。


「ふむ。義兄上がそう動くなら此方は因幡に手を出すか」

「当てはあるのか?」

「因幡に居ても武田や尼子に従いたい者のみでは無い。不満を持ちつつも尼子が強大故従っている者も居る。」

「其処を崩すか」

「崩せずとも、此方が手を出していると気付かせるだけでも大分変わる物よ。」


 信長曰く、狙うのは矢部吉茂という若桜わかさ城の城主だ。元々幕府の奉公衆にも名を連ね、鎌倉時代から因幡に根付く名門である。兵力で押し込まれたが、決して尼子に積極的に従っているわけではない。事実、播磨で親尼子だった宇野氏が攻められた時も援軍を送るのが遅くなり、結果的に宇野氏は領地を失って尼子の下に逃げ込んでいる。


「後は、鳥取に従って居らぬのに下に付けられた者達だな」

「というと、草刈と因幡毛利もか」

「特に草刈は安芸毛利と連携して尼子と戦っていた。大内の圧力とはいえ、尼子の、其れも裏切り者の武田高信に従えというのは本来呑めぬ話よ。」


 今回の尼子・大内同盟は様々な部分にひずみが出ている。それを両者の力でむりやり抑えつけている状態なのがよくわかる話だ。


「義兄上は義兄上の、俺は俺の為すべき事を為そう」

「そうだな」


 出来る限りこちらの犠牲を減らす。その上で敵を圧倒することが、戦による犠牲を減らす近道になる。そのために、困難な渡河をうまく進めるのは必須だ。


 ♢


 10日後。


 定期的に警戒に川岸に来る敵を確認しつつ、服部源兵衛保正の報告を受ける。


「では、3日に1度、見回りの回数が増えるのだな?」

「御意。夕刻に一度、騎馬の一隊が見回りに訪れる回数が増えまする。」

「良し。では其処を利用するとしよう」


 俺が報告を取り入れて真剣な顔で計画を練っていると、十兵衛が横から計画の内容について助言をくれる。


「殿、此処は敢えてもう少し上流で渡河を目指すべきかと」

「だが此処の方が川幅が狭いぞ?流れの速さは此の場合は気にせずとも良い。」

「此処は馬にとって都合の良い長さの草が多う御座います。万一見回りとは別に馬の餌となる草を集める者が居れば……」

「気付かれるか」

「恐らく。既に互いに陣取って長いので、馬の餌も心許ない頃合いかと。」

「ではそう変えよう」


 俺にない視点で直言してくれる十兵衛はありがたい。前に「我が身には 過ぎたる者が 二つあり 稲葉山城 明智十兵衛」と詠んだら、その時はいつも通り表情をほぼ変えなかったが後で軽くにやけていた。そう言えば石田三成ってどこにいるのかな?まぁ年齢的にまだ産まれていないか。父親も近江出身なのか?ゲームで見た覚えがないな。佐和山城は別にすごいものとは思わなかったが、これからすごくなるのか?


「では、殿の仰る通り造っている()で渡河を致しましょう。」

「頼んだ。仔細は任せる」


 もうすぐ完成する例のモノで、一気に勝負をかける。これは俺にしかできないことだから。


 ♢


 4日後。


 完成と予定の調整で、今日の決行となった。

 同時に城崎に相手の増援である尼子誠久(さねひさ)が到着したと報告が入った。誠久は現在新宮党の当主である尼子国久の嫡男で、新宮党をまとめている立場である。当然、彼は新宮党のほぼ全力にあたる6000を率いてきた。今も豊岡にいる新宮党と合わせれば11500になり、新宮党はほぼ全軍をこの戦線に投入した形になる。


「合流される前に渡河して敵を叩く」

「であるか、義兄上」

「兵を出してくれるか?」

「無論。権六と磯野を向かわせよう」


 かくして織田軍5000とうちの5500による共同作戦が始まった。


 ♢♢


 尼子敬久は城崎に援軍が到着したという報にわずかに安堵していた。

 警戒に兵を出し、支城から敵兵が攻めてこないかと緊張感を維持しなければならなかった。とはいえ歴戦の強者たる新宮党の一員。彼や将兵は落ち着きつつもその時を待っていた。


 しかし、次に入ってきた報告は、彼の望んだものではなかった。


「織田軍、斎藤軍が川岸に現れました!」


 彼が湯を飲むため持っていた碗が、ぴしりと音を立ててヒビ割れた。



 敬久は慌てて全軍に命令を出すと、織田と斎藤がそれぞれ渡河を目指して動き出したという2つの場所の片方へ馬で急行した。


 そこには斎藤軍2000と共に大型の何かがあった。


「何だ彼れは?」

「分かりませぬ。しかし、斎藤美濃守は南蛮や明の兵器を多用して居ります。恐らくですが。」

「新しい兵器か。ならば彼れで渡河を目指すか?」


 大型の何かは下に四つの車輪。そして折り畳まれた長い板状のスノコの様な物体。敬久に仕組みはわからなかったが、濠橋の様だと彼は思った。まさか対岸まで届くのかという疑問と、その大きさに(これは届くかもしれない)という一抹の不安が彼の中にうまれた。

 何より、彼等からすれば斎藤美濃守義龍という男は自分たちの知らない物を作る男というイメージがあった。だからこそ、彼等はその場で川岸の守りを固めるべく動きださざるをえなかった。


「気付いた隊は?」

「三日に一度のみ増やす隊に御座います」

「普段であれば気付く事が出来ぬ時分に兵を動かしたか。間違いあるまい!」

「如何致しますか?」

「火だ。火矢を使え」


 敬久は川岸で動く敵を渡河部隊と見定め、その妨害に全力を注ぐ様命じた。彼らはいわゆる架橋車――濠橋ごうきょうに見えるそれを壊すことを目指すこととなった。

 同様に、織田軍側の新宮党にも渡河兵器の妨害を命じた。



 そして、およそ15分後。

 火矢が雨の様に降り注ぎ、兵器にも少なからず突き刺さっていく。

 しかし、火がなかなか燃え上がらず、かけられた水で消火されていく。少しずつ近づく架橋車に、焦りを覚えつつも尼子の精鋭は簡単に折れない。


 すると、架橋車が川岸で止まる。いよいよ橋をかけようとしているとみた新宮党は、距離が短くなった分精鋭たちで一部を集中して狙わせることにした。大雑把に狙う兵と共に、少しずつ集中的に狙った場所が火の勢いを増す。


「行けるぞ!其処を狙え!」


 火の勢いとは加速度的に上がるものである。小さな種火を大きくするのには時間がかかるが、大きくなった火は燃料となる物さえあれば乗数的に拡大していく。

 この時も小さな火の段階で消されていた火と違い、拡大した火が架橋車を包むように次々と燃え上がった。


「良し!燃えた!燃えたぞ!」


 新宮党から歓声があがる。


「やった!初めて美濃守の策を破ったぞ!」

「行ける!勝てる!美濃守に勝てる!」


 夜の帳が下りようとする時刻になっていたが、彼らには関係なかった。ただただ、その勝利を噛みしめていて。




 ぼろぼろになりながらやって来た新宮党の兵に、全てを崩された。


「て、敵が黒い小舟で川岸を渡りました!我々の居ない地点から斎藤軍が渡河し、大軍を織田側に向かわせました!織田の渡河を防いでいた部隊が、側面からの攻撃に壊滅!」


 歓声が一瞬で静粛に変わる。少ししわがれた声で、尼子敬久は絞り出すように命令を出した。


「妙楽寺城に撤退する。援軍が来るまで、城を死守する。」


 ♢♢


 架橋車はハリボテだった。

 確かに上だけは可動可能にしていたが、橋の長さにはそもそも足りなかったのだ。


 大事なのは、俺の名前によるハッタリだった。俺の名前があり、そして大型の『何か』を用意した。これだけで相手はその『何か』に身構えねばならないのだ。

 今回は火矢によって燃やされた。2ヶ所とも。だから、この手はまだ使える。対処しなければならない手札として。


 そして、本命が動員に連れて来た船大工に造らせた小舟。これで大量に人員を運んだ。1ヶ月以上の間で、一色領の木材を陸路で運んで造船したことで、一気に勝負をかけた形だ。夕方の3日に1度しか回らない部隊に架橋車もどきを偶然に見せかけて発見させたことで、本命をこちらと見せることが出来たのは十兵衛の功績だ。


「増援も此れで豊岡に展開が難しくなった。織田の調略も捗るだろう。」

「但し、此方も平野を押さえるのは厳しいかと。背水で士気を守るのも難しゅう御座います。山間部から寡兵を送り込まれると犠牲が増えますので。」

「橋だけは通すか。暫くは攻めて来れまい」


 少しずつ、だが確実に俺たちが有利になっている。尼子晴久の狙いがわからない部分もある。油断はできないだろう。

はったり。効く時は凄まじい効果を示すもの。

空城の計しかり。成功すれば最高ですね。


今までの積み重ねがあるからこその今回の策。十兵衛の協力もあって成功しました。恐ろしいものですね。

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