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第171話 崩壊する越前、雪崩れ込む加賀 (上)

 近江国 東野山城


 織田は農兵の加勢を受け、北近江の安定化のためその兵を配備するのに一月をかけた。

 そして、満を持して織田信長率いる20000と我が斎藤軍の増援含む11000が東野山城に攻め込んだ。織田軍5000を琵琶湖と西部への備えとし、26000で敵の防衛線に乗り込んだ。


「で、義兄上。何故此程あっさりと城が落ちていくのだ?」

「俺にも分からん」

「相手は彼の朝倉宗滴であろう?」

「俺にも分からん」

「纏まりが無さ過ぎるし各砦も城も連携出来て居らぬぞ」

「俺にも分からん!」


 というかんじであっさりと東野山城の周囲にある支城や砦が数押しでドンドン落ちていく。しかもそれぞれの支城は連携もせず相互に助けあう事もほとんどないのだ。


 このまま突っ走っても良いのか、何か罠でも見落としていないかと信長と2人で逆に心配になっていると、朝倉から大物が投降してきた。前波まえば景定。朝倉家臣団の中でも譜代の有力な武将だ。息子や一族を総出で引き連れての降伏だったので、そのまま切れば遺恨も残らないだろうというレベルだったが重要な情報を持っていると言うので信長と共に会う事にした。


「で、前波殿。重大な報せとは何か?」

「ははっ。実は五日前、金吾様が陣中にて御倒れに為られたのです。」

「……成程。合点がいった。義兄上、朝倉は既に張子の虎に御座いますぞ。」


 組織立った動きには統率をとる司令官が不可欠だ。近江攻めでは織田の主導でうちは従う形だったし、これ以後の越前攻めでは俺が主導することになっている。朝倉は基本的にここまでの合戦では朝倉宗滴・武田信虎といった経験豊富な将が各方面を指揮していた。今回宗滴が倒れたことで、そういった人物が不在となったのだろう。宗滴が準備していた防衛システムも、彼の不在によって機能が失われたのだろう。


「うむ、真なら実に有意義な情報だ。其れを如何保証する?」

「保証?」

「其れを事実と示せる何かは無いか、という事だ」


 ぶっちゃけ、写真も動画もないこの時代にこんなことを言われても困るのは分かっている。大事なのは相手の降伏にあたっての誠意だ。


「我が嫡男の他に一族の女子も御預け致します。某も敦賀攻め迄先陣を務めまする。」

「ふむ。義兄上、此れならば一先ず其れを信じても良いのでは?」


 ほぼ一族総出でこちらに預けてきた。つまりここが前波景定の命の賭け所ということだ。こういう誠意がこの時代は好まれる。前世の感覚だと何とも言えないけれど、まぁ理解はできる。


「では先陣を阿閉あつじ貞征さだゆきと共に務めよ。混乱が収まらぬ内に東野山城を丸裸にする。」

「ははっ!」


 鵜呑みにしすぎてはいけないが、ある程度状況を説明できる情報が手に入ったわけだ。ならば積極的に攻めていく理由としては十分だ。


 ♢


 3日間積極的に各地の砦に出兵したところ、ついに降伏する砦が現れた。どうやら東野山城から入るはずの援軍がいつまでも来ないのに不信感を抱いたようだ。守将は宗滴が倒れたと降伏後に説明すると納得した様子だった。


 こうなるとドミノ倒しが起こる。各地に宗滴が倒れた情報を流し、降伏を促す。実際に予定されていたシステムが機能していないのは既に各地が理解しており、織田と協議の上本領安堵などで地元国人の取り込みも進める。左兵衛尉久政亡き今、彼らの抵抗は宗滴あってのものだ。その宗滴が(生死不明とはいえ)指揮がとれないのでは勝ち目はない。全力で土下座してくるわけだ。信長の下には嫡男の人質やら娘の人質やらが大量に集まっていく。

 そしてそれらの国人は本領安堵を確約してもらおうと先陣に続々と集まっていく。阿閉の下に大量の国人が配置され、東野山城が包囲された。といっても完全に山の中にある城なので、山を囲う様に兵を配置しただけである。


 夜。信長と軍議。織田の参加者は山本勘助・柴田権六・佐々政次・井伊直盛・阿閉貞征。こちらは明智十兵衛光秀・平井宮内卿・日根野兄弟・芳賀兄弟である。


「東野山城は包囲して居れば問題無いのでは?」


 井伊直盛が開口一番そう言った。彼は近江内での動員担当なので、兵糧が織田持ちなので包囲で仕事をしつつ戦わずに済ませたいという国人らしい魂胆だった。


「降伏した国人で一気に攻め落とすべきかと。力攻めで潰せば敦賀までの障害はもう殆ど在りませぬぞ!」

「然り然り。早く近江を安定化させ、敦賀まで攻め込むべきかと」


 積極論を展開するのは柴田権六やうちの日根野兄弟だ。戦好きらしい柴田とさっさと自分たちの所領が増える越前攻めに移りたい日根野兄弟と分かりやすい。


「勘助、如何か」

「殿、某で御座るか」

「他に其の名は居らぬ」

「十兵衛様や宮内卿様の様な御方が居る中で先に発言するのは」

「構わぬ構わぬ。若い者の意見を聞こう」

「某も織田の方々の御意見を伺いたいですな」


 うちの宮内卿と勘助で少し譲り合うが、最近の宮内卿は十兵衛に任せきりだ。致命的なミスがない限り何も口を挟まない。これも十兵衛を育てるためなのだろう。片足が悪い勘助は足が伸ばせる他より高い床几しょうぎ(椅子)に座っている。


「では、某は早々に潰すべきと存じます」

「理由は?」

「三つ。先ず、国人達が一所懸命の為にと働いて居りますが、我等の見ていない場所でも同じ様に働く保証が無い事。」

「手は抜かぬだろうが、今程我等に戦功を主張出来るか分からぬとなれば、か。続けよ。」

「次に、宗滴が真に倒れたなら此の短時間では城に逃がした可能性が高い事。宗滴を討てば此の戦は終わりで御座います。逆に宗滴の病状が回復して背後に居たら何をされるか分かりませぬ。」

「確かに、宗滴の首が獲れれば越前も終わりであろうな」

「最後に、近江の国人と管領や六角に苦戦する姿を此れ以上見せたく在りませぬ。宗滴の力とは言え、北近江に時間が掛かって居ります。侮られぬ為にも北近江の浅井領は可能な限り早く平定したく。」

「ふむ」


 勘助は理路整然と話す。場の諸将も唸っていたり頷いていたりと感心した様子だ。


「十兵衛、如何か」

「殿、某も後顧の憂いは絶つべきかと。ただし、宗滴不在の混乱の中で越前を放置するのも愚策と見ます。」

「では如何する?」

「先遣部隊を派遣しましょう。日根野兄弟と大久保兄弟、そして柴田殿ら織田の一部兵で北国街道を進軍させるのです。そして耳役から情報を集めます。」

「越前の動揺が見れるか」

「宗滴が敦賀方面に逃げて居れば何かしら情報が入るでしょう。居なければ必ずや其の影響が出て居ります。」


 耳役たちは長年越前で活動してきている。確かに現地の耳役は何かしら掴んでいるだろう。


「では、其れで如何だ?」

「此処からを決めるのは義兄上だ。良いと思うぞ!」

「では、国人を前面に出し護衛に使いつつ大砲で攻める」

「「応」」


 しかし、最近は俺でも知っている武将が増えてきて織田軍の層の厚さを感じるな。



 翌日から国人を先頭に山登りが始まった。大砲への備えからか石積みの土塁を用意していたあたり宗滴の入念な準備を感じたが、兵たちの士気が明らかに低い。名のある将が守っているのかも不明な状況だった。このあたりはうちの軍勢が来るのに対抗する為と各地の山間部に造られていた砦とほぼ変わらない。しばらく戦うと粘りがなく徐々に後退していく。大砲を撃ち込む必要すらない。


 大砲部隊からはほぼ付いて行っているだけと報告が来る。4日ほどで東野山城は山道を登り終え、虎口に到達した。ここで大砲を一気に撃ち込み、木造建造物を根こそぎ破壊。虎口の空堀をほぼ無力化し、一気に国人兵を雪崩れ込ませた。

 城自体はそこまで大きくないためか、それから3日保たずに城は落ちた。宗滴は周辺に急造された砦共々色々な準備をしていたようだが、ほとんどが不発に終わったのは何とも言えない。



 そして、先行した部隊から2つの情報が届いた。


「輿で秘かに運ばれた人物あり。恐らく宗滴は敦賀で治療を受けている模様。ただし敦賀の状況から指示を出せる体調とは思えない」

「加賀の本願寺勢が越前に乱入。長崎城・金地城が本願寺の手で落城し崩壊。総数は少なくとも七万」


 俺は斎藤全軍を先行させることを決めた。いくら九頭竜川沿いに砦を展開しているとはいえ、限界がある。早急に乗りこむ必要が出たのだ。先行させた部隊と、それを率いる平井宮内卿だけではひうち城との合流までは何とかなっても北部への援軍は無理だ。信長も処理の人員を削って兵を預けてくれた。やるしかない。

東野山城。本来は宗滴の防衛線の要になるはずの場所でしたが、宗滴が倒れたことで根底から計画が崩れて各個撃破されました。さすがにこうなると国人のドミノが発生しますね。

史実でも前波景定の二男は織田軍に降伏して朝倉の崩壊に大きな影響を与えています。


そしていよいよ動き出した加賀本願寺。朝倉への援軍では数的に本気を出していませんでしたが、浅井の崩壊を知っていよいよ本気で越前に乱入を開始します。

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