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第165話 団結と激戦

今日で投稿開始1周年でした(感想で書いていただいて気づきました)。

多くの方に読んでいただけて感謝しかない1年でした。次の1年も拙作をよろしくお願い致します。

 美濃国 稲葉山城


 収穫も終わり、北から少しずつ寒波が日本を覆いつつあったある日。

 丹後国から客人が来ていた。名を石川義行。一色氏の重臣で石川氏当主の息子である。


「珠光様との仲を取り持って下さり恐悦至極に存じまする。」

「大内殿に頼まれただけに御座います。珠光様は此度の件、御心痛に御座いましょう。御悔やみ申します。」

「御伝え致します。忝い」


 一色氏は室町幕府の名門だ。三管領四職と呼ばれた室町幕府の名家がある。三管領が細川・畠山・斯波。四職が赤松・山名・京極・一色である。これに今川と土岐が同格と見られていたのが室町時代だそうだ。現在では斯波が事実上織田に飲み込まれ、京極は佐々木六角氏が事実上その地位を継ぎ北近江守護の京極は織田が乗っ取った。今川は滅び土岐も事実上滅んで、赤松は播磨で元家臣である浦上氏と争い、山名は但馬と因幡以外をほぼ失った。一色も丹後を維持するのに精一杯なあたりに、室町幕府の衰退も重なる部分を感じる。


 そんな一色だが俺の畿内での影響力拡大に合わせ少しだけ盛り返した。亡き大内義隆様の娘珠光様を次期当主一色義道の正室に貰い、丹後守護として若狭武田氏から失地を取り戻していた。だが。


「後背を互いに守り合っていた山名氏が、尼子から受ける攻勢に押され気味でして。」

「尼子ですか。中国の雄、時折播磨まで手を伸ばしてきますね。」

「左様。大内義隆が討たれた事で、尼子領の西側の動きが鈍くなって居ります。其の為美作や因幡に大軍を送ってきて居りまして。」


 尼子氏当主の尼子晴久は、陶隆房が大内領内を纏めるべく奔走している間に因幡・美作への出兵を始めたらしい。美作の東端の後藤氏や因幡・但馬の山名氏はその圧力に徐々に押されているらしく、結果として一色氏は支援を受けられず孤立気味なのだとか。


「武田の後背を脅かすだけで良いのです。何とかしては頂けませぬか?」

「と、言われましても」

「浅井が滅べば武田は動けなくなりましょう。其れだけで良いのです。」


 必死だ。事前に調べた限り、尼子は最大で20000を東に送りこめる。それがもし山名を滅ぼし自分たちに来たら、と考えているのだろう。


「浅井はあと2年以内に滅びるでしょう。朝倉と共に。」

「其れ程時間を掛けずとも美濃守様ならば容易く滅ぼせるのでは?」

「加賀の一向一揆が居ります故」


 おそらく越前を手に入れると同時に一向一揆が越前に乱入してくるだろう。取らぬ狸の皮算用とはいうが、現実的に考えてそこまで意識した進行計画が必要となる。

 九頭竜川沿いの砦も理由の1つは対一向一揆の最終防衛ラインという意味がある。越前に侵入されても九頭竜川以南には侵入させないための防衛ラインを今の段階から準備しているわけだ。


「来年中に、何とか成りませぬか?」

「来年、ですか」

「尼子の動きは早すぎまする。まるで大内義隆の死を知っていたかの様に。」


 大寧寺の変を知っていた?ありえるのか、そんな事が?

 尼子が裏で糸を引いていた?陶を前々から尼子が監視していた?まさか他にも転生者がいたか現れた?

 大内義隆の死は9月15日。陶の挙兵は9月4日だ。日付まで見たことがあれば史実とのズレがあるかわかるのだが、残念ながらわからない。


「尼子の攻勢は9月末には始まり、因幡の天神山城を攻めているとの事。動員はもっと早かったそうで、如何考えても怪しいので御座います。」

「陶の動員に呼応したにしても早いですな。何かが在ったのは間違いないでしょう。」


 とはいえ、今こちらが出来る事はない。予定が早まるとすれば宗滴が死ぬとか、そういう大きな出来事でもないと厳しいだろう。


「織田殿と出来る限り早く進められる様には話しましょう。其れ以上は。」

「忝い。今は僅かでも希望が在れば」


 よくよく考えれば一色氏は東に若狭の武田氏、南に波多野氏がいて、西で同盟している山名氏は西から尼子に攻められているわけで。2家で孤立している状況なのによく味方を続けてくれているといった状況だろう。


「其れと、友好の証に一族を一人御預けしたいのですが。」

「一族、ですか?」

「左様。伊久知城を治める叔父の養子となった我が弟の秀門に御座います。」


 あぁ、つまり、いざという時の保険と美濃での一色友好窓口担当か。割と本気で切羽詰まっているということだろう。


「分かりました。御預かりしましょう。」

「忝い。如何様にも御使い下され」


 こういうの、断れないのが俺の弱いところかもしれない。


 ♢


 美濃国 大垣城


 石灰の採掘現場の見回りをかねて、近江と美濃の国境付近の大垣城で弾正忠信秀殿を迎えた。


「九鬼殿は見事北畠に勝利したそうで。おめでとう御座います。」

「其の勝利の決め手は貴殿がもたらした安宅あたけ船であろうに。」


 大阪の博物館で見た現代までの船の歴史で出てきた安宅船を現在の織田の水軍は所有している。菱垣廻船と一緒に北陸側にうちが拠点を得たら職人を派遣してもらう対価として渡した技術だが、おかげで織田が支援していた九鬼氏が北畠の連合水軍に勝利したらしい。当主の九鬼定隆はその勢いに乗って甲賀こうか国符こうの水軍を滅ぼしたらしい。


「東海道や畿内への水運では試験的に六分儀とやらの利用を始めている。余り必要ないがな。」

「何れ必ず必要になりましょう。我等が自らの力で琉球や蝦夷に向かう為に。」

「確かに、自らの力で琉球や明へ行ければ利も其れだけ増えよう。」


 六分儀は工作教室で一時期やっていたそうで、修学旅行で訪ねた際に理系クラスだった俺は試作品を見せられていたので再現できた。あの時の学芸員さんには感謝したい。最終的には外洋に出られる能力を身に付けるためにも、今は六分儀が扱える人間が必要だろう。コンパスも磁鉄鉱が安定して加工できるようになり次第量産したいところだ。


「で、近江と堺で集めた情報だがな」

「押されて居ますか、三好は」

「であるな。傍目には負けて居らぬ故何とか兵は集まって居るが、商人は目敏い。証文の値が少しずつ下がっている。」

「三好が大金を使い続けて居るのに気付いて居る、という事でしょう。」

「其れでも其方が支援して居る故、大崩れはして居らぬがな。だが何か在れば流れが変わりかねんぞ。」

「やはり帝に和睦の斡旋を願いましょう。筒井だけでも止めて、北畠は九鬼支援で手を出せぬ様に。」

「畿内の販路は莫大な利を我等に齎す。捨てる理由は無いな。近江介が得られるならわしらに損は無い。」

「頼みます」

「其れと、陶の暴挙を止めるべく朝廷に働きかけて彼の者を朝敵にします。支援する者を許さず、朝廷権威の低下も防がねば。」


 譲位の資金作りにもなる。両方やって朝廷との関係は密にしたい。三条の娘を自分の子の正室にするのだ。これくらいしないと体面が悪い。


「後、六角と三好から公方様の婚姻相手を如何するかという相談が来て居ます。」

「わしは会った事が無いが、前の公方様は近衛家と近い仲だった故、正室も近衛であったな。」

「近衛様は今も前公方と共に大津に逃げた儘京には戻って居ません。」


 元関白近衛稙家様は藤原一族随一の名家の長だが、前公方足利義晴様の正室に妹がなっていたし現公方足利義藤様が近衛の猶子ゆうしとなっていたため足利氏と関係が深い。亡き義晴様は特に関係が深かったので大津下向にもほぼ毎回付き合っていた。

 今は義藤様が京にいて、義晴様も亡くなったので戻って来て良いのだが、管領細川晴元様が手放さないのか本人がばつが悪いのか戻ってこないで大津にいるらしい。


「近衛家が正室を出すと息巻いて居ましたが、今の状況では出せませんね。」

「公方様の格に見合う、かつ幕府健在と示せる御相手が良いのだが。」

「居るのでしょうか、其の様な」


 ハードル高い気がするのだけれど。


「日野、くらいか」

「日野?というと、日野富子の」

「左様」


 実は日野富子に代表される日野家は足利幕府とかなり緊密で、何人も将軍家の正室を輩出しているらしい。日野富子はあくまでその1人でしかないのだとか。足利義視にも日野富子の妹が嫁いでいるとか。応仁の乱の原因という話を前世で聞いた事があったが、少なくとも俺の周りに今そういう意見の人間はいない。そういう伝聞はないらしい。


「ですが、日野の家は今跡継ぎ不在で困って居るくらいですよ。」

「大納言様か。確か娘が居たな。住吉の神主に嫁いで居た筈。」


 急いで調べさせると、先日娘が産まれたという事だった。


「いやいや、此の手は使えませぬよ」

「ううむ。名門日野も零落おちぶれる戦乱の世か。」

「少し伝手を辿りつつ考えましょう。公方様の婚姻相手は其の儘幕府の命脈に繋がります故。」


 婚姻相手からアプローチして三好の援護という手もある。色々考えておかなくてはなるまい。

 

ちょっとだけ室町幕府の色々が語られる回です。栄枯盛衰を感じて頂ければ幕府の末期感もわかるかなと思います。後ろ盾になっていた一族がことごとく良い状況ではないのがこの時代の足利氏の状況に反映されているというか、後ろ盾が失われていったことで足利氏が弱体化したというか。


明言しますが、【本作では転生・転移などは主人公のみ】です。主人公は自分がいるなら他にもいるのでは、と勘繰っていますが、尼子の行動関連はきちんと主人公の行動の結果から生じた違いです。


石川秀門。調べると面白い人です。石川氏は本家と伝わる家が複数あってちょっと不思議です。本作では本家筋を石川義行、分家筋を石川秀廉・秀門にしています。

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