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第128話 斎藤美濃守の上洛 その1 斎藤美濃守

今回は武家としての畿内編です。木沢長政の時以来となります。

 美濃国 稲葉山城


 年が明けた。1547(天文15)年だ。


 従三位持明院基規様は混乱の畿内を悠然と通過して美濃に来られた。南近江に若狭から兵が乱入した結果混乱が増した現在では流石に同じ方法は取れないだろうが。

 そんな彼の第一声は、


「典薬頭、鰻だ。鰻を此の頭でっかちに食わせるのだ!」

 だった。同行していたのは関白も務めた二条尹房様。

「鰻など幾ら体に良いと言われても食べる物では在るまい。其れよりも鵜飼いの鮎を楽しみに来た故、其れを用意致せ。」

「ほれ、此の男は何も分かって居らぬ!典薬頭、鰻だ!鰻の蒲焼きで此の頭の固い男を目覚めさせるのだ!」


 いつもより感情的だと思ったら、どうやらかなりの昔馴染みらしい。


「ほほほ。年は此奴の方が若いが同じ年に従四位下になったでな。昔は良く揶揄って居たのよ。」

「家格の違いを気にせぬ方で厄介此の上無かったの。」

「ほほほ。当時は摂関家も何も関係なく皆貧乏であったからの。」

「其れでも我らはまだ大丈夫だったがな。今も公家は苦しい。典薬頭の様な尊王の心を持つ者が増えれば良いが。」


 今は京を細川氏綱方が支配している。京の民は特別何も生活が変わらずに過ごせているそうだが、特定の大名家に支援されていた公家の中には支援が止まって苦しい家もあるそうだ。


「其れと、美濃守就任目出度い事よ。恐らく京が落ち着かねば帰れぬ故、其方にも手伝って貰いたい。」

「畏れ多い事に御座います。今後も一層励みます。」

「期待して居る故、励めよ。」


 二条様はこの後丹後の一色領に向かいたいそうだが、若狭の武田氏が氏綱方に寝返って兵を動かしている為動くに動けないらしい。

 大内の姫である珠光様と一色の跡継ぎ一色義道の婚姻に向けた交渉を任されているだけに、早めに丹後まで行きたいという。


「頼むぞ。其方と弾正忠が動かねば京も取り戻せぬ。」

「御意」


 結局俺も動かないといけない。仕方ないことではある。


 朽木は結局籠城して応援を待つ態勢だ。他の高島七頭たちも中途半端に手が出せず浅井も支援をする気は無いらしい。

 まぁどちらかというと朝倉を通じて浅井は若狭武田に協力的な立場だ。管領が彼らを撃退でもしない限り現状維持だろう。


 そして六角氏は本願寺門徒を抑えるので手一杯。公方様とその子菊童丸様は比叡山の庇護の下坂本にいるが、能登畠山と加賀本願寺の兵が接近しつつあるため隠居した弾正定頼様が坂本入りし指揮を執っているそうだ。この軍勢をいかに大津に入れずに済ませるかが現在のターニングポイントのようだ。


 つまり、俺は近江に兵を率いて行くことに決まったわけだ。


 ♢


 尾張国 津島


 上洛すべく兵をまとめた。戦火の爪痕は残っているので今回は4000が限界だった。父と叔父に後を任せて津島経由で伊勢から近江へ向かう。


 津島では弾正忠信秀殿が俺を待っていた。

 先の戦で弾正忠家は長島願証寺のトップである証恵しょうえを生け捕りにしており、長島には大和守信友が逃げ込んでいる。


「長島の者共は沈黙したままよ。恐らく邪魔立てして来る事はあるまいし出来まい。」

「大和守についてはお尋ねに?」

「無論。証恵の処遇も如何すべきか文を出して居る。だが返事は無い。」

「証恵は長島では如何いった者達に支持されていたので?」

「我らに一番敵対的な者達では無い。一番血の気の多いのは早いうちに服部と共に討った。」


 荷ノ上の服部党。彼らは既に三河で討死している。消極的な人々を率いていたらそもそも今回の合戦で長島の外には出てこないだろう。

 とすると、


「其れ相応に強硬な者達ですか。戦の経験は少なそうですね。」

「戦とは何かを知らず只我らへの敵愾心のみで戦に加わったとしたら……最早不憫よな。」

「多くの仲間が討たれ、或いは捕まったことで冷静に成った者達ですか。恐らく内部では責められて居ましょう。」

「指導的な立場の者がほぼ居らぬ今、長島は流れで籠城以外選べぬのやも知れぬな。証恵と大和守を交換しても良いと伝えても此れでは、な。」


 面倒な話よ、と小さく溜息を漏らす弾正忠信秀殿。


 最悪指導者不在の長島を全滅に近い形で潰さざるを得ない彼にわずかに同情していると、津島の町はずれから伝令が大急ぎでやってきた。


「三郎様が遠州の兵を連れて到着されました。」

「至急来る様伝えよ。気付いて居ろうが典薬頭……っと、美濃守殿がお待ち故な。」

「はっ!」


 どうやら今後武家として動く限り俺は美濃守と呼ばれるらしい。三郎信長は俺と一緒に畿内へ向かう予定である。


「長島攻めは尾張・三河の兵を中心に進める。既に尾張は落ち着きを取り戻しつつある故な。遠江の兵で三郎の周りを固める。」

「此方としても有難い話です。美濃だけでは如何しても出せる兵の数に限りが御座いますので。」

「長島と同時故数は多くないが、義弟故精々使って下され。彼れも遠江では妾を押し付けられそうでうんざりしていた故。」

「妾?」

「うむ。井伊の娘が歳が近い故頼まれて居る。他にも吉良持広の娘やら菅沼定村の娘やらが嫁ぎたいと言って居る。吉良は先日の戦で三郎に事実上滅ぼされた。名ばかりの当主は続いて居るが、家臣が何時潰されるか分からぬと危機感を抱いて居るそうだ。」


 そこに、信長がやって来る。


「父上、嫁は蝶で充分ぞ。毎晩毎晩夜遅くまで敵わぬ。」

「ほう、惚気か。愛されて居るではないか。」

「何がだ。閨を共にする初日から毎晩毎晩義兄上の絵本を読まさせられて、此方は堪らぬぞ。」


 おい、何やっているんだ蝶は。


「良き夫婦とは何かを描いて義兄上が蝶に渡した絵本はもう中身を読まずとも朗読出来るわ。」

「其れは……何というか、すまぬな。」

「まぁ、疲れて帰ると義兄上直伝の按摩あんまをしてくれる故、其れは楽しんで居るぞ!」


 なんだよ結局惚気かよ。


 ちなみに、典薬頭は按摩師、つまりマッサージ師の統轄もしている部署だ。俺自身はリハビリ関係で少しかじった程度しか知識はないが、按摩専門の技師は有名無実でほぼ居なかった。なので基本的な概念を豊に教え、女性の按摩師を育成中だ。

 別にいかがわしいサービスはしていない。しかし医師をやろうという女性は少ないが看護師と按摩師は結構希望する人間がいる。男性と出会える機会が多いのが理由だ。

 未亡人で再婚率が一番高いのは按摩師である。……だからいかがわしいことはさせていないぞ。


「という感じでな。此奴は未だ夫婦というより友に近い状況故、敢えて妾を入れて早く子を作らせようかとも思ったのだが。」

「父上、蝶はまだ体が細すぎまする。もう暫し育つのを待つべきです。」


 まぁ、蝶は満年齢でまだ12歳だ。子供を産むには辛いのも事実だろう。初潮自体は昨年中に終わっていると小見の方は言っていたが。


「最近は少し服の上からも育ってきて居るのが分かって来て居ります。もう少しです。」

「何を申すか。青さを愉しむのもまた今しか出来ぬ事ぞ。」

「妹の事で義父殿がそういう会話をするのは凄く何とも言えぬ気分になるのですが。」

「そうは言うがな美濃守殿。女子は青さと瑞々しさとふくよかさを三度味わうのが最上ぞ。」

「いーや父上は分かって居らぬ!柔らかさこそ女子の素晴らしき部分ですぞ!蝶も時々腕など触れると男には無い柔らかさが有りまする。」

「何だこのマセガキ。」


 気付いたら大分色気づきおって。


「そういう義兄上もかなり好き者だと伺って居りますぞ。」

「ほう、つまり我らと同じだと?」


 戦国時代も変態しかいないのか。乳談義なんてこんな兵隊率いた状態でする気ないぞ。


「では今度じっくりと語り合おうでは無いか、尻の良さをな。」

「うむうむ、義兄上とは肚を割って語り合いたいものだ。」

「巫山戯るな最高なのは乳だ其処に直れ乳の素晴らしさを教えてやる。」



 この後、一晩かけて俺達は三人でかつてない激論を交わすのだった。


按摩の表現に差別的な意味合いはありません。当時の表現として利用しております。


歴史の変化で二条様が美濃に来ていたりと少しずつ中国地方などにも史実との変化が出ています。

信長は立場上側室候補が大挙して押し寄せるのも無理はないですね。

井伊の娘……一体誰虎なんだ……(白々しい)。まぁこの世界だと男っぽい名前も名乗らずすみそうではあります。

吉良持広の娘は吉良義安の側室らしいのですが詳細ちょっと不明。養子入りの時室にしたとすれば側室なのは変だし正室の清康の娘との関係がおかしくなる。というわけで今作では子どもの生まれた時期から三河復帰後に婚姻するはずが濃尾大乱で吉良氏が力を失ったので織田との関係強化に織田に嫁に出されそうということにしました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エロトーーーーーーク!!
[一言] 歴史モノで偉人達と猥談する作品ってあまり見たことないので新鮮w
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