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第119話 濃尾大乱 その5 対峙への足場固め

 美濃国 烏峰うみね


 弾正忠家の情報が入って来た。信長は順調に各地を鎮圧しているらしい。


 我々も順調だ。城の主が大桑にいるために守りらしい守りのなかった相羽城や、村山氏の居館を押さえた。

 逆に彼らが合流した大桑には総勢3000が集まった。父道三のみでは少し心許ないため制圧した各地に兵を置いて2000で帰還した。


 父の兵と合わせ5000を動員できる状況を作った上で、まずは久々利頼興が簒奪した烏峰城を攻める事にした。

 城の前で妻木殿の軍勢と合流。妻木殿は弾正忠家の動向を確認しなければ奥三河と領地が近い関係で兵が出せない。

 彼が兵を出せたという事は、既に三河の平定はほぼ終わったということだ。


「朝倉勢は被害が大き過ぎて大混乱を起こして居るそうな。東殿が陽動の敵部隊を追撃するフリをしただけで逃げ出したとか。流石典薬頭殿。」

「久々利も戦の結果を聞いて城に閉じ籠ってしまいました。我々としては僥倖と言わざるを得ません。」


 大桑で逃げる際に親族を討たれたという妻木殿は久々利も二郎サマも許す気はないと言いきっている。

 多くの国人を敵に回して、二郎サマはどんな国をつくろうとしていたのだろうか。


 ♢


 先陣を任せるのは奥田七郎五郎利直。敵は城内に籠り、散発的に弓矢を放ってくるだけだ。

 山城で段々の石垣も備えている関係から力攻めは基本的に難しい城だ。しかしそれは組織的な防衛ができれば、という前提である。


「青備え、前へ!!」

「応っ!!」


 常備兵の青に染めた鎧で統一された部隊が前に出る。それだけで、明確に相手が怯むのを望遠鏡から確認する。


 火縄銃による朝倉軍相手の大勝利は「典薬頭の青備え」として瞬く間に美濃中に知れ渡った。ほぼ同数の相手に片手で数えられる程の損害で大勝したシンボルとして、多くの人々に敬われ畏れられているのだ。

 100丁の火縄銃が一斉に城に向かって撃ち込まれる。ただそれだけで、敵の兵は首を竦めて顔を出さなくなる。


 奥田七郎五郎の突撃は本来であれば無謀だが、今の勢いならいけると十兵衛光秀と平井宮内卿が判断した。結果は一目瞭然だ。


「奥田七郎五郎、一番乗り!!」


 野太い声と共に歓声が前線から響いてくる。城門が破壊され、あっという間に青鎧の兵たちが雪崩を打って門をくぐり城内へ駆け込んでいく。

 隣に来た平井宮内卿が笑顔で望遠鏡を覗き込む。


「勝負は決まり申した。前線を指揮する久々利の一族が討ち取れれば城内の兵も続々と降伏致しましょう。」

「出来れば包囲された時点で諦めて欲しかったが。」

「一戦して形だけでも抵抗を見せてから降る交渉をしたかったのでしょうが、我らの強さが広まるのが早すぎたということでしょう。」


 と言いつつも計画通りといった顔つきなのは、父が予め手を回していた証左だろう。火縄銃の恐怖や青備えのことをあることないこと吹聴したに違いない。


「まぁ、情報で敵の抵抗が減り戦が早く終わるなら別に構わぬよ。遣り過ぎなければ。」

「大殿も其の位は分かって居られるかと。」


 美濃国内でまともに兵が動かせる敵はこの城くらいだ。他の戦力は既に大桑に集まっている。

 ここが終われば内部に呼応する勢力が出ないように兵を割く必要は無くなる。父が目を光らせていればそうそう動けはしない。


「一日で城を丸裸にせよ。夜中は大音量で例の拡声器を使い、降伏を呼びかけ続けろ。」

「はっ!」


 側にいた兵に銅製のメガホンの準備を伝える。本当は電子メガホンが理想だが、そもそも電気関係はまだまだ殆ど手が付けられていない。

 声の雰囲気が銅製だと変わってしまうものの、敵に大音量を聞かせるという目的なのだから今回は問題ないと判断して持って来た。


 一日で終わる合戦とは違い城攻めは根気が必要だ。相手が敵わないと思うかこちらが城を完全に落とさないと終わらない。

 こちらは早くこの城を落として二郎サマと決着を付けたいのだ。時間はとられたくない。



 その日は夕方に久々利一門の武将を討ち取ったところで終わりとした。多くの降伏した兵を運ぶ必要もあって城攻めを続ける余裕がなかったのだ。

 見張りの兵と共に武装を解除させ、分散して監視下に置く。平井宮内卿に「埋伏の毒が在れば一大事」と言われれば納得せざるをえない。内側から騒がれるのが一番困るのだ。


 こちらの兵は交代しながら夜通し大音量で降伏を促す声を叫ばせ、数回火縄銃を発射して響かせた。


 翌日の未明、朝靄が現れ警戒する我らの前に、城内まで靄が立ち込めた隙をついて逃げ込んできた農兵が武器を投げ捨てながら降伏してきた。

 靄が晴れた頃には城内の兵は昨日の半数に減っていたらしく、こちらが攻めかかる前に守将の1人が降伏して門を開けた。本丸のある郭への道が開けたことで観念した者が続々と降る中、昼過ぎに久々利頼興本人が妻子と共に白装束で降伏してきた。



 連行されてきた久々利頼興はやや震えながらも毅然とした態度で、妻子の助命を願い出てきた。

 斎藤正義殿の子息は一部除いて討たれていた。こちらもただ受け入れては示しがつかぬという事で、嫡男で元服直後の子は打ち首となった。他の子供は全員稲葉山周辺の寺に預けられた。妻は近場の寺で菩提を弔うそうだ。


 個人的には嫡男も助けたかった命だが、それでは斎藤殿の一族が許せない。前世でいう死刑判決の連座だ。法整備の中で憎しみの連鎖を断てるシステムを作らないといけないと強く感じた。


 ♢

 

 美濃国 大桑城外 山県


 久々利を討った後、北部の国人も続々と参集し烏峰で合流。加治田の佐藤殿に烏峰の城を任せ、集まった兵と共に大桑城外を目指した。父の軍勢も吸収し城外で陣幕を張っている二郎サマの軍勢の元へ向かった。


 長良川の支流である鳥羽川を北上すると、やや開けた場所に二郎様の土岐家紋を掲げた部隊が布陣していた。

 輿に乗った父が自分の近くに寄ってくる。


「お前が指揮せよ。お前が、彼の男に引導を渡すのだ。お前が超えなくてはならぬのだ。」

「其れは、国人たちが誰を国主と思うかお分かりで仰っているので?」

「わしは、国を獲りたい。が、わしでは国は守れなかったし育てられなかっただろう。わしは国を奪う事迄しか見て居らなんだ。違うな。国を獲れば何とか成ると楽観していた。お前の様に、天下迄は見て居らぬ。故に表に立つのはお前が良いのだ。」


 だから今回だけはお前が全てを指揮せよ。そう言って父は後ろに下がっていった。


 目の前の敵陣を見る。

 望遠鏡で覗いた限り、決して士気は高くないだろう。


 兵数は3500。こちらの兵数は8000。やや狭くなる地形は戦場を限定しているため数の差がそこまで生かせるわけではないが、かといって後れを取る事はないだろう。


 十兵衛がじっとこっちを見ている。いつも通り冷静そのものといった表情だが、わずかに緊張の色が見える。

 平井宮内卿はただそんな十兵衛という教え子を微笑ましそうに見ているだけだ。


「十兵衛、布陣を決めよ!戦の方針を任せる!」

「御意!!」

「俺が、俺の手で、土岐二郎頼栄を、倒す!!」


 さぁ、長き決着をつけよう、二郎サマ!!

次回、対二郎サマ開戦!



【追記】

頑張って土日更新で一気にクライマックスを書きたいと思っています。

金曜22時までに活動報告で投稿できるかお知らせします。

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