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TS娘とおまじない  作者: 千佳のういろう
31/62

31話「匂い」

 何故かやたらと焦った様子で水瀬は自分の家へと帰っていった。昨日の誘い方はやや強引ではあったと自分でも思うが、それでもあんなに気にするような事だろうか?


 友達だって言ってきたのは水瀬の方からなのに、友達っぽい事をしようとすると乗ってくれないってのは人としてどうなのか。悪い提案をしてる訳でもないのにあんなに断固断られたら悲しくなるっつの。まったく。


 俺は余った麻婆豆腐を食い終え、食器を洗い、体が動かせなかった間に溜まったゴミを纏めたり部屋の掃除をしたりする。


 10分で飽きた。やめやめ。掃除機を止める。



「洗濯機は回すか」



 必要最低限の事はやっておこうと思い、俺は洗濯機の元まで行って洗濯の準備をする。



「……あっ、アイツが着てたやつだ」



 洗濯機がゴトゴト鳴っている間、座ってスマホをいじろうとしたら畳まれたオーバーサイズのセットアップが目に入った。水瀬が制服に着替えるまでずっと身に付けていた服だ。



「わざわざ畳んで邪魔にならず分かりやすい所に置いておくとか、育ちよすぎるだろ」



 まあ気付かずにそのまま洗濯機を回してしまったのだが。


 水瀬を引き取りその後の養育までしていた水瀬の叔母さんの株が上がる。子供の頃から一貫して良い人なんだよな、あの人。そりゃ水瀬も光堕ちするわけだ。



「温かい……」



 水瀬の着ていた服を手に持つと、彼の温もりが手に伝わった。


 俺は水瀬が着ていたセットアップの上の匂いを嗅ぐ。ちゃんと水瀬の匂いがする。


 ……なんか癖になる良い匂いだ。結構汗とか気にしてたし清潔にしてたもんな。食い物とかにも気を使ってるのかな、なんか落ち着く良い匂いする。



「……俺、変態みたいじゃね?」



 行動を取ってから気付いた。泊まりに来ていた客の来ていた服の匂いを嗅ぐって相当歪んだ性癖持ってる人みたいじゃない?


 ……いや、まあでも良い匂いなのは事実なわけだし別に良いよな。これで臭かったら悪臭フェチとかコアすぎる属性つくけど、別に悪臭じゃないもん。いい匂いなら嗅ぎたくなるよな。



「……すーーーっ」



 誰も見てないし、咎められもしないから別にいいよね。俺は思い切り匂いを嗅ぐ為、手と顔でその服を挟み深呼吸をした。



「…………ッ」



 え、まじで良い匂いするんだが。なにこれ、柔らかくてふわふわする匂いする。めっちゃ好きなんだけどこの匂い、なんなん??



「……っ」



 朝起きた時を思い出す。あの時も、寝ている間に寝返りを打ったせいですぐ目の前に水瀬の背中があって、いい匂いがしたんだよな。


 ……なんか、ずっと嗅いでいたい。


 誰も見てないけど、背徳感が襲ってきたので周囲をチラチラ見てしまう。鏡に反射した自分以外に人影は無い、当たり前である。


 パーカーを脱いで、一度ブラだけの姿になって水瀬の着ていた前チャックの服を着た。



「人に変態って言うくせに、これは相当終わってるよな……」



 水瀬の着ていた服を着て、水瀬の匂いに包まれている。ひえー、なんか、変な感じする。アイツは男女がどうとか喋ってたけど、こんな所見られたら絶対に友情破綻するな……。


 そのまま勢いで水瀬の穿いていたズボンの方に匂いを嗅いだらこれまたいい匂いがした。……なんか、頭がボーッとする。


 しばらく匂いを嗅いでいたら洗濯機が止まったので、変態行為は中断して中身を別のカゴに移しベランダに移動する。濡れた洗濯物を伸ばして干して、洗濯機の所まで戻り今度は下着を洗濯する為にネットに入れる。



「あっ、アイツの下着……」



 そういえば、男物の下着もネットに入れるのかと思って別の所に置いていたんだった。……俺のと一緒に洗うのは少し抵抗があるが、まあ面倒だし。別に一緒でいいかな。



「……」



 やめておけ。そう自分に言い聞かせてはいた。


 下着の匂いを嗅ぐのは流石に度が過ぎた異常性癖持ちだと自負せざるを得なくなる。普通にキツすぎる、そう自分でも思っていた。


 実際、「異性の下着の匂いを嗅ぐのは好きなんです」なんて人が居たら、俺はそいつに異常者認定を下すだろうし、ドン引きすると思う。ドン引きすると思っているのに、今俺は、水瀬の穿いていたボクサーパンツを摘んで顔の前に持ってきていた。


 ……これは、墓まで持ってく秘密にしよう。そう思い、ゆっくり鼻にボクサーを近付ける。



「……?」



 あれ、思ったより臭くない。一日穿いていたパンツなのに、小便臭さも生臭さもしない。なんで?


 意味が分からん。男ってなんか、臭いイメージあるじゃんネットとか見てると。まるで真逆なんだが、どういう事? でもオッサンとか、同年代でも時々強烈な臭いする人いるし、いやでもそれは女でも同じか……。



「……うぇっ」



 鼻に付いちゃった。アホやんやば俺キモすぎる。……っ、でもここなんかすっげぇ水瀬の匂いするわ。

 なんか、ずっと嗅いでたら変な気分になってきた……気がしないでもない。かもしれない。



「……誰も見てないし」



 そう、ここは俺の家だ。俺の家で、プライベート空間なのだから、周りの目を気にしなくてもいいじゃないか。


 ……い、一回だけなら、別に。物の試しにってのは誰にでもある事だし。そういう趣味になった訳では無いから、これは普通の行動の範疇だよな。


 俺は変態ではない。そう自分に言い聞かせ、そのまま部屋に戻った。





「久しぶりの登校だね〜。体調大丈夫?」

「おう、見ての通り元気ピンピン!」

「それはよかった。じゃあ今日は久しぶりに女子会だあ!!!」

「それはテスト終わったあとにやろうって話だったじゃんね〜もかち」

「テスト嫌だあ!」



 約一週間ぶりに桃果と結乃と登校する。今週の火曜日、つまり明日からテストが実施されるので、今日は通常授業最後の日である。



「てか結乃さ、田中くんと一緒に登校してんじゃなかったん?」

「は!? な、なんの話? こよりん」

「もかちネットワークが得た情報によると、朝バッタリ田中くんと会うように時間を調整して家を出てるってデータが取れたんだけど」

「そこん所どうなってるんすか」

「女の輪に混ざってていいんすか?」

「愛しの彼に会いに行かないのかな?」

「食パン咥えて角待ちしていた方がいいんじゃないかな?」

「「進捗どうですか〜??」」

「うっざ!? なんであんたら人に詰める時だけ息ぴったりなのさ!? 根本が性格悪いんだよこよりんももかちも!」

「酷いこと言われてるね私達」

「ね。あたし達は結乃の恋を応援してるのに」

「冷やかしてるだけでしょうが……田中は部活あるから」

「結乃もバレー部だよね。朝練ないの?」

「あるけど私朝起きれないから」

「そんな理由が通るのか」

「実力主義社会なんだろうね」

「私の話はいいだろー。それよりこよりんの話しよ」

「私?」



 急に名を挙げられて驚いた。だが桃果も結乃の言いたい事は分かっているらしく、ニヤつきながらこちらを向いた。



「小依ちゃん小依ちゃん。水瀬くんとどうだった? 仲は進展したかい?」

「! なんでアイツが私の家を知ってんのかと思ったけど、お前らの仕業か……」

「ふっふっふ。勿論だとも」

「勿論だとも言うとりますが。勝手に言いふらさないで頂いてもいいすか? 個人情報なんで……」

「大丈夫。代わりに水瀬くんの家の住所も教えてもらったから。個人情報の物々交換よ」

「要らないな別に」

「要らないの? あたしと結乃は水瀬くんの家を知ってるよ?」

「へぇー」

「小依は招いた事がない新居だって言ってたけど」

「学生寮だろ、そんなの探せばすぐだろ」

「でも部屋番号は分からないよね?」

「……」

「あたしと結乃は夏休みとか冬とか、水瀬くんの家にお邪魔しようかな〜って思ってるけど?」

「は? なんで!」

「なんで? なんでとかいる? 仲良くなった相手の家に行くのは別に普通の事じゃない?」

「なっ……」



 いやまあ確かにそうかもしれないけれど、男の家だよ……? 女が男の家に押し掛けるって、そんなの……。



「な、なにすんの。アイツの部屋に行って」

「さあ? 普通に遊んだりするんじゃないかな」

「私と、もかちと、水瀬くんの三人でね」

「三人で……」

「女二人、男一人だね」

「……何が言いたいんだよ」

「べっつに〜?」



 そこでその話題は打ち止めとなった。……別に、何も気になってなどいない、てか俺をからかう為に言っているのは考えなくても分かるし。


 でも、三人の中で唯一俺だけアイツの部屋を知らないというのはなんか不公平に感じた。アイツとちゃんと友達やってるのは、俺の筈なのに。



「……あっ」




 学校に着き、二人と雑談しながら歩いていたら水瀬が歩いてきた。



「あ、お、おはよ。小依ちゃん」

「おう。おはよ……」



 ……っ。昨日の事を思い出してしまった。水瀬の匂い……。顔を伏せる。



「おや? 二人同時に目を逸らしましたよ塩谷さん。これは一体どういう事なのでしょう」

「そうですねぇ。聞くのは野暮という事でしょうな、間山さん」

「うるさいな!」



 二人を睨むときゃーっと思ってもない悲鳴を上げられた。小憎たらしい奴らだ……!



「風邪、治ったんだね」

「おかげさまで……食べ物と飲み物、ありがとね」

「うん。治ってよかったよ」

「あはは、そんな大袈裟な。ははは……」



 頑張って会話してみたけど、フワッと水瀬の体臭が香ったせいで平気なフリが崩れてまた顔を逸らした。いい匂いやめろまじで……っ!



「水瀬くん」

「ん? なんだい塩谷さん」

「左の腰に二つのほくろ。どう思う?」

「え? ………………っ!」

「! 黒です! 黒ですよ間山先生!」

「な、な、なんだってー!!!」



 なにぃ……? 急に桃果と結乃が騒ぎ始めた。左の腰のホクロがどうとか言っていたけど、何の話だよ。水瀬はなんで急に顔を赤くしたんだ?



「何の話してんの?」

「こよりんのほくろの話」

「私のほくろの話?」

「こよりんね、背中側の左の腰に2つ連なるほくろがあるんだよ」

「へぇー知らなかった。見えない場所だし」

「で、今水瀬くんは私の発言を聞き、こよりんの顔を見て赤面したわけだ」

「待って。分かった、説明させて?」

「おめでとう二人とも!」

「おめでとう!!」

「「違う違う違う違う!!」」



 二人があらぬ誤解をしそうになったので慌てて否定する。その制止の声まで水瀬とハモったせいでまた二人はニヤニヤと笑みを浮かべる。



「薬飲んだ後にシャワー浴びてたら、なんか気絶しちゃって。そこで水瀬が遠隔チャイムを鳴らすから、意識朦朧とした状態で誰かも分からずにマンションの中に通しちまって……私の家知ってる人なんて桃果か結乃くらいだし、誰かも確認せずに鍵を開けたらそこで倒れちゃって……」

「そ、そう! だからその時、ドアを開けたら裸で倒れてる小依ちゃんを見ちゃって……」

「……あれ? お前あの時見てないって言わなかった?」

「!!!? い、いやー……」

「嘘吐いたん?」

「嘘というか……」

「なるほどね」



 一度頷くと、桃果は腕を組み言い放つ。



「無理あるでしょ、そんなピタゴラスイッチ。水瀬くんにとって都合が良すぎるよ」

「えぇ!?」

「都合が良いって、別に良くはないだろ……」

「美少女の裸を見るなんてラッキースケベ、全男が望んでやまない展開だよ小依。そんな青年誌じみた、意志の介在しないラッキースケベがあるとしたら、あたしは神を呪うよ。あたしだって偶然小依の裸を目撃してしまいたい!」

「一緒にシャワー浴びたことあるじゃん」

「違う! 偶然じゃないでしょ! そんなの全然エロくないよ!!」



 そうなのか。俺にとってはバリバリのエロオカズになったけどな、桃果や結乃と一緒に入るお風呂。何回も使ったし。



「よって、その証言は嘘だよ。天文学的確率で起こり奇跡に近い所業は偶然には起こり得ない! 日常に起こる奇跡は偶然ではなく必然、つまりそこには意志が介在する!」

「ごめん、僕頭悪いから何言ってるのか分からない」

「私も分からない。何言ってんの? 桃果は」

「うんうん、そうだよね。運良くエロハプニングに遭遇するとか、狡いもんな。もかち」

「そういう事!」

「どういう事だよ」



 理解者顔で首を縦に振っているが、絶対テキトーに合わせてるだけだろ結乃。二対二の構図を維持する為に空気読んでるだけだろ。



「……一応、私が気絶して倒れてた証拠は出せるけどね。うちのガス、長時間出し続けると事故防止のために一度ガスが止まってその時の記録が残る仕組みになってるし」

「むっ……」

「こっちはガスの異常という観点で私の発言の証拠固めは出来るけど、桃果のは『狡いから嘘だーっ!』って論以外になにか用意出来るかね? うつ伏せに倒れていた、だから腰のほくろは見られていた。この論を覆す事はできるかな」

「ぐぬぬ……」



 悔しそうに唸る桃果。なぜ悔しそうに唸るのだろうか。そんなに俺と水瀬が既セ……そういう事をやっていたって思いたいのだろうか。



「……階段くん」

「はい」



 桃果が水瀬をあだ名で呼ぶ、水瀬は普通に返事した。いいのか、あだ名階段くんで。せめてものツッコミも無いのか。桃果は水瀬の左腕を引っ張り低い姿勢にさせると、手で音を遮るように耳打ちした。


 ……近くね? いきなりそんな事されたら水瀬驚くだろ。



「……ん?」



 何かを耳元で告げられた水瀬は、桃果から顔を離すとよく分かっていなさそうな顔をして首を傾げた。



「…………ふむ。結乃、どうやら今回はあたしらの早とちりだったみたい」

「あれ。まじか」

「まじまじ大まじ、階段くんは小依の背面しか見てなかったのは本当みたい」

「待って? 何その発言、今水瀬になんて言ったの」

「秘密〜」

「……水瀬」



 水瀬の左腕を掴んで顔を見上げる。



「なんて言われたの」

「え、なんか、内腿に切り傷って」

「っ!? 桃果〜!!」



 内腿に切り傷、それは俺がある時リスカしようとした時にカッターを落として、足の本当に付け根の部分に出来た切り傷の事だった。


 本当に足の間の僅かな間隔しかない傷だし、色もうっすらだからそれは普通にしてる分には絶対に分からない。それを知ってるのは、一緒に風呂入った時にセクハラをしようとしてきた桃果と結乃だけである。



「いや〜だってさ? あの傷、足をこう掴んでガバッ! ってしないと見えないじゃん? これに反応するとしたら、そういう事をした証拠になるじゃんね」

「ば、馬鹿じゃないの!? なんて事を吹き込んでんだよ!」

「え? ごめん、未だになんの事か分かってないんだけど、僕」

「分からなくていいよ!!!!」



 桃果と結乃の手を掴んで水瀬から離れる。二人とも俺に「あらあらあら」と言っている。コケにしやがって、このピンクモンスター共……!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 変態というかもう生物的に番と脳と体が認めてるじゃないですか〜〜〜。
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