21話「六月、初夏」
二週間後に体育祭を控え、高校生活最初の体育祭の種目決めが実施された。
俺は体力的に同年代の女子に突出した能力を持っている訳では無い。
体力テストの成績で10段階中10点を取ったのは長座体前屈のみ。走る系は全部7点とか8点とか中途半端なラインばかりなので、自身は無いので自分で競技に立候補する事はなかった。
俺が出る種目は障害物リレー、借り物競走、全員参加の騎馬戦と、棒をジャンプして躱すジャンプリレーってやつ。合計4種目だった。
結乃は体力がある方で足も早いのでクラス対抗リレーに選抜されており、開会式が終わった後一発目の競技である、積み上がった物を運ぶ速さを競う積み上げリレーにも出る事になっている。
最初の種目の順位はクラスのその後のモチベーションにも関わるだろうし、よくもまあそんな種目に出れるもんだなと尊敬する。
桃果は単体で出る種目はぐるぐるバットしたあとのリレーと部活動対抗リレーのみ。美術部に属してはいるものの、同じ部活内の男子は桃果に全敗を喫するまでの徹底したモヤシくんらしく、一年生なのに三年生が立ち並ぶ土俵に出場である。
「絶対負けない! ペンは剣よりも強いし速いからね!」
意外と桃果はやる気に満ち満ちていた。気合いだけなら結乃に勝るとも劣らない感じだ。
「ふわぁ〜……」
五限目に種目決めが行われ、六限目は種目ごとに別れて練習する時間となった。今回は騎馬戦のチーム決めと練習をするらしく、自由に四人組を作れと指示をされてクラスの生徒が皆動き回っていた。
身動きが取れん。人の波である。その為俺は椅子に座って頬杖をかいて波が静まるのを待つ。ああ、こういう事してる奴が余り物になって、仲良くない人らと組まされるんだろうなって思った。もしそうなったら体育祭サボってやろー。
「こよりん、組もうぜー」
「流石結乃、私の危惧を察して来てくれたね」
「ん? どゆこと?」
「よく分かんないけどあと一人どうする?」
結乃と、席替えをして席が離れてしまった桃果もこちらに来て自然と俺をチームに誘ってくれた。当然のように声を掛けてくれて涙が出そうになる、良い奴だよなぁこの二人って。
しかし、あと一人か……。
俺も桃果も、別にクラスの人らとは普通に喋るけど特段仲良いという訳でもないからな。言ってしまえばこの三人の状態で関係性が完結してるから、四人目以降に誰かを誘おうってなると候補が思い浮かばなかった。
「誰か誘いたい子いないの? 二人は」
「まぁ。交友関係狭いんで」
「同じ部の子誘ったけど断られた! 結乃が居るならエースチームの一つじゃん、恐れ多いって」
「なんだそりゃ〜? なんで私がいるとエースになるのさ」
「うん軒並み体力テスト満点叩き出してるのよあなた」
「紛うことなきエースすぎるもんな」
「あんなもん昔の基準だろ〜? 今の子は皆健康優良児じゃんね」
「AKIRAやん」
「不良少年ではないのよ」
昔の基準だろうがなんだろうが高水準のスペックしてるのには変わりないんだよな。先生からも男子からも結乃の活躍は期待されている節あるし、そりゃ余程体力に自信なかったら一緒に組みたくないわな。注目の的だもん。
「まず結乃は上に乗せる事は確定してて、あと一人に求める能力値はなんだろうね?」
「運動神経に振ってる奴誘った方が良くない? 相性云々より、私と桃果の運動微妙組が結乃と組んでて宝の持ち腐れになってるって印象を緩和させる方向に持っていこう」
「そんな事皆気にするか〜?」
「「気にするでしょ」」
なんてったって高校最初の大行事だよ? 気合いは入るだろ誰しも。
スーパーエースと組んでるせいで日陰者に徹せないから避雷針が必要なんだよ、ヒーローへの期待からこぼれ落ちる『お前らにも責任はあるんだぞ』という理不尽な意見を吸う避雷針がよぉ。
「運動が得意な子か〜。じゃあ私の友達呼んでもいい? その子めっちゃこよりんの事好きだから入ってくれると思うけど!」
「えっ、なに、私の事が好き?」
「男?」
「女子だよ。ちょっとまってて」
人混みの中に結乃が入っていった。しばらく待つと、結乃はツインテールの活発そうなつり目の女子を連れて戻ってきた。クラスメートの高辻さんだ。
「お待たせ、高辻とか丁度良くない? 運動神経良いし背が低いから、条件ピッタリじゃない?」
「ちょっとなにゆのゆの、背が低いからって?」
「騎馬戦って上は身長高い人がやった方が有利でしょ。上から帽子取れるじゃん、中学でもやったっしょ?」
「やったけど、そんなの関係あった?」
「あったね。これは確実。どう? こよりんもいるしウチらのチーム入らない?」
結乃の言葉を聞き高辻さんは俺の方を見た。ぺこりと会釈をし「どうも」って言うも、反応は無し。俺はすぐに桃果の方を向いた。
「ギャル怖い……」
「うんうん怖かったね、よしよし」
「ギャル怖いって、冬浦ちゃんも似たようなもんじゃん?」
お、高辻さんが俺に話しかけてきた。似たようなもの、か。断じて違うのでここはきちんと否定させてもらう。
「いやいや、私なんて全然ギャルから遠い存在だし。モノホンの前では霞みますよ」
「敬語やめてー。でも冬浦ちゃん地味に髪染めてるしピアスやばいやん? 似たようなもんじゃない?」
「うーん……私のはギャルってより」
「メンヘラ地雷女って呼んだ方が適切かもね」
「うん待って? 桃果、なんか今棘なかった? 言い方引っかかったかもな」
「間違った事言った?」
「言ってないしいいんじゃないもかち」
「言ってる! 間違ってるだろ私はメンヘラでも地雷女でもない!!!」
「「「それはない」」」
「異口同音やめろまじで」
なんでそこで揃うんだよ、俺がメンヘラ地雷女だって共通認識みたいに言うんじゃないよ。てか水瀬にも何回か「病んでる」って言われたし、なんで皆俺にそういうキャラ属性を足そうとするんだ。俺はれっきとした健康優良不良少年だっちゅーに。
「ま、一緒にやるのは全然いーよー。ねね、間山ちゃん!」
「はい?」
「エロい絵描くんしょ? ゆのゆのに聞いたよ! 友達をモデルにしてるって!」
「ふっふっふ、いかにも。友達が、現実では実現出来ないぐらいめちゃくちゃな目に遭ってる絵を描くのが性癖です!!」
「やばコイツ」
「個人的に結乃は最初は性行為にノリノリなんだけど男の方が暴走しちゃって余裕なくなって肉便器にされちゃうのが似合うと思ってるし、小依は依存先の男に首締められたり縛り付けられて両乳首と股に電マセットされて終わらない快楽調教でアヘ顔になっちゃうのが似合うと思っています。二人とも無様エロ系ぴったりのビジュ!」
「結乃、コイツどうする?」
「気絶するまでくすぐるか」
「賛成」
「冗談だからやめてね二人とも」
すぐに桃果は謝る。くすぐりに弱いもんな、特に脇腹な。また泊まりの時は夜通しくすぐってやろう。
「なるほどなるほど。ゆのゆのは肉便器、冬浦ちゃんはアヘ顔か……」
「明日花?? 余計な事インプットしなくていいよマジで。もかちに毒されないで???」
「肉便器ってなに?」
「簡単に言うなら男の性欲を解消する為の便器扱いされてる女の子みたいな感じ! 動けない状態で開きっぱなしの口にちん」「やめな???」
焦った様子で結乃が桃果の口に手を当てて黙らせる。あまり知らない相手にもいきなりこんな会話展開出来るんだ。ある意味無敵だな桃果って。そうなりたいとは微塵も思わないけど。
「なんとなく理解出来たわ。なるほど、確かに似合うね」
「明日花??? どういう意味???」
「てかあんたに似てるってAV女優さ、ハード系が得意な女優っしょ? そういう作品も絶対あるじゃん」
「そこまでは調べてないから知らんけど……」
「冬浦ちゃんはどう思う?」
「えっ」
「ゆのゆのって、ハード系のプレイとか似合いそうじゃない?」
「はあ。例えば?」
「まず彼氏のおしっこは飲むでしょ」
「飲まないわ!? 何言ってんの!?」
「いや、確かに飲みそう」
「こよりん!? 普段そういうの同意しないじゃん!? なんで首を縦に振る!!」
「別に下ネタNGってわけじゃないしね、私。桃果の話がいきすぎててキモイだけだよ」
「小依。あたしの事キモイって思ってたの?」
「うん」
桃果が絶望顔で項垂れる。当たり前だろ、女子の下ネタトークなんか比較にならないぐらい酷い事しか言わんやんあなた。あんま内容は覚えてないけど、少し前に描かれたエロ絵で子宮抉り出されたの永遠に根に持つからな。人の体をなんだと思ってるんだって話だ。
「でも尿じゃない方は飲むタイプだよね」
「えぇ……」
「実際彼氏出来たら、頼まれたら飲みそうじゃない?」
「絶対飲むだろうな」
「確信あるねそれは。揺るがない信頼」
「…………そりゃ頼まれたら、一回くらいは考えるかもだけどさ」
「ジョッキでいきそうだよね」
「はい出たもかちの行き過ぎ発言!!! ジョッキってなに、いくわけないだろ!?」
「いや行くね。ゆのゆのは行くよ。ねぇ冬浦ちゃん」
「……おぇっ」
「本気で吐き気催してるじゃんか! やめろよ二人ともそういう話、ここ教室だから!」
「誰も聴いてないよ」
「だとしてもだろ!?」
危ねぇ〜、喉の下まで胃の内容物が上がってきたのを感じたわ。ギリギリセーフ。
てかオフで遊ぶ時とかは結乃の方からエグい下ネタ飛ばしてきたりするからよく考えたらどっちもどっちなんだよな。結乃も桃果も。結乃の妄想の中で桃果、よくケツにぶっ刺すタイプの尻尾生やされてるしな。
キツすぎる下ネタを会話した後に騎馬戦の練習を始めた。上には結乃、騎馬の前の部分は高辻さんが担当し、背後には俺と桃果が並んでいる。
高辻さんは俺と身長が同じくらいで、桃果は俺達より数センチ身長が高い。誤差程度の違いなのでバランスが悪いなんて事はなく、騎馬の安定感は結構高い状態で維持出来ていると思う。
「乗り心地どう? ゆのゆの」
「こよりん、なんかグイグイ尻に腕を押し付けてない? なにしてんの?」
「気にするな。安全に考慮してるだけだよ」
うむ、安全に考慮しているだけである。決して女である事を利用して結乃の尻を堪能している訳では無い。不可抗力だ。体操服サイコー。
「後ろの二人はどう? しんどいとかない?」
「特に無いよ。案外軽いんだね結乃って」
「少し前傾姿勢になって体重を逃がしてるんだよ。だからこそこよりんに腕を押し付けられてることが不思議すぎるんだよな。どういう意図?」
「安全の考慮!」
「落ちないでしょ、三人ともしっかりしてるし」
「パンポジがズレるかもしれないでしょ。それを防いでいるのだ」
「無理があるわ」
結乃に一蹴されてしまった。無理あるか? 尻の割れ目に布が巻き込まれたりしたら直すじゃんか。
「まあいいや。このまま少し歩いてみようよ、慣れるの大事っしょ」
「おっけー。あ、冬浦ちゃんに聞きたい事聞いてからでもいい?」
歩き出す前に高辻さんが俺に話しかけてきてこちらを見た。その声にはどこかニヤニヤとしたいやらしさが滲んでいたが、何を考えてるのかは想像つかなかったのでストレートに「なんですかー?」とだけ言っておいた。
俺の反応を予想していなかったのか、それとも予想した物と違かったのか、高辻さんはニヤニヤを止めて俺に問いを投げた。
「この前の休みの日、マクド来たよね? 男の人と一緒に」
「え? 男? ……あぁ、あの時のか」
「覚えあるやんね?」
「覚えはあるけど、あれに特に変な意味は」
「あれ、彼氏さん?」
「ぶふーーーっ!!?」
結乃が笑いのニュアンスで吹き出した。
「ち、違うわ!」
「違うの?」
「違うわ! あれはただのっ……た、ただの友達、だから」
「あれ? 知り合いって言ってなかった? 友達じゃないって」
「似たような言葉だし意味だから! 別に問題ないだろ?」
「聞いて明日花、こよりんつい数日前まであの男子に友達って言われただけで即否定してたんだよ? 絶対なんかあったよね」
「あったね。多分もうヤったね」
「なにを!? よく分かんないけど不穏だからやめて!? 私とアイツの間に何も無いから!」
「と言いつつ?」
「何も無いわ!! てかなんで高辻さんはマクドの様子なんて知っているんだよ!?」
「そりゃ、あそこの店舗で働いてるし」
高辻さんは当然のように言い切った。今俺の住んでいる家の近所に二人目のアルバイター高校生がポップした。働きアリばっかだなこの高校。
「なるほどなるほど」
「な、なんですか」
「そういう反応をする子って、大体なーにか隠してたりするんだよねぇ」
「っ!? か、隠し事なんて」
「あの時の男子の事、詳しく聞かせてもおうかな」
「絶っっったい嫌だ!!!」
「じゃあゆのゆのか間山ちゃんにでも教えてもらおうかな」
「やめて。八割脚色された原作迷子の噂が広まっちゃうだけだから。やめて」
「じゃあ冬浦ちゃん本人が直接説明してよ」
「……」
無言で桃果に助けを求める。桃果はウィンクをした。何も伝わらない、恐らくだが意味もあまりない。
「今日は時間いっぱい皆と恋愛話するから。主に二人の話を聞こうかな!」
「なんで!?」
「あれ、アタシも頭数に入れられてる?」
「勿論! ゆのゆのは知り尽くしてるから一旦置きで」
「おい」
そこから、高辻さんから質問形式で過去の恋愛遍歴や恋愛観を長々と問われ、主に桃果が撃沈していた。俺は語れる事は少ないので特にダメージはなかった。
「……! インスピレーションが浮かんだ。高辻さん! 絵を描いてもいい?」
恋愛トークが終わった瞬間、撃沈していた桃果が息を吹き返しカウンターとばかりに高辻さんにそう言い放つ。その様子に若干引きつつ、高辻さんは桃果に言葉を返す。
「何を描くかによるかな」
「高辻さんみたいにグイグイ来る明るいギャルは、やっぱり結乃と同じく圧倒的な男の性欲で分からせた方が興奮するからね! そのツインテールを引っ張るシーンは絶対に入れよう!」
「拷問!?」
「地味に私も巻き添え食らったの何?」
高辻さんのツッコミはまさしくその通りだった。結乃が巻き添えを食らうのはまあ、様式美だ。今回は難を逃れた事を天に感謝する。ありがたや、桃果の同人ワールドでは既にボテ腹にされてるからな、俺。一時の平穏が訪れたのはありがたい。
後日、この話を聞いていた先生が密かに桃果を呼び出し説教していたという話を聞いた。その後、日も変わらないうちに説教をした先生をモデルとした純愛エロ漫画をまざまざと見せつけられ、改めて桃果は無敵なんだなあと思った。




