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宇宙の騎士の物語  作者: 荻原早稀
第三章 決闘の季節
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7. ビューレン対チャウ1

すみません、チャウの武器を変更しました。「斬馬刀」から「ツヴァイヘンダー」に。

似たような武器ですが、斬馬刀というと某喧嘩屋の初期武装のイメージが強すぎて、実際の形が想像しにくいので。

もともと斬馬刀ってあんな形してませんもんね。

「俺たちの知らないところで面白いことやってんじゃんか」

 豪奢な長い金髪に澄んだ白い肌、怜悧な光を帯びた蒼い瞳、少々皮肉っぽい笑みを浮かべる紅い唇、細身の長身に薄鋼のような研ぎ澄まされた筋肉を帯び、整った容貌が全体の印象を少々甘く仕立てる。

 絵本の中から飛び出したような、秀麗な王子様然とした男の姿がそこにある。

「少し前から、限定戦争などと称して、コロニー内の紛争をあのようなふざけた戦争ごっこで収めようとしていたようです」

 応じたのは、浅黒い肌にひっ詰めた黒い髪、黒ぶちの眼鏡をかけつつロングスカートのかっちりとしたスーツを身に付けた美しい女性だ。

 貴族の子弟と、その有能な秘書、といった風情だった。わざとらしいほどに絵になっている。

 二人がいるのは豪勢な執務室で、室内の壁はすべて木材と絹地で出来ていて、すべてに精緻な装飾が施されている。青年が座る執務机と椅子は本物の黒檀と牛革、秘書の女性が立つ床は毛足が長く整えられた羊毛の手織り絨毯。宇宙時代にはどれも凄まじい金額が付く高級品だ。

「『紅の女王』に『雷帝』に『ルナティック・オレンジ』に『炎獣』、錚々たるメンバーじゃないか」

「左様でございますね」

「なにより『上帝団殺し』だのとなめた二つ名を持つウジ虫もいる」

「お気付きでしたか」

「気が付かいでか」

 美青年の頬に嗜虐の笑みが浮かぶ。

「必ず始末せねばなるまいよ。我々の看板にいつまでも泥を塗ったままではおれまい」

「仰せの通りでございます」

 秘書は静かに腰を折った。その動きで、深く入ったスカートのスリットから滑らかな太ももの肌が覗く。眼鏡の奥にある目には扇情的にも感じられるピンク系のアイメイクが施され、その瞳が閉じられると濃く長いまつ毛が目立つ。

「まあ、しばらくは傍観しようじゃないか。五対五の対決、見世物としては上等だ。充分楽しんだら始末にかかるとしよう」

「承知致しました。始末につきましては、編成はいかがいたしましょう」

「俺とお前の二人がいれば十分だろう?」

「露払いのギア部隊くらいは準備した方が、見栄えがよろしいのではないかと。他のお歴々の手前もございましょう」

「お前に委細任せる。大げさにならない程度にな」

「かしこまりました、お任せを」

 豪奢な造りの超長距離星間航行クルーザーの豪華な一室で、美人秘書が典礼に則った見事な礼を見せた。

 秀麗極まりない美貌の貴公子は、その礼をちらりとも見ず、宙に浮くいくつかの三次元モニターに浮かぶ戦士たちの姿に見入りつつ、ブランデーグラスを揺らしていた。


 

『皆様おはようございます。サテラメディア・モーニングショーです。早速ですが、今日も余計な前置きなしに本題に入りましょう。 

 注目の戦いに街は大いに沸いているわけですが、いよいよ佳境を迎えてきました第三次ネオリュディア継承戦争、両陣営の代表五名が戦う大決闘の当日を迎えました。

 では、こちらのウィンドウでそれぞれにご紹介していきましょう。まず一人目、サルディス党の代表、フェイレイ・ルース騎士団歩兵少佐、「オセールの薔薇騎士」の異名で有名なビューレン少佐です。グラフがこのように示していますが、かなりバランスがいいですね』

『そうですね、パワーと技術、どちらも高い数値です。基力量と制御評価値とのバランスも相当高いところで取れていますからねえ。なかなか見ませんよ、このグラフ』

『かなり実力の高い正統派、というところですね。公開資料によりますと、少佐は現在三六歳、独身です。普通大学を優秀な成績で卒業後に騎士団の士官課程に進んでいます』

『高校時代にはすでに強大な基力とその制御技術で相当有名だったようですね。当然、まわりは士官学校への進学やアスリートへの転身を進めるわけですが、ビューレン少年は大学進学を選びます。その後士官課程を選んでいますから、将官級の高級軍人としてのキャリア構築を狙ったわけですね。堅実といって良いでしょう』

『エリート士官としてのコースを歩んでいるわけですね。佐官ということは高級騎士の仲間入りを果たしているわけですが、戦士としての実力はどうなんでしょうか?』

『技術がものすごく高いレベルにありますよ。騎士団内でも相当な腕利きとして有名ですから。基力なしでの訓練では、ほぼ無敵といって良いようですよ』

『でも、今回は基力利用無制限戦ですよ?』

『そこがどう働くか、ですね。圧倒的な差が無い限り、高い技術があれば、敵の方が多少基力が強くても一発逆転は狙えます。それができるかどうかが勝負の行方を左右しそうです』



『続いてその相手を務めます、エフェソス党の代表一番手は、「炎獣」の異名で有名な傭兵、レー・クエン・チャウ少佐です』

『早速ビッグネームが来ましたねぇ。「炎獣」チャウ少佐といえば、基力で超高温の嵐を巻き起こして敵を薙ぎ払う荒業で有名です』

『それはド派手な絵が期待できそうですね』

『先鋒戦ですからね、リーダーであり最強の戦士でもある「雷帝」は温存するにしても、初戦で勢いをつけたいエフェソス党としては、次の切り札を早速投入してきたということでしょう』

『なるほど。チャウ少佐は、ああ、偶然ですがビューレン少佐と同い年ですね。今年三六歳です。幼少期から基力の高さで知られ、中学生から基力持ちばかりを集めた学校に通っています。高校時代には母国の全国格闘競技会無差別部門で優勝の経験もあります』

『その当時についたんですよ、「炎獣」というあだ名。まあ、響きからしておとなしい生徒ではなかったんでしょうね』

『荒々しさを感じさせます。その後、母国の兵学校に進んで本格的な騎士修行を始めますが、一年ほどで放校処分になっています』

『期待通りといいますか、想像通りといいますか、繰り返される暴力沙汰と不服従とで、兵学校から見放されたんですな』

『その後、各地の傭兵団を転々としながら腕を磨き、現在は「雷帝」セラール大佐の下で切り込み隊長としての役割を果たしています』

『組織には馴染まない男だと評判ですが、実力は確かです。袋叩きにしようとした傭兵たちを返り討ちにしたというエピソードの数は、片手の指じゃききません』

『体も大きいですね。身長は二メートルあまり、湾曲刀を自在に振り回しながら相手を追い詰め、力づくで制圧するのが得意と資料にあります』

『ちょっと違うかなあ。彼が戦う場合、基本的に一対一という状況が少ないので、多数の敵を前にしたら、相手の群れを崩して、立ち直る暇を与えずに制圧しないと戦いにならないわけですよ。力づくで行っているようで、ものすごく緻密に計算しているタイプですね。戦闘に対するIQは高いですよ』

『なるほど。さすがは先鋒を任されるだけはある、ということですね』

『ビューレン少佐もいい戦士ですが、チャウ少佐の相手は荷が重い気がしますねえ』



 闘技場、が目の前にある。

 広さは百メートル✕百メートルの正方形、その周囲を観客席が高く囲んでいて、闘技場との境には強力なフィールドが展開され、観衆をとばっちりから守っている。

 もっとも、今回はフィールドすら突破しかねない力を持つ者が戦う機会ということで、闘技場は無観客である。すべて、三次元メディアかVRデバイスでの観覧が設定されている。

 ビューレンがため息をついたのは、その観衆たちの一部の画像が、わざわざ三次元で観客席の椅子の上に表示されている、その異様な光景が二〇万席分並びに並んでいるのを見たからだ。

 なんとまあ、趣味が悪い。

 自分たちのコロニーの将来を決めるための変則的な政治の舞台に、血の活劇への期待感からわざわざ有料のコンテンツ閲覧料を支払い、自分も参加していたという疑似関係者感を煽られてセルフィー画像まで提供する。

 それが二〇万人分。

「暇人どもめ……」

 ビューレンは穏やかな男だが、決闘前に血を高ぶらせている最中にそんなものを見せられたら、一言毒づくくらいはする。

 彼が入ってきた真正面の奥、もう一つある闘技場の出入口から出てきた彼のお相手も、周囲を見渡して露骨に不機嫌そうなため息をついているように見えた。

 同じ佐官級の軍人であり、同い年でもあり、感覚は似ているのかもしれない。現実主義で無ければ生き残れない世界で過ごしてきたビューレンのような連中にとって、下らない理由で命がけの戦いをするこちら側の姿を見て興奮するような阿呆共が、金を払ってまで二〇万も面を並べている光景は、悪趣味を越えて悪夢でしかない。

「炎獣」チャウ少佐のことは以前から知っている。自分以上に戦場経験豊富な、異名やパブリックイメージが与える印象よりずっと冷静な男だ。

 その男と目が合う。

 これから決闘を始めようというのに、居並ぶ数十万の悪趣味な観客たちを前に、思わぬ同胞を見つけたかのように苦笑をかわしてしまった。百メートル離れているが、その程度で顔の識別ができないような視力の二人ではない。

 お互い、巻き込まれ感が強い。もともと、こんな対決が行われるなどとは聞いていなかった。

 もちろん仕事だし、武器は模擬剣やその類のもので、実際に殺し合いにはならないにしても、相手は仕留める気でかかってくる。こちらも本気で戦わなければ命が危険にさらされる。

 チャウ少佐と慣れ合う気も、手を抜く気もさらさら無い。

 互いに苦笑を引っ込めると、自分の装備の最終チェックをしながら闘技場の所定の位置に進む。

 装備といっても、規定で決められているために歩兵用の装甲は使えない。お互いの所属がわかるような服装、と定められているため、ビューレンは黒地に要所を銀で飾った騎士団の略兵装、チャウ少佐は緑の迷彩に赤の衿を付けた略兵装、その上には一切の防具はつけていない。

 決闘といえばそのための派手な服を準備している騎士団や傭兵団もあるが、彼らの所属先にはそのようなものはない。

 正確にいえば、フェイレイ・ルース騎士団には何種類かあるのだが、いまや儀礼兵上がりのクリシュナでさえ見たことがないという、過去の遺物と化している。

 ビジュアルというのも傭兵団や騎士団にとっては重要な商品だから、このような決闘などで着飾るのも大事なことではあるのだが、フェイ・レイ・ルース騎士団はそもそも病院騎士団という立場上、あまり華美な衣装で戦うとパブリックイメージを悪くしてしまうし、サイド・セラールが臨時に組んだだけの傭兵団であるエフェソス傭兵団に、そんな特殊兵装があるはずがない。

 だから、どちらも至極当たり前の前線勤務の士官が身に着ける服装になっている。マスコミ的にはおいしくない姿だが、迎合する謂れも無い。

 すべての道具立てが大振り、と評されるビューレンが、厳しいながらも親しみを感じさせる見た目なのに対し、「炎獣」チャウはそれ以上に大柄で、削ぎ取ったような頬の険しさや、せり上がるように眉尻が上がる容貌は、いかにも獰猛で恐ろしい。

 顔だけで子供が泣くな、と失礼なことを考えつつ、ビューレンは左手に持つ模擬刀を展開した。

 この時の彼の武器は、普段の訓練時や実戦時には持たない長刀である。電磁的に合成された刀身はおよそ一ニ〇センチメートル、片刃の直刀。

 模擬刀とはいえ、腹で打てば斬撃に、背で打てば打撃になる。

 乱戦や屋内戦闘では、長い武器は邪魔にしかならないから、通常は使わないが、もともとビューレンがもっとも得意とする武器だった。

 一方のチャウの得物は、地球中世の時代でいう両手剣、ツヴァイヘンダーに近い武器だった。全長が長く、特に柄の部分が長い。槍のように持つ武器だが、槍にしては刀身がずいぶん長く、斬る・薙ぐ・突くのすべてに長じた武器だ。形だけを見るなら長巻という武器にも似ているが、刀身が反っておらず、両刃である。

 もっとも、歴史上のツヴァイヘンダーとは違う点もある。見た目にわかりやすいのは、大きなつばが無い所だろう。敵の斬撃を受け止めるために必要なものだが、一対一の決闘にそんなに長く大きなつばはいらないので、五センチメートル程度の太く短い突起が付けられているだけだ。

 全長は二メートルを超える。刀身の長さは八〇センチメートル程度。柄にはチャウが自分で巻いたらしい革紐が意外にきれいに巻かれており、彼の大きな手に合わせて太くしてあった。

 ビューレンを超える長身と、破壊的な膂力と、その巨体からは想像できない恐ろしいほどの速さを持つチャウには、似合いの武器というべきだった。

 彼がいつもの短い曲刀を用いないのは、ビューレンと同じ理由だろう。多対一でも、空間に制限があるわけでもないし、基力の制限も無い。全長が短い曲刀を使う理由が無い。

 やれやれ、向こうのエース様は手を抜くつもりが皆無らしいぞ。

 少々うんざりしつつ、ビューレンは開始の号砲を待つ。

 勝てるという自信は無い。

 だが、彼は髄まで軍人であり、任務は全力で取り組まなければならないと新兵や部下に叩き込んできた手前もある。手を抜く気も、最初から敵に飲まれてしまう気も無い。

 身の中に猛り立つ基力を敵に叩きつける準備は整っている。

怒涛の年末進行と年明けからの異動とで、書く暇もありませんでした。

ここからは多少なりとも書いていけるのではないかと……なんていらんフラグを立ててみたり。

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