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宇宙の騎士の物語  作者: 荻原早稀
第二章 騎士団
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5. クリシュナ宅集合

 ヴェネティゼータは新興都市である。

 というと語弊があるようだが、「大崩壊」以前から存在していたことは間違いない旧市街はともかく、現在中心地になっているエリアはずっと新しく、騎士団の親会社が開発計画を進めているエリアが完成すれば、都市としての様相は一変するだろう。

 要は、大量の資本が流入し、大規模再開発が進んでいるのだ。

 もともと、「大崩壊」以前の文明がテラフォーミングを成功させた惑星だ。地球よりもだいぶ大きいが、質量はやや小さいという惑星を大改造し、小惑星を大量に落とすことで質量を増し、公転周期はそのままだが自転周期は調整を行った上で、極めて地球に近い環境を作り出した。

 考えてみれば無茶苦茶なやり方に思えるが、テラフォーミングを行った連中はよほど地球に寄せたかったのか、大気組成はほぼ地球に準じている。人工的に作られた可住惑星は宇宙に数あれど、ここまで徹底している例はあまりない。

 ご丁寧に、落とす小惑星を厳選して氷の塊のような物をいくつも落とし、海まで作り出した。水の大循環あってこその地球だから、海がない惑星など可住惑星ではないとでも思っていたのか。

 どれほどの年月をかけたのかも、どれほどの資源を使ったのかも、まるで想像がつかないような大改造の末に可住惑星になったが、完成してさほど時間も経たない内に「大崩壊」が起きたらしい。

 せっかく作った惑星に、都市がほとんど残っていないことからも想像できる。これだけ環境が良い、あるいは良くした惑星に、都市遺跡や遺構がほとんど残っていない。

 残念というか、心残りではあっただろうが、現代を生きる人間にとっては非常にありがたい贈り物だ。

 地球から直接移植したらしい様々な生物がいて、既に生態系を成している。二〇〇〇年以上の時間をかけて定着した生物は、適応や淘汰を経て独特の進化を始めている種もある。

 ちなみに、地球発祥の人類以外に知的生命体がまだ見つかっていないこの世界だが、意識を持たないか、持っていても文化や文明を持つには到底至らない生物であれば見つかっている。

 そういった生物は、この惑星にはいない。生存条件が違いすぎて、適合しないからだ。

「ヴェネト」というのがこの自然あふれる惑星の名前で、前置詞の「イ」を使って固有名詞を入れることで、都市の名前とする。

 ギリシア文字で六番目の文字である「Ζ(ゼータ)」を名前にした騎士団本拠地のこの都市は、文字通り惑星ヴェネトで六番目に建設された都市、だったらしい。「大崩壊」以前のことはわからないから確証はないが、文明が破壊され、都市としての機能が崩壊しても、名前だけは不思議と生き残った。

 正確には「ヴェネト・イ・ゼータ」なのだが、当時話されていた言語すら残っていない現在、わざわざ切り離して発音するものは誰もおらず、表記も同様だ。

 地球環境がかなりのレベルで再現されているこの惑星だが、地殻まで完全に地球に寄せきれるはずもなく、細菌などの微生物が地表を豊かな土地に変えるにはまだ時間が足りていないようで、全体的に荒廃して見える土地が多い。

 ヴェネティゼータもそういった土地で、惑星ヴェネトの他の都市と比べると荒涼として見える。降水量も他の地域と比べれば少ない。海から遠い内陸部であることも影響しているのかも知れない。

 ヴェネティゼータに到着した翌日から三日間の休暇があり、その後から本格的な再訓練が始まる日程取りになっているエステル・ドゥ・プレジール中尉とクリシュナ・ゴーシュ少尉は、休暇一日目はそれぞれが基地内でしばらく過ごすための準備を行った。

 休暇二日目は、基地内の兵舎にある士官用個室に泊まるエステルが、市内に住まいを借りているクリシュナのもとを訪ねていた。

 いくつかに分かれて置かれている基地は、どれも新旧の市街地からは外れた荒野のような土地に建設されていて、近くには民家どころか農地もない。

 ギア部隊の教育訓練施設がある基地からは、市街地に向けて地下鉄が走っている。

 基地内を出発した地下鉄は、減圧されたチューブ内を二〇〇キロメートルほど走り、市街地へと続く。だいぶ距離が離れているのは、もちろん事故があったりした際に都市部に被害が及ばないようにするためだ。

 市内に飛行する公共交通はない。都市と都市を結ぶラインはあるが、ヴェネティゼータ内を飛ぶ路線はない。理由はこれも簡単で、軍事基地である都合上、勝手にその辺を飛び回る交通があると困るからだ。

 地下鉄のチューブは真空に近いところまで減圧しているから、空気抵抗なしにかなりの速度を出す。基地内最後の駅から都市部最初の駅まで、二〇分ほど。

 むしろ、都市部に入ってから各駅停車で目的地に着くまでの方が時間がかかったりする。

 真正のお嬢様であるエステルも、初めてここに来たときには色々と戸惑ったりもしたものだ。どこへ行くにも専属の運転手付き高級飛行車……自動制御があるのに運転手を雇うのが貴族のステータス……で行く暮らしをしていたから、当然だ。

 来る前に家人と色々シミュレーションもしたが、当然限界はある。

 今は、もちろん慣れた。

 騎士団の士官養成課程は、最初の一年はほぼ基地内に缶詰だが、二年目になると都市部に自由に出入りするようになるし、三年目になると市内のグループ会社などに研修に行ったりするから、嫌でもヴェネティゼータという都市には慣れてしまう。

 エステルが都市部に出かける際に気をつけるのは、まず、非番の日であれば騎士団の士官であることがバレないようにすること。バレたところで不都合はないのだが、知らない兵士などと話したりすることがあると、相手が気を使う。

 二つ目は出来る限り髪や顔を隠すこと。彼女のアルビノは目立つので、すぐ身元が割れる。割れたところで実害はない……とはいい切れない。エステルは高位貴族のご令嬢であり、その身柄だけでも多くの価値を持つ。

 彼女の「死天使」呼ばわりされる実力を知っていて襲うバカなど、いなさそうなものではあるのだが、「高位貴族令嬢の超絶アルビノ美少女」などという看板に惹かれてストーカー化する者なども出てきかねないのだから、気を付けるに越したことはない。

 そもそも、彼女を一見して実力を見抜けるものなど、そういるものではない。

 三つ目は荷物を極力少なくすること。基地から出るときも、再び入るときも、常に所持品検査が行われるので、検査自体は自動で行われるものの、物が多ければ何かと引っかかる場合が多くなる。

 どうせ、士官クラスの軍人には自動監視がつく。そこかしこにある監視カメラに自動追尾され、行動は常時トレースされている。持ち物を検査されたところで今さら困りはしないのだが、余計な時間を取られるのは困る。

 それらを考え、エステルは非番で都市部に行く際に軍服などは絶対に着て行かない。スーツを着ることもまず無い。貴族令嬢らしいドレスなど、そもそも持っていない。

 ごく当たり前にカジュアルな服装で、大人しくなりすぎない程度に落ち着いたロングスカートの装いに、つばが広く深い帽子を合わせている。目はコンタクトを入れているから、サングラスをかけたりはしない。

 持っているバッグも特別なブランド物ではなく、士官課程の時に給料で買った、学生が買うには少々値は張るが、社会人が持つにはそれほどでもないもの。

 その姿で、エステルはヴェネティゼータ市街地に降り立つ。

 下士官たちが多く住む地区は、いちいち乗り換えなどしなくて済むよう、基地と都市部を結ぶ地下鉄路線の最初の駅かその次の駅あたりの近辺にある。

 クリシュナもそのような街にある集合住宅を借りていた。

 どうしても不在がちになる騎士団の現役たちが借りるから、そのための管理システムが整った、軍人専門の住宅になる。

 住所は聞いていたし、ナビゲーションに入力すれば、コンタクトにデータが投影されて案内してくれる。

 出迎えは不要と伝えている。駅で待ち合わせて出かけるのもいいが、いずれ基地内の兵舎から出ようとは思っているエステルは、クリシュナがどの様なところに住んでいるのかに興味があった。部屋が見たい、といったら、クリシュナは簡単にうなずいてくれた。

「下見しておいたほうがいいでしょう。私も先輩に紹介してもらった口ですし」

 ヴェネティゼータの市街地はほとんどが石畳の道だ。

 生物が太古から栄えていたわけではないから、化石資源である石油が出ないこの惑星で、アスファルトは貴重品である。石灰石も生物由来のものが無く、鉱物由来のものもそれほど多くないので、セメントも安くはない。

 石は、無尽蔵にある。切り出したり運んだり並べたり、という作業は機械があるから任せておけば良く、雑草が育ちにくい環境なので植物の力で破損することも少ない。

 同じ理由で石造が多い建物が並ぶ街路を歩いていると、コンクリート造りや木造の建物が多いところで育ったエステルには、むしろ高級な感じがする。

 駅からの道は住宅街のそれだが、特に計画されたわけではないが、統一感のある石材で作られているから、それも高級感につながる。石の産地が同じというだけなのだが。

 途中、花屋があった。

 土産物など何も持ってはいないが、ワイン程度は買っていこうかと考えていたエステルは、そのまま飾れる蘭のブーケを見て、買っていこうという気になった。

 それを持って歩き、駅から千歩ほど歩いてクリシュナのアパートにたどり着く。

 石造りの五階建ての建物は、白みの強いヴェネトの太陽(恒星の名前もヴェネト)の光を受けて、シャンパンゴールドに照り映えていた。

 持ち歩いている騎士団中尉の身分証を読み取り、エントランスのドアが開く。中も石造りだが、表面をわざと荒らして削っているために、冷たい感じはそれほど強くない。

「先輩、着きました」

 通信を入れる。耳の後ろのインプラントが声をクリシュナにつなぎ、クリシュナからすぐに返事が来る。

『はーい。お待ちしてましたよ』

 声とともに、内扉が開く。

 エスカレータに乗って四階に昇り、意外に広い廊下を進んで扉の前に立つ。

 待つまでもなく、樹脂製の扉が音もなくスライドして開いた。

「いらっしゃい」

「お忙しいのにありがとうございます」

 割と無表情なことが多いクリシュナが、淡い樫の木色の肌に柔らかい笑顔を浮かべていた。

「先輩ってのは初めて聞いた」

「階級で呼ぶのも変ですし、お名前で呼ぶのも失礼な気がしまして」

「ああ、メディア人らしいわね」

 招き入れながら苦笑する。

「うちの実家の方じゃ、名前で呼ばないのは距離を取りたがってるって思われて、いいことじゃないのよ」

「ではお名前でお呼びしたほうがよろしいですか?」

「任せる。本人がしっくり来てない呼び方をされるのもね」

 年齢でいえば十歳違うし、軍歴もだいぶ離れている。先輩呼びは全く間違っていない。公的な呼ばれ方は「少尉」一択なのだから、プライベートは好きに呼べばいいとクリシュナは思っていた。

「では、先輩と」

「結構。ろくな部屋じゃないけど、好きにくつろいで」

 子爵閣下、などと呼んだらまた怒り出すんだろうな、と思いながら、クリシュナはキッチンのコーヒーメーカーをタッチした。昨日の夜買ったばかりの豆が削られ、実用性しか考えていないと見た目にわかる樹脂製のカップにコーヒーが落とされていく。

 芳香が部屋に広がり始める中、殺風景な部屋を珍しそうに眺めていたエステルが、帽子を取りながらこれまた実用性満点のソファに腰を下ろす。

「先輩らしいといいますか……」

「ミニマルといってちょうだい」

 壁はさすがに石むき出しではなく、品の良いベージュ系のクロスが貼られているが、物の少ない部屋は、そのすべてが質実剛健、装飾性皆無だ。

「どうせ部屋にいる時間なんて一年のうちひと月もないからね。たまに長くいることもあるけど、だからってものを増やす気にもなれないんだよ」

「それにしても実用に振り過ぎといいますか……実はベッドルームはファンシーだったり」

「しないねえ」

 出来たコーヒーを二つ持ち、クリシュナが直角に並べた隣のソファに座り、エステルにカップを一つ手渡した。だいぶ年下の上官のプラチナブロンドが、柔らかに揺れる。その下の美貌は実年齢より幼く見え、本当にこれが死天使とかいわれるエース級の戦士なのかと、改めて不思議に思った。

「きれいなブーケをありがとう」

 目の前のテーブルに置かれた小ぶりな蘭が咲き乱れるブーケを手に取り、コーヒーの香りをかき消すほどではないほのかな香りをかぐ。

「街角で目に入ったら、なんとなくお見せしたくなりまして」

「花は好きよ。自分では買わないけど」

「どうせすぐに訓練に入ってしまいますが、せめて一時の潤いになればと」

「その発想がすごいよね。私には無いな」

「部屋を見れば、それはなんとなく」

 エステルが苦笑する。実家は武門の貴族とはいえ、自邸の使用人たちがあちこちに花を飾るのは当たり前の光景だったし、庭には温室や花壇もあった。花に囲まれているのはごく自然のことで、兵舎でもないのにそれがかけらもない住居にいるというのは、なんとも殺伐として落ち着かない。

 買ってきて良かった、と心から思った。

「さて」

 と、クリシュナはエステルが花と一緒に持ってきたワインが入った冷蔵ケースを親指で指す。

「あれを飲み始めたらできなくなるから、先にやっちゃおうか」

 空中で軽く指を振り、モニターを呼び出す。自分の目の前に現れたモニターをコピーしてエステルの方に流し、データを呼び出す。

「面倒でもやっとかないとね」

 宿題、である。

 エステルも、別にこの先輩が和やかな談笑なんぞを演出して楽しませてくれると期待しているわけではないので、モニターに映されるデータに目を移した。

 出された宿題は、騎士団がつい最近行った任務の戦闘詳報を閲覧すること。特に論文を出せというわけではないが、口頭試問はあるらしい。

「時系列順に参謀部がまとめた要略があるということですが」

「仕事早いよね、まだ二週間前くらいなんでしょ、主要戦闘が終わってから」

「鬼の騎士長閣下が鍛え上げているといいますからね、ここ一年で参謀部も相当底上げされたと聞きます」

「会長の要求水準が高いんだよ。民間企業経営者が求めるスピード感ってのは桁違いらしいし」

「御本人はのほほんとして掴み所がないと伺いますが」

「でも仕事は早いよ、買収されてからのヴェネティゼータの変化ったら凄いもんね」

 エステルが入ったときには騎士団は買収されたあとだからわからないが、その前から騎士団にいるクリシュナには、変化の速さは実感として刻まれているらしい。

「今進められてる都市開発にしても、VT社やロジスティクス社の改革にしても、まあ早い早い」

 遅々として進まなかった都市開発が、今や旧来の住民が口を開けて見守るほどに急ピッチで進み、赤字垂れ流しで倒産間近と誰もが諦めていたVT社やVTロジスティクス社などのグループ企業も、新機軸の経営改革で完全に息を吹き返した。

「トップが変わったら途端にこの変化だからね。経営者ってのがどれだけ大事か、思い知らされるよ」

 見るべきデータを見つけ出したクリシュナは、それを展開させる。

「さ、ちゃっと見てしまおうか」

 宙に浮かんだモニターを注視する。

 出てきたデータは、筆頭副団長カノン・ドゥ・メルシエ率いる騎士団の三個旅団が、紛争地帯の大平原で行った一連の戦闘の詳報だった。

「ガレント遭遇戦」

 と騎士団が呼称する、塹壕戦から敵主力を壊滅させた突出戦に至る戦いだ。

 カノン・ドゥ・メルシエは、エステルに縁が深い。

 なにしろ同じ国の出身で、貴族という身分も同じ。エステルの一歳下の二二歳であるにも関わらず、騎士団の筆頭副団長、騎士団長-騎士長-参謀長に続くナンバーフォーにまでのし上がった若き天才だ。彼女の存在があってこそ、伯爵令嬢だったエステルは、その身分を捨てるようにしてフェイレイ・ルース騎士団に身を投じた。

 凄まじい勝ち戦だったらしい、とは聞いているが、詳しくはまだ耳にしていない。

 エステルは息を呑むようにして、自動で移り変わるデータに集中した。



 途中、少しの休憩を挟みつつ、結局二人は五時間も様々なデータを見た。

 時間経過とともに変化する地図、現時点で判明している彼我の戦力の推移、妨害の濃度、防御フィールド展開の数と個別の出力、使用武器の詳細などが連続的に表示され、それを時系列で追いながら読み解く。

 なんだこれは。

 クリシュナはうめき、エステルはため息をついた。

「ルナティック・オレンジ」メグ・ペンローズ大佐の大胆。

「鉄仮面」フィル・エーカー大佐の剛腕。

 そして「紅の女王」カノン・ドゥ・メルシエ少将の勁烈。

 圧倒的な技術力と堅固な補給線。

 機動性で数を蹂躙する戦術の優越。

 怒涛の攻勢と引き際の鮮やかさ。

「……凄いもの見たな」

「……これが機動戦力たる騎士団の扱い方だと、宇宙に誇示するような戦いです」

 頭が沸騰しそうだった。

 味方の勝ち戦を追体験するのは実に心地良い行為のはずだが、戦慄が上回る。

 遭遇戦開始前、大平原の塹壕に潜り込んだ辺りでは、騎士団の機動力は完全に封じ込まれ、砲の優越のみでどうにか踏みとどまっているだけのように見えた。

 その状況を自力でぶち壊し、相手に反撃を試みるどころか、敗北必至の情勢をひっくり返してみせた。殲滅戦こそ行っていないものの、正面の六個師団を、敵の一個師団にも劣る兵力で完全撃破したのだ。

「……これについていくのか」

 少尉任官を果たした以上、またギアパイロットとしての抜擢を受けるらしいという状況がある以上、今回この様な戦果を上げた騎士団の流れは確定しただろう。

 ギアという地上戦用の決戦兵器を多用する、機動戦術。

 その中心にあるのは当然ながらギアであり、運用するパイロットだ。

 自分たちギアパイロットには、今後この戦いで参加パイロットが果たした役割以上のものが求められることになる。

「……ついていくどころか、指揮するんですよね、中級指揮官として、私達が」

「うはあ」

 エステルはついに頭を抱えた。

 華やかすぎるほどの勝利だ。兵士時代、あるいは下級下士官時代なら素直に喜び、士気を高めただろう。

 だが小隊を自ら率いることができる階級になってしまった以上、あの苛烈な上司たちが率いていない戦場でも、あの戦果の拡大再生産が期待される。

 ソファに沈み込んで天を仰いだクリシュナも、そろえた膝の上で両手を握りしめたエステルも、地上戦におけるギアの重要性がこの戦いの結果によって大いに騰がることが容易に予想できた。

「こりゃ、再訓練は半端ないわよ」

「……泣き言を口にする気は一切ありませんが、こんな戦いを見せつけられては、先輩の仰る意味がわかる気がします」

「新型が扱いづらいとかいってる場合じゃないな。誰の下に配属されるかわからないけど、多少は使えるようになっておかないと生き残れない」

 クリシュナがいうと、まだギア部隊を率いた経験はないエステルが、上気した頬を赤く染めながらうなずいた。

「せめて足手まといにならない水準に、今すぐならないといけません」

「気合入っちゃうねどうも」

 クリシュナが立ち上がって伸びをする。

「それはそれとして」

 伸び切ると、腕をおろして歩く。

「一応非番なんだ、気分も変えたいし、食事にしようか」

 エステルは笑顔になった。


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