メアリーの日記(抜粋)と 1
◯月◯日
さいきん かぜひいてる人 おおいなあ。
エマちゃんも、ジミーもあそべないんだって。つまんないの。
今日はひとりであそんだよ。石をひっくりかえすと、ミミズがでてきた。でかい。
お母さんにみせたら すててきなさいだって。すてたふりして かくしておいた。
もっと大きくそだてるんだ。
◯月◯日
おこられた。おとうとがないたけど、つぶされて なきたいのは こっちだよ。かくにんしてから くつ はけばいいのに。
◯月◯日
かぜは かぜじゃなかったんだって。
なん人もなくなったって。いつもキイチゴくれた となりんちのじいちゃんも しんじゃった。
まだちっちゃい リョーシュサマの子がきて、いえでるな とか いろいろいってた。
大人は、きぞくのおじょーさんは ものしり っていう。
ものしりって おばあちゃんのことじゃないの?
◯月◯日
おとうとがけがした。
ビョーキのせいで ほかのリョウから、クイツメモノっていう わるいやつがながれてきて、見つけたおとうとがきられた。
たすからないかもっていわれたけど、おじょーさんが たすけてくれた。
ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。
あたし、おじょーさんに おれいする。
おじょーさんのために なにかしたい。
明日お父さんとお母さんにきいてみよう。
「そんな事もあったわねえ」
「あーっ! お嬢様、何他人の日記見てるんですか!」
「貴女がこの日記をくれたんじゃないの」
「お嬢様がまだ幼い私から、言葉巧みに巻き上げたんですよ!」
「違うでしょう。領民の生活が知りたいって言ったら、貴女が寄越したんじゃないの」
「う、『領民』がイマイチ分からなかったんですよ。自分の事を知りたいのかと思って」
「弟さん、マークだっけ? あの時の怪我の影響はまだあるの?」
「いえ、お陰様でもう普通に過ごせてます。本当にありがとうございました」
「それなら良かったわ。もう一か八かだったから」
「ああ、お嬢様号泣してましたもんね。『これ、縫った方がいいの? 焼いちゃった方がいいの? 分がんないよおぉごわいよぉー』って言いながら弟にザクッと縫い針突き立てて、更に泣くという。もう、周りも唖然としてましたよ。それまで重苦しかった空気が、お嬢様が登場してからは、怪我人とお嬢様のどっちの世話をするべきかという方向に……。もう弟の事を諦めてた母も、あまりの惨状に見兼ねて代わりを申し出てましたね。あれ? どうしました、お嬢様」
「なんかもう、申し訳ない」
「いいえ。あれで助かったのは間違いないです。三日三晩、高熱に苦しんではいましたが」
「う、まあ私のした事と言ったら、なるべく綺麗な水で洗って、消毒らしき事をして、傷口を塞ごうとしただけだもの。本当に運が良かったわ」
「『水、飲ませていいがもわがんないぃぃぃ』といいながら看病のような事もしようとしてくれたじゃないですか。あの時、お嬢様だけが諦めなかった。それが弟の命を繋いだのは間違いないと思ってます。なんせ葬式の話まで出てましたからね。幼かった私はよく分かってませんでしたが、当時大人達は『やっぱりちっこくても貴族様だね。学がある』と感心してましたよ」
「発言に何故か若干の悪意を感じるけど、こちらこそ貴女という得難い人材が手に入ったんですもの。ありがたいと思っているわ」
「いいえ、こちらこそ教育を受けさせていただいて、本当に感謝してます。」
「当たり前のことよ」
「そんな事ありません。ですがそろそろ、私がお願いして学ばせていただいた部分の諸費用も、払い終わった頃ではないでしょうか。賃金についての相談が……」
「おほほほほほ。愛するベンジャミンが窮地に陥っているような気がするわ! 助けに行かねば。ではっ」
「お、お嬢様ー!? それヒーローとヒロイン逆ですよねー!」




