ダグラスー2
十二歳になり王都のブラウン校に入学する事になった。
その時ローザは十四歳で、麦藁のようだった髪も、艶やかな亜麻色になった。父が彼女の残念淑女ぶりを心配して、香油を渡していたからな……。
背がかなり高くなり、既に成人男性の平均近くある。しかし決して男性に間違われることはないだろう。メリハリ凄いから。
父が姿勢や食べ物にも注意していた効果もあるかもしれない。うちの父、ヤバくないか。
また会えるからとアッサリ別れ、ちょっと寂しい思いをしたのは内緒だ。
ずっと二領に引きこもっていた父も社交界に復帰することになり、共に王都へやってきた。
ボサボサだった髪と髭を整え、正装に身を包んだ父は、物凄く格好良かった。健康的な生活で培われた肉体もご婦人方に大人気で、モテちゃったらしい。
父に似た自分も長じるにつれ、お姉様方に可愛がられるようになってきた。
学校で共に過ごす事の多いリチャードは、所謂王子様といった外見で、若い女性に非常に好かれる。しかし令嬢が相手ではごく紳士に振る舞うしかなく、旨味が薄い。
普段はスカした奴だが、私を羨んで「どうしたら私もご夫人方にモテる」などと聞いてくる素直なところがあるので、つい面倒を見てしまう。しかし嫡男で婚約者もいるコイツには、未亡人でも問題が出るかもしれないので、良い店を紹介してやった。
後日、スッキリした笑顔で礼を言われた。「また令嬢達を、紳士的にエスコートする気力が湧いてきたよ」などと言う。この真面目なアホさが憎めないんだよなあ。
と思っていたら、アホさが憎くなる事態になった。
共学化の為入学してきた令嬢の中の一人に、あからさまな好意を寄せるようになったのだ。ヤマダ・スットンという、伯爵であるスットン卿の長女だ。
何故かこの名前にも、違和感を覚える。が、それはまあいい。
婚約者も入学してきているというのに、そちらはほぼ無視。運命の出逢いだと言ってチョーうるさい。
授業に出ても上の空。役員の仕事もいい加減。
これまでの友情に免じて、迷惑がかかったところへ引き連れて行って、一緒に謝罪する。仕事は手伝わない。それは私の仕事じゃないからな。
しかし余り改善が見られないでいるうちに、第三王子のエドワード殿下までヤマダに入れ込むようになった。他にも取り巻きは増えていたが……ロリコン疑惑のある奴らだったな。
幼く見えるからといって矢鱈と触るのはどう考えても拙いし、本当に幼児だったとしても許せん。
結果的にヤマダを庇う事となり、何だか懐かれた。
そうなると、今度はリチャードが黙っていない。
何と同志扱いされた。
彼女の愛らしさの前に、共にひれ伏そうと言うのだ。変態だな。
ヤマダは確かにフワフワの茶色の髪が、人懐こい大型犬のようで可愛いかも知れない。(160センチ近くあるから、小型犬ではない)そう思った時もあって、試しにチョコレートを「そら、食え」と、口でキャッチ出来るよう高く放り投げたら、真っ赤になって、ちゃんと手渡せとプンプン怒り出した。
あれだな。やって出来ないから可愛いのであって、やろうともせず、出来ない事を可愛いと思ってるのは、全く可愛くないな。
そうリチャードに伝えると、「それは普通食べないだろう」と言われた。
ローザは食べてたぞ。あちこちに適当に投げても、七割を超える成功率だった。
それから変態の布教活動をかわしきれず、泥沼に巻き込まれていくことになる。
その時の事をここで語るのは不適切なので、気が向いたら、アイリーン嬢にでも聞いてほしいと思う。
リチャードがフェリシティ嬢に求婚する事になった時、私は既知の伯爵未亡人と談笑していた。大変お世話になった夫人だ。
最近出来たパーラーについて話していると、会場が騒めいた。様子を見てくると言って離れ、騒動の中心へ向かうと、リチャードが背の高い女性の前に跪いてる。
求婚したんだなと思って女性を見ると、それは六年振りに会うローザだった。
十四の時から、余り背は伸びなかったようだが、十分でかい。だがそれよりも目を惹くところがある。
綺麗に結い上げられた髪に、流行りとは違う膨らみを抑えたドレスが引き立てる、出るとこ出ちゃった迫力ボディだ。うーん眼福だ。いや、それどころじゃなかった。
彼女がローザなら、やつは違う人に求婚した事になる。アホ過ぎる。
適当な事を言って、取り敢えずリチャードを回収する。
近くで見たローザは、正統派の美人ではないが、少し垂れた目と大きめの口が魅力的な、華やかな女性になっていた。
隣にいた金髪美人は、エリザベス・マックイーンだったか。やり手の男爵の遠縁というのも間違いではないが、隣国の侯爵令嬢だと父が言っていた。
何となく面倒そうだったので避けていたが、これはお近付きになるしかないだろう。
「R15は保険です」の素晴らしさに漸く気付くことが出来ました。
次に機会があれば、必ず付けたいと思います。
ヤマダを「一人娘」から「長女」に変更しました。




