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すべてに絶望した俺は転校して幼馴染の前から姿を消した。  作者: 孤独な蛇


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19話 募る不安

 勉強中心の毎日。

 この学校に通うほとんどの生徒は進学を目指しているだろう。


 夏休みを明日に控えたこの日。


「どうしていつも……そんなに眠そうにしてるの?」


 私はフラストレーションが溜まっていた。


「……それは前に行っただろう。漫画とかアニメが……面白くて、さ」


 先日行われた学期末テストで、大和は成績上位者に入らなかった。


「夜更かしして……それが、成績が落ちた理由なの……?」

「……ああ……そうかもな……」


 どこか後ろめたそうに答えた彼を見て……私は憤りを感じた。


「なんで……」


 私が好きな大和は……向上心が強くて、博識があって、真面目で……。


「なんでそんなふうになっちゃたの!?」


 勉強は積み重ねが大切だ。

 今手を抜いてしまったら後で苦労することは目に見えている。

 それがわからない大和のはずがない。

 それなのに……。


「勉強は……これでも頑張ってるんだよ。今回は……たしかに成績悪かったけど……」


 彼は今回成績上位者には入らなかったけど、どの科目も平均点かそれ以上は取れていた。

 今からならまだまだ挽回できる。


「ねえ大和、夏休みになったらまた一緒に勉強しよう。中学の時みたいに」

「いや、それは……親父たちが許さないだろう。俺たちが会うことは……」

「うん、だから図書館とかファミレスとか、学校の自習室も夏休みは解放している日もあるみたいだし」


 大和は秀才なんかじゃない。

 天才と言っていいほどの先天的な力量を私は間近で見てきた。

 そんな彼が高校受験シーズン、惜しまない努力の結果が満点首席合格だったんだ。


「また私と一緒に頑張ろうよ!」


 お父さんの出した条件を彼なら難なくクリアできる。

 私は彼と同じ大学へ行くんだ。

 そして、その先だって……。


「わ、わるい……俺は、一人で頑張るよ……」


 そんな明るい未来を夢見ていた私は……大和の言葉を聞いて愕然とした。


「わ、私は大和のことが心配なんだよ!」

「なにが……心配なんだよ?」

「クラスで孤立していることだって多いし、成績だって!」

「孤立していてなにが悪いんだよ?成績だって……酷いものではないだろうが」


 違う……違うよ。


 こんなの……眩しかった大和じゃないよ。


「や、大和……夏休みは……」


 高校生になって初めての夏休み……私は大和と色々なことがしたかった。

 最近は昔みたいに他愛もない話もできていない。

 たくさんお話もしたいし、一緒に出掛けたり、勉強したり……。


「葵……俺のことは放っておいてくれ……」


 それは、あきらかに私と距離を取るための言葉。


「え、あ、あの、ちょっと……」


 ショックで……これ以上、声が出なかった。


 この前みたいに、彼の機嫌を損ねたくない。

 嫌われたくない。


 臆病な自分の弱い心が顔を覗かせる。

 そんな思いも相まって、呼び止めることもできない。


 夏休みは大和と一緒に特別な時間を過ごしたい。

 そんなふうに胸を高鳴らせていたのに……。


 1学期終了のこの日、生徒たちは仲の良い友達と集まって下校したり、夏休みの予定を話し合ったり、とても賑やかだったけれど、それとは対照的に大和の態度は素っ気なくて……。


 一人でそそくさと下校していく大和の後ろ姿は……なんだかとても寂しそうに見えた。


 ♢


「定期試験、学年一位だそうだな」

「あ……うん」


 今日はいつも忙しくて家にいることが少ないお父さんと久しぶりに夕食を摂っている。


「彼……村瀬徹くんも優秀だそうだな」


 私はお父さんに自分の成績のことや学校のことをいちいち報告したりしていない。


「うん……そうみたいだね」


 いったい誰から学校事情を聞いているのか……。


「徹くんは見所がありそうだな」

「……見所って……?」

「彼ならば葵の相手に相応しいかもしれない、という話だ」

「な、なにそれ?私は……大和のことが……」

「では、その大和くんの調子はどうなんだ?」


 私や徹のことを知っているなら、大和が成績を落としていることも理解しているくせに。


「大和は……やれば、できるんだから」

「やればできる?いくらセンスがあっても、結果を残さなければ意味がないことだ」

「そんなことわかってるよ!」


 父の発言に腹を立てて、大声で反論した。

 でも……。


「葵」


 また……これだ。

 鋭い眼光。

 恐怖すら感じるお父さんの威圧感に萎縮してしまう。


「食事中だ。大きな音を立てるんじゃない」


 臆病で……弱い……心。

 あと一歩、お父さんにも、大和にも、踏み込んでいけない。


(変わらなきゃいけない……私が……)


 弱い心を払拭したい私は、そんなふうに思い始めていた。


 ♢


 海明学園の夏休みは短い。

 8月から休暇に入ったけれどあっという間に約3週間が過ぎて、2学期が始まった。


 私はその夏休み、悶々と日々を過ごした。


 大和に会いたい。

 その気持ちが溢れてきて、苦しかった。

 でも、1学期終わりの日に言われた彼の言葉に私はこたえた。


『葵……俺のことは放っておいてくれ……』


 お父さんが仕事に出掛けたのを見計らって、久しぶりに大和の家を訪ねようと思い、彼の住むマンションの傍にまで行ったものの……それ以上は進めなかった。


 大和のお父さんは私が訪ねてくることを好ましく思っていないみたいだし。

 もしも出くわしたら、父に報告されてまた大きな揉め事になるかもしれない。


 でも一番の理由は……大和に嫌われたくないから。

 放っておいてくれと言っていた彼の言葉を無視して会いに行ったら、築き上げてきた私たちの関係にヒビが入ってしまうかもしれないと……私は恐れた。


「大和……」


 学校へ行く時、私たちはいつも駅前で待ち合わせている。

 今日は2学期初日……時間になっても彼はやってこない。


「……こないな」


 不安が私の心を包み込む。


 私……なにかしてしまった……?

 もう一緒に登校しないってこと……?

 もしかして……嫌われた……?


「葵!」


 反芻(はんすう)思考が止まらない中、聞こえてきた私の名を呼ぶ声。

 

「や、大和……」


 聞こえてきた方を振り返ると待ち人である彼の姿が視界に入った。


「ごめん、遅れて!」


 息を切らしながらこちらに駆け寄ってきた大和を見て、花が咲いたようにパッと心が温かくなる。


「わるい、寝坊しちゃってさ……って葵、どうした!?」

「え?」

「な、なんで泣いてるんだ!?」


 自分でも驚いた。

 目から勝手に涙が溢れていた。


「だ、大丈夫だよ。目にゴミが入っただけだから!」


 彼はハンカチを差し出してくれて、私はそれを使って慌てて涙を拭った。


(大和の匂いがする……)


 そのハンカチからは彼が使っている洗剤の香りがして……安心する。


「大丈夫か?」

「あ……う、うん」

「本当か?ちょっと見せてみろ」


 ぎこちなく返事をすると心配してくれたのか、大和は私の顔を覗き込んでくる。


(ち、近い!)


 至近距離に近づく大和の顔。

 さっきまでの不安はどこへ行ったのか、今はドキドキが止まらない。


「も、もう平気だよ!ほら、遅刻しちゃうから早く行こう!」


 無意識に流れた涙。

 こんなにも彼を想う気持ちが強かったのだと、自分でも驚き、そして嬉しかった。


「葵……その、ごめん」

「遅れてきたことならいいよ。次から気を付けてね」

「そうじゃなくて、夏休み前に……冷たい言い方して……ごめん」


 大和……気にしてくれていたんだ、私のこと。


「ううん、全然大丈夫だよ!」


 嫌われたわけじゃなかった。

 そのことがわかっただけでも本当に嬉しい。


「な、なあ、葵……」


 胸を撫でおろしたその刹那……彼の強張った表情を見て、全身に緊張が走った。


「これからなんだけどさ……登下校、別々にしないか?」

「…………えっ……え?な、なんで?」


 血の気が引いていく。

 嫌な予感がした。


「ほら、俺、2学期からは気合い入れて勉強しようと思ってさ。それで朝早く起きて登校ギリギリまで頑張ろうと思って」

「あ、あー……そう、なんだ……。べ、勉強を頑張るなら、学校の自習室も朝早くに空いているよ!それだったら私も一緒に!」

「いや……一人の方が……集中できるから、さ。放課後も早く帰って、家で……頑張ろうと思って……」


 勉強は……してほしいけど……。


「……そ、そっか…………そう……」


 私と一緒にじゃ……だめなの……?


「2学期って文化祭とかあるよな、楽しみだよな」

「………うん」


 そんなふうに聞きたかったけど……。


「体育祭もあるな。徹は大活躍するだろうな、あいつ運動神経良いから」

「………うん」


 あからさまに話を変えてしまった大和に、そんなこと言える精神状態ではなかった。


 これ以上は踏み込めない。


 ……怒らせたくない。

 ……不機嫌にさせたくない。

 ……嫌われたくない。


 大和に嫌われるぐらいなら、避けられるぐらいなら、今のままのほうがずっと……耐えられるから。

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