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すべてに絶望した俺は転校して幼馴染の前から姿を消した。  作者: 孤独な蛇


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16話 焦りの根源

「大和……今日、お父さん家にいないんだ。久しぶりに来ない?」

「いや、家政婦さんに見られたらきっと報告されるだろうからな」


 あの日以来、大和は一度私の家を訪ねてくれたけど、お父さんに追い返されてしまった。

 それから私たちは学校以外で顔を合わせることができなかった。


「大和の家は……だめ……?」

「俺の親父も葵を家に入れるなって言ってるからなぁ……」


 例えば放課後に図書館とかファミレスで待ち合わせをして会うこともできたけれど、海明学園の受験が迫っている時期だけあってゆっくりと二人きりで静かに勉強できる環境が欲しかった私たちはそれを断念するしかなかった。


「ねえ、大和……このまま離れ離れになったりしないよね?」


 私は本当に不安だった。

 私自身、海明に受からなければならないのは当然だけど、大和が首席で合格してくれないとお父さんがどんな行動を起こしてくるか……。

 大和なら首席で合格できると……安易なことを口走ったばかりに……。


「当たり前だろ!」


 彼は私の心配を打ち払うように力強く答えてくれた。


「う、うん!絶対に同じ高校に行こうね!」


 絶対に首席で合格してね……なんて、私は言い出せなかった。

 そんなことを言ったら、きっと大和に負担が掛かってしまうし……。

 なにより、どうしてそんな話になってるんだ?……って理由を聞かれたら答えようがない。


 大和と一緒にいたいから……そんなことを言ったら……告白しているも同然だから。


 ♢



 冬の強い寒波が到来していたこの日。

 海明学園高校の合格発表があった。

 高校のホームページで自分の合格を確認したけれど……私は気が気じゃなかった。


 そうこうしているうちに自宅の固定電話が鳴った。

 恐る恐る受話器を手に取って固唾を飲む。

 電話の相手は大和だった。

 私は彼からの朗報を一抹の不安を感じながら待ちわびていた。


「大和、それ本当!?」

「ああ、首席合格だったよ」

「すごい!やっぱりすごいよ、大和は!」

「葵、なんでそんなに喜んでるんだよ」

「だって首席だよ!本当にすごいよ!」


 やっぱり大和は優秀だった。

 私が思っているよりも遥かに大和は凄かったんだ。

 同年代の学力が高い人たちが集まった中で行われた受験結果がこれなんだから。


「葵も合格したんだろう?」

「そうだよ!よくわかったね!」

「葵なら当然受かるだろうと思ってたさ。これで高校も一緒だな」


 首席には程遠いけれど私も上位の成績での合格だった。

 大和に負けないように一生懸命勉強に励んできた結果……ううん、大和と一緒にいたいという強い気持ちがこの結果に導いてくれたんだ。


「うん!一緒だね!」

「首席って入学式で新入生代表挨拶とかあるのかな?人前で喋るなんて憂鬱だな」


 大和は自分が首席で合格したことを大きなことだとは捉えていなかったみたいだけど、私はお父さんとの一件があったから嬉しさで胸がいっぱいだった。


 受験勉強を終えて、これからまた大和と楽しい日々を過ごすことができると……この時の私はそう思っていた。


 ♢


「どうして!?大和は首席だったんだよ!?」


 中学を卒業して海明学園の入学式を数日前に控えていた最中、私は必死でお父さんに訴えかけていた。


「現時点で優秀なことは認める。だが、義務教育の範囲内の勉強が人よりできる程度では納得しかねる」

「な、なにそれ……じゃあどうすれば納得するの!?」


 首席で合格すればって言い出しのはお父さんの方なのに……。


「せっかく勉強頑張って合格したのに……まさか本当に私を転校させて大和と引き離すつもり?」

「状況によってはそれも仕方あるまい」


 冗談じゃない。

 どうしてお父さんは私と大和の関係を引き裂こうとしてくるのだろうか。


「そんなの私が納得できないよ!」

「おまえが納得する必要はない!!」


 苛立ちが高まって強気な態度で反論したけれど、家中に響き渡る父の声量で私は萎縮した。


「そ、そんな……」


 こんな状況になると痛感する。

 私の精神的な根っこの部分はなにも変わってないんだ。

 目の前の父に恐怖を感じてなにも言い返せない。

 臆病な自分が憎らしい。


「わ、私は……どうしても大和といたくて……」


 でも、ここで引くわけにはいかない。

 ここで反論しなかったら、本当に大和と離れ離れになってしまう気がしてしまった。


「彼と一緒にいると楽しいから……以前そう言っていたが、それが理由か?」

「う、うん……」

「だめだ」


 お父さんがそう即答したことに臆病な心の奥底から憤りが込み上げきて。


「どうして!?彼と一緒にいたらだめなの!?」


 気がつけば自分でも信じられないぐらい声を張り上げていた。

 私が大声で訴えかけている様子を目にしてもお父さんは落ち着いている。


「葵は……大和くんのことが……」

「そうだよ!好きなんだよ!だから絶対に一緒にいるんだから!」


 もう恥ずかしいなんて言ってられない。

 自分の本音を、望みを、必死に叫んだ。


「……わかった。では、条件を提示する」


 また条件?


「首席で合格したら良いって言ったじゃない!」

「そうだな。だから海明学園へ通うことは許可する。だが、彼との交際は認められない」


 交際は認められない……?

 別にまだ大和に告白したわけではないけど……このままだと今までと同じで学校で顔を合わせることぐらいしか日常的にできない。


「ど、どうすれば……認めてくれるの……?」


 色々と反論する言葉は浮かんだけれど、何を言っても父は首を縦には振らないだろう。

 ここはその条件を聞いて突破口を見つけるしかない。


「首席で合格したとはいえ、海明学園高校のカリキュラムは楽なものではないだろう。大和くんがそれを乗り越えて難関大学へ合格できたのなら……その時は好きにすればいい」

「難関大学……?」

「国立でも私立でもいい、現時点で優秀な大和くんなら難しくはないと思うのだが、どうだ?」


 少し前に高校受験を終えたばかりの私には大学受験がどれほど大変なものなのかなんて想像がつかない。

 でも、大和ならきっと……ううん、絶対に……。


「できるよ!大和なら!」


 そう、彼ならば必ず成し遂げる。

 もともと優秀な上に慢心しない努力家な大和の性格を私はよく知っている。


「言っておくが、この話を大和くんにすることは許可しない」

「ど、どうして?」

「彼の本当の実力を知りたいからだ。大和くんが自分の高校生活を送りながら得た学力や成功にこそ意味がある。それとも『私のために頑張って大学に合格して欲しい』とでも懇願するのか?」

「それは……」


 確かにそんなことはできない。


「……うん、わかった」


 私は大和のことが大好きだけど、彼が私のことをどう思ってくれているかはわからない。


「もしも大和くんが期待外れだった場合、将来有望な人間を私が選定する。例えば村瀬先生のご子息の徹くん……彼も候補の一人だ」

「そんなの嫌だよ!勝手に決めないで!」


 村瀬徹……彼とも四月から同じ海明学園に通うことになっている。

 お母さんが亡くなった後、何度か話したりしたことがあったけれど昔と違って随分と落ち着いた性格にはなっていたけど……。


「大和くんのことよりも、葵は自分のことを精一杯頑張りなさい」


 そう言うとお父さんは書斎へと速足で戻っていった。


「せっかく……大和と一緒の高校に受かったのに……」


 わけがわからない条件は出されるし、徹の名前を急に言い出すし……。


「私も頑張らないと……大和に置いて行かれないように」


 私の懸念はレベルの高い高校に進学して、私自身がその環境でどこまでやれるのかという点だけだった。

 海明学園でも成績のトップを走り続けるであろう大和についていけるのかどうか。


 まさか大和が成績不振に陥ってしまうなんて……この時の私は微塵も想像していなかった。


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― 新着の感想 ―
どうせ達成しても次の条件出してくるだけだろ 信用に値しないクズ親じゃん
これ、後出しで条件何個でも付け足していって何達成しても認めるつもりなかったんだろうなぁ。
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