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一閃流の|運命《さだめ》

本日は「乙女ゲー世界はモブに厳しい世界です コミカライズ17話」の更新日!


※コミックウォーカー様、ニコニコ静画様にて無料で読むことが出来ます。

※一話と最新話のみ コミカライズ版は1~2巻が好評発売中です。

※三巻は4月ごろ発売予定とのことです。

 その日。


 リアムが遊びに行くと言い出した。


 修行中だったエレンも連れ出したのは、リアムの気まぐれだろう。


(今日は師匠とお買い物だ!)


 ただ、エレンは自分の師であるリアムと出かけられると喜んでいた。


 高級車はリムジンのような外観をしている。


 タイヤもあるが、空を飛ぶためほとんど使用されない。


 特注で作らせた高級車は、車内も随分と豪華だった。


 車道の五十センチ上に浮かび、滑るように移動している。


 エレンはリアムの側に置かれた刀を見る。


 リアムのお気に入りの刀の中でも、別格と言える代物だ。


 リアムのコレクションの一本である、金色の虎が描かれた刀をエレンはもらった。


 それもかなりの逸品であるが、名もないリアムの刀は不思議な力を宿している。


(師匠、最近はずっとあの刀を持ってる)


 あまり表に出さないお気に入りの刀を持ち歩いている。


 何か警戒しているようだった。


 リアムはシートに座り、ティアがグラスに注いだ酒を飲んでいた。


「昼間から飲む酒はうまいな」


「リアム様、いい飲みっぷりです。惚れ惚れします」


 お世辞ばかりを口にしているティアだが、それが本心というのはエレンにも何となく分かっている。


 ティアの瞳がハートマークになりそうなほどに熱を帯びていた。


 尻尾でもあれば、はしゃぎすぎた犬のように振り回していることだろう。


 ただ、エレンは先程から妙な気配を感じていた。


 エレンはリアムに尋ねる。


「師匠」


「何だ? ぬいぐるみなら一つだけ買ってやる」


「ち、違いますよ! そ、その、何というか妙にソワソワします」


 ソワソワと言ってしまったが、正確に言うならゾワゾワだろう。


 背筋が寒い。


 風邪を引いていないはずなのに寒気がしていた。


 誰かに見られている気がしたのだ。


 キョロキョロと窓の外を見るエレンに対して、リアムは少し嬉しそうにしていた。


「お前も少しは分かってきたな」


 リアムは気を抜いたままだ。


 しかし、先程まで嬉しそうにしていたティアの様子が激変する。


 通信で周囲の護衛に何やら確認していた。


「異常はないか?」


 部下からの報告を受ける。


『今のところ異常は――待ってください。進路上に誰かいます。二人?』


 それを聞いたティアが目を大きく開き、怒鳴るように命令する。


「全員、警戒態勢!」


 車が急に動きを変えて車内が揺れると、リアムは酒を飲み干して呟いた。


「――気付くのが遅かったな。もう逃げられないぞ」


 揺れる車内で、エレンは天井を見上げる。


 すると、リアムに突き飛ばされてしまった。


 何が起こったのか分からない内に――車は真っ二つにされ、先程までエレンがいた場所は切断されていた。


 車が二つに分かれ、そして地面に落ちると道路に車体が削られながら滑って止まる。


「な、何が?」


 エレンが辺りを見回すと、一人の女が立っていた。


 紺色の綺麗な髪を風に揺らしている。


「あれ? もしかして、その子は――」


 女が自分を見ている。


 彼女は狂気を感じさせるような笑みを浮かべている。


 すると、自分の近くにもう一人が降り立った。


 荒々しい言葉遣いが聞こえてくる。


「今ので死んだんじゃないだろうな? 出てこいよ、リアム!」


 オレンジ色の癖のある髪を後ろでまとめているが、癖が強いのか獅子のたてがみのように見えた。


 ただ、エレンは気が付いてしまう。


(この人たちは強い)


 どちらも刀を腰に帯びている。


 すると、切断されたもう一方の車からティアが飛び出してくる。


 その手にはレイピアが握られている。


「貴様ら、誰に向かって武器を向けたのか分かっているのか!」


 激高しているティアを、二人の女はニヤニヤと見ていた。


「弱くはないかな? でも、ちょっとね~」


「あぁ、その他大勢よりはマシだが、それだけだ」


 二人の実力は明らかにティアより上だった。


 それが分かっているのか、ティアも不用意に飛び出さない。


 リアムを庇う位置に立っていた。


「リアム様、この場は我々にお任せください」


 ゆっくりと起き上がり、うなじに手を置いて首を回している。


 護衛の騎士たちが集まってくると、リアムは手をひらひらとさせて追い払うようなジェスチャーをする。


「強がりを言うな。逆にお前らが邪魔だ。さっさと下がれ」


「で、ですが!」


 すると、エレンの近くにいたオレンジ髪の女が――その腰に提げた二本の刀に意識を向けた。


 それに気付いたティアがリアムの前に飛び出すと、左手が斬り飛ばされる。


 地面には二つの大きな傷が入った。


 ティアは、左手を斬り飛ばされながらもリアムの前に立っている。


 オレンジ髪の女が舌打ちをする。


「何だよ。両腕を斬り飛ばして、実力の違いを教えてやろうと思ったのに」


 すると、紺色の髪の女が馬鹿にしたように笑っていた。


「下手くそ~」


「あん? リアムをやったら、次はお前を斬り殺してやろうか?」


 二人の間にも剣呑な空気が漂い始めると、そこでリアムが動いた。


 斬り飛ばされたティアの腕を拾うと、それを持ち主に渡して下がらせる。


「よく俺の前に出た。今回の件は評価してやる」


「リアム様!?」


 ティアが驚いていると、押しのけて他の騎士たちに預けた。


 そして、リアムは二人の前に出ると――空気が一変する。


 ヘラヘラしていた二人の女たちが、構えを取ったのだ。


 リアムが二人を前に挑発する。


「どうした? 俺を殺しに来たんじゃないのか? ――怖じ気づいたなら、お前らは一閃流の偽物だな」


 リアムは彼女たちの太刀筋を見て一閃流と判断したようだ。


 エレンが納得する。


(この感じ、同門だったんだ!)


 先に動いたのは紺色の髪の女だ。


「はじめまして、兄弟子。僕は皐月 凜鳳(さつき りほ)――正統な一閃流の後継者だよ」


 礼儀正しいようで、リアムを見る目は殺気に満ちていた。


 そして、もう一人は敵意を隠そうともしない。


獅子神 風華(ししがみ ふうか)! お前を殺して、一閃流を受け継ぐ女だ!」


 刀を抜いて風華がリアムに突撃した。


 見えぬ斬撃を得意とする一閃流で、この動きは珍しい。


 エレンの目に見えたのは――その二刀で何千という斬撃を一瞬で繰り出す風華の動きだった。


 荒々しい見た目に反して、とても器用な剣士に見える。


「師匠!」


 エレンがリアムに叫ぶ。


 するとリアムは、刀を握ろうともしなかった。


「エレン、よく見ておけ」


 すると、リアムが風華の斬撃を全て己の斬撃で防いでしまう。


 風華を前にしながらも、エレンに指導していた。


「同門対決は俺も初めてだ。次の機会などないかもしれないからな」


 リアムは二人を一閃流だと認めていた。


 ただ、遊ばれたように感じた風華は苛立っている。


「調子に乗ってんじゃねーよ! 一閃!」


 目にも留まらぬ動きで斬撃を放つ風華だが、その途中で刃を二本ともリアムに踏みつけられていた。


「なっ!?」


 刃を交差させるような動きを見せていたので、重なり合うタイミングでリアムが踏みつけたのだ。


「いいことを教えてやる。――俺はお前らよりも強い」


 リアムが風華を蹴飛ばすと、凜鳳の方は最大限に警戒していた。


「厄介ですね」


 斬撃を次々に繰り出してくるが、刀を抜いたリアムに全て弾かれる。


 その度に、道路に亀裂がいくつも入ってズタズタになってきた。


 一閃流同士の対決を前に、リアムの騎士団も手が出せずにいる。


 三人がその場に立っているだけ。


 時折、一瞬で移動して場所が入れ替わる。


 ただ、激しく斬り合っているのか、斬撃の音や衝撃だけが辺りに響いていた。


 徐々に三人を中心に嵐のように風が吹き荒れていく。


 騎士たちが混乱していた。


「何が起こっているんだ!?」

「前に出るな! 死にたいのか!」

「これでは援護も出来ない」


 ただ、徐々に二人の女の旗色が悪くなる。


 二人に傷が目立ってきた。


 かすり傷程度だが、二人が傷を負っていた。


 そのことに、二人も驚いた様子を見せている。


 そして、リアムが溜息を吐いた。


 わざとらしく、そして二人を前に余裕を見せている。


 対して、二人はかすり傷だらけなのに加えて、息が上がっていた。


(師匠強い!)


 エレンは、リアムの強さに感激する。


 今まで強いことは理解していたが、どこまで強いのか把握は出来なかった。


 それが今、同門同士の戦いでリアムの強さを知ることが出来たのだ。


「――どうした? 本当に怖くて本気を出せないのか? なら、お前らの全力を見てやる。二人揃って本気を出せ」


 リアムが刀を鞘にしまって両手を広げて隙を見せると、二人が目に見えて激怒していた。


 凜鳳の口調が取り繕うことも忘れていた。


「僕を前に隙を見せるとか――死ねよ、糞野郎」


 風華は額に血管が浮かびあがっていた。


「殺す。殺してやる。こんな屈辱初めてだ! お前は塵になるまで刻み続けてやらぁ!」


 凜鳳は姿勢を低くし、一瞬消えたかと思うとリアムのすぐ近くに出現していた。


 踏み込んだ足が道路にひびを入れていた。


 無表情でリアムの命を刈り取りに来ていた。


 神速にして強力な一撃を放とうとしている。


「一閃――散れ」


 風華の方は飛び上がり身を捩って空中で回転を始めた。


「一閃! 食い破れ!」


 風華はこれまでにない数の斬撃を放ち、それはまるで嵐のようだった。


 全てを斬り裂く嵐だ。


 二人の斬撃はそれぞれ性質が違う。


 華奢に見えて力強い凜鳳の斬撃は、本当に一太刀で勝負を決める一閃流の王道とも言える斬撃だ。


 対して、風華の方は凜鳳に及ばない一撃の威力を数で補っていた。


 一閃流からすれば邪道だが、そもそもオーバーキルの一撃を放つよりも最適な力加減をした一撃を複数放てる方が効率はいい。


 二人は、同じ師匠である安士から学び、違う道を歩んでいた。


(なら、師匠は?)


 エレンがリアムを見る。


 二人の一閃流と対するリアムは、笑みを浮かべていた。


「どっちも半人前だ。出直してこい」


 直後、凜鳳の一撃を受け止めたリアムは、嵐のような斬撃を放つ風華を一振りで吹き飛ばしてしまった。


 二人が吹き飛び、起き上がると――リアムが構える。


「今後は俺の前ででかい口を叩くな。だが、同門のよしみで俺の本気も見せてやる。――受け止められなかったら、そのまま死ね」


 弱い一閃流など必要ないというリアムの強い意志に、エレンは震えた。


 つまり、自分も弱ければいずれリアムに殺されるのだ。


 凜鳳は何とか起き上がり、風華も血を吐きながら構える。


 二人は震えていた。


 凜鳳が半笑いだ。


「――あ、これはまずいや」


 風華はリアムを睨み付けていた。


「師匠が二人で挑め、って言うわけだな」


 二人が近付き協力するような構えを見せると、リアムが目を細めた。


「一閃」


 リアムが技名を言い終わると同時に、二人は体から血が噴き出して倒れる。


 見えなかった。


 それよりも、先程から荒々しかった二人の一閃よりもとても静かだった。


 派手な技を放つ二人とは対照的に、とても静かで周囲には風も発生せずに、斬撃の跡も残らない。


(本当に何もしていないように見える)


 エレンは自分の目に自信があったのに、本当に何も見えなかった。


 二人が地面に倒れる。


 手足が斬り飛ばされ、血だらけで今にも死にそうになっていた。


 あれだけの強者たちが手も足も出ない。


 エレンはリアムを見て震える。


(私の師匠って凄い!)


 嬉しくて震えていた。


 リアムが構えを解くと、二人に近付いていく。


 すると、戦いが終わったと知ってティアも動いた。


 持っていたレイピアの形が、禍々しいチェーンソーに早変わりする。


 それを地面に引きずって歩き、火花を飛び散らせていた。


 その目は殺意に満ちている。


「殺す。リアム様の命を狙った者は、死にたいと思うような地獄に落として永遠の責め苦を――」


 片腕になっても二人を殺そうとするティアに、リアムが振り返った。


「ティア、二人を治療しろ」


「え? い、いや、しかし!」


「可愛い弟弟子たちだ。いや、妹弟子か? すぐに医者の手配だ。無理そうならエリクサーを使用しても構わない」


「で、ですが、この者たちはリアム様のお命を狙ったのですよ!」


 リアムは笑っていた。


「妹弟子たちがじゃれついてきただけだ」


「で、ですが、助けるなど――」


「それよりもティア、よく俺を庇って前に出た。俺の中でお前の評価が上がったぞ。遠征軍を勝利させたことよりも価値がある。お前が俺の部下でよかったよ」


「リアム様!」


 感激するティアは、端末を取り出して「もう一回! もう一回お願いします! 最高画質で今の台詞をお願いします!」と言っている。


 リアムも気分がいいのか「しょうがないな~」とティアを褒める。


 すると、凜鳳の口がパクパクと動いて何か伝えようとしていた。


 リアムが近付き耳を貸すと、凜鳳の懐を探って手紙を手に取る。


 今の時代にわざわざ手紙かとエレンが驚いていると、リアムはそれを読んで目を見開いていた。


 そして、惚けているティアに強い口調で命令する。


「何をしている? 俺の命令が聞けないのか?」


「い、いえ! すぐに医者の手配をいたします!」


 武器を手放し、悔しそうにリアムの命令を実行するティアだった。



 師匠の手紙を読んだ。


『リアム殿、お元気ですか? 拙者は今も一閃流を極めるため各地を放浪しております。その際に、才能のある二人の子を見つけました』


 そこには一閃流を高めるため、本来は禁止されている同門同士の戦いを許可したと書かれている。


 あ、危なかった。


 同門同士の戦いが許可制なんて、俺は知らなかった。


 師匠の対応からすれば、自分の弟子同士なら戦わせるのはありなのか?


 そして、手紙はこう続く。


『急に二人が現れ困惑しているでしょう。ただ、この手紙を読んでいるということは、リアム殿が当然のように勝利したのだと思います。もし、あの二人が生きているのなら、面倒を見てくだされ。拙者ではあの二人を最後まで育てることが出来ません』


 師匠があの二人を俺に託してきた。


 きっと、二人の実力を俺に見せたかったのだろう。


 本気で殺しに来ていたが、きっと師匠には考えがあるに違いない。


 何しろ師匠だからな!


 だが、気になるのは師匠が最後まで育てることが出来ない、という部分だ。


 あの二人は剣士として見れば完成している。


 あとは本人たちの努力次第に見えた。


 師匠の身に何かあったのだろうか?


 ここで考えても答えは出ない。


 師匠から二人を託されたのだ。


 妹弟子たちの面倒は俺が見よう。


「任せてください、師匠。あの二人の面倒は俺が見ます」


 少々やんちゃな妹弟子たちだが、俺は一閃流に関しては真摯(しんし)に向き合うと決めている。


 普通なら俺の命を狙った時点で死刑確定だが、一閃流の妹弟子となれば話が違う。


 それはそれ、これはこれ、だ。


「それにしても、師匠が最後まで育てられない理由が気になるな。今は、いったいどこで何をしているのか」


 きっと今も、師匠は一閃流を磨いて武の極みを目指しているのだろう。


ブライアン(´;ω;`)「エレン様がまともに育つのを祈るばかりです。一閃流に関わった剣士が酷すぎて、このブライアンは辛いです」

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― 新着の感想 ―
安士は本人が弱くても弟子に才能があろうとも、ここまで開花させることができるのは最早天才やろwww
この世界で1番イカれてるのはリアムじゃなくて師匠の指導力だよ…
一閃の到達点に、正直感動して泣けてしまった。剣豪ものってのもいいもんですねえ。
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