エピローグ
「いろいろと手配してくれた事、感謝するよ。サイモン協会長。」
「い……いえ。責務でございますので。」
皇帝にそう言われて、サイモンは緊張した趣でそう告げる。
競技場のバックネット裏に特設された皇帝用の観覧席。席と言っても部屋に近いそれの中で、サイモンは丁寧に頭を下げるとその場を後にする。背中に感じる皇帝の視線とそれに反応して無意識に流れる冷や汗。その不快な感触を我慢しながら部屋を出たサイモンは、開放感に大きく息をついた。
「どうしたのだ。そんなに青い顔をして。」
聞き慣れた声に視線を向けると、マルクス公爵がこちらに笑みを向けている。
「いえ……なんと言いますか……何度お会いしても慣れることのないお方だなと思いまして。」
語られた本音にマルクスは苦笑する。
「気持ちはわかるな。私もあの御方が何を考えているのか……いまだにわからないからな。」
そう言いながら、マルクスはサイモンに歩こうと促した。それを承諾したサイモンは、マルクスの一歩後ろに位置を取る。
「それで、今日の試合だが……」
「はい。それについては筒がなく。まもなく開会もいたしますし、観客も思った以上に集まりましたので。」
サイモンの言葉を聞いて、マルクスは振り向くことなくただ「そうか。」とだけ答えた。その様子を見て、サイモンは感じていた疑問をぶつけてみる事にする。
「しかし、本当に良いのですか?」
「何がだ?」
マルクスの熱のない冷ややかな返事にサイモンは一度言葉を飲み込みかけるが、疑問に対する好奇心が勝つ。
「いえ……勘当したとはいえ彼女はあなたの御息女。些かやり過ぎな気もするのですが……」
その問いに対してマルクスは無言だった。その様子にサイモンはしまったと一瞬後悔したが、それに反してマルクスが言葉を発したので咄嗟に傾聴する。
「……いいのだ。あれはあれで役に立つ。今の使い方がこうだった。それだけの事だ。」
何とも冷淡な回答だと率直に感じる。貴族というものは己の尊厳に対しての執着が強過ぎる。それを守るためなら家族でさえ犠牲にするのだから。
マルクスの言葉の裏には「何か問題があるのか?」と確実に問いかけている事が理解できた。それを読み取ったサイモンは「そうですね。」と一言だけ返すと、2人はそのまま観覧席へと向かった。
◆
「それでは、指示した通りに頼みますよ。」
「……へい。任せてください。」
観客席から少し外れた薄暗い通路で、メフィアは小汚い男にそう告げると、手のひらに収まる程度の布袋を手渡した。受け取った男はその重さに嬉しさを隠さず笑い、観客席席へと戻っていく。その背中を追いかけながらメフィアは小さく息をつく。
(マルクス様もこんな事をせずとも……。まったくくだらない策を立てるものね。プリベイル家との関係もそろそろこの辺が潮時でしょうか。)
メフィアは一瞬だけ怪訝な色を顔に浮かべたが、それはすぐに泡のように消える。彼女は男とは反対の方向へゆっくりと歩き出し、その先の暗闇へ消え入るようにゆっくりと姿を消した。
その口元に愉悦を乗せて。
ご愛読いただきました皆様。
本当にありがとうございました。
本当は、この後のソフィアたちの活躍を描くつもりでいましたが、なかなか執筆の時間が取れず更新もできない状況が続いていることで悩んでおり、ここで一度終わらせることを決意した次第です。
彼らがどうなるのか。
それは僕にも分かりませんが、それを想像してみるのも面白いのかもしれないなと勝手ながらに1人思いに耽っております。
今後は違う作品を書くこともあると思いますので、その時はぜひお読みいただければ幸いです。
本当にありがとうございました。




