『第20話(最終回):名前のない花が、咲き誇る明日へ』
風が、静かに吹いていた。
かつて王都と呼ばれた場所は、今ではただの「街」になっている。
高くそびえていた支配の塔は跡形もなく、代わりに人々の生活音が、当たり前のように響いていた。
零は、小さな丘の上に立っていた。
簡素な墓標。
名前は、刻まれていない。
彼がそう望んだからだ。
零は膝をつき、抱えていた花束を、そっと供えた。
白くて、名も知らない花。
――おじさんは、生前こう言った。
「……名前や数字は、後から付けられる。だが、意味は……生きた後にしか、生まれない」
零は、墓標に向かって微笑んだ。
「……ねぇ、おじさん。世界は、ちゃんと変わったよ」
国は、もう人を数字で切り捨てない。
完璧でない者を、失敗作と呼ばない。
それでも――
すべてが良くなったわけじゃない。
争いは残り、悲しみも、消えてはいない。
零は、それを知っていた。
けれど、もう絶望はしていなかった。
ポケットから、古びた紙切れを取り出す。
そこには、彼の字で書かれた、たった一行の数式。
《生存確率:不明》
零は、それを墓標の前に置いた。
「……ね。答えは、まだ途中だよ」
風が吹き、紙切れが舞い上がる。
数式は、空へと溶けていき――
代わりに、零の頬に、柔らかな日差しが降り注いだ。
零は立ち上がり、振り返る。
もう、誰もいない。
それでいい。
零は、前を向いて歩き出した。
名前のない花が、
それでも確かに、美しく咲き誇る明日へ。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。
孤独王は、最後まで「答え」を出し切ることはできませんでした。
けれど彼は、答えを探し続ける“未来”を、零に託しました。
不完全な世界で、不完全なまま、生きていくこと。
それこそが、この物語が導き出した、たった一つの完全な結論です。
またどこかで、物語をお届けできたら幸いです。
本当に、ありがとうございました。




