『第19話:数式の果てに、君と笑う』
第18話へのたくさんの応援、本当にありがとうございました。
「……二人で出会うこと、それが私が出した唯一の反逆よ」
母親の愛を知り、兄の意志を継いだ二人の前に立ちはだかる、最期の壁。
崩壊するタワーの中で、おじさんが選んだのは、自分の命を「時間」に変えて、零を未来へ逃がすことでした。
数式の果てに、孤独な王が見つけた本当の正解。
涙の第19話。どうか、ハンカチを準備してお読みください。
「……終わりだ、ガイル」
おじさんの指先が、空中に浮かぶホログラムの最終実行キーに触れる。
この国の支配システムを解体し、奪われてきた人々の自由を返す『解放の方程式』。
ガイルは崩れ落ちた玉座の側で、狂ったように笑い声を上げた。
「……勝ったつもりか。……そのスイッチを押せば、タワーの自爆装置が連動する。……お前たちも、ここで塵となるのだ!」
爆鳴と共に、足元が激しく揺れる。
天井から巨大な瓦礫が降り注ぎ、逃げ場はどこにもない。
だが、おじさんの瞳は、驚くほど静かだった。
「……知っている。だから、計算した。……一人だけを、確実に外へ逃がす軌道を」
おじさんは、零を強く抱きしめた。
彼の体は、もう限界を超えて熱い。脳を焼き尽くす演算の負荷が、彼の命の灯火を消そうとしていた。
「……おじさん、何してるの……? 一緒に、一緒に逃げよう……!」
「……零。俺の命は、あと60秒で尽きる。……だが、俺の脳をこのタワーの基幹に直結させれば、爆破を数秒だけ遅らせ……脱出ポッドを射出できる」
「やだ……やだよ! そんなの、おじさんが死んじゃう!」
零は泣きながら、おじさんの服を強く掴んだ。
おじさんは、その小さな手を優しく解き、彼女の額にそっと唇を寄せた。
「……零。貴様の『完全記憶』に、最後にこの言葉を刻んでくれ。……俺の人生は、数式ばかりの灰色の世界だった。……だが、貴様と過ごしたあの日々だけは、計算できないほどの……『幸せ』だったよ」
「おじさぁぁぁんッ!!」
無理やり脱出ポッドへ押し込まれる零。
ハッチが閉まる直前、おじさんは初めて、子供のような屈託のない笑顔を見せた。
それは、第6話で零に見せた、あの「無意味な夜」を愛おしむような笑顔だった。
射出されるポッド。
おじさんは、独り残された崩壊する部屋で、端座した。
彼の脳は、タワーのシステムと融合し、全演算能力を使って爆発の衝撃を抑え込む。
「……最後だ、兄上。……俺たちの未来を、あの子に託そう」
脳が白く染まっていく。
記憶が、景色が、数字が、光の中に溶けて消える。
けれど、消える瞬間の彼の思考は、不思議と満たされていた。
(……生存確率、100%。……完璧な、答えだ……)
王都の空に、巨大な光の柱が立った。
それは独裁の終わりを告げる光であり、一人の天才が愛のために命を燃やした、最期の輝きだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
「おじさん……」
零の叫びが聞こえてくるような、あまりに切ない別れでした。
数字しか信じられなかった男が、最後に「幸せだった」と笑って逝く。
それは、孤独王という一人の人間が、本当の意味で孤独から解放された瞬間だったのかもしれません。
ですが、物語はまだ終わりではありません。
残された零は、おじさんがくれた未来をどう生きるのか。
そして、おじさんが残した「奇跡」は本当にそれだけなのか……。
次回、最終回。
「第20話:名前のない花が、咲き誇る明日へ」
二人の旅の結末を、どうか最後まで見届けてください。




