『第17話:鋼鉄の牙城、暴かれる独裁者』
第16話、決意のパンへの反響ありがとうございます。
「……二人で帰る、という答えだけを、唯一の解に設定する」
ついに王都の心臓部へ辿り着いた二人。
そこで待ち受けていたのは、この国を闇から支配する老総統ガイルと、零の出生に隠されたあまりに残酷な「母の記憶」でした。
零の心が折れかける中、孤独王は自らの計算をすべて投げ打ち、彼女の存在を魂から肯定します。
仕組まれた運命か、自ら選んだ絆か。
最終決戦、第2章。
どうか、彼らの叫びを聴いてください。
王都中央管制タワー、最上階。
無数のモニターが青白く発光する玉座の間で、俺と零を待っていたのは、点滴と生命維持装置に繋がれた、枯れ木のような老人――この国の最高権力者、総統・ガイルだった。
「……来たか。我が最高傑作の『脳』と『目』。そして……不確定要素の『記録者』よ」
ガイルの声は、しわがれていながらも、耳の奥に嫌な粘り気を残す響きを湛えていた。
俺は零を背に庇い、皇から譲り受けた右目で部屋の全構造をスキャンする。そこには、俺の命を削ってでも届かないほどの、何重もの防衛トラップが張り巡らされていた。
「ガイル。貴様の寿命はあと1800秒。俺が引導を渡すまでもない計算だが、……その前に、一つだけ確認させろ。……なぜ、零を作った」
ガイルは低く笑った。
「作った? 違うな。彼女は、お前たち兄弟の『バックアップ』だ。お前が壊れ、皇が枯れたとき、その膨大な知識と経験を全て吸い出し、この国の管理AIとして永遠に生き長らえさせるための、感情を持たぬはずの『器』よ」
「……器じゃない。私は、おじさんとパンを食べた……零だよ!」
零が叫ぶ。その声に反応するように、部屋の大型モニターに映像が映し出された。
それは、若き日の零の母親――彼女を捨てたはずの女性が、ガイルの傍らで冷徹に実験記録をつける姿だった。
「……お母、さん……?」
零の『完全記憶』が激しく脈打つ。
母親が自分を捨てたのは、愛していなかったからではない。管理システムの一部として零を「保護」し、いつかおじさんと出会うことさえも、この老人の巨大な計画の一部だったという残酷な可能性。
「おじさん……私、最初から……おじさんを壊すために、隣にいたの……?」
零の瞳から光が消えかける。
俺は彼女の肩を強く掴み、その耳元で低く、けれど確かな声で告げた。
「……計算しろ、零。ガイルの言葉が真実である確率は、0.01%だ。……残りの99.99%は、俺と貴様が過ごしたあの『無意味な時間』が証明している」
俺は一歩踏み出し、脳内の全演算領域を「戦闘」ではなく「零への肯定」に割り振った。
「貴様が何のために生まれたかなど、どうでもいい。……俺にとっての零は、あの雨の日、俺の服を掴んで離さなかった……あの時から、俺の唯一の『正解』だ」
「……ちっ、出来損ないが。愛だの絆だの……演算を狂わせるゴミに、これほど執着するとはな」
ガイルが床のスイッチを起動させる。
玉座の後ろから現れたのは、皇の遺体から抜き取られたデータを用いた、漆黒の自動戦闘機体。
「お前たちの絆がどれほどのものか、その『偽物の兄』に証明させてやろう」
残された時間は、あと1200秒。
鋼鉄の牙城で、最期のダンスが始まる。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
ラスボス・ガイルの精神攻撃。
零ちゃんにとって、自分の母親が計画の一部だったという疑惑は、何よりも辛いものでした。
でも、そこでおじさんが見せた「0.01%」への逆転。
数字でしか世界を見れなかった男が、今は数字を「希望」のために使っている姿に、私も目頭が熱くなりました。
次回、第18話。
「鏡像の死闘、繋がれた回路」。
皇のデータを持つ黒い機体。おじさんは、かつての兄を越え、支配者の喉元に届くのか。
「……第18話:鏡像の死闘、繋がれた回路」
あと3話。二人の未来に、光がありますように。




