『第9話:鋼の檻、逃亡の果て』
第8話、たくさんの評価ありがとうございます。
「……計算、しろ……。俺を捨てて、北へ逃げれば……」
兄・皇との一時的な決着をつけ、逃亡を続ける二人。
孤独王が向かったのは、自分という怪物が生まれた忌まわしき場所、国立第7魔導研究所でした。
そこで明かされる、兄弟の出生の秘密。
なぜ兄は最強の「目」を持ち、弟は最強の「脳」を持つのか。
そのあまりに非道な理由を知ったとき、孤独王の決断は――。
物語の核心に迫る第9話。
絶望の檻の中で、二人は何を見つけるのでしょうか。
兄・皇の追撃を振り切り、俺たちが辿り着いたのは、地図からも歴史からも消された場所だった。
王都の北端、常に霧が立ち込める森の奥深くに鎮座する、巨大な円筒形の建造物。
――国立第7魔導研究所跡。
かつて俺が「第7実験体」と呼ばれ、15年もの間、冷たい鋼の檻に繋がれていた場所だ。
「……おじさん。ここ、すごく嫌な音がする」
俺のコートを掴む零の手が、小刻みに震えている。
彼女の『完全記憶』が、この場所に染み付いた無数の悲鳴と、血の臭いを無意識に拾い上げているのだろう。
「安心しろ、零。ここにはもう、生きた人間はいない。……俺が5年前に、全員『計算通り』に処理したからな」
重い防爆扉を、俺は力任せに抉じ開けた。
埃の舞う廊下。壁には今も、俺が幼い頃に爪で刻んだ、膨大な計算式が残っている。
俺がここへ戻ってきた理由は、兄の『神の目』に対抗するための「禁じ手」をこの最深部のラボから回収するためだ。
俺たちは、かつての俺の「部屋」――窓もない、4畳半のコンクリート室に辿り着いた。
零が、部屋の隅に落ちていた、ボロボロになった小さな布の塊を拾い上げる。
「……これ、お人形?」
それは、目も鼻も取れかけた、不格好なウサギのぬいぐるみだった。
「……ああ。俺が計算を間違えなかったご褒美に、一度だけ、顔も知らん母親という存在が、面会室越しに投げ入れたゴミだ」
俺は冷たく言い捨てようとした。だが、零はそのぬいぐるみを、大切そうに胸に抱きしめた。
「……ゴミじゃないよ。これ、すごく……『待ってたよ』って言ってる。……おじさんが帰ってくるの、ずっと、ここで待ってたんだよ」
零の瞳から、静かに涙が溢れる。
彼女の記憶には、俺がここで流したはずの「孤独な夜」の感覚さえも、共鳴するように流れ込んでいた。
俺は彼女から目を逸らし、端末を起動した。
読み込まれる機密データ。そこには、俺と兄・皇の出生に関わる残酷な理由が記されていた。
「…………なるほど。そういうことか。兄上、貴様も……俺と同じだったのか」
モニターの光に照らされた俺の頬を、一筋の冷たい汗が伝う。
その時、施設の警報が鳴り響いた。背後の闇から、カチリ、と硬質な軍靴の音が響く。
皇が、再び姿を現した。だがその瞳は、先ほどとは違う「絶望」を湛えているように見えた。
「……弟よ。知ったか。……我ら兄弟が、最初から一人の人間を二つに割って作られた、『予備のパーツ』に過ぎないという真実を」
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
孤独王が封印していた過去の場所。
そこで見つかったのは、不格好なぬいぐるみと、兄弟が「一つ」になるために作られたという残酷な真実でした。
「予備のパーツ」。
国にとって、二人は人間ですらありませんでした。
この真実を前に、兄・皇は何を思うのか。そして零は、二人の運命をどう塗り替えるのか。
次回、第10話。
「不完全な僕らの、完全な答え」。
ついに物語は、研究所からの脱出、そして国への反撃へと舵を切ります。
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