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ラバーマスク

「目玉は腐って溶解した?……それともカラスが持っていった?」

 聖は不気味な<顔>を拡大して眺める。

 一体どういう経過で、こんなになったのか疑問。


「セイ、それ……よく見て。作り物、じゃない?」

 背中にマユの声。

 いつからか知れないが、側に居て、

 一緒に見ていたらしい。


「作り物? へっ?……顔面だけ。毛髪頭部がない。見事な切り口だと感心していたけど、こんな風に切り取るのは無理か」

「血痕もないでしょ」

「ないね。顔面矧がして、ひと洗いした後にしては、肌の色が綺麗すぎる、かも」

「でしょ?」


「つまり、コレは、人間の顔面矧がしではないとしたら……ゴムマスク?」

 画像を眺めている間に

 的場から電話。


「110番して、現在僕はパトカーを待っています。この場にいるよう言われました。1人で待ってて、怖くって、神流さんに電話してしまいました」

「通報しちゃったんだ。あのさ、人間の顔に見えるけど、コレはゴムマスクだと、俺は思うよ」 

 

「え?……ゴムマスクって、言いはった?」

「そう。リアルゴムマスク」


「人間じゃないんですか? 死体と、ちゃうんですか?」

「拡大して確認した。死体じゃないよ」


「あ、あ、な、なんだ……死体ちゃうんや。うわー、通報したのマズいですよね。見間違いですって、電話します」

「的場さん、それは必要無いと思います。ゴムマスクは警察に回収してもらうべきだと思います」

 なぜかって

 ゴムで出来た若い男の顔は。

 白人のような鼻と、形の良い顎。

 整った顔は、桜木悠斗に似ていた。


「例の竹林だよね。奇妙な物じゃないですか。だから、事件に関係あるかも知れないでしょ?」

「は、はい。分かりました。神流さんが、そう言われるなら……」

 的場は、最後に礼を言って電話を切った。


「このマスクで謎が解けるかも。だって悠斗さんに似ているもの。エリカさんが見た男は、このマスクを被っていたんだわ」

 マユも、悠斗に似ていると、気付いていたのだ。


「的場にも似ている、ってことだ。夜にコンタクトを外した状態で見たとしても、彫りの深い横顔は特徴的だからね」

「それにしてもよく出来ているわね。生々しいわ」

「こんな物が巷に出回っているとは知らなかった。『リアル赤ちゃん人形』なんてのもあったけど。……カオルに画像送るよ」

 

 経緯と画像をラインで送る。

 明日にでも調べてくれるだろう、と期待して。


だが、返事は以外に早かった。

画像1枚、早々に送り返してきた。

画像は同一のマスクか?


「パッケージに入っている。コスプレ用のゴムマスクなんだ。Lizard?……えーっ。まさか。リザード様? 全然気付かなかった。付属品、髭に眼帯にバンダナだって」

「リザード様?」


「ゲームのキャラだよ」

「そうなんだ。カオルさん、マスクの事、知っていたのかしら? 随分早いじゃない」


「早すぎるよね。……待って、背景が……カオルの部屋みたいだよ」

「それって、カオルさんの所有物ってコト?」


「カオルは崇拝しているからね。マスクGETしていても不思議はないか」

「セイは? そのゲーム好きなの? 」

「当然でしょ。リザ-ド様……髭と眼帯が無ければ悠斗さんにそっくりなんだ」

 

 ゲームの動画を探してマユに見せる。

 迷彩柄の戦闘服。片目に黒い眼帯。無精髭。


「カッコイイだろ」

「ええ。CGと思えない。隻眼キャラね。ワイルドで素敵。……ねえ、このマスク、大量生産かしら?」


「それはどうかな。高額だから。世界中にファンはいるけど、皆が数万のグッズやフィギュアは買わない」

「それなら入手ルートから、持ち主に辿り着ける可能性あるわね。鈴石猛かも」


「持ち主は猛かもね。だけどさ、あのブヨブヨの身体で竹林を超える軽業は無理な気がする」

「じゃあ、鈴石猛の『友人』だったとして、ベランダに侵入する途中で、竹林に落としたかも。……でも、どうして竹にぶら下がっていたのかしら?」


「紛失は夜だな。とても探せない。明るいときに探したが見付からなかったんだよ……雨風が落下地点からマスクを移動させたんだ」

「今になって竹の枝に出現。どうして? カラスが運んだの?」

「もっと単純な理由じゃないかな。竹が伸びたせい。マスクくっつけたまま」

「そんなに早く伸びるの?」

「ベランダに侵入は、鈴石猛の事件2月20日より前だ」

 鈴石の事件が、エリカに恐怖を与えたと、同僚が言っていた。


「2ヶ月あれば数メートル伸びることもあるね」

「……まあ、そんなに。マスクの持ち主は今になって出てきたら驚くでしょうね。

 ……的場さんでないのは間違い無いわね」

 マスクの持ち主なら、死体と見間違わない。


「アイツは、違うって。人殺しでもストーカーでもないに、決まってるじゃないか」

「分かっているけど、鈴石猛の『友人』は……遠くから来たのではないと思うの」


「夜に鈴石の家に居たんだからね」

 近所に住んでる奴が怪しい、とは聖も同感。

 猛は中学から不登校。

 家にまで来る『友人』は、中学以前の、幼なじみかもしれない。


 的場では有り得ないが、的場に聞けば、心当たりはあるかもしれない。


「セイ、引きこもり一家だったんでしょう? なんでそうなったのか記事は出てないの?」

 

 問われてネット検索。

 猛の叔母(母の妹)が週刊誌のインタビューに答えていた。


 ……記事によると


 猛の父は植木職人だった。

 腰を痛め休養中に

 両親、独身の兄が車の事故で亡くなった。

 思いがけなく親の遺産が入った。

 葡萄畑を売った直後で遺産は数億、だった。

 借家に居たのが、実家の屋敷に住むことになった。

 働く必要がなくなった。

 でも、性分は職人気質。

 遺産食い暮らしを恥と思い、なんとなく世間と付き合いを絶ったらしい。

 時代劇のビデオを見るのが趣味。

 あとは竹細工。籠やら花器やらを作っていた。


 猛の母は嫁いでから専業主婦。

 娘が中学一年で、虐めで不登校になった。


 当時起こった無差別殺人事件が発端で、

 明治の<串刺し事件>もネットにあがった。

 鈴●は鈴石だと、学校で噂された。


 誰1人、口をきいてくれない、目に入るのも不快だと毛嫌いされた。

 父は<串刺し4人殺し>事件は知っていた。が、末裔と認識は全くなかった。

 娘の話を聞き、驚いて遠縁まで聞き歩いて真偽を調べた。

 結果、真実は分からなかった。


 鈴●は鈴石か、そうでないのか分からずじまい。

 娘同様、歴史に名を留める無差別殺人の血族だったのかと、心が砕けた。


 そんな中、妻は家の中が明るくなるのを期待して高齢出産。

 跡取り息子、猛を産んだ。


 しかし、不幸は続いた。

 母は元々丈夫で無かった。

 産後は半分寝ている生活、となった。

 娘が家事育児を手伝った

 だが行き届きはしない。

 家の中はゴミ屋敷一歩手前。


 こんな家に誰も来て欲しくなかった

 それでも猛はいい子に育った。

 ところが、中学に入ってすぐ、虐めが始まった。


 理由は姉と同じだ。

 中学一年の夏に起こった

 東京繁華街での無差別殺人事件が発端。

 連鎖で、過去の同類事件の検索率が上がる。


<河内串刺し4人殺し。鈴●鶴吉 葡萄畑>


ある日、猛の上履きに、人糞が詰められていた。


父も母も姉も

猛に、

「もう学校に行ってはいけない」

と言った。

猛の身を案じたのだという。

殺されるかも知れないと。


(姉一家は、義兄も姪も猛も温厚で優しくて、お人好しで虫一匹殺せない性分でした。あんなふうに世間と隔離して暮らしているのは異常だと思われるのは当然です。

でも何も世間に迷惑はかけておりません。遺産ではありますが、自分のお金で暮らしていました。慎ましく、旅行もせず車も持たず、非常に質素に暮らしておりました。年に数回会いに行きました。猛も温厚な優しい子です。

可愛そうに運命だと諦めていましたけどね。

人殺しの末裔と日本中が知っている。自分はこの家しか居場所がないと、言ってました)


質素な生活をしていたので

子ども達は、贅沢は出来ないが一生働かなくても食べていける

家に居ればいい、生きていればそれでいいと、父と母は猛に言っていた。



「うわー。やばい。泣けてきた」

 聖は鈴石一家に同情し涙ボロボロ。


 結局、明治の事件<串刺し4人殺し>がネットで知られた、それが発端で

 鈴石家はメチャクチャになった。


 絶対、おかしいだろ?

 と言いたかった。


「セイ、この記事読むと、猛君のお姉さんの同級生も、猛君の同級生も<串刺し4人殺し事件>を知っていたのよね。そうすると鈴石一家殺し、あえて竹を使った範囲、小学校中学校のが一緒の、ご近所が濃厚じゃないの?」

 聖は、明治の河内村の事件など、知らなかった。

 刑事の薫も聞いて知った程度。

 

 マユの推理どおりだと、思う。

 地域民以外、関心は薄いのだ。


 犯人の居住エリアを鈴石家近く(小学校区・中学校区)と絞られそう。




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