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『番外編』春の彩り


 前世で「山笑う」という季語があった。

 春の暖かさで花々が一斉に花開き、木々が芽吹き、地面では山菜が土を持ち上げて生える賑やかな様子を笑うという言葉で表現している。

 何が言いたいか…勘のいい人は察しただろうか。


「山菜の季節よ!」


 季節の旬を楽しむのよー!


 俳人の気持ちではじめたけれど、ノーチェは文学より実際に咲き誇っている草木が食べられるのか否かの方が重要だった。

 つまり花より団子。

 お花見も春の代名詞だが、花を観賞するよりお弁当に心惹かれるノーチェである。


 ちなみに花を愛でる心はあるので、植物園とかピクニックで行きたい。

 勿論お弁当持参なので、花も団子も楽しみたいノーチェだった。


 何はともあれ、山菜だ。

 山の幸の山菜だ。


 こちらでも春に芽吹く山菜は、貴重な食材として扱われている。その山菜を採り尽くさないよう、山菜が山のどこに生えているのか秘密にするほどだ。

 ちなみに山菜採りで山に入るときは、必ず複数で行動する。一人で山に入れば遭難の危険もあるし、春に顔を出すのは草木だけではない。熊だって冬眠から起きる季節なので、山に入るのは本当に危険なのだ。自然相手に過信してはいけないのである。


 万が一、熊と出会ったら背中を見せて逃げないで、目を合わせた状態でじりじり後退るのが正しい逃走方法。睨み合うのが喧嘩を売る合図の動物もいるが、熊の場合は負けてないぞ! と気持ちを示す必要がある。熊を興奮させないことと、熊に舐められないことが重要。

 といっても問答無用で襲いかかってくる場合もあるので、遭遇しないのが一番だ。

 熊はくま○プーさんと別の存在なので、甘く見てはいけない。前世のインターネットで時折流れてきた人間と仲良しの熊は特殊ケースなので騙されちゃいけない。獣と人は基本的に別世界で生きている。


 山で気を付けるのは熊だけではないが、今回は熊じゃなくて山菜だ。


 貴重な山菜を手に入れた十二歳のノーチェは、ランチに提供された山菜ご飯にうっきうきだった。

 アルディーヤ子爵家自慢の料理長が手掛けた山菜料理は、オーソドックスに天ぷら。


(山菜と言えば、天ぷらよね!)


 だいたいの人は天ぷらにして食べていると思う。


 今回提供された山菜は、タラの芽。ふき。こごみ。うこぎの四種類。

 白い衣を纏って揚げられた山の幸。

 いただきますをしたノーチェは、熱々の天ぷらに箸を伸ばした。

 そばには塩とつゆ。どちらも美味しくいただけるが、最初は塩を付けた。

 そのまま揚げたての天ぷらを口に運んだ。さくっとした衣の歯ごたえに、温かな山菜の苦みが…。


「にがーい!」


 苦みが、子供舌に!


「この苦みがいいんじゃない」

「わかってるの! わかってるけど~!」


 ご一緒していたお姉様がサクサクとタラの芽を食べている。ノーチェもサクサク楽しみたいのだが、山菜の苦みに半泣きになった。

 揚げたての天ぷらは美味しい。

 サクサクだし、山菜の苦みも抑えられている。

 抑えられているのだが。


(それでも苦いなんて、私の舌はまだまだお子様だわ!)


 美味しいのだが、苦みに負けてしまうノーチェ。

 この苦みも楽しめるようになるまでまだ掛かるようだ。

 シュンとしたノーチェの前に、ほかほかのご飯が置かれた。


「こちら、こごみの炊き込みご飯と蕗の薹の味噌汁です」

「!」


 ノーチェの表情がぱあっと明るくなる。

 そう、山菜の楽しみ方は天ぷらだけではない。


 醤油をベースにした山菜の炊き込みご飯。味噌で苦みや臭みを調和した味噌汁。

 あったかご飯の登場に、ノーチェは笑顔になった。


「ん~! でりしゃすです~!」


 もちもちなお米とシャキシャキの山菜。出汁の利いた味噌汁で花咲く蕗の薹。

 春を存分に味わい、ノーチェは満足そうにお椀を空にした。

 しかし天ぷらの苦みを楽しめなかったのは心残り。


「来年こそ…来年こそ、この苦みも味わい尽くすのよ…!」

「大人になれるといいわね」

「頑張るわ!」


 正直頑張り所がわからないが、美味しい物を美味しく食べたいので、ノーチェは早急に子供舌を卒業したい。


(単純に、苦手な味の可能性は考えないのねこの子)


 山菜の苦みが苦手な人はそれなりに居るので、お姉様はちょっとその可能性も考えているのだが、ノーチェは一切考えていなかった。


 だって前世で美味しく食べていたから。

 魂は同じでも身体が違うので苦手な可能性もあるのだが、ノーチェは将来美味しく楽しむためにも、サクサクの天ぷらを苦い顔をして食べ尽くした。


 ちなみにベスティは問題なく美味しく山菜を食べられる。

 それを知ったノーチェは思わず理不尽にも「美味しく食べられるなんてずるいわ!」と叫んでしまったのだった。



苦みに負けても出された料理は全部食べるノーチェ。厨房には「今年も負けたけど来年は勝てると思うの…!」と報告するので、基本的にノーチェが苦い顔をしても料理は提供され続ける。

お嬢様が美味しく食べられるように! と料理人達も色々工夫している。

ところで山菜のこごみ、ジ○リのナ○シカの腐海の森に登場していると思っているのは作者だけではないはずだ。

あれはこごみが巨大化した姿に違いない…!!

食べるたびに思っている。


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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます 春の香りの番外編も楽しく 拝見させていただきました 苦みとは戦うものだったか… いつの日か圧倒的勝利を収められますように (*^ω^人)
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