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『番外編』一月七日の朝のこと


「おはようございまーす!」


 十二歳のノーチェは大変元気よく挨拶をしながら厨房に現れた。

 わくわくした顔で、大きな籠を抱えながら。


「おはようございますお嬢様。大役をありがとうございます」

「いいのよ! 私が料理長や、スタッフのみんなに会いたかったんだもの!」

「お嬢様…!」


 初日の出のお日様みたいにニッコニコな笑顔で大きな籠を料理長に手渡したノーチェの言葉に、料理長だけでなく聞いていた厨房スタッフが口元を押さえ涙目になった。


 今年もウチのお嬢様が尊い…!


「美味しいご飯をありがとう! 今年もよろしくお願いね!」


 尊い…!

 勤務年数が長ければ長い程、ノーチェの料理人に対する尊敬と感謝を浴びている彼らは、彼女の笑顔を見るだけで浄化される思いだった。あまりにも眩しい。


「朝早くお嬢様が運んでくださったこの七草で…美味しい七草粥を作ります!」

「わぁい!」


 朝からノーチェが楽しげに運んだのは、使用人が調達してきた春の七草だった。


 七草粥。

 日本ではお馴染みの風習で、一年の無病息災と五穀豊穣を祈って食べる。

 この風習が、こちらの世界にもあった。


 現代の日本だと食材はスーパーで揃うが、この世界だとちょっと大変。旬から外れた食材の生産は追いついていない。量産できる段階ではなく、まだまだ流通されていない食材が多い。

 貴族はそういった食材も手に入れることができるが、それでもむずかしい物もある。

 しかし今回の食材は、貴族が集めることが滅多にない食材。

 なのでこの七草を集めるのは中々しんどかった。


 春の七草。時代や地域によって種類が変わるが、この世界での七草はこの七つ。

 セリ、ナズナ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロ。


(聞き覚えのないものもあるわよね。わかるわ! ゴギョウとかハコベラとか、知らなかったもの!)


 気になって検索をかけて、写真付きで見てもよくわからなかった。ナズナの別称がぺんぺん草と驚いたり、スズナが蕪でスズシロが大根だとこのとき知った。

 全然知らなかったわー!


(転生してすぐは忘れていたけど、こっちにも春の七草があるってわかってから調べ直したのよ。だいたい向こうと同じだったから、すぐ思い出せたわ。やっぱり日本から転生してきたグルメ無双の人、いるわね)


 何度目かわからない確信を得ながら、ノーチェはうきうきと厨房から団欒室へと移動した。

 団欒室は暖炉で温められて、家族がまったり寛いでいる。


「おはようノーチェ。お役目はできた?」

「はいお母様!」

「ちゃんと全部揃っていた?」

「はいお姉様!」

「そうかそうか、集めてくれた使用人にはお礼を言ったかい?」

「はいお父様!」


 それならよかった、と三人が笑う。ノーチェもペッカペカの笑顔だ。


 暖炉を囲うように置かれたソファは三つ。一人用が一つに二人用が二つ。そのうち二つが埋まっているのだが、残っているのは一人用。

 お父様とお母様がくっついて座り、お姉様が悠々と二人用に座っている。残っているのは一人用だが、ノーチェはお姉様の隣に突撃した。


 十七歳のお姉様は突撃してきたノーチェを笑顔で受け止めて、もちもちしたほっぺたをこねくり回す。きゃっきゃとじゃれ合いながら二人用のソファに収まった。その様子を、両親も使用人達も微笑ましく見守っている。


「それにしても七草粥かぁ…はじめて食べるなぁ」

「そういう風習があるのは知っていましたけど、王都では流行っていなかったものねぇ」

「王都だと七草を集めるのに苦労するものね。今回だって商人より農民を頼ったのでしょう?」

「そうなの。山が大好きな人がいてね。その人がキノコ料理大好きでね。現地によく行くから付近の農民とも仲がよくて、丁度七草を知っている人達とも仲がよかったのよ!」


 ちなみにその山が大好きな人は貴族だが、跡継ぎではないため自由に走り回っている放蕩息子だ。

 ノーチェと知り合ったのはキノコではなく山菜の話をしているときで、山に理解があると認められたからとても気にかけてくれている。

 でもちょっと語弊がある。

 ノーチェが詳しいのは山の味覚であって山に理解があるわけではない。しかし一部理解があるということで、比較的仲良くさせてもらっていた。

 ちなみにベスティとも仲がいい。

 ベスティの場合、山の食材で作る料理が気になっているようだった。


 とにかくそのような伝手で七草を手に入れることができたノーチェ。農民のところに使用人が赴き、収集し、早朝にノーチェが確認した。

 ノーチェが確認する必要はなかったのだが、大変楽しかった。

 転生したお嬢様のノーチェは滅多に食材を見られないので。


(しっかり七つあったから、あとは料理長が美味しくしてくれるのを待つだけだわ! …やっぱりね、たくさん食べたあとはお腹に優しいものを食べないと)


 お姉様にくっつきながらノーチェは自分のお腹を撫でた。

 新年を祝ってご馳走を食べるのは、どの世界でも共通だった。


(お父様お酒たくさん飲んだもの。お腹お休みしないとだわ。お母様も、さりげなく甘いものたくさん食べていたの。お姉様はまんべんなく食べていたわ)


 ノーチェも勿論、たくさん食べた。もちもちほっぺが更にもちもち。餅と並べて触り心地対決もした。圧勝した。ノーチェのほっぺは餅よりもちもちもちもっち。ずっと触っていたくなる魅惑のほっぺだ。

 そして春の七草、七草粥がしっかり風習として根付くように、七草粥には新年の暴飲暴食によって荒れた胃を労る意味がある。

 たくさん食べて後悔しないように、しっかり労ってやらねばならない。


 今年もたくさん、美味しい物を食べるために。


 そう、お腹は気遣っていくのよ。

 身体を大切にしてこそ、美味しい物が食べられるんだから。


(今年も美味しい物、たくさん食べるわ!)


 大好きな家族にくっついてくふくふ笑いながら、ノーチェはまだ見ぬ美味しい食事に目を輝かせた。


 ちなみに朝ご飯として出された七草粥は、お腹がほっとする優しい味がしたわ!




ノーチェ「あけましておめでとうございまーす!!」


絶対ノーチェ、お雑煮などを餅ながらペッカペカの笑顔でご挨拶するのが似合う。

間違えたお雑煮などを持ちながら。餅ながらってそんな。

あけましておめでとうございます! が いただきます!! に聞こえる。

今年もよろしくお願い致します。

今年は書籍化情報をチラチラ更新できそうですので乞うご期待です。


イイネ&評価ボタンをよろしくお願い致します!


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