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虚構の守り手 〜二つの日本の物語〜  作者: 扶桑かつみ


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21世紀初頭の各国概況・大陸日本(コンチネンタル・ジャパン)-1

●21世紀初頭の各国概況


 アメリカ、ルーズベルト大統領の急死により大きく変化した第二次世界大戦と戦後の戦後情勢。ここでは、戦争の結果変化した北東アジア情勢を中心に各国概況を説明していく・


 当然ながら、民族の政治的分裂という一番の変化を強いられた、大陸日本と列島日本を中心に紹介する・



●概容 

 アメリカの外交政策の変更と日本の早期降伏、そして欧州での米ソの占領合戦の結果、北東アジア地域でのソ連の圧力が強まってしまう・


 原因の多くは、ソビエト連邦の独裁者スターリンの独断にあった。彼は欧州、正確にはドイツで手に入れることが出来なかったものを幾らかでも補填するため、当時造反中だった旧日本帝国の残存組織を支援して満州を中心に国家を建設させてしまう・


 これに対してアメリカ合衆国を中心とする連合国は、手に入れたドイツと西欧を第一に守るべきだとする消極的な姿勢もあり、連合国によるドイツ占領とソ連による満州独占がトレードされた形になった・


 結果北東アジアでは、満州地域を中心にした「大東亜人民共和国」が成立。大日本帝国の残滓を浴びた東側陣営国家が成立する。しかもこれ自体、ソ連や各共産党が認めたというよりも、スターリン個人が認めたと言う背景が強い。故に、本来ならいずれ消滅する筈の国家であった。だが、スターリン没年の少し前に自ら大規模な戦乱を起こした事が、結果として国家の存続を国際社会に黙認させてしまう・


 そして以後半世紀近く、北東アジア情勢は「大東亜人民共和国」と呼称する、旧大日本帝国の残党によって左右される事になる・




●北東アジアの国家及び政体

 (1950〜80年代・順不同・GDP順)

・日本国(列島日本)=立憲君主の資本主義国

・大東亜人民共和国(大陸日本)=東側陣営の資本主義国

 (満州王国、高麗王国、蒙古王国、他 形式上は連邦国家)

・中華人民共和国=一党独裁の共産主義国

・中華民国(台湾)=一党独裁の資本主義国

・大韓人民共和国=一党独裁の共産主義国

・モンゴル人民共和国=一党独裁の共産主義国

・東トルキスタン人民共和国=一党独裁の共産主義国




●各国詳細


 ■大陸日本コンチネンタル・ジャパン-1



正式国名/大東亜人民共和国(※1989年より東亞細亞連邦共和国)

元首/大統領

 (※冷戦中は昭和天皇の名代としての地位もあり。1989年より天皇に関する記載は消える。)

政体/

 中央/大統領を中心にした官僚と軍部による中央専政・


 (※1989年より軍部の権限は制度上でも大幅に低下)

 地方/自治政府による連邦国家制。民族ごとに王を立てた名目上の立憲体制による自治国制度も有り。ただし、内政自治権以外はない・


 ※なお、名目上日本の天皇を至尊とするため、各地に王族・貴族が制度として残されている。1989年以後は、制度の多くを名誉面以外で廃止・


国土/旧満州国、内蒙古東部・中部、朝鮮半島北部

総人口/約1億4600万人(2012年時点)

人種構成比率/日本人/9、ロシア人/2、ドイツ人/1、東欧系1、ユダヤ系1、漢人/65、高麗(朝鮮)人/16、満州人/3、蒙古人/1、ほか/1=100(%)

 ※日系の1/3は主に欧州系との混血・


主要言語/

第一公用語=日本語

第二公用語=ロシア語、高麗語(朝鮮語)、中国語(北京語)、ドイツ語、ヘブライ語

宗教/神道、仏教、ロシア正教、カトリック、プロテスタント、ユダヤ教、ラマ教、(儒教) など

主な産業/鉄鋼、機械、製油、穀物(米、各種麦、大豆、トウモロコシ、てんさいなど)、牧畜、林業など

主な地下資源/石炭、石油、鉄鉱石など


国家の特徴/

 「日本帝国の亡霊」が、冷戦時代の最大公約数になる。対外的にも、「コンチネンタル・ジャパン」と呼ばれるよりは「インペリアル・ジャパン」や「オールド・ジャパン」と呼ばれることが多い。また冷戦時代はソ連と並んで「悪の帝国」の代名詞であり、冷戦の矢面に立つことが多かった事も手伝って、ナチスと並んで軍事国家として有名になる。

 日本帝国時代に建造された巨大戦艦《武蔵》など、象徴的な兵器も多かった・



 建国の経緯は、第二次世界大戦で日本停戦後のクーデター未遂を経て、徹底抗戦を唱える軍部や国粋主義者の一部が中心となって旧満州地域を中心に籠城した事が建国の発端。これをアメリカ(資本主義陣営)との対立に利用したソビエト連邦が支援する形で国家として形成される・


 だが当初は、ソ連、特にスターリンからの信任と援助があったため、独立を保てたと言って間違いない。

 それまでは単なる軍事テロリスト集団に近かったが、自ら引き起こした「東亜動乱」を経て国際的にも認知されるようになる・


 日本軍部と在満州、在朝鮮日本人社会が中心に居続けたため、社会主義国、共産主義国になることはなかった。

 一般的には、軍部独裁の国家社会主義体制と言われるが、官僚専政の国家資本主義の方がより正確だろう・



 共産主義陣営にとっては、東アジア先端部の橋頭堡にして牙城であるが、共産主義陣営でそれなりの市場経済(社会主義市場経済とされる)を維持した国として知られる。

 ただし官僚専制の軍国主義で一党独裁国家のため、国際評価は常に低かった。日本国(列島日本)との対立と国家の成り立ちの経緯もあって、正式に国交を結んでいる国も多くは無かった・


 維持されていた市場社会での企業も、大日本帝国時代から続く東亜鉄道(東鉄、旧満州鉄道)、満州産業(満業(旧日産)=現/東亜産業)を中心にしている。

 しかも官僚専政が極めて強く、ソ連からの影響もあるため、本当の意味での市場経済や資本主義には遠かった。また経済の9割以上は、日本人とロシア人など欧州系が牛耳っている。

 このため、旧日本軍国主義や国家社会主義の生きる化石と言われ続けた。西側からの国際非難も常に強かった・


 もっとも東側陣営の中では、工業化も進み資源が比較的多く農業が盛んで、世界レベルで見てもそれなりに豊かな国として存続し続ける。

 また、資本主義も貧富の差も認めている政府だったため、公式上でも富裕層、特権階級が一定レベルで維持されている。

 この面では日本列島の天皇を認めるため、いまだ王族、貴族の制度が残されている点が有名だ。

 それでも社会の安定度は、悪名高い憲兵や列島日本同様に優秀な警察に頼らずとも比較的高かった。

 これは国民に対する還元、つまり社会福祉が制度として行き届いていた点が大きい・


 冷戦崩壊後は突然のように民主化と改革解放を行い、連邦国家としての再編成が行われる。

 元々虚飾に満ちた国号や国家体制だったため、時代の変化で不要になったので自ら捨て去ったと言えるだろう・


 以後、直轄地以外は、満州、内蒙古、北朝鮮地区に王領(自治国)、その他自治区に細分化された本格的な連邦国家となっている。

 この点は、国家自体がかりそめのままだった事が影響していると見るべきだろう・


 しかし建国以来、教育と国家方針のおかげで民意が一つの方向に傾けられすぎていた影響で、列島日本との経済統合に際して、国家連合という新たな枠組みが作られると元の鞘に収まりつつある。

 各民族の王権や地方自治も、「東亜」という名目の日本人社会での地方社会としての一面しか認められず、21世紀現在も「東亜」の中の一角という側面しか持っていない・


 また、日本人(+ロシア人)の圧倒的優位という人種差別と貧富の差は民主化以後も強く残り、国際的にも問題視されているが、半世紀近い間に国土に定着してしまい解決の糸口はない・



民族構成の特徴/

 もともとは、満州族を始めとする遊牧民族が住む先祖伝来の地域として、清政府が移民、居住を厳しく制限していた。だが、19世紀末のロシア進出の頃より、漢民族にも開放され農地を求めた流民が流れ込む・


 このため、それまで清国が100万人ほどに抑えていた人口は、年間で最大約100万人もの流民が発生して急速に拡大する・


 その後、進出してきたロシア、日本資本により開発が進められ、圧倒的多数の漢人流民に加えてロシア人、日本人、朝鮮人が増えていった・


 1932年の満州国建国により、強大な軍事力を背景にした日本人の勢力が極端に強くなる。

 そして第二次世界大戦末期の日本本土の混乱に連動して日本軍部の一部が建てた政府により、日本人による国としての側面が極めて強く打ち出される・


 建国時の総人口は、満州が約5000万人、朝鮮半島が約2600万人。これに戦後の強制帰国者を差し引きして約7500万人となる・


 1940〜60年代は、政府の強い方針で大東亜主義や民族平等のスローガンとは裏腹に、国民と国家そのものに対して徹底した「日本化」が推し進められた。

 以後20年程で、国民の9割以上が日本語を話せるようになっている。社会制度、生活習慣の多くも、手厚い保護政策に連動して日本式が可能な限り取り入れられた。

 20世紀末には、表面的には現代の日本列島より日本らしい文化や習慣、街並みを持つに至っている地域も多い。都市部と一部農村地帯において顕著。戦前の北海道と少し似ていると言われることも多い・


 なお日本化政策では、政府が認めない民族自決などの運動に対して、軍隊を用いた大規模な弾圧、粛正が行われているほど徹底された・


 そして建国当初流民や亡命者がほとんどだった中華系民族は、その政府に最低限であれ庇護を得ていた事もあって反発する事もなく、また政府に従うより他無かった。

 一方で国籍上日本人になれば、豊かな生活保障が政府より自動的に与えられた。

 また日本的生活をすれば様々な社会的恩恵があったため、住民の側から日本化する向きの方が圧倒的強かった。このための資金は、地下資源と武器の売買、ソ連からの援助や同盟国価格での資源輸入の恩恵から得られている・


 「日本化」の例外は、宗教関係者などの例外を除くと、政府が認めた自治国、自治区での生活と活動、他は各民族の特権階級と高い税金を納めた者だけが例外だった。しかし、ほとんどの者が表面上は日本化している・


 なお、「東亜解放」の政治的象徴とされたのが、各民族文化と宗教、そして旧来の特権階級の表面上の保護である・


 満州族と蒙古族、高麗(朝鮮)族各民族の特権階級と、他にはラマ教特区、ユダヤ人特区になる。

 中でも満州文化、モンゴル文化、ラマ教文化など少数民族文化が重視され、各地に民族都市、宗教都市が存在する。

 これらの例外が認められたのは、国政、経済、軍事の全てを日本人が握っており、その程度は認めても問題なく、アメと鞭政策の一環でもあった。事実、内乱や叛乱は表面的には一度も起きていない・


 また、建国後にロシア人の牙城と化したハルピン市と周辺部も例外となった。冷戦間はソ連租界、ロシア租界と呼ばれるほどで、冷戦崩壊後はロシア本国からの人口流入でロシア人人口が激増した。

 このため現在では、リトル・モスクワと呼ばれるほどロシア人社会が形成されている・


 さらに、他の共産主義政権国家からも否定された宗教的なものや贅沢品の伝統工芸などの保存先として重宝され、様々なコミュニティーが旧東側諸国の民族博覧会のごとく形成されている。

 このため各正教、カトリックの大きな勢力が国内に存在し、修道院やミッションスクールなども本国からの手厚い裏からの援助で存在し、現在も大きな勢力を持っている。

 そしてこうした組織を仲介として、大陸日本と共産各国は強い関係を持つことになった・


 少し変わっているのがドイツ系で、ドイツ軍捕虜ばかりだったので移住者は男性が殆どだったため、他民族との結婚が多く大都市を中心に国全体に浸透している。

 そして国が欧州系には寛容だった事もあって、ドイツ文化は国に広く浅く広まることになる。ロシア系などが一部地域に限定されていたのとは対照的だ・



 いっぽう本来の民族比率は、国民の約三分の二を漢民族系が占める。

 しかし彼らは、流民として1940〜50年代に流れてきた人々が半数以上を占めた。それ以外に住んでいた多くも、以前は苦力クーリーと呼ばれる低所得層が多かった。農民となった者も、豊かな土地は日本人などに取られた為、建国までは貧しい暮らしの者が多かった・


 しかし彼らは、自分たちの生活を維持するためだけに、自ら政府が推し進める日本人化を積極的に行った。

 建国からしばらくは、流民として政府からも低い扱いを受けたが、東亜動乱で一部に変化が見られる。

大躍進直後の共産中国との軍事衝突以後待遇が大きく改善され、70年代には政府の重要な支持基盤の一つとなっている。

 また、共産韓国に行かなかった朝鮮人は、自ら日本人化に強いこだわりを見せている。

 このため1970年代には、国民の三分の二以上が政府が推奨した「日本人=大東亜人」としての生活を持つに至っているし、21世紀初頭の現在も「日本化」による「大東亜文明的」な生活に疑問を持つ者は少ない。

 彼らにとっての王族や貴族も、精々民族の記憶の保存者や祭りの御輿程度でしかなく、民族のアイデンティティーの拠り所としては弱い。

 彼らが守った自らの庶民文化は、一部の食文化だけとすら言われる・



 なお、建国当初流民や亡命者として流れて来た漢人(主に中華民国系の人々)は、強引な国内法により財力のないものは男は国内での使い捨ての肉体労働者もしくはソ連への「輸出品」として、女性は家内労働力、一部は男性社会であった支配層(主に日本人とロシア人)の子孫を残すための配偶者と見られ、1960年代に入るまで低い扱いを受けていた。

 それでもこの国を離れなかったのは、離れてきた時の中国の全般的状況がもっと酷かったからだ。

 旧中華民国系の人々が本土に戻らない理由は言うまでもないだろう・


 また、自ら「日本化」政策に熱心だったのが、高麗(朝鮮)民族で、戦前から日本人となることを強要されていた彼らは、新たな日本人の国家でも日本人であることを望む者が多かった。

 このため国内では、自治国を建設させて日本人になる事を阻止し、東亜動乱後に独立国まで作ったと言われている・


 いっぽうで、冷戦時代を通じて日本民族もしくはロシア民族、ドイツ民族として認められた人が、ほぼ自動的に特権階級としての位置を占めていた。

 今現在でも、国内富裕層の8割以上が特定の人種によって占められている。

 官僚や軍人、企業での優遇も強い。

 ただし、冷戦崩壊後はソ連共産党系の多くが没落している・


 ロシア人は、革命以前から住む人々よりも、ソ連時代に支配者として移り住んできた軍や共産党系の人々が多く、冷戦崩壊後は経済難民化した人々が多数派となった。

 いっぽうドイツ系は、大戦後にソ連で強制労働をさせられていた元軍人や技術者出身がほとんどで、古い世代の過半は男性になる。

 ソ連占領地域だった東部ドイツからの移民者もかなりの数に上る・


 また、建国から10年ほどは東側全般において、いわゆる嫁集めを熱心に行っており、東欧系の血を持つ日本人の数もかなりの比率を占めている。

 これは大陸日本の日本人社会が、圧倒的に男性が多く、逆にソ連などではWW2の影響で男性が酷く不足していた為だ・


 民主化以後、国内での人種差別は制度上廃止されたが、今でも根強く残り、進学や就職、結婚などで民族的出自が非常に重要視される。

 冷戦時代の状況は南アフリカ共和国と少し近いが、現在では経済発展により中流層が多く形成されたため、進んで問題にしようと言う国内勢力は少ない。

 また、出自を名目上タブー視する向きも強くなっている・



 なお民主化以後は、列島日本への移民が激増しており、双方で社会問題化されている。

 いっぽうで、中華本土からの移民、流民、亡命は徹底的に取り締まられており、こちらも社会問題化している・



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